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空とぶシスター
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「神様、その格好なんとかなりませんか」と、めぐ(笑)。
「変装じゃから」と、神様は
楽しそう。
「時代を考えてください。それじゃ変装ってより目立ってますよ」と、めぐ。
「クリスタに似てきたのお、ははは」と、神様は気にせず。
「似るわけないでしょ。まったく」と、めぐはなんだか(笑)。
「クリスタって、ルームメイトの?」れーみぃ。
「ああ、天使じゃ。わしの」と、神様はまた
余計な事を言うと(笑)。
「天使さん?」と、ななはメガネの奥でびっくり目(笑)。
「めぐ?」と、れーみぃ。
「あ、あー、劇団のね。役。それじゃ、神様、あたしたち買い物するから。」と、めぐは
冷や汗たらたら(笑)。
「お、おお、そうか。では、さらば。」と
神様は白昼堂々、術を使って
金色の粉を振り撒いて飛び去った。
ななは、あっけ(笑)。
「あ、それじゃ、St。Blancheへ?」と、めぐは
学校のとなりの修道院の名前を言うと
ななは「名前は聞いてないけど、どこでもいいの」と、にっこり。
そっか、と、めぐはにっこり。
やっと、普通の会話になった。
「ルームメイトが天使さんなんですか?」と、なな。
「ぃ、いえ、あの。劇団のね」と、めぐ(笑)。
ああそうか、と、ななは、ははは、と笑った。
めぐたちも、釣られて笑うけど
どこまで話していいものやら(笑)。と
ななが、魔法を知っている事を
神様は、話していないので
その割に、いろいろ話してしまうから(笑)。
どぎまぎのめぐ、だったりして。
「じゃ、買い物買い物」って、れーみぃ。
路面電車の停留所から、坂道の上り。
煉瓦の敷石と、道路。
真ん中にケーブルカーの軌道。
いつだったか、めぐが
スクーターの少年を助けた、坂道だ。
「あ、ステキなお店。」ななは、ショーウインドーがおおきな
洋品のお店に惹かれた。
「ああ。観光客はみんな見るね。」と
れーみぃが言うその口調が、めぐは可笑しくて笑った。
「みるね、って
なんか、日本映画の中国人みたい。
ラーメン屋さんかなんかの(笑)」と言うと
れーみぃもおかしくて笑った。
「ワタシ、
イイアジ
ツクルアルヨ
」と、ラーメンのコマーシャルみたいな
真似を、れーみぃは
寄り目でするので、めぐは可笑しくて大笑い。
ななは、言葉がよくわからないけど
その、日本語イントネーションと
寄り目が可笑しくて笑った。
土曜日で、ひと通りも多いけど
道行く人々も、楽しげな3人に、にこにこ。
「ちょっとだけ、見ていかない?」と
アースカラーの、染め物で作られた
ニットふうのワンピースが飾られた
そのお店に、ななは惹かれた。
「いこうか」と、めぐが言うから
れーみぃもうんうん。うなづく。
お店の中は、けっこう狭くて
いろんなものが並んでて。
「あ、こっちもステキ、あれも」と
ななは楽しそう。
「着てみたいなぁ」とか。
「あ、でも着ちゃうと何か買わないと」と、めぐ。
「そうなの?」と、ななはびっくり。
日本だと、試着して見て
それだけ、なんて言うのはふつう。
でも、それにも礼儀があって。
お店の人と話をして、こんなものが着たいとか
見てみたいとか。
そういう、交流があって
お店の品物を始めて、出してくれる。
「お客様の手を煩わさないのが、ヨーロッパ流なの」と、れーみぃ。
ななは、びっくり。
「日本だと、自分で持って自分で着て見るけど」と。
「アメリカンね、それ」と、めぐ。
そーなんだぁ、と
ななは驚く。
「ヨーロッパって割と階級別の名残があるのね」と、めぐ。「でも、アメリカンのお店もあるのよ。ハンバーガーとか、おもちゃとか」
と、笑った。
ななは思う。
古くからの伝統って大切ね。こういう町で
修道院に入るのは、日本よりいいかも。
なんて思って、突然思い出す。
「日本のお札しかない!」(笑)。
日本語で言ったので、めぐもびっくり。
でも。「ああ、クレジットカードあるでしょ。」と、めぐ。
「持って来てないの。いきなりだったから」と
ななは泣きそう。
湯上がりみたいなメークで泣くとピエロみたい(笑)。
ななは、直接
ルーフィたちの世界に行ったから
いま、いる世界とは
似て非なる時空間だと気づいていない。
まあ、それはそれでいいんだけど。
「じゃ、夕方に修道院ね」れーみぃは
支度してくる、って言って
ケーブルカーで、坂道を昇っていった。
「じゃ、あたしたちも夕方まで支度ね。
と言っても、何もする事ないか」と、めぐは
にっこり。
ななも、素顔でにっこり。
そうすると、めぐよりも幼く見える事もある。
「いつも、メークするの大変でしょ。」と、めぐは言う。
「うん、でも、日本じゃそうなの。」
「めんどくさいね、日本って」と、めぐは率直だ。
「こっちはそんな事ないの?」と、なな。
「うん。修道院は特にそうだよね」
「修道院は日本でもそうだよ」と、ななは笑う。
そっか、とめぐも笑った。
「じゃ、加藤さんの好みになりたい、って。
ひたむきだなぁ、ほんと」と、めぐは
意外に、恋に純粋な、ななに親近感を持つ。
「好みになりたい、って言うか、自分が
知らないうちに汚れてたみたいな気がして。
日本にいると、そうなの。
みんな悪い子だし」と、ななは思い出すように。
「なんか、わからないよ」と、めぐ。
わたしも、中にいるとわからないけど、と
ななは前置きして
「こっちに来ると、清々しいの。これが
ふつうの暮らしだって思う。周りを
気にして合わさなくてもいいし。
それが普通なんだよね、ほんとは」と
ななは、柔らかい笑顔で。
「よろしい。シスターななは残りなさい。ほかは、下がって。」院長は、穏やかそうな
婦人である。
ここは、修道院。
めぐたちと、ななは
一日体験で、やってきた。
めぐたち高校生は、普段、校則で
決まった身嗜みだったので
問題なかったが
ななは、日本の、ふつうのOLだから。
「シスターなな、耳飾りを外して、それから爪飾りも。足の爪の色も落としなさい。」
院長は穏やかに言うけれど、ななは不満顔。
「どうして外さないといけないのですか」と
静かに理由を聞く。
院長は「それは、あなたの美しさを妨げるものだからです
」
「飾りそのものは、眺めて楽しむものですね。あなた自身の心が美しければ、どんな飾りものよりも美しいはずです。飾りがある事で
心の美しさを邪魔してしまいます。」
華美に着飾る事が、かえって品位を落とすと院長は言っている。
それを、院長は静かに示す。
ななは、自覚する
「院長先生、ありがとうございます。
装飾は外して参りますから、下がってよろしいですか?」
院長は、静かに微笑む。
「シスターなな、あなたは賢い方です。」
しかし、院長が信頼する事で
ななは心を開く。
反発する対象じゃない、と
ななの気持ちが融解するのである。
「大丈夫かしら?」と、ななに声を
かけたのは
陽気で大柄な、アメリカンの黒人。
黒い修道服を纏っていると、トトロのように
頼れそう。
院長室から出てきて、少し戸惑っている、ななを
慰めるかのような優しさのそのひとは
シスター・クラーレ。
ななは、異国でひとりきり、なんて気持ちだったけど
クラーレのおかげで、元気になれそうだった。
「シスターななの国とこっちは違うから。
あたしの国とも違うから。風習の違いは仕方ないね。
でも、音楽に国境はない、わ」と
クラーレは、歌うのが楽しそう、と言う表情で
広い廊下に響くようなR&Bを歌う。
その声は、ななの気持ちもリラックスさせる。
遠い記憶の中、どこかで聞いたような
メロディーだった。
音楽っていいな、と
ななは思う。
日本では、こんなふうに音楽を聴く事もなかった。
「院長の言うように、飾りなんてない方がいいわ、それ、日本で流行ってるの?」と、クラーレ。
うん、と、ななは頷き「みんなしてるから、なんとなく。」と、ななは現実を示した。
廊下をゆっくり歩きながら、クラーレは
首を傾げながら「アメリカじゃ考えられないわね。誰が何しようと
勝手だし。ヨーロッパは、階級社会だったから
元々、そういう華美な装飾って
目立ちたがりのするもの、だったわ。アハハ」と、陽気に笑う。
ななも笑顔になる。
それは日本でも同じで、高級なひとたちは
至って質素な振る舞いをしているものであった。
「さあ、ここがあなたのお部屋ね」と
修道院のゲストルームなのだろうか、くすんだ重々しい扉を開くと
みんなが待っている。
お部屋は、意外と広くて綺麗なので
ななは、少し拍子抜け。
「なーんだ。監獄みたいなところだと思ってた」と、笑顔に戻って。
シスター・クラーレは、笑って「監獄はないわね。入った事あるの?」
ないけど、と、ななも陽気なクラーレに和む。
おかえり、と、めぐは灰色の修道服で。
髪も隠しているけれど
なんとなく、若々しい。
「耳飾りなんて、してても分からないのに」とは、いかにもめぐらしい(笑)。
同じ、グレーの服に
白い襟がかわいらしい
れーみぃは
「うん。ネイルアートは見えるけど」。
背高のNaomiは「あたしだって、オートバイで来ちゃって叱られたよ」と
窓の外、木陰に止めてある
銀色のYAMAHAを指さして。
それはまずいわね、と
クラーレも笑う。
同じくらいの背丈のリサは、静かにしていると
上品に見えたりするけど。
「でも、一晩の辛抱ね、明日は朝5時起床かなー。」と、楽しそう。
ひぇぇ。
と、誰からともなく悲鳴(笑)。
和やかに、修道院の夕方は暮れて行く。
そんな、修道院の暮らしも
変わろうとしている。
信仰の深い人達の寄附で運営していた
修道院、それも
お金を払って物を買う、と言う
システムの上で
そうなっていただけで
人としての悩みは起こったりする。
健康の不安、生きて行く希望。
死への畏れ。
そういうものが、教会の
果たす役目、になっていく。
ーーーはずだが(笑)。
とりわけ、美しい賛美歌を歌う事などは
お金では買えない経験であったりもするので
教会に来る意味は別に変わらない。
「一日じゃ物足りないでしょ、みなさんっ!ははは」と、クラーレは
白い歯をむきだして笑う。
陽気なアメリカン。
ゴスペルが似合いそうだ、いかにも。
「いえいえ、一晩で結構です」と、れーみぃが
掌を左右に振る。
みんな、一緒に笑った。
和やかな、そんな雰囲気を
なな、は
久しぶりに感じたような気がした。
「なんで、わたしたちの服はグレーなの?」と
めぐが言うと、クラーレは
「それは、まだ若いって事。」と
にこにこして言う。
「ほんじゃ、シスター・クラーレは
若くないから黒いの?」と、れーみぃ。
ほんじゃ、ってなによ、と
リサが言うと
「あれ?」と、口調が砕けたれーみぃ。
目が寄ってる。
わはは、とみんなで笑ってると
「みなさーん、消灯の前にお風呂でも」と
廊下から声。
そんなのあるの?と
めぐ。
「あるよ、ここ温泉地だもの」と
忘れかけていた事をクラーレは言う。
そういえば、めぐの家の裏山にも
温泉があったんだっけと
めぐは、夏休みの事を思い出したりした。
もう、遠い思い出になってしまってるけど
初めて魔法使いルーフィが来たのは、夏。
温泉に行ったんだっけ。
物思いに耽りそうな、めぐを引っ張るように
「温泉温泉」って、れーみぃは
お風呂へめぐを連れて行った。
修道院にお風呂なんて、想像できないけれど
この地方は、温泉が湧くから
ふつうだけど、他の地方から見ると贅沢だったりする。
日本が、いろんなものが溢れてても
贅沢だと思わないような、そんな感じ。
廊下のずーっと奥で、めぐたちの
学校に近いあたりに、温泉は
一日中入れる。
「こんなところに温泉があったなんて」と、リサは気づかなかったらしい。
「学校にもあるじゃない」と、Naomi。
そういえば、プールも温水だし
スポーツの後のシャワーも、お湯がふんだんに
使えた。
合宿所にもお風呂あったし。
「とにかく入ろうよ」って、れーみぃは
グレーの修道服を脱ぐと
とたんに、ふつうのアンダーウェアになって
ここは、修道院かな、と?
フードが脱ぎにくい(笑)。
アジアンふう、だけど
なな、みたいな
日本人とはちょっと違う風貌で
肌も白かったり。
めぐは、日本語っぽい呼びだけど(笑)
マーガレット、と言う名前でめぐなので
日本人の血統でもない。
すらりとした北欧少女、やや小柄だけど
ななよりは大きい。
ななも、おそるおそる修道服を取り
フードだけになると、とたんに。
足元が、お風呂の着替え場の床から
微妙に浮いたりして(笑)。
神様に貰った魔法は、まだ効いてるらしい。
空とぶシスター、なな。
あわてて地面に降りたので、誰にも
気づかれなかった。
「あれ?」と
その様子に気づいたのは、魔法使いのめぐだった。
やっぱり、似てるから。
「早くお風呂はいんないと消灯だよ」と
リサは均整の取れたスタイルで。
テニス好きだから、半袖と脚だけ日焼けしてて
膝は擦り傷けっこういっぱい。
胸もとだけ日焼けで、変にリアル(笑)。
「フードだけかぶってヌードだと、なんか
男の子の好きな雑誌のグラビアみたい」と
れーみぃは、また変な事(笑)
「本当にお嬢様なの?それで」と、Naomiは
あんまり焼けてない。
「こっちのお風呂って水着着るのかと思った。
なんか、恥ずかしいけど」と、ななは
やっぱり日本人。
どことなく湿っぽいふんわりスタイルだけど。
そのあたりが日本ふう。
「そういう所もあるけど。外のお風呂とかは」と、めぐ。
家のお風呂と一緒だもの、と、リサ。
なるほど、シスターだから家族なのね、と
ななは納得。
割と広いお風呂場は、学校の教室くらい。
「昔は、なんだったんだろね、ここ」と、リサ。
「お風呂場なんじゃない?」と、Naomi。
郵便局にもあるけど、とも付け加えて。
3年後、郵便局に勤めて
そこに、めぐがタイムスリップして
郵便局のお風呂場でのぼせるんだけど(笑)
それは、今はNaomiも知らない。
めぐは覚えてるんだろうか(笑)。
「だけど、あの、サウナ入って
雪の原にダーイブしたりするでしょ」と
ななは、テレビの旅行番組の映像を思い出して(笑)。
「それは、もっと寒いとこ」と、れーみぃ。
「それに男だよ、そういう事するのは」と、リサ。
「あ、そういえばそうか。女の子はやらないね。
おばさんはいたみたいだけど」と、なな。
「おばさんっていくつくらいかなぁ」と、Naomiは真面目顔(笑)
大人っぽいから、それを気にしてるとこもある。
「日本だと、30くらいかな」と、なな。
「わかんないよねー。あと12年かぁ」と、めぐ。
そんなに先の事、って(笑)。
18年しか生きてないから。
12年先って言っても。
想像もできない。
12年前はお嬢ちゃんだった(笑)。
「その間に、結婚したり子供産んだり」と、リサ。
「やだー、めんどくさいなぁそう考えると」れーみぃはやっぱり、お嬢様(笑)。
恋人もまだいないもの。
「いつか、結婚したいとか思うのかな」と、めぐは恋愛、はしたいと思っても。
「あれ、シスターって神様と結婚するんじゃないの?」と、なな。
あ、そっかあ。と、みんな笑う。
一日体験だもん(笑)。
お風呂場に笑い声。
もうじき消灯だよ(笑)。
めぐの髪は少し長めだから
濡れてしまうと、ちょっと
まとわりついてしまって。
「切っておけばよかった」と、めぐは
少し、うっとうしいと
右手で髪を上げて、温泉へ。
「そのポーズ、色っぽいよ」と、れーみぃが
からかう(笑)
「やだなぁ、もう、男の子みたい」と、めぐ。
「男の子と入ってるの?」と、Naomiは
冗談、低い声で(笑)
んなわけけないけど(笑)
「でも、ほら、あの、ホームステイしてた
イギリスの人といったんじゃない?」とは
リサ。
「ルーフィ。」と、めぐ。
「ルーフィさん、爽やかなかた」と、なな。
「うん、お兄ちゃんタイプかな」と、めぐ。
「わたしから見ても」と、ななは
めぐたちの前では、自称をなな、とは言わない。
日本的な感じで。
「なんとなく、お父さんみたいに落ち着いてて」と、ななは言うけれど。
ルーフィが過去から来た旅人だとは
説明もできない(笑)めぐ。
それに、めぐ自身のこの世界も
めぐは覚えていないが
17年前で一旦、巻き戻されて。
元々の世界は、魔物やら悪魔やらが
住み着いていた世界だったり、なのだけど。
「それで、なぜ修道院に来たの?」と、Naomi。
「片思いの人が、わたしを好きになってくれないの」と、ななは、話していて思った。
自分は、幼いんじゃないだろうか(笑)と。
日本にいると、周りがみんな幼いので
気づかなかった。
こっちのひとは、みんな大人だ。
穏やかで。
「好みはいろいろあるから、仕方ないね」と、Naomi。
「好きになってほしいって気持ちはわかるけどさ」と、れーみぃは
柔らかく言った。
ふくよかなボディは、ちょっとアジアンで
ななに近いけど
どちらかと言うと、キューピッドみたいに
かわいらしい。
「彼、あたしの事を
かわいらしい、って言ってくれたの。
それが嬉しくて」と、ななは思い出に浸る。
笑顔になって。
「あ、シャンプー忘れた」と、ななは
困った。
「一晩くらいいいじゃない」と、Naomi。
歳は下だけど、なんとなく大人っぽい彼女は
郵便局のバイトで鍛えている事もある。
手紙を届けるなんて、単純だけど
受け取る人々にとっては大切だ。
なんたって、一品生産の文章だもの。
そういう世界を好むNaomiは、実は
外観はファッションモデルのような人だけど
派手な世界は嫌いで、おじいちゃんの片見の
オートバイを大切にしている子だった。
後戻りのできない郵便配達の仕事。
道順の通りに配達しないと、時間通りに
終わらない。
そういう厳密な時間の過ごしかたに慣れていると
些細な事は、大切な事が終わってから
すればいい、とか
するべき事と、そうでない事を
明快に分けられる、理論的な行動ができる。
「やだー、洗いたい」と、ななは
日本にいる時のつもりで(笑)
いつでも、わがまま言っても
なんとかなる、って
甘えた暮らしに慣れてる(笑)
けど、ここは日本じゃない。
「石鹸で洗えば?」と、めぐ。
めぐも、あいにくシャンプー、なんて
持って来なかった(笑)。
そもそも、この国は乾燥気候だから
亜熱帯の日本と違って
そんなに汗もかかない。
身体自体が、環境に適合してしまっているのだった。
まだ、来たばかりのななは
適合できてもいない(笑)。
「石鹸で洗ったら、髪が荒れちゃうよ」と
ななは、わがまま(笑)。
「そんな事ないよ、薄めればいいの」と、リサ。
なんで、そんな些細な事で
不満を述べるんだか、訳がわからないけど
物がいつもふんだんにあるんだろうな、日本は(笑)
と、そんなふうに思ったり。
なな自身も、自分が環境に
騙されてしまっている事には気づかない。
シャンプー、なんてものが無くても
人間は生きて行けるのに
それがいつもある事を有り難い、と
思えなくなってしまっていて
でも、それは
ななのせいではないから
神様が、修道院に行く事を
奨めた意味は、それに気づく事だった。
地上の、めぐの国の修道院では、まだ
お風呂に入っている(笑)。
「石鹸をね、3%くらいに薄めて洗えばいいのよ」と、リサはさすがに理系である。
界面活性剤は、そのくらいが一番洗浄能力が高くて
それ以上にするから、残った石鹸分が
荒れの原因になる。
台所洗剤の容器に書いてある事だが
泡が立たないと汚れが落ちないと思ってるだけだ。
「だいじょうぶ?」と、明かりを持って
来てくれたのは、シスター・クラーレ。
ななは、有り難さに泣きそうになった(笑)。
「はい、だいじょうぶです」とは言ったものの
真っ暗な中で、下着を着るのが
やっとだった。
「まあ、一晩の体験だから、厳密にしてるけど。
普段は、そうでもないのよ」と、クラーレは
楽しそうに、笑う。
そばにいると、和めてしまうけど
「どうして遅れたの?」と、聞かれたななは
シャンプーが無くて、まごまごしているうちに
時間が経ってしまった、と言うと
クラーレは「そんなものよ、最初は。
シャンプーなんて無くても死なないわ」と
また、豪快に笑った。
「キャンプに来てるって思えば」とも。
慣れればだいじょうぶなのかな、なんて
気がつくと、修道服を来ていない
クラーレは、どこにでもいる
普通のひとに見えて。
その事に、ななは
ちょっと驚いてたけど
「さ、服着ないと風邪ひくよ、寒いんだから」と、クラーレが言うので
身支度をしてると
「だいじょうぶ?」と、めぐたちが
明かりを持って戻ってきた。
燭台だと、それらしいけど
LEDの懐中電灯だった(笑)。
ななも「ありがとう、だいじょうぶ」
。
「髪濡れたまま、ドライヤー掛けたいな」と
ななは言ったけど、電気も切れてるし
真っ暗だし(笑)。
懐中電灯の明かりで、なんとか自分のお部屋に辿り着けた。
シスター・クラーレも「ドライヤーはないわねぇ。普段も使わないし」と、笑顔で言われると
答えようもない、なな。
リサは「自分の家ならなんとかなるけどね」と
言うので、ななは
「だから、洗わなければいいの、って
言われると思ったけど、そうじゃないのね」と
笑顔を、月明かりで返す。
リサは「ううん、おじいちゃんがね、
機関車乗りなんだけど。
過ぎた事はいいから、前を見ろ、って。
危い事が起こるかもしれない。
後悔するのは、機関車が止まってからだ、って。
そういうの」と。
「実感こもってるね」と、Naomiも感動する。
郵便配達もそうよ、って、付け足し。
「配達間違えたかな、なんて
考えてると、事故起こすかもしれないし」と。
働いてる人々の言葉は、重みがあると
ななも感動した。
日本で、つまらない事で争う人々は
なんか、矮小に思えた。
機関車に乗って、乗客を守ったり
郵便を、きちんと安全に届ける事とか
人々に、表だって感謝される事もないけれど
そういう人々が居て、知らずに世話になっているんだ、って
思うと、我が儘言えないって
そんな風に感じる。
いつも、誰かの世話になってたんだって。
些細な行き違いで、争ったり
しないようにしようと
そんなふうに、ふと、思う
今夜のななだった。
「さ、寝ないと。朝起きられないよ。」と、
リサは鉄道職員の孫(笑)。
家に、誰か鉄道職員が居ると
自然に早寝になったりする。
朝も早いし、夜遅くなる。
そういう家族を気づかう習慣になってしまうけど
それも環境だ。
たまたま、そうなっただけ。
なので、ななが
たまたま、変な環境にいたせいで
贅沢、我が儘が身についたとしても
それも、ななのせいでもない。
でも。「髪が冷えちゃって、風邪引きそう」
なんて、誰かに助けてもらおうと甘えるのは
ななのせいである(笑)。
「タオルで拭いとくしなないわね」と、シスター・クラーレ。
じゃ、ほんとに寝ないと、と
ドアの向こうへ。
静かな夜に、足音だけが消えていく。
「あたしたちも寝ようか」と、Naomi。
そだね、と、れーみぃも。
まだ9時だけど、とは言いながら。
電気を付けて夜起きていると言うのは
エネルギーがない時代にはとても贅沢。
キャンプだったら、灯油のランプとか
見えるエネルギー源だから、減っていく、
もったいない、なんて実感しやすいけれど
電気は、見えないから
使っているのが、実感しにくい。
なので、ドライヤー貸して、なんて
気軽に言うけれど
そのエネルギーも結構なものだ。
そういう暮らしが、これまで。
わがままな事、と
めぐたちからは見えるけど
日本は、そんな振る舞いをする人が増えている。
「ごめんね、わがまま言って」と、ななも言う。
「さ、本当に寝ないと」と、めぐ。
「そだね」と、れーみぃ。
割と広いお部屋なんだけど、5人だと
ちょっと狭く感じる。
二段のベッドが両はじに。
突き当たりが窓で。
ほんとは6人で使うお部屋らしい。
「なんで5人なんだろ」と、リサ。
「ひとりはユーレイとか」 と、Naomiは
笑いながら。
「やめてよ、そういうの」と、めぐ(笑)。
ななは、遠い日本から来てるけど
なぜか、帰りたい気があまりしなかった。
帰っても、なにかいい事がある訳でもないし。
仕事は辞めてしまったし、何か宛てがある
訳でもなかった。
日本の修道院に行くつもりだったけど
この国の方が、居心地がいいような
気もしていた。
そして、めぐたちと一緒に居ると
なな自身、好かれなかった理由が
わかるような気がしていた。
わたしって、勝手。
それは、日本にいたら
わからない事だった。
それに、最初は腹を立てていた
少女だった、ななは
いつの間にか、同じように
勝手な大人になっていた。
その事が、腹立たしい
なな自身だった。
神様は、おそらの上で
「ほうほう、ななも
わかってきたのかの」と、にこにこ。
「なんで、掃除なんてしなくちゃならないの」と
ぐちぐち、ひとり言をいいながら
ななは、はきなれない長いスカートを
持ち上げるようにして
礼拝堂へと向かおうとすると
どて
スカートの裾を自分で踏んで、転んでしまう(笑)
両手でスカートを持っていたので、受け身も取れずに顔面着地(笑)
「痛ーい、もう。なんでなの!責任者出てこーい!」
「誰が責任者だってぇ?」と、シスター・クラーレが、にこやかにやってくる。
「あ、いいえ、あなたの事じゃ」と、ななは
転んで痛めた鼻(笑)を
さすりながら立ち上がる。
「ははは、わたしもよく転んだわ。最初」と、
シスター・クラーレは白い歯を見せて笑った。
「転ぶと、痛いでしょ」と、ななは
クラーレの、丈夫そうな体を見て。
Non、Non、クラーレは
どっしりとした腕を叩いて「丈夫だけは取り柄なの」と、にっこり。
黒い肌で白い歯が、とても印象的な
陽気なクラーレは、どうして修道院に来たりしたのだろうと
ななは、少し暗い礼拝堂に差し込む朝日を
見上げて。
広い礼拝堂の掃除は大変そうだ、と
普段、あんまり掃除とかしないので
面倒な気持ちになった。
「あたしが手伝ってあげるよ。スレッヂもくるわ」と、クラーレ。
「ありがとう、シスター。でも、あなたの仕事は?」と、なな。
「わたしはシンガーだもの。スレッヂもよ」と
クラーレは、楽しそう。
「ここって、音楽クラブなの?」と、ななは
初めてそれに気づく。
「ふつう、教会に賛美歌は付き物じゃない?アメリカじゃ当たり前よ。R&Bは」と、クラーレは楽しそう。
そうだったんだ、と
ななは、少し楽しくなって「じゃ、お掃除さっさとしちゃおう!わたしも歌いたい」と
モップを持って、急いで床掃除をしようとして。
バケツにモップを引っ掛けて(笑)。
「あーらら」と、入ってきた
シスター・スレッヂは、笑う。
「みんなもくるわ」と、ニコニコ。
彼女も、陽気なアメリカンで
たぶん、歌いたいからここに来たのね、と
ななは思ったりした。
広い礼拝堂は、学校の教室くらい。
なぜか、ハモンドオルガンがあったりするあたりが
新しい感じがする。
めぐの学校の隣、なんだけど。
お掃除を、適当に済ませて、さあ
ブレックファースト、と言っても
修道院である。
「自分で作るの」と、シスター・クラーレに
連れられて、みんなで調理実習。
「しばらくぶりだ」と、リサ。
「調理実習みたいだね」と、めぐ。
グレーの修道服だと、髪が隠れてるから
なんとなく大人っぽく見えて。
「お芋かな、やっぱ」と、れーみぃは
ドイツふう料理を思い出す。
ジャガ芋パンケーキ、りよねーず。
「修道院って言うと、黒パンとかさ」Naomi。
意外に、それは美味しいのだけど。
ロシアンのスープに似合う。
ボルシチとか。
「朝から美味しそうな話。食べたくなっちゃうね」と、シスター・クラーレ。
「一杯入りそう」と、なな。
「それは言わない約束」と、シスター・スレッジ。
みんな、笑顔になる。
レンズ豆を洗って、ジャガ芋を剥いて。
シスター・クラーレはハミング。
歌いたくて仕方ないみたいだけど。
それは、ジョイフル・ジョイフルの
ハーモニーだった。
めぐたちも音楽は好きだから、一緒にハーモニー。
「そっか!」と、めぐは気づく。
「なに?」と、れーみぃは、驚いて。
「うん、先生ね、ここが音楽好きの
集まるとこだから、あたしたちを行かせてくれたんだよ、きっと」と、めぐが言うと
Naomiも「バンドの事で、か。そうかもね。
いいとこあるね、先生」。
「生演奏聞くって、いいもの」と、リサも。
「では、頂く前にお祈りを」とは、院長。
修道院の食堂は、割と広いのだけれども
人数が多いので、ちょっと狭く感じる。
マホガニーのテーブル、白い壁はシンプル。
明かりのフードは白い布。
お皿も白い、装飾のないもので
そこに、さっきのスープとか、豆の煮物とか
黒いパン。
割と、自然で美味しそうだ。
「では、本日は体験入院の方がいらっしゃいますから、一言お願いしましょう。シスターなな、どうぞ」と、院長に言われて
ななは、どっきり「あ、あたし?そんな、聞いてないです」と、慌てて。
シスターたちは20人くらい。
みんな、クスクス笑っている。
「静かに。思ったことを言えばいいのです」院長は静かに、笑顔で。
ななは、「はい、では、あの。
日本から来たのですけれど、神様が
ここに行けと、それで来ました」と、本当の事を言う、なな(笑)。
シスターたちにどよめきが走る。ざわざわ。
院長「お静かに。ななさん、本当に神様に
お会いになったのですか?」と、少し真面目な顔で。
「はい、あ、あの、神様と言ってもイエス様ではなくて、どこの神様かは知らないのですけど」
本当だ(笑)。
シスターたちに笑い声が聞こえる(笑)。
でも、ななは「日本には一杯いるらしいです。神社にも、お寺にも」
「冷めないうちに頂きましょう」と、皆で
お祈りして、頂きます。
「アイスクリーム食べたいなぁ」と、ななは
甘えっ子らしい(笑)。
「ちょっと味薄いね」とか、めぐも
思ったりするけど
それは、精進料理のようなものだ(笑)。
「若い方々には、物足りないかもしれませんけれども
神様からの思し召しなのですから、有り難く頂きましょう。
豆も、お芋も生きているのです。
畠に植えれば芽を出すものを、私達は
頂いています」と、院長。
そうですね、と思うけれども
生き物を食べているとは、意識はしていない。
ななが食べたいと言った、アイスクリームも
実は自然にないもので
甘味も、とりすぎると
いつも欲しくなるので、あまり、よろしくない。
無いときに苛立ったりする、そういうものだ。
「買って来て、後で食べよう」と
ななは言うけど、日本のような
コンビニはここには無かったりする(笑)。
「そうですね、お金を使うのは
あまり好ましい事ではないですが」と
院長は言う。
「さ、食べちゃお」って、めぐは
固めの黒パンに噛み付いた。
なかなか、弾力があって食べ応えがある(笑)。
「それ、ちぎって食べるんだよ」と、リサは
さすがに旅人である(笑)。
北の方へ旅すると、こういう黒パンが
ほとんどだけど
慣れると、白いパンより美味しい。
スープと一緒にたべたりもするけど
そのまま食べるのも、独特の酸味があって
美味しいものだ。
ななは、まだ少し
気持ちにこだわりが残るみたいだけど
そこはそれ、18才たちより
少し歳を取ってると
いろいろ、考えるから。
院長も、ななも大人である。
クラーレや、スレッジが
怒りっぽくないのは、音楽が好きだから。
そう、何か楽しみがある人って
それだけで幸せなのだ。
歌を歌いながらだと、食器洗いも
そんなに気にならなかったりする。
音楽って、不思議なもので
あまり、考えない時間が持てるから
労働なんかには、とっても
いいのです。
シスター・クラーレは
R&Bに慣れているから、歌うのも上手だ。
修道院に来る前は、音楽の仕事をしていたみたいな
そんな雰囲気もある。
豊かで張りのある、いい声だ。
クラーレの歌声に、めぐは
ニューヨークのR&Bピアニスト、リチャード・ティーの事を
思い出したりした。
どことなく淋しいようで、でも
明るい元気な音。
それは、彼ら独特のもので
クラーレの歌声に、それがあった。
「いつか、そんな音楽を奏でてみたい」
そう思っても、それがどうしてできるのか
さっぱりわからなかった(笑)。
普通にピアノを弾いても、リチャードは
そういう響きが出せて
クラーレもそうだった。
もしかすると、生まれつき
音の感覚が違うのかも、なんて
めぐは思ったりする。
「そういえば、向こうの世界でMegさんは
ポール・モーリアさんに会って来たって」
さらりとして美しいサウンドは、R&bと
全然違うけれど
そういえば、フランスふうだと
思えない事もなかった。
生まれついた土地や、風土で
好みが違うのは面白いと
めぐは、ちょっとそんなふうに思う。
クラーレの歌声が見事だったので
お皿洗いを、しばし忘れて(笑)。
ほんの一瞬でも、そういう時があると
楽しい。
でも、手元が緩んで
ななは、お皿を流しに当てて
割ってしまった。
「あーあ。」と、ななは
物の溢れた日本のつもりで
割れた事が大変だとも感じなかったけど
歌ってたクラーレは、歌をやめて
「あららら。お皿がかわいそう。
銀で継げるかしら」と、
捨てようとしていたななに言った。
「買えばいいのに」と、便利な日本の
感覚でいる、なな。
「買ってもいいけど、使えれば直すのもいいね」と、スレッジ。
「銀で継ぐ方がお金かかるよ」と、ななは
日本の感覚で。
100円ショップで、いくらでも買える。
そんな風にも思ったりする。
でも。
「それで、神様はこっちの国に呼んだのかな」と、ななは少し、あの変な神様を
見直した(笑)。
日本に居たら、と
ななは思った。
お皿が割れたら
買い替えに金がかかるとか(笑)いう損得基準だったり
でも、本当は日本だって
大切にしているものはあって
お皿が割れたら、そのお皿と
一緒に過ごした思い出とか、そういうものが
あるから
お皿を大切にして。
割れたら、直して使うと
割れた事も思い出になる。
優しい気持ちのひとたちが、日本の人達だった。
割れたお皿は戻らないけど
お皿がかわいそう、とクラーレの言葉は
ななの気持ちにも響く。
ほんとうに優しい気持ちで、クラーレが
そう言ったからなのかな、と
普段、日本にいると
そんな、優しい気持ちになる事なんて
あんまりないのに、と
肩の力が、少し抜けたような
気がする、なな、だった。
そう思って、割れたお皿を見ると
あちこち、傷がついてはいるけれども
丁寧に扱われて、長い年月を過ごした
思い出が、お皿にあるような
そんな気持ちになった。
古い皿なんて、捨てて
新しくした方がいいって思ったりしてたけど
そういう生活とは違う。
そんなものが、ここにはあるような
ななは、そんな気になった。
そう思うと、なんだか
帰りたくなくなって来るようだった。
「すっと、こっちに居ようかな」なんて
ななは、心の中でつぶやいた。
日本に居ても、何もいいことないし。
いつのまにか、時間が過ぎて
「さあ、ステージ!」とばかりに
シスタークラーレや、シスタースレッジは
歌いたくてたまらない。
普通の教会でも、賛美歌は歌ったりするけど
ここは、クラーレたちのおかげで
リズム&ブルースを歌えたり、聞けたりする。
オルガンと、ギターやベース。
ブラス。ドラム。
どこからともなく集まってきて。
適当に音を出していると、音楽になってしまうのは
R&Bならでは。
シスタースレッジは、すこーし軽めに
ポップス。
ボーカルを取るのは[初恋大作戦]。
それから、冗談で[スレッジハンマー]。
楽しそう。
ななも、恋の事など忘れて。
めぐは、学園祭で音楽をプレイしたいと
思ってたけど
聞くのもいいな、と(笑)。
生演奏の楽しさに気づいた。
クラーレの歌声は、低く、太く艶やかで
自身の歌声とは、何かが違うように
めぐは思ったりする。
どこが違うのか全然わからないのだけど(笑)。
ゴスペルっぽい歌の輪に紛れて
ちょっと目立つ山高帽、えんび服の
神様は、まだ扮装のまま(笑)
ななは、すぐに気づき
神様の側へ。
「どうして、ここへ?」と、ななは
音楽のおかげでリラックスした笑顔で、神様に
尋ねる。
神様は「ちょっと気になっての。修道院は楽しいかい」
ななは「はい。ここに誘ってくださった
理由がなんとなく、わかるような」
神様は、にこにこしながら
「それはよかった。ずっとこっちに居るかの?」と、ちょっと様子を伺うように神様は言う(笑)。
ななは、なんとなく気づく。
「何かあったのですか?」
神様は、ちょっと視線を空へ逃がし
「ああ、彼はな、10年前に心を奪われていて。ななちゃんと同じ歳でな。
その人が、どこか忘れられなかったらしいの。
それで、10年前に時間旅行して
過去を変えてしまったので、今は並列時空間の住人になっておる」と、神様は
ありのままに言った。
ななは、訳わからない(笑)。
過去を変えてしまうと、今のこの世界の
彼は、違う人になってしまう。
なので、10年前に枝分かれした
世界に、彼は行ってしまった。
「そっちの別世界で、幸せにしておる事じゃろう。
つまり、ななの好きだった彼は
10年前に時間旅行して
別の並列時空間を作り、旅立ってしまった。
いま、こちらの世界にいる彼は
そっくりだけれども、別の人。
同じように、ななの事を覚えているだろうけれど
別の人だ。
その事を、神様に出逢わなかったら
ななも気づく事はないだろう。
ほとんどの人は、どこか違和感を覚えてつつ
入れ代わった別人と(は、本人も知らないのだが)
付き合っている。
多重人格とか、統合性とか
解離とか、神隠しとか(笑)
いろいろ言われる、本当のところは
そういう事である。
ななは怒る。
「神様の言うとおりにしたのに、そんなのってないよ。責任者出てこーい(笑)!
」
半分冗談だったけど、泣き笑い。
神様も困った。
「困った、困った。」といいながら
「ひとの気持ちだから、仕方ないじゃろう。
ななちゃんが好きになった時の彼の心には、既に愛する人がいたんじゃな。それで
優しい気持ちでいられた」と、客観的に
神様は言う。
「ななだって、好きだったのに」と、ななは
怒ると
修道服のフードがふわり、と浮いて。
神様は、思い出した。
ななに飛行魔法を授けていた。
「おーい、どこいくんじゃぁ」と、神様は言う。
「わかんないよ」と、ななも驚いて
顔を覆う。
礼拝堂の人々は、飛んでゆくななを見て
驚き笑う。
「空飛ぶシスター」
飛んでゆくななを見て、めぐも
あっ、と驚いた。
神様がいる事には気づいたけれど
ななの事を、魔法使いだと
めぐは勘違い(笑)。
「なに?あれ?」となりのれーみぃは
グレーの修道服で言っている。
驚きの視線でみんなが空中のななを見上げるけれど
一番驚いてるのは、飛んでいるななで
「あれ?いや?どうなったの?」と
天井の近くを飛んでるから
電灯にぶつかりそうだし、なにより
高いとこの窓枠とかは、結構埃っぽくて
「触りたくないけど」とか
感じてて。
どうやって逃げたらいいか解らない(笑)
そう思っているうちに、回廊になっている
2階の手摺りを飛び越えて
開いている窓から、外に飛び出した。
「ああ、飛んでる」と、神様は
のんびりと眺めた。
なぜか、歌声は止まらずに
楽しげなR&Bに乗ってる(笑)ように見える
ななの飛行である。
「変装じゃから」と、神様は
楽しそう。
「時代を考えてください。それじゃ変装ってより目立ってますよ」と、めぐ。
「クリスタに似てきたのお、ははは」と、神様は気にせず。
「似るわけないでしょ。まったく」と、めぐはなんだか(笑)。
「クリスタって、ルームメイトの?」れーみぃ。
「ああ、天使じゃ。わしの」と、神様はまた
余計な事を言うと(笑)。
「天使さん?」と、ななはメガネの奥でびっくり目(笑)。
「めぐ?」と、れーみぃ。
「あ、あー、劇団のね。役。それじゃ、神様、あたしたち買い物するから。」と、めぐは
冷や汗たらたら(笑)。
「お、おお、そうか。では、さらば。」と
神様は白昼堂々、術を使って
金色の粉を振り撒いて飛び去った。
ななは、あっけ(笑)。
「あ、それじゃ、St。Blancheへ?」と、めぐは
学校のとなりの修道院の名前を言うと
ななは「名前は聞いてないけど、どこでもいいの」と、にっこり。
そっか、と、めぐはにっこり。
やっと、普通の会話になった。
「ルームメイトが天使さんなんですか?」と、なな。
「ぃ、いえ、あの。劇団のね」と、めぐ(笑)。
ああそうか、と、ななは、ははは、と笑った。
めぐたちも、釣られて笑うけど
どこまで話していいものやら(笑)。と
ななが、魔法を知っている事を
神様は、話していないので
その割に、いろいろ話してしまうから(笑)。
どぎまぎのめぐ、だったりして。
「じゃ、買い物買い物」って、れーみぃ。
路面電車の停留所から、坂道の上り。
煉瓦の敷石と、道路。
真ん中にケーブルカーの軌道。
いつだったか、めぐが
スクーターの少年を助けた、坂道だ。
「あ、ステキなお店。」ななは、ショーウインドーがおおきな
洋品のお店に惹かれた。
「ああ。観光客はみんな見るね。」と
れーみぃが言うその口調が、めぐは可笑しくて笑った。
「みるね、って
なんか、日本映画の中国人みたい。
ラーメン屋さんかなんかの(笑)」と言うと
れーみぃもおかしくて笑った。
「ワタシ、
イイアジ
ツクルアルヨ
」と、ラーメンのコマーシャルみたいな
真似を、れーみぃは
寄り目でするので、めぐは可笑しくて大笑い。
ななは、言葉がよくわからないけど
その、日本語イントネーションと
寄り目が可笑しくて笑った。
土曜日で、ひと通りも多いけど
道行く人々も、楽しげな3人に、にこにこ。
「ちょっとだけ、見ていかない?」と
アースカラーの、染め物で作られた
ニットふうのワンピースが飾られた
そのお店に、ななは惹かれた。
「いこうか」と、めぐが言うから
れーみぃもうんうん。うなづく。
お店の中は、けっこう狭くて
いろんなものが並んでて。
「あ、こっちもステキ、あれも」と
ななは楽しそう。
「着てみたいなぁ」とか。
「あ、でも着ちゃうと何か買わないと」と、めぐ。
「そうなの?」と、ななはびっくり。
日本だと、試着して見て
それだけ、なんて言うのはふつう。
でも、それにも礼儀があって。
お店の人と話をして、こんなものが着たいとか
見てみたいとか。
そういう、交流があって
お店の品物を始めて、出してくれる。
「お客様の手を煩わさないのが、ヨーロッパ流なの」と、れーみぃ。
ななは、びっくり。
「日本だと、自分で持って自分で着て見るけど」と。
「アメリカンね、それ」と、めぐ。
そーなんだぁ、と
ななは驚く。
「ヨーロッパって割と階級別の名残があるのね」と、めぐ。「でも、アメリカンのお店もあるのよ。ハンバーガーとか、おもちゃとか」
と、笑った。
ななは思う。
古くからの伝統って大切ね。こういう町で
修道院に入るのは、日本よりいいかも。
なんて思って、突然思い出す。
「日本のお札しかない!」(笑)。
日本語で言ったので、めぐもびっくり。
でも。「ああ、クレジットカードあるでしょ。」と、めぐ。
「持って来てないの。いきなりだったから」と
ななは泣きそう。
湯上がりみたいなメークで泣くとピエロみたい(笑)。
ななは、直接
ルーフィたちの世界に行ったから
いま、いる世界とは
似て非なる時空間だと気づいていない。
まあ、それはそれでいいんだけど。
「じゃ、夕方に修道院ね」れーみぃは
支度してくる、って言って
ケーブルカーで、坂道を昇っていった。
「じゃ、あたしたちも夕方まで支度ね。
と言っても、何もする事ないか」と、めぐは
にっこり。
ななも、素顔でにっこり。
そうすると、めぐよりも幼く見える事もある。
「いつも、メークするの大変でしょ。」と、めぐは言う。
「うん、でも、日本じゃそうなの。」
「めんどくさいね、日本って」と、めぐは率直だ。
「こっちはそんな事ないの?」と、なな。
「うん。修道院は特にそうだよね」
「修道院は日本でもそうだよ」と、ななは笑う。
そっか、とめぐも笑った。
「じゃ、加藤さんの好みになりたい、って。
ひたむきだなぁ、ほんと」と、めぐは
意外に、恋に純粋な、ななに親近感を持つ。
「好みになりたい、って言うか、自分が
知らないうちに汚れてたみたいな気がして。
日本にいると、そうなの。
みんな悪い子だし」と、ななは思い出すように。
「なんか、わからないよ」と、めぐ。
わたしも、中にいるとわからないけど、と
ななは前置きして
「こっちに来ると、清々しいの。これが
ふつうの暮らしだって思う。周りを
気にして合わさなくてもいいし。
それが普通なんだよね、ほんとは」と
ななは、柔らかい笑顔で。
「よろしい。シスターななは残りなさい。ほかは、下がって。」院長は、穏やかそうな
婦人である。
ここは、修道院。
めぐたちと、ななは
一日体験で、やってきた。
めぐたち高校生は、普段、校則で
決まった身嗜みだったので
問題なかったが
ななは、日本の、ふつうのOLだから。
「シスターなな、耳飾りを外して、それから爪飾りも。足の爪の色も落としなさい。」
院長は穏やかに言うけれど、ななは不満顔。
「どうして外さないといけないのですか」と
静かに理由を聞く。
院長は「それは、あなたの美しさを妨げるものだからです
」
「飾りそのものは、眺めて楽しむものですね。あなた自身の心が美しければ、どんな飾りものよりも美しいはずです。飾りがある事で
心の美しさを邪魔してしまいます。」
華美に着飾る事が、かえって品位を落とすと院長は言っている。
それを、院長は静かに示す。
ななは、自覚する
「院長先生、ありがとうございます。
装飾は外して参りますから、下がってよろしいですか?」
院長は、静かに微笑む。
「シスターなな、あなたは賢い方です。」
しかし、院長が信頼する事で
ななは心を開く。
反発する対象じゃない、と
ななの気持ちが融解するのである。
「大丈夫かしら?」と、ななに声を
かけたのは
陽気で大柄な、アメリカンの黒人。
黒い修道服を纏っていると、トトロのように
頼れそう。
院長室から出てきて、少し戸惑っている、ななを
慰めるかのような優しさのそのひとは
シスター・クラーレ。
ななは、異国でひとりきり、なんて気持ちだったけど
クラーレのおかげで、元気になれそうだった。
「シスターななの国とこっちは違うから。
あたしの国とも違うから。風習の違いは仕方ないね。
でも、音楽に国境はない、わ」と
クラーレは、歌うのが楽しそう、と言う表情で
広い廊下に響くようなR&Bを歌う。
その声は、ななの気持ちもリラックスさせる。
遠い記憶の中、どこかで聞いたような
メロディーだった。
音楽っていいな、と
ななは思う。
日本では、こんなふうに音楽を聴く事もなかった。
「院長の言うように、飾りなんてない方がいいわ、それ、日本で流行ってるの?」と、クラーレ。
うん、と、ななは頷き「みんなしてるから、なんとなく。」と、ななは現実を示した。
廊下をゆっくり歩きながら、クラーレは
首を傾げながら「アメリカじゃ考えられないわね。誰が何しようと
勝手だし。ヨーロッパは、階級社会だったから
元々、そういう華美な装飾って
目立ちたがりのするもの、だったわ。アハハ」と、陽気に笑う。
ななも笑顔になる。
それは日本でも同じで、高級なひとたちは
至って質素な振る舞いをしているものであった。
「さあ、ここがあなたのお部屋ね」と
修道院のゲストルームなのだろうか、くすんだ重々しい扉を開くと
みんなが待っている。
お部屋は、意外と広くて綺麗なので
ななは、少し拍子抜け。
「なーんだ。監獄みたいなところだと思ってた」と、笑顔に戻って。
シスター・クラーレは、笑って「監獄はないわね。入った事あるの?」
ないけど、と、ななも陽気なクラーレに和む。
おかえり、と、めぐは灰色の修道服で。
髪も隠しているけれど
なんとなく、若々しい。
「耳飾りなんて、してても分からないのに」とは、いかにもめぐらしい(笑)。
同じ、グレーの服に
白い襟がかわいらしい
れーみぃは
「うん。ネイルアートは見えるけど」。
背高のNaomiは「あたしだって、オートバイで来ちゃって叱られたよ」と
窓の外、木陰に止めてある
銀色のYAMAHAを指さして。
それはまずいわね、と
クラーレも笑う。
同じくらいの背丈のリサは、静かにしていると
上品に見えたりするけど。
「でも、一晩の辛抱ね、明日は朝5時起床かなー。」と、楽しそう。
ひぇぇ。
と、誰からともなく悲鳴(笑)。
和やかに、修道院の夕方は暮れて行く。
そんな、修道院の暮らしも
変わろうとしている。
信仰の深い人達の寄附で運営していた
修道院、それも
お金を払って物を買う、と言う
システムの上で
そうなっていただけで
人としての悩みは起こったりする。
健康の不安、生きて行く希望。
死への畏れ。
そういうものが、教会の
果たす役目、になっていく。
ーーーはずだが(笑)。
とりわけ、美しい賛美歌を歌う事などは
お金では買えない経験であったりもするので
教会に来る意味は別に変わらない。
「一日じゃ物足りないでしょ、みなさんっ!ははは」と、クラーレは
白い歯をむきだして笑う。
陽気なアメリカン。
ゴスペルが似合いそうだ、いかにも。
「いえいえ、一晩で結構です」と、れーみぃが
掌を左右に振る。
みんな、一緒に笑った。
和やかな、そんな雰囲気を
なな、は
久しぶりに感じたような気がした。
「なんで、わたしたちの服はグレーなの?」と
めぐが言うと、クラーレは
「それは、まだ若いって事。」と
にこにこして言う。
「ほんじゃ、シスター・クラーレは
若くないから黒いの?」と、れーみぃ。
ほんじゃ、ってなによ、と
リサが言うと
「あれ?」と、口調が砕けたれーみぃ。
目が寄ってる。
わはは、とみんなで笑ってると
「みなさーん、消灯の前にお風呂でも」と
廊下から声。
そんなのあるの?と
めぐ。
「あるよ、ここ温泉地だもの」と
忘れかけていた事をクラーレは言う。
そういえば、めぐの家の裏山にも
温泉があったんだっけと
めぐは、夏休みの事を思い出したりした。
もう、遠い思い出になってしまってるけど
初めて魔法使いルーフィが来たのは、夏。
温泉に行ったんだっけ。
物思いに耽りそうな、めぐを引っ張るように
「温泉温泉」って、れーみぃは
お風呂へめぐを連れて行った。
修道院にお風呂なんて、想像できないけれど
この地方は、温泉が湧くから
ふつうだけど、他の地方から見ると贅沢だったりする。
日本が、いろんなものが溢れてても
贅沢だと思わないような、そんな感じ。
廊下のずーっと奥で、めぐたちの
学校に近いあたりに、温泉は
一日中入れる。
「こんなところに温泉があったなんて」と、リサは気づかなかったらしい。
「学校にもあるじゃない」と、Naomi。
そういえば、プールも温水だし
スポーツの後のシャワーも、お湯がふんだんに
使えた。
合宿所にもお風呂あったし。
「とにかく入ろうよ」って、れーみぃは
グレーの修道服を脱ぐと
とたんに、ふつうのアンダーウェアになって
ここは、修道院かな、と?
フードが脱ぎにくい(笑)。
アジアンふう、だけど
なな、みたいな
日本人とはちょっと違う風貌で
肌も白かったり。
めぐは、日本語っぽい呼びだけど(笑)
マーガレット、と言う名前でめぐなので
日本人の血統でもない。
すらりとした北欧少女、やや小柄だけど
ななよりは大きい。
ななも、おそるおそる修道服を取り
フードだけになると、とたんに。
足元が、お風呂の着替え場の床から
微妙に浮いたりして(笑)。
神様に貰った魔法は、まだ効いてるらしい。
空とぶシスター、なな。
あわてて地面に降りたので、誰にも
気づかれなかった。
「あれ?」と
その様子に気づいたのは、魔法使いのめぐだった。
やっぱり、似てるから。
「早くお風呂はいんないと消灯だよ」と
リサは均整の取れたスタイルで。
テニス好きだから、半袖と脚だけ日焼けしてて
膝は擦り傷けっこういっぱい。
胸もとだけ日焼けで、変にリアル(笑)。
「フードだけかぶってヌードだと、なんか
男の子の好きな雑誌のグラビアみたい」と
れーみぃは、また変な事(笑)
「本当にお嬢様なの?それで」と、Naomiは
あんまり焼けてない。
「こっちのお風呂って水着着るのかと思った。
なんか、恥ずかしいけど」と、ななは
やっぱり日本人。
どことなく湿っぽいふんわりスタイルだけど。
そのあたりが日本ふう。
「そういう所もあるけど。外のお風呂とかは」と、めぐ。
家のお風呂と一緒だもの、と、リサ。
なるほど、シスターだから家族なのね、と
ななは納得。
割と広いお風呂場は、学校の教室くらい。
「昔は、なんだったんだろね、ここ」と、リサ。
「お風呂場なんじゃない?」と、Naomi。
郵便局にもあるけど、とも付け加えて。
3年後、郵便局に勤めて
そこに、めぐがタイムスリップして
郵便局のお風呂場でのぼせるんだけど(笑)
それは、今はNaomiも知らない。
めぐは覚えてるんだろうか(笑)。
「だけど、あの、サウナ入って
雪の原にダーイブしたりするでしょ」と
ななは、テレビの旅行番組の映像を思い出して(笑)。
「それは、もっと寒いとこ」と、れーみぃ。
「それに男だよ、そういう事するのは」と、リサ。
「あ、そういえばそうか。女の子はやらないね。
おばさんはいたみたいだけど」と、なな。
「おばさんっていくつくらいかなぁ」と、Naomiは真面目顔(笑)
大人っぽいから、それを気にしてるとこもある。
「日本だと、30くらいかな」と、なな。
「わかんないよねー。あと12年かぁ」と、めぐ。
そんなに先の事、って(笑)。
18年しか生きてないから。
12年先って言っても。
想像もできない。
12年前はお嬢ちゃんだった(笑)。
「その間に、結婚したり子供産んだり」と、リサ。
「やだー、めんどくさいなぁそう考えると」れーみぃはやっぱり、お嬢様(笑)。
恋人もまだいないもの。
「いつか、結婚したいとか思うのかな」と、めぐは恋愛、はしたいと思っても。
「あれ、シスターって神様と結婚するんじゃないの?」と、なな。
あ、そっかあ。と、みんな笑う。
一日体験だもん(笑)。
お風呂場に笑い声。
もうじき消灯だよ(笑)。
めぐの髪は少し長めだから
濡れてしまうと、ちょっと
まとわりついてしまって。
「切っておけばよかった」と、めぐは
少し、うっとうしいと
右手で髪を上げて、温泉へ。
「そのポーズ、色っぽいよ」と、れーみぃが
からかう(笑)
「やだなぁ、もう、男の子みたい」と、めぐ。
「男の子と入ってるの?」と、Naomiは
冗談、低い声で(笑)
んなわけけないけど(笑)
「でも、ほら、あの、ホームステイしてた
イギリスの人といったんじゃない?」とは
リサ。
「ルーフィ。」と、めぐ。
「ルーフィさん、爽やかなかた」と、なな。
「うん、お兄ちゃんタイプかな」と、めぐ。
「わたしから見ても」と、ななは
めぐたちの前では、自称をなな、とは言わない。
日本的な感じで。
「なんとなく、お父さんみたいに落ち着いてて」と、ななは言うけれど。
ルーフィが過去から来た旅人だとは
説明もできない(笑)めぐ。
それに、めぐ自身のこの世界も
めぐは覚えていないが
17年前で一旦、巻き戻されて。
元々の世界は、魔物やら悪魔やらが
住み着いていた世界だったり、なのだけど。
「それで、なぜ修道院に来たの?」と、Naomi。
「片思いの人が、わたしを好きになってくれないの」と、ななは、話していて思った。
自分は、幼いんじゃないだろうか(笑)と。
日本にいると、周りがみんな幼いので
気づかなかった。
こっちのひとは、みんな大人だ。
穏やかで。
「好みはいろいろあるから、仕方ないね」と、Naomi。
「好きになってほしいって気持ちはわかるけどさ」と、れーみぃは
柔らかく言った。
ふくよかなボディは、ちょっとアジアンで
ななに近いけど
どちらかと言うと、キューピッドみたいに
かわいらしい。
「彼、あたしの事を
かわいらしい、って言ってくれたの。
それが嬉しくて」と、ななは思い出に浸る。
笑顔になって。
「あ、シャンプー忘れた」と、ななは
困った。
「一晩くらいいいじゃない」と、Naomi。
歳は下だけど、なんとなく大人っぽい彼女は
郵便局のバイトで鍛えている事もある。
手紙を届けるなんて、単純だけど
受け取る人々にとっては大切だ。
なんたって、一品生産の文章だもの。
そういう世界を好むNaomiは、実は
外観はファッションモデルのような人だけど
派手な世界は嫌いで、おじいちゃんの片見の
オートバイを大切にしている子だった。
後戻りのできない郵便配達の仕事。
道順の通りに配達しないと、時間通りに
終わらない。
そういう厳密な時間の過ごしかたに慣れていると
些細な事は、大切な事が終わってから
すればいい、とか
するべき事と、そうでない事を
明快に分けられる、理論的な行動ができる。
「やだー、洗いたい」と、ななは
日本にいる時のつもりで(笑)
いつでも、わがまま言っても
なんとかなる、って
甘えた暮らしに慣れてる(笑)
けど、ここは日本じゃない。
「石鹸で洗えば?」と、めぐ。
めぐも、あいにくシャンプー、なんて
持って来なかった(笑)。
そもそも、この国は乾燥気候だから
亜熱帯の日本と違って
そんなに汗もかかない。
身体自体が、環境に適合してしまっているのだった。
まだ、来たばかりのななは
適合できてもいない(笑)。
「石鹸で洗ったら、髪が荒れちゃうよ」と
ななは、わがまま(笑)。
「そんな事ないよ、薄めればいいの」と、リサ。
なんで、そんな些細な事で
不満を述べるんだか、訳がわからないけど
物がいつもふんだんにあるんだろうな、日本は(笑)
と、そんなふうに思ったり。
なな自身も、自分が環境に
騙されてしまっている事には気づかない。
シャンプー、なんてものが無くても
人間は生きて行けるのに
それがいつもある事を有り難い、と
思えなくなってしまっていて
でも、それは
ななのせいではないから
神様が、修道院に行く事を
奨めた意味は、それに気づく事だった。
地上の、めぐの国の修道院では、まだ
お風呂に入っている(笑)。
「石鹸をね、3%くらいに薄めて洗えばいいのよ」と、リサはさすがに理系である。
界面活性剤は、そのくらいが一番洗浄能力が高くて
それ以上にするから、残った石鹸分が
荒れの原因になる。
台所洗剤の容器に書いてある事だが
泡が立たないと汚れが落ちないと思ってるだけだ。
「だいじょうぶ?」と、明かりを持って
来てくれたのは、シスター・クラーレ。
ななは、有り難さに泣きそうになった(笑)。
「はい、だいじょうぶです」とは言ったものの
真っ暗な中で、下着を着るのが
やっとだった。
「まあ、一晩の体験だから、厳密にしてるけど。
普段は、そうでもないのよ」と、クラーレは
楽しそうに、笑う。
そばにいると、和めてしまうけど
「どうして遅れたの?」と、聞かれたななは
シャンプーが無くて、まごまごしているうちに
時間が経ってしまった、と言うと
クラーレは「そんなものよ、最初は。
シャンプーなんて無くても死なないわ」と
また、豪快に笑った。
「キャンプに来てるって思えば」とも。
慣れればだいじょうぶなのかな、なんて
気がつくと、修道服を来ていない
クラーレは、どこにでもいる
普通のひとに見えて。
その事に、ななは
ちょっと驚いてたけど
「さ、服着ないと風邪ひくよ、寒いんだから」と、クラーレが言うので
身支度をしてると
「だいじょうぶ?」と、めぐたちが
明かりを持って戻ってきた。
燭台だと、それらしいけど
LEDの懐中電灯だった(笑)。
ななも「ありがとう、だいじょうぶ」
。
「髪濡れたまま、ドライヤー掛けたいな」と
ななは言ったけど、電気も切れてるし
真っ暗だし(笑)。
懐中電灯の明かりで、なんとか自分のお部屋に辿り着けた。
シスター・クラーレも「ドライヤーはないわねぇ。普段も使わないし」と、笑顔で言われると
答えようもない、なな。
リサは「自分の家ならなんとかなるけどね」と
言うので、ななは
「だから、洗わなければいいの、って
言われると思ったけど、そうじゃないのね」と
笑顔を、月明かりで返す。
リサは「ううん、おじいちゃんがね、
機関車乗りなんだけど。
過ぎた事はいいから、前を見ろ、って。
危い事が起こるかもしれない。
後悔するのは、機関車が止まってからだ、って。
そういうの」と。
「実感こもってるね」と、Naomiも感動する。
郵便配達もそうよ、って、付け足し。
「配達間違えたかな、なんて
考えてると、事故起こすかもしれないし」と。
働いてる人々の言葉は、重みがあると
ななも感動した。
日本で、つまらない事で争う人々は
なんか、矮小に思えた。
機関車に乗って、乗客を守ったり
郵便を、きちんと安全に届ける事とか
人々に、表だって感謝される事もないけれど
そういう人々が居て、知らずに世話になっているんだ、って
思うと、我が儘言えないって
そんな風に感じる。
いつも、誰かの世話になってたんだって。
些細な行き違いで、争ったり
しないようにしようと
そんなふうに、ふと、思う
今夜のななだった。
「さ、寝ないと。朝起きられないよ。」と、
リサは鉄道職員の孫(笑)。
家に、誰か鉄道職員が居ると
自然に早寝になったりする。
朝も早いし、夜遅くなる。
そういう家族を気づかう習慣になってしまうけど
それも環境だ。
たまたま、そうなっただけ。
なので、ななが
たまたま、変な環境にいたせいで
贅沢、我が儘が身についたとしても
それも、ななのせいでもない。
でも。「髪が冷えちゃって、風邪引きそう」
なんて、誰かに助けてもらおうと甘えるのは
ななのせいである(笑)。
「タオルで拭いとくしなないわね」と、シスター・クラーレ。
じゃ、ほんとに寝ないと、と
ドアの向こうへ。
静かな夜に、足音だけが消えていく。
「あたしたちも寝ようか」と、Naomi。
そだね、と、れーみぃも。
まだ9時だけど、とは言いながら。
電気を付けて夜起きていると言うのは
エネルギーがない時代にはとても贅沢。
キャンプだったら、灯油のランプとか
見えるエネルギー源だから、減っていく、
もったいない、なんて実感しやすいけれど
電気は、見えないから
使っているのが、実感しにくい。
なので、ドライヤー貸して、なんて
気軽に言うけれど
そのエネルギーも結構なものだ。
そういう暮らしが、これまで。
わがままな事、と
めぐたちからは見えるけど
日本は、そんな振る舞いをする人が増えている。
「ごめんね、わがまま言って」と、ななも言う。
「さ、本当に寝ないと」と、めぐ。
「そだね」と、れーみぃ。
割と広いお部屋なんだけど、5人だと
ちょっと狭く感じる。
二段のベッドが両はじに。
突き当たりが窓で。
ほんとは6人で使うお部屋らしい。
「なんで5人なんだろ」と、リサ。
「ひとりはユーレイとか」 と、Naomiは
笑いながら。
「やめてよ、そういうの」と、めぐ(笑)。
ななは、遠い日本から来てるけど
なぜか、帰りたい気があまりしなかった。
帰っても、なにかいい事がある訳でもないし。
仕事は辞めてしまったし、何か宛てがある
訳でもなかった。
日本の修道院に行くつもりだったけど
この国の方が、居心地がいいような
気もしていた。
そして、めぐたちと一緒に居ると
なな自身、好かれなかった理由が
わかるような気がしていた。
わたしって、勝手。
それは、日本にいたら
わからない事だった。
それに、最初は腹を立てていた
少女だった、ななは
いつの間にか、同じように
勝手な大人になっていた。
その事が、腹立たしい
なな自身だった。
神様は、おそらの上で
「ほうほう、ななも
わかってきたのかの」と、にこにこ。
「なんで、掃除なんてしなくちゃならないの」と
ぐちぐち、ひとり言をいいながら
ななは、はきなれない長いスカートを
持ち上げるようにして
礼拝堂へと向かおうとすると
どて
スカートの裾を自分で踏んで、転んでしまう(笑)
両手でスカートを持っていたので、受け身も取れずに顔面着地(笑)
「痛ーい、もう。なんでなの!責任者出てこーい!」
「誰が責任者だってぇ?」と、シスター・クラーレが、にこやかにやってくる。
「あ、いいえ、あなたの事じゃ」と、ななは
転んで痛めた鼻(笑)を
さすりながら立ち上がる。
「ははは、わたしもよく転んだわ。最初」と、
シスター・クラーレは白い歯を見せて笑った。
「転ぶと、痛いでしょ」と、ななは
クラーレの、丈夫そうな体を見て。
Non、Non、クラーレは
どっしりとした腕を叩いて「丈夫だけは取り柄なの」と、にっこり。
黒い肌で白い歯が、とても印象的な
陽気なクラーレは、どうして修道院に来たりしたのだろうと
ななは、少し暗い礼拝堂に差し込む朝日を
見上げて。
広い礼拝堂の掃除は大変そうだ、と
普段、あんまり掃除とかしないので
面倒な気持ちになった。
「あたしが手伝ってあげるよ。スレッヂもくるわ」と、クラーレ。
「ありがとう、シスター。でも、あなたの仕事は?」と、なな。
「わたしはシンガーだもの。スレッヂもよ」と
クラーレは、楽しそう。
「ここって、音楽クラブなの?」と、ななは
初めてそれに気づく。
「ふつう、教会に賛美歌は付き物じゃない?アメリカじゃ当たり前よ。R&Bは」と、クラーレは楽しそう。
そうだったんだ、と
ななは、少し楽しくなって「じゃ、お掃除さっさとしちゃおう!わたしも歌いたい」と
モップを持って、急いで床掃除をしようとして。
バケツにモップを引っ掛けて(笑)。
「あーらら」と、入ってきた
シスター・スレッヂは、笑う。
「みんなもくるわ」と、ニコニコ。
彼女も、陽気なアメリカンで
たぶん、歌いたいからここに来たのね、と
ななは思ったりした。
広い礼拝堂は、学校の教室くらい。
なぜか、ハモンドオルガンがあったりするあたりが
新しい感じがする。
めぐの学校の隣、なんだけど。
お掃除を、適当に済ませて、さあ
ブレックファースト、と言っても
修道院である。
「自分で作るの」と、シスター・クラーレに
連れられて、みんなで調理実習。
「しばらくぶりだ」と、リサ。
「調理実習みたいだね」と、めぐ。
グレーの修道服だと、髪が隠れてるから
なんとなく大人っぽく見えて。
「お芋かな、やっぱ」と、れーみぃは
ドイツふう料理を思い出す。
ジャガ芋パンケーキ、りよねーず。
「修道院って言うと、黒パンとかさ」Naomi。
意外に、それは美味しいのだけど。
ロシアンのスープに似合う。
ボルシチとか。
「朝から美味しそうな話。食べたくなっちゃうね」と、シスター・クラーレ。
「一杯入りそう」と、なな。
「それは言わない約束」と、シスター・スレッジ。
みんな、笑顔になる。
レンズ豆を洗って、ジャガ芋を剥いて。
シスター・クラーレはハミング。
歌いたくて仕方ないみたいだけど。
それは、ジョイフル・ジョイフルの
ハーモニーだった。
めぐたちも音楽は好きだから、一緒にハーモニー。
「そっか!」と、めぐは気づく。
「なに?」と、れーみぃは、驚いて。
「うん、先生ね、ここが音楽好きの
集まるとこだから、あたしたちを行かせてくれたんだよ、きっと」と、めぐが言うと
Naomiも「バンドの事で、か。そうかもね。
いいとこあるね、先生」。
「生演奏聞くって、いいもの」と、リサも。
「では、頂く前にお祈りを」とは、院長。
修道院の食堂は、割と広いのだけれども
人数が多いので、ちょっと狭く感じる。
マホガニーのテーブル、白い壁はシンプル。
明かりのフードは白い布。
お皿も白い、装飾のないもので
そこに、さっきのスープとか、豆の煮物とか
黒いパン。
割と、自然で美味しそうだ。
「では、本日は体験入院の方がいらっしゃいますから、一言お願いしましょう。シスターなな、どうぞ」と、院長に言われて
ななは、どっきり「あ、あたし?そんな、聞いてないです」と、慌てて。
シスターたちは20人くらい。
みんな、クスクス笑っている。
「静かに。思ったことを言えばいいのです」院長は静かに、笑顔で。
ななは、「はい、では、あの。
日本から来たのですけれど、神様が
ここに行けと、それで来ました」と、本当の事を言う、なな(笑)。
シスターたちにどよめきが走る。ざわざわ。
院長「お静かに。ななさん、本当に神様に
お会いになったのですか?」と、少し真面目な顔で。
「はい、あ、あの、神様と言ってもイエス様ではなくて、どこの神様かは知らないのですけど」
本当だ(笑)。
シスターたちに笑い声が聞こえる(笑)。
でも、ななは「日本には一杯いるらしいです。神社にも、お寺にも」
「冷めないうちに頂きましょう」と、皆で
お祈りして、頂きます。
「アイスクリーム食べたいなぁ」と、ななは
甘えっ子らしい(笑)。
「ちょっと味薄いね」とか、めぐも
思ったりするけど
それは、精進料理のようなものだ(笑)。
「若い方々には、物足りないかもしれませんけれども
神様からの思し召しなのですから、有り難く頂きましょう。
豆も、お芋も生きているのです。
畠に植えれば芽を出すものを、私達は
頂いています」と、院長。
そうですね、と思うけれども
生き物を食べているとは、意識はしていない。
ななが食べたいと言った、アイスクリームも
実は自然にないもので
甘味も、とりすぎると
いつも欲しくなるので、あまり、よろしくない。
無いときに苛立ったりする、そういうものだ。
「買って来て、後で食べよう」と
ななは言うけど、日本のような
コンビニはここには無かったりする(笑)。
「そうですね、お金を使うのは
あまり好ましい事ではないですが」と
院長は言う。
「さ、食べちゃお」って、めぐは
固めの黒パンに噛み付いた。
なかなか、弾力があって食べ応えがある(笑)。
「それ、ちぎって食べるんだよ」と、リサは
さすがに旅人である(笑)。
北の方へ旅すると、こういう黒パンが
ほとんどだけど
慣れると、白いパンより美味しい。
スープと一緒にたべたりもするけど
そのまま食べるのも、独特の酸味があって
美味しいものだ。
ななは、まだ少し
気持ちにこだわりが残るみたいだけど
そこはそれ、18才たちより
少し歳を取ってると
いろいろ、考えるから。
院長も、ななも大人である。
クラーレや、スレッジが
怒りっぽくないのは、音楽が好きだから。
そう、何か楽しみがある人って
それだけで幸せなのだ。
歌を歌いながらだと、食器洗いも
そんなに気にならなかったりする。
音楽って、不思議なもので
あまり、考えない時間が持てるから
労働なんかには、とっても
いいのです。
シスター・クラーレは
R&Bに慣れているから、歌うのも上手だ。
修道院に来る前は、音楽の仕事をしていたみたいな
そんな雰囲気もある。
豊かで張りのある、いい声だ。
クラーレの歌声に、めぐは
ニューヨークのR&Bピアニスト、リチャード・ティーの事を
思い出したりした。
どことなく淋しいようで、でも
明るい元気な音。
それは、彼ら独特のもので
クラーレの歌声に、それがあった。
「いつか、そんな音楽を奏でてみたい」
そう思っても、それがどうしてできるのか
さっぱりわからなかった(笑)。
普通にピアノを弾いても、リチャードは
そういう響きが出せて
クラーレもそうだった。
もしかすると、生まれつき
音の感覚が違うのかも、なんて
めぐは思ったりする。
「そういえば、向こうの世界でMegさんは
ポール・モーリアさんに会って来たって」
さらりとして美しいサウンドは、R&bと
全然違うけれど
そういえば、フランスふうだと
思えない事もなかった。
生まれついた土地や、風土で
好みが違うのは面白いと
めぐは、ちょっとそんなふうに思う。
クラーレの歌声が見事だったので
お皿洗いを、しばし忘れて(笑)。
ほんの一瞬でも、そういう時があると
楽しい。
でも、手元が緩んで
ななは、お皿を流しに当てて
割ってしまった。
「あーあ。」と、ななは
物の溢れた日本のつもりで
割れた事が大変だとも感じなかったけど
歌ってたクラーレは、歌をやめて
「あららら。お皿がかわいそう。
銀で継げるかしら」と、
捨てようとしていたななに言った。
「買えばいいのに」と、便利な日本の
感覚でいる、なな。
「買ってもいいけど、使えれば直すのもいいね」と、スレッジ。
「銀で継ぐ方がお金かかるよ」と、ななは
日本の感覚で。
100円ショップで、いくらでも買える。
そんな風にも思ったりする。
でも。
「それで、神様はこっちの国に呼んだのかな」と、ななは少し、あの変な神様を
見直した(笑)。
日本に居たら、と
ななは思った。
お皿が割れたら
買い替えに金がかかるとか(笑)いう損得基準だったり
でも、本当は日本だって
大切にしているものはあって
お皿が割れたら、そのお皿と
一緒に過ごした思い出とか、そういうものが
あるから
お皿を大切にして。
割れたら、直して使うと
割れた事も思い出になる。
優しい気持ちのひとたちが、日本の人達だった。
割れたお皿は戻らないけど
お皿がかわいそう、とクラーレの言葉は
ななの気持ちにも響く。
ほんとうに優しい気持ちで、クラーレが
そう言ったからなのかな、と
普段、日本にいると
そんな、優しい気持ちになる事なんて
あんまりないのに、と
肩の力が、少し抜けたような
気がする、なな、だった。
そう思って、割れたお皿を見ると
あちこち、傷がついてはいるけれども
丁寧に扱われて、長い年月を過ごした
思い出が、お皿にあるような
そんな気持ちになった。
古い皿なんて、捨てて
新しくした方がいいって思ったりしてたけど
そういう生活とは違う。
そんなものが、ここにはあるような
ななは、そんな気になった。
そう思うと、なんだか
帰りたくなくなって来るようだった。
「すっと、こっちに居ようかな」なんて
ななは、心の中でつぶやいた。
日本に居ても、何もいいことないし。
いつのまにか、時間が過ぎて
「さあ、ステージ!」とばかりに
シスタークラーレや、シスタースレッジは
歌いたくてたまらない。
普通の教会でも、賛美歌は歌ったりするけど
ここは、クラーレたちのおかげで
リズム&ブルースを歌えたり、聞けたりする。
オルガンと、ギターやベース。
ブラス。ドラム。
どこからともなく集まってきて。
適当に音を出していると、音楽になってしまうのは
R&Bならでは。
シスタースレッジは、すこーし軽めに
ポップス。
ボーカルを取るのは[初恋大作戦]。
それから、冗談で[スレッジハンマー]。
楽しそう。
ななも、恋の事など忘れて。
めぐは、学園祭で音楽をプレイしたいと
思ってたけど
聞くのもいいな、と(笑)。
生演奏の楽しさに気づいた。
クラーレの歌声は、低く、太く艶やかで
自身の歌声とは、何かが違うように
めぐは思ったりする。
どこが違うのか全然わからないのだけど(笑)。
ゴスペルっぽい歌の輪に紛れて
ちょっと目立つ山高帽、えんび服の
神様は、まだ扮装のまま(笑)
ななは、すぐに気づき
神様の側へ。
「どうして、ここへ?」と、ななは
音楽のおかげでリラックスした笑顔で、神様に
尋ねる。
神様は「ちょっと気になっての。修道院は楽しいかい」
ななは「はい。ここに誘ってくださった
理由がなんとなく、わかるような」
神様は、にこにこしながら
「それはよかった。ずっとこっちに居るかの?」と、ちょっと様子を伺うように神様は言う(笑)。
ななは、なんとなく気づく。
「何かあったのですか?」
神様は、ちょっと視線を空へ逃がし
「ああ、彼はな、10年前に心を奪われていて。ななちゃんと同じ歳でな。
その人が、どこか忘れられなかったらしいの。
それで、10年前に時間旅行して
過去を変えてしまったので、今は並列時空間の住人になっておる」と、神様は
ありのままに言った。
ななは、訳わからない(笑)。
過去を変えてしまうと、今のこの世界の
彼は、違う人になってしまう。
なので、10年前に枝分かれした
世界に、彼は行ってしまった。
「そっちの別世界で、幸せにしておる事じゃろう。
つまり、ななの好きだった彼は
10年前に時間旅行して
別の並列時空間を作り、旅立ってしまった。
いま、こちらの世界にいる彼は
そっくりだけれども、別の人。
同じように、ななの事を覚えているだろうけれど
別の人だ。
その事を、神様に出逢わなかったら
ななも気づく事はないだろう。
ほとんどの人は、どこか違和感を覚えてつつ
入れ代わった別人と(は、本人も知らないのだが)
付き合っている。
多重人格とか、統合性とか
解離とか、神隠しとか(笑)
いろいろ言われる、本当のところは
そういう事である。
ななは怒る。
「神様の言うとおりにしたのに、そんなのってないよ。責任者出てこーい(笑)!
」
半分冗談だったけど、泣き笑い。
神様も困った。
「困った、困った。」といいながら
「ひとの気持ちだから、仕方ないじゃろう。
ななちゃんが好きになった時の彼の心には、既に愛する人がいたんじゃな。それで
優しい気持ちでいられた」と、客観的に
神様は言う。
「ななだって、好きだったのに」と、ななは
怒ると
修道服のフードがふわり、と浮いて。
神様は、思い出した。
ななに飛行魔法を授けていた。
「おーい、どこいくんじゃぁ」と、神様は言う。
「わかんないよ」と、ななも驚いて
顔を覆う。
礼拝堂の人々は、飛んでゆくななを見て
驚き笑う。
「空飛ぶシスター」
飛んでゆくななを見て、めぐも
あっ、と驚いた。
神様がいる事には気づいたけれど
ななの事を、魔法使いだと
めぐは勘違い(笑)。
「なに?あれ?」となりのれーみぃは
グレーの修道服で言っている。
驚きの視線でみんなが空中のななを見上げるけれど
一番驚いてるのは、飛んでいるななで
「あれ?いや?どうなったの?」と
天井の近くを飛んでるから
電灯にぶつかりそうだし、なにより
高いとこの窓枠とかは、結構埃っぽくて
「触りたくないけど」とか
感じてて。
どうやって逃げたらいいか解らない(笑)
そう思っているうちに、回廊になっている
2階の手摺りを飛び越えて
開いている窓から、外に飛び出した。
「ああ、飛んでる」と、神様は
のんびりと眺めた。
なぜか、歌声は止まらずに
楽しげなR&Bに乗ってる(笑)ように見える
ななの飛行である。
0
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「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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