60 / 101
季節五 冬
謎の書
しおりを挟む
あれからまた時は過ぎて、白い雪の舞う、寒さの厳しい冬へと季節は変わっていった。そんなある日、春は八歳の時に地下室で見つけた、あの書を久しぶりに開いていた。
「一一〇五年、娘が生まれる。一一一三年、陰陽師と会う。一一一四年、刺客に襲われ、殺されかける」
春はまた、それを口に出して読んだ。あの時から、何も変わらない。新たに書かれることなど無く、また、その文章が消えることもなかった。それが当たり前と言われれば、返す言葉は無い。しかし、春はそんなことが起きてもおかしくはないと思っていた。
そもそも、本当に春の未来が書かれているのだとすれば、新しいことが書かれていても不思議ではない。寧ろその方が当たり前ではないのか。しかし、この書にはもう過去のことしか書かれていない。
ならば、この書の目的とは、一体何なのだろう。それに何故、この書の題名が「百鬼夜行の封じ方」なのか。そして、この書は何の為に七の部屋の地下室にあったのか。数え切れない程、この書には謎が多かった。
「春」
不意に名前を呼ばれ、春は我に返った。どうやら考えているうちに夢中になっていたらしい。いつの間にか部屋に人が入ってきたことにも気が付かないくらいに。姿を見ずとも声だけで分かる、その人の名前を呼んだ。
「……蒼。どうされましたか?」
「その書、どこにあった?」
聞かれた質問の内容に驚いて振り返ってみれば、蒼は突っ立ったままで、春の持つ書に目が釘付けになっていた。その顔を一瞬見ると、いたたまれない気持ちになって、春はすぐに視線を逸らした。言いにくそうに質問に対する言葉を返す。
「…七の部屋です」
「私は七の部屋で見たことはない」
蒼が即答する。そう、蒼だって七の部屋に入ったことは何度もあるのだ。予想が出来ていた答えに春は一瞬躊躇ったが、今度は蒼の顔を真っ直ぐに見て言った。
「……正確に言うのであれば、七の部屋の地下室です」
「地下室……? そんなものが……?」
蒼はそう言ったきり、押し黙ってしまった。春は書に関して何か知っているのか聞きたかったが、今の蒼に聞くことは躊躇われた。
「……春、その表紙見せてくれないか?」
「へ?」
暫くして、突然蒼が言葉を発したので、春は思わず変な声を出していた。何かを言われたのだと気付いた春はとにかく謝ったが、蒼は何も気にしていない様子で、書を見せてくれともう一度繰り返した。いつの間にか手が赤くなってしまう程握り締めていた書を、蒼に手渡す。
「…はい、どうぞ」
「やはり、これは…」
蒼は一人納得して、うんうんと頷いている。何がどう納得しているのか解らず、春は先程からずっと気になっていた疑問を口にした。
「その書のこと、何かご存知なのですか?」
「一一〇五年、娘が生まれる。一一一三年、陰陽師と会う。一一一四年、刺客に襲われ、殺されかける」
春はまた、それを口に出して読んだ。あの時から、何も変わらない。新たに書かれることなど無く、また、その文章が消えることもなかった。それが当たり前と言われれば、返す言葉は無い。しかし、春はそんなことが起きてもおかしくはないと思っていた。
そもそも、本当に春の未来が書かれているのだとすれば、新しいことが書かれていても不思議ではない。寧ろその方が当たり前ではないのか。しかし、この書にはもう過去のことしか書かれていない。
ならば、この書の目的とは、一体何なのだろう。それに何故、この書の題名が「百鬼夜行の封じ方」なのか。そして、この書は何の為に七の部屋の地下室にあったのか。数え切れない程、この書には謎が多かった。
「春」
不意に名前を呼ばれ、春は我に返った。どうやら考えているうちに夢中になっていたらしい。いつの間にか部屋に人が入ってきたことにも気が付かないくらいに。姿を見ずとも声だけで分かる、その人の名前を呼んだ。
「……蒼。どうされましたか?」
「その書、どこにあった?」
聞かれた質問の内容に驚いて振り返ってみれば、蒼は突っ立ったままで、春の持つ書に目が釘付けになっていた。その顔を一瞬見ると、いたたまれない気持ちになって、春はすぐに視線を逸らした。言いにくそうに質問に対する言葉を返す。
「…七の部屋です」
「私は七の部屋で見たことはない」
蒼が即答する。そう、蒼だって七の部屋に入ったことは何度もあるのだ。予想が出来ていた答えに春は一瞬躊躇ったが、今度は蒼の顔を真っ直ぐに見て言った。
「……正確に言うのであれば、七の部屋の地下室です」
「地下室……? そんなものが……?」
蒼はそう言ったきり、押し黙ってしまった。春は書に関して何か知っているのか聞きたかったが、今の蒼に聞くことは躊躇われた。
「……春、その表紙見せてくれないか?」
「へ?」
暫くして、突然蒼が言葉を発したので、春は思わず変な声を出していた。何かを言われたのだと気付いた春はとにかく謝ったが、蒼は何も気にしていない様子で、書を見せてくれともう一度繰り返した。いつの間にか手が赤くなってしまう程握り締めていた書を、蒼に手渡す。
「…はい、どうぞ」
「やはり、これは…」
蒼は一人納得して、うんうんと頷いている。何がどう納得しているのか解らず、春は先程からずっと気になっていた疑問を口にした。
「その書のこと、何かご存知なのですか?」
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる