61 / 101
季節五 冬
謎は深まるだけ
しおりを挟む
「…間違いない。この字は、私が書いたものだ」
「えぇ!?」
蒼の口から思いもよらない言葉が出てきて、春は驚いた。まさか、そんなことが有り得るのだろうか。この書は地下室に眠っていた物だ。だとすれば、この書は誰かが蒼が字を書いた後で、地下室に置いた物だということである。つまり、この家の何処かに、七の部屋の地下室の存在を知っている者が居る。その事実に、春は身震いした。一体誰が何の為にあんなことを書いて、地下室に置いたのだろう。そして、それに、何故わざわざ蒼の字を使ったのだろうか。謎は解ける気配は無く、ますます深まるばかりだった。
「…極夜なら、知っていたのかな…」
無意識のうちに、春はぽつりと呟いていた。蒼がきょとんとした顔で春を見詰めている。聞こえないように呟いた筈の言葉は、蒼に聞こえてしまっていたようだ。
「極夜とは? 一日中夜のことではなかったか?」
春がはっとして口を覆った。極夜のことは、結局蘭にさえも話していない。居なくなってからも、何故だか話してはならないと勝手に決め付けてしまっていた。少し考えを巡らせて、春が苦笑して言った。
「いえ。何でもございません。ただの独り言です」
蒼は訝しげに春を見ていたが、特に何も言わずに、静かに書に視線を落とした。蒼はそれから暫く書を見つめていたが、やがてふと思い出したように言った。
「そういえば、七とは仲直り出来たのか?」
「あの…、ただの私の勘違いだったみたいで…。あの時はお騒がせしてしまって、申し訳ございませんでした。今では、前以上に仲良くなれたと思います」
七が春にあの時の状況を説明してから、まだ一週間程しか経っていなかった。今年は冬が来るのが早く、衣替えをしたりしていたら、蒼に話すのを忘れていたのだ。
「そうか、それは良かった」
蒼がふっと柔らかな笑みになり、それにつられて自然に春も顔が綻んだ。春がぶるっと身を震わせた。そういえば、着物の上に羽織るのを忘れていた。もう冬なのだから、当然気温は下がる。折角衣替えをしたというのに、これでは衣替えをした意味が無い。
「すみません、私…」
羽織る物を取りに行こうと立ち上がると、背中からふわっと暖かい物が掛けられた。蒼が自分の着ていた羽織物を掛けたのだ。それに気付いた途端、春の身体全体が火照ったように熱くなる。蒼の体温の暖かさが春に心地良く、のぼせたようになってしまい、動くのも億劫だった。やっとの事で唇を開いた春は、少し苦しそうに言った。
「ありがとうございます…」
感謝の言葉こそ述べたが、春は恥ずかしいのか、決して蒼の顔を見ようとはしない。蒼はその春を、嬉しそうに見守っていた。
「えぇ!?」
蒼の口から思いもよらない言葉が出てきて、春は驚いた。まさか、そんなことが有り得るのだろうか。この書は地下室に眠っていた物だ。だとすれば、この書は誰かが蒼が字を書いた後で、地下室に置いた物だということである。つまり、この家の何処かに、七の部屋の地下室の存在を知っている者が居る。その事実に、春は身震いした。一体誰が何の為にあんなことを書いて、地下室に置いたのだろう。そして、それに、何故わざわざ蒼の字を使ったのだろうか。謎は解ける気配は無く、ますます深まるばかりだった。
「…極夜なら、知っていたのかな…」
無意識のうちに、春はぽつりと呟いていた。蒼がきょとんとした顔で春を見詰めている。聞こえないように呟いた筈の言葉は、蒼に聞こえてしまっていたようだ。
「極夜とは? 一日中夜のことではなかったか?」
春がはっとして口を覆った。極夜のことは、結局蘭にさえも話していない。居なくなってからも、何故だか話してはならないと勝手に決め付けてしまっていた。少し考えを巡らせて、春が苦笑して言った。
「いえ。何でもございません。ただの独り言です」
蒼は訝しげに春を見ていたが、特に何も言わずに、静かに書に視線を落とした。蒼はそれから暫く書を見つめていたが、やがてふと思い出したように言った。
「そういえば、七とは仲直り出来たのか?」
「あの…、ただの私の勘違いだったみたいで…。あの時はお騒がせしてしまって、申し訳ございませんでした。今では、前以上に仲良くなれたと思います」
七が春にあの時の状況を説明してから、まだ一週間程しか経っていなかった。今年は冬が来るのが早く、衣替えをしたりしていたら、蒼に話すのを忘れていたのだ。
「そうか、それは良かった」
蒼がふっと柔らかな笑みになり、それにつられて自然に春も顔が綻んだ。春がぶるっと身を震わせた。そういえば、着物の上に羽織るのを忘れていた。もう冬なのだから、当然気温は下がる。折角衣替えをしたというのに、これでは衣替えをした意味が無い。
「すみません、私…」
羽織る物を取りに行こうと立ち上がると、背中からふわっと暖かい物が掛けられた。蒼が自分の着ていた羽織物を掛けたのだ。それに気付いた途端、春の身体全体が火照ったように熱くなる。蒼の体温の暖かさが春に心地良く、のぼせたようになってしまい、動くのも億劫だった。やっとの事で唇を開いた春は、少し苦しそうに言った。
「ありがとうございます…」
感謝の言葉こそ述べたが、春は恥ずかしいのか、決して蒼の顔を見ようとはしない。蒼はその春を、嬉しそうに見守っていた。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
戦国九州三国志
谷鋭二
歴史・時代
戦国時代九州は、三つの勢力が覇権をかけて激しい争いを繰り返しました。南端の地薩摩(鹿児島)から興った鎌倉以来の名門島津氏、肥前(現在の長崎、佐賀)を基盤にした新興の龍造寺氏、そして島津同様鎌倉以来の名門で豊後(大分県)を中心とする大友家です。この物語ではこの三者の争いを主に大友家を中心に描いていきたいと思います。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる