【完結】好きな人ができたら婚約破棄しよう。それは王子様と公爵令嬢が結んだ約束でした。一人ぼっちの公爵令嬢は今日も王子様を待っています

五月ふう

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3.王子様の噂話

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授業が終わり、カフェテリアでランチを食べていると、友人カノナがココに言った。

「ねぇ。知ってる?
 あの第二王子ステフ様に、ついに好きな人ができたらしいわよ!」

カノナはココの親しい友人であるが、ココがステフの婚約者であることを知らない。ココは誰にも、その事実を伝えることはできなかった。

「そう・・・なんだぁ。」

ココは机に突っ伏して、顔を隠した。
今まで何度かステフに好きな人ができた、という噂は耳にしたけれど・・・そのたびに心がぎゅっと痛くなる。足元から崩れていきそうな感覚があった。

”好きな人ができた”

ステフのその一言で、婚約は呆気なく終わってしまう。二人の婚約は、ステフの意志によっての継続しているんだから。周りの大人は今すぐにでも彼をふさわしい令嬢と婚約させたがっている。

「ココ、興味ないのー?かっこよくてさ、モテモテなのに誰にもなびかなかったステフ王子が・・・ついに婚約するのよ?!」

カノナは大げさに首を振る。

ミラント国の王族は10歳~15歳の間には婚約者が決定することが多い。王族に求められる役割は多いため、王子の婚約者にも早いうちから教育が始まるのだ。

だがステフにはまだ公式に発表された婚約者がいない。その事実は多くの令嬢から関心を集めていた。つまり、我こそが王子の婚約者に、と名乗り出るものが後を絶たないのだ。それは次第にエスカレートし、貴族以外の令嬢までもが、王子の婚約者になれるのではないかと夢見る事態にまで発展していた。

「カノナは・・・ステフ王子のこと好きだったの・・・?」

カノナは学院で数少ない友人だ。顔にひどい火傷の痕があるココを不気味がって近づいてこない学生がほとんどだった。だが、カノナは最初から気さくに話しかけてくれた。大切な友人から聞かされる噂話は、どうも心に堪える。

「いや・・・もちろんあたしみたいな一般人が付き合えると思っていたわけじゃないけどさぁ。でも、みんな憧れてたんじゃない?」

「そう・・・よねぇ。」

気持ちをおちつかせるためにコーヒーを一口飲む。いつかこの時が来ると思っていたけれど、まだ心の準備ができていなかったみたいだ。

”好きな人ができた。婚約破棄してくれ”

そう言われたときのためのシミュレーションは何度もしてきた。笑顔でステフを祝福できるように。

「なんだか・・・元気ない?
 ココもステフ王子のファンだったの?」

ファンじゃなくて、婚約者なの。そう言いたい気持ちを押さえて、ココは小さく笑った。

ココは王子の婚約者が受けるはずの教育を受けていない。誰にも認められていない、同情だけが結ぶ婚約にすがっているなんて馬鹿だってわかっているのに・・・。

落ち込むココを見て、カノナが慌てている。

「ど・・・どうしよ。あ!ルカ!ちょっと来て!ココを慰めてあげてよ! ココはステフ王子の大ファンだったの。あの噂を聞いてショックを受けてしまったみたいで・・・。」

カノナはカフェテリアを歩く一人の男性を呼び止めた。

すらりと高い背に整った顔立ち。長い前髪で、綺麗な青い瞳を隠す彼は、ルカ・ザイラス。彼はココのもう一人の友人。逆にココにはカノナとルカ以外の友人はいないが、二人がいればココには十分だった。

「ちがうわよ。」

自棄になってトーストにかぶりつくココ。
ルカはココの隣に座ると眠そうにあくびをした。

「諦めるんだな。この間レストランで、ステフ王子が金髪の美女と二人で食事しているところを見た。」

ルカは学費を稼ぐため、夜は城下町の高級レストランで働いている。彼が言うなら、間違いがなかった。
ココはステフと二人で外食をしたことはない。ステフは、ココが婚約者だと周りに知られないよう最大限の努力をしている。

「そう・・なの・・・!」

思わず、絶句してしまう。

「ああ。」

けだるそうに頷くルカ。もちろん彼も、ココが王子の婚約者であることを知らない。付き合えるはずもない王子の好きな人に一喜一憂するココを、理解できないのは当然だ。

「そのっ、買い物行こ!気分転換だよ!残念会しよ?」

カノナはココの肩を揺さぶった。
ふわふわの茶髪に、黒目のカノナ。優しい性格の彼女はココを傷つけるつもりでこの話題を出したのではない。

「ありがとう。でも、今日は大丈夫よ。その・・・今日はもう帰るね。」

カノナを心配させたくはないが、元気にふるまうことは難しかった。

幸運にも、今日はもう必修の授業はない。優秀な成績を残し、飛び級で4年生になったココはもうほとんどすべてのクラスを取り終えていた。あとは・・・進路を決めて卒業するだけ。

「わかった・・・気を付けて帰るんだよ。」

「うん・・・。」

「あんまり気を落とさずにな。
 いくらでも相談に乗るから。」

ルカはつまらなそうな声でココに言った。だがそれが彼の照れ隠しであることを、ココはわかっている。

「ありがとう。また明日ね。」

そう言って、ココは学院を後にした。


   ◇◇◇
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