【完結】好きな人ができたら婚約破棄しよう。それは王子様と公爵令嬢が結んだ約束でした。一人ぼっちの公爵令嬢は今日も王子様を待っています

五月ふう

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15.最後のデートに行きましょう

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「ステフ。」

銀色の鍵で扉を開けると、そこにはステフが待っている。

「おかえり。ココ。」

柔らかい笑みを浮かべて、ステフが振り返る。

「ただいま。」

―――ああ。失いたくない。

ココはそっと心臓を押さえた。
どんなにつらいことがあっても、ステフの笑顔を見ているとココの心は満たされた。

”好きな人ができたから婚約破棄しよう”

―――ステフの言葉が嘘だったらどんなにいいだろう。

ココを見つめるステフのまなざしは、昔と何も変わらない。そこに込められているのは友愛ではなく・・・狂おしいほどの愛だということをココは知らない。ステフがココと同じ思いを抱いていることも。

「どうした?」

その場に立ちすくむココにステフは優しく声をかける。

―――ステフに気持ちを伝えなかったら、後悔する・・・?それとも・・・伝えずにこのまま城を去るのが良いのかしら・・・?

ココにはその答えが出せなかった。

ぎこちない笑みを浮かべて、ココはステフに尋ねる。

「ステフ。デートしない?婚約者として、最後のデート。」

ココの言葉に、ステフは大きく目を見開いた。

「あ・・・ごめん。そうよね・・・ステフの好きな人が悲しむわよね。その、聞かなかったことにして?」

「いいや。」

ステフは、小さく首を振る。

「デートしよう。ココ。婚約者として・・・最後のデート。」

そう言ってステフは、右手を差し出す。

「ステフ・・・?」

わけがわからなくて、ココは首を傾げた。

「左手を出して?」

言われるがままココが左手を差し出すと、ステフがその手をそっとつないだ。

「え・・・。」

「婚約者としての・・・デートだから・・・ね。ココの好きな人は怒るかな?」

ステフが目を伏せて、ココに尋ねた。

―――あなた以外に好きな人はいないわ。ステフ

「い・・・いいえ。」

ココは思わず、そう言った。何よりステフの手のぬくもりが嬉しくて放したくない。

「そうか・・・よかった。」

ステフが何を考えているのか、ココには全く分からない。これまで婚約者として傍にいた10年間で、彼と手を繋いだことはない。ステフは、間違いなくココの良き友人としてふるまっていたのに。

「ココの手は小さくてあったかいな。」

ステフはいつもと変わらない。穏やかで、のんびりした口調でココに言う。

「そう・・・?」

「ああ。昔と同じだ。」

最後にステフと手を繋いだのは、いつだっただろうか?ココには思い出せなかった。

「ステフは・・・昔は同じ背丈だったのに。もう見上げないと目が合わないわね。」

きっと手を繋いでいたころは、二人の背は同じくらいだっただろう。

「今なら、ココを火事から救い出せるかもしれないね。」

「え・・・?」

ココは言葉を失った。

「僕たちが手を繋いだ一番古い日は、あの日、二人で火事から逃げている日なんだよ。」

10年前の火事の日。確かに、二人、手を繋いで逃げていた。ステフのほうが足が速くて、ココは必死で彼についていっていた。だから、ステフに柱が倒れ来るのが見えたのだった。

「よく・・・覚えているわね。」

ココの声は震えている。

「いまだに、あの日のことをよく夢に見るんだ。」

ステフの視線は、ココの傷跡に向いている。その視線に耐え切れなくて、ココは右額を押さえた。

―――私が近くにいる限り、ステフは罪の意識に苦しめられるの?

あの日の火事が起き、ココがひどい火傷を負ったのはステフのせいでは絶対にないのに。ココは一度だって、ステフを助けたことを後悔していない。

「私がいなくなれば、きっとそんな悪夢を見ることはなくなるわ。」

ココは精一杯の笑顔を浮かべる。

「ココ・・・。」

「これが最後よ、ステフ。さぁ、デートに行きましょう?」

ココはそっと、ステフの手を引いた。



    ◇◇◇
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