自分が『所有物』になったけど全て思惑通りなので無問題。

かんだ

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5.準備と覚悟

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 オリヴィアとは一度別れ、屋敷に戻る前に神殿へと向かった。ソフィアを潰すと決めた以上、やることは多い。
 俺が尋ねた神殿は皇都にある。常に汚れ一つない真っ白な建造物は、各領地にある教会とは比べものにならないほど厳かであり神秘さがある。
「アリーチェ・リシャールです。猊下は?」
「少々お待ちください」
 追い返されることなく、程なくして神殿奥の部屋へと通された。シンプルな扉を潜れば、その先はこれまたシンプルな部屋が広がる。
「これはこれは、アリーチェ・リシャール様。ご無沙汰しております」
「久しぶりだな、パトリス」
 出迎えた男は恭しく頭を下げた。真っ白な生地に金糸の刺繍が施された祭服が一番に視界に入るが、すぐに顔を上げたため浮かべられた笑顔に釘付けになる。最後に会った時と変わらないなと思った。人好きのする柔和な笑顔、腰の低い姿勢、聞き心地の良い声音、美しい所作、彼は清廉潔白の代名詞と言われるパトリス猊下だ。神殿で最も位の高い神官だが、一緒に学生時代を過ごしたお友達でもある。
 パトリスはソファーに座るよう促し、対面に座った。
「私に会いに来られたのですか?」
「あぁ、しばらく皇都でやることが出来たんだ」
「へー? 珍しいですね。そのまま皇都にいれば良いのに」
「まあそれも良いかもなとは思っているよ」
「今日はその報告を?」
「それもある。最近裏の方はどうだ?」
「上々ですよ。数は少ないですが、一回一回の取引額が高いので」
 俺が言う裏とは、パトリスが主導している犯罪の数々だ。横領恐喝搾取など清廉潔白とは真逆の人生を送っている。目に見える全てはパトリスの作り上げた完璧な猊下像なだけで、本来は悪魔に魂でも売ったのかと思えるほどの非道さを持っている。
 俺とパトリスは互いに加担することも邪魔することもないが、たまにアドバイスをし合ったり自分の作戦を組み込ませてもらい合うくらいはしている。今回は後者が理由で会いに来た。
 パトリスが行う闇オークション関係に俺の作戦を組み込ませて欲しいことを話す。理由も想定し得る結果も何も伝えられないが、考え込む素振りも見せず「面白そうですね」と了解を示された。
「良いのか?」
「アリーチェなら私が損をする自体にはならないでしょう。それなら、面白いことを逃すことはない」
「ありがとう。今後詳細は口頭で全て伝える」
「おや? ということは頻繁に会いに来てくださると?」
「そのつもりだ」
「それはまた」
 何やら意味深な笑顔を向けられる。
「なんだ? 俺とお前は同窓だし、普段から交流もある。不審がられることはないだろ」
「そういう心配はしていませんよ。あぁそう言えば、騎士団長についに本命が出来たという噂は知っていますか?」
「騎士団長?」
 何故いきなりルカの話が出るんだ?
 パトリスの意図が読めない。三人は同窓だが、話題に上げるような間柄ではない。しかも本命が出来たからなんだと言うのか。
「そうなのか? それは良かったな。あいつも良い年だし」
「多くの女性が彼を狙っていたんですよ。全てを兼ね揃えていますからね。今まで本命を作らず適当な大人の付き合いをしていたから、遊びでも良いからと思う女性も少なくなかった」
「ふーん」
「彼の相手は面白いほどに特徴が一致している。一夜を共にした女性は絶対に口外しないのでこれを知る者は私しかいないでしょう」
「ルカの閨事情を知ってどうするんだよ。まさか脅迫でもするのか?」
 さすがに命知らずだ。ルカを嵌める予定があるならしばらくパトリスとは距離を置く必要がある。帝国最強の男であり王弟殿下の身分であるルカを敵に回すのは面倒過ぎる。何の計画もなしに相手にすべきではない。
 だが、パトリスは首を振って否定した。
「そこまで馬鹿ではありませんよ。個人的に面白がるだけですから。で、その特徴を特別に教えて差し上げます」
「知って何のメリットがあるか分からないが、とりあえず聞こう」
「白金色のショートヘア、碧眼、アーモンドアイ、細身の体です」
「女性でショートヘアは見つけるのが難しそうだな」
「ショートヘア以外はそこまで珍しい特徴ではないですがね。ただ、全て当て嵌まる人間は私の目の前にいますが」
「性別が違うだろ」
「相手は決まった特徴を持っていたのに、本命は全く違うんですよ。私としては大方予想はついていますが。結構面白いことになっていて、毎日が楽しくて仕方がありません」
 パトリスは本当に楽しそうだ。何を言いたいか分かって俺は嫌な顔で言葉を引き継いだ。
「あいつが俺に似た奴を抱いてるって言いたいのか? で? その本命は変装した俺?」
「私からは何も。本人の気持ちを他人が伝えるなんて出来ません」
「お前は昔から何かとあいつと俺を繋げたがるよな」
 学生時代からそうだ。何を見てそう思うか分からないが、パトリスの中のルカは俺を特別視している。現実ではまあまあ嫌われて……いるはずだ。
「彼は皇族で騎士団長で常に高潔でいなければならない。だから自分の欲望には気付かないフリをするしかないんですよ。哀れな仔羊でしょう?」
「あいつが哀れでも幸せでもお前には何の関係もないだろ?」
「彼が幸せだったら、彼が自身の欲望に素直になれたら、結構なメリットに繋がる確率が高いんですよ」
 清廉潔白に相応しい笑顔を浮かべる。この笑みに多くの女性が胸を貫かれているが、パトリスの性格を知っている身としては地獄に案内される気になるだけだ。オリヴィアも同意するだろう。
「アリーチェは帝国最強の駒が欲しくないですか?」
「欲しい。だがそれは絶対に俺を裏切らないという大前提があっての話だ。あの男がそうなるとは思えない」
「本当に、あり得ないと思いますか?」
「……」
「随分弱気ではないですか」
「……煽るなよ。乗りたくなるだろう?」
 オリヴィアとは違い、対等に見てるパトリスに煽られると反抗心が芽生えてしまう。年甲斐もなく買ってしまいたくなる。見た目年齢に精神が引っ張られているのかもしれない。
 逡巡していたが、最後、悪魔の如く囁くパトリスに俺は一つ覚悟を決めることにした。
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