公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透

文字の大きさ
180 / 310
強者出現

179 訓練の成果 2

しおりを挟む
 俺は父上に頼るのを諦めて、ゆっくりと降下して行った。
 あの三人に知られると、本当に何を言われるかわからない。
 そして、それは今の俺にとってはかなりのダメージになり得る。

「わかったよ、兄上こそ。俺を馬鹿にし過ぎだってことを思い知らせてやる」

 シールドを展開し、俺は剣を振るうが当然かすりもしない。しかし、二人の攻撃は何度もシールドが弾いてくれる。
 いくら姉上に鍛えられたとはいえ、剣だけであれば姉上に勝てるはずもない。
 そして、ローバン家は元々剣術に秀でた家系であり、兄上は現当主すら超えている。
 
 そんな兄上の奥さんである、イリーシャさんの攻撃も結構えげつない。
 実力としては、姉上と良い勝負になるのかもしれないな。だから、俺程度の実力では、二人の剣に対抗できるはずはない。
 シールドがなければ文字通りのボコボコにされていたことだろう。

 俺たちの攻撃はどちらも当たらない。

 兄上たちが俺のシールドを打ち破るか、俺が二人を叩きのめす。
 このどちらかで決着は付く。

「これだと、訓練にならないね」

「そのようですわね。我が弟ながら、このような無粋な真似は見過ごせませんね」

 何をしてくるのかと身構えていると、気が済んだ二人は、ようやく剣を収めてくれた。
 ふう、やっと諦めてくれた……。
 シールドを前にして、手が出せないと判断したのだろう。最初から分かっていたはずなのに、兄上も懲りない人だ。

「明日から、午前中は剣の訓練ですよ。アレス君」

「え? い、いや。休養って、さっき」

「大丈夫だよ。夜になれば休むこともできる」

 そもそも大丈夫の定義がおかしい。
 兄上の訓練なんて地獄でしか無い。そんな事になれば、休養ではなくて療養になってしまう。

「な、何だこれは……」

「あら? おはよう、アレス君」

 朝になり、俺はなにかの違和感を感じて飛び起きていた。
 朝日がまだ見えない薄暗い中。俺に声をかけているのは、イリーシャさん。

「お、おはようございます」

「はい。では、早速訓練を開始しましょう」

 ベッドには、服が投げつけられ今すぐに着替えろということらしい。
 俺は無視をしてはだけた布団を戻して潜り込む。
 こんな朝早くから何が訓練だよ。だいたい、俺には剣術を覚える必要がもうないだろう?

「あらあら、何をしているのですか?」

 そんなのんびりとして声が聞こえると、腹部に強烈な痛みが走る。
 体にのしかかる重量からどうやら、ベッドにダイブをしたようだ……この鋭い痛みは、肘か?
 剣でもそうだけど、やることがえげつない。寝ている相手に肘鉄を浴びせるとか正気じゃない。

「何を……俺はそもそも怪我人で、肩だってそれなりに痛いんですよ」

「大丈夫ですわ。動いていればそんなの気になりませんから」
 
 しかし、俺の意見なんて通るはずもなく、代わりにとんでもない事をサラッと言ってのける。
 兄上と同じ思考回路をしているわけじゃないよね?
 それから毎日、ガドール公爵が来るまで俺はみっちり二人に剣の訓練を言い渡された。

 朝の五時に叩き起こされ、何十周と走らされ、その後は延々と剣の素振りを強要され、少しでも型がズレていると木の棒で叩かれた。
 試合ではシールドの使用も禁止され、何度も何度も心が砕けるまで剣術に突き合わされた。
 二人に一つだけ言いたい、笑顔で殴るのは止めて、色んな意味で怖いから……。

 そんな数日が過ぎ、屋敷の前にはバセルトン公爵家の馬車が到着した。

「ガドール・バセルトン公爵閣下。お待ちしておりました。我がローバン家にようこそおいで下さいました。私は、公爵閣下の案内役として任されました。アレス・ローバンです」

「は?」

 皆様が、キョトンをした顔をなされておられる。
 私の行動に何かおかしな点でもあったのでしょうか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...