公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透

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強者出現

178 訓練の成果 1

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「わかり……ません。申し訳ございません」

 少し後ろに下がり、手を付き、額を床に擦り付けた。
 まだ死にたくない……今の兄上ならやりかねない。

「彼女の名前は、イリーシャ。アトラスの奥さんだよ?」

「ああ……そう言えば結婚式にちょっとだけ」

 確かあれは二年ぐらい前の話だった。
 順調にダンジョンにも慣れて、三階層を目指していた辺りだったと思う。
 たまたま屋敷へ戻ると、二日後には兄上の結婚式だったため、当然ダンジョンへ向かうこともできずに、足止めをされたっけか。
 兄上の結婚式には勿論参加した。

「ちょっとだけ?」

 取り立てて、俺がいる必要はなかったのと、当たり前の話だったが、俺の婚約者であるミーアが出席していたため。
 禄に挨拶もしないで、スキを見計らってダンジョンに向かったのを思い出した。
 今思えば何とも薄情な……そういえば、この頃から屋敷での風当たりがきつくなったような?
 そもそも、兄上が結婚していたことすら忘れていたとはね。

「アレス。君は何処まで僕を怒らせれば気が済むのかな?」

「あ、兄上。お、おま、お待ち下さい。結婚式といえばかれこれ二年前の話。それから一度もお会いしていないのに、覚えているなんて不可能ですよ」

「会って居ないだって?」

 そう言うと、兄上と姉上は席を立ち、ヒュッと音が聞こえると両肩には抜かれた剣が、俺の首を狙っていた。
 俺はまたとんでもない爆弾を投下していたようだ。

 ダンジョンを攻略してから数日は屋敷で過ごしていたし、もちろん家族全員で食事もした。攻略者としてのお祝いもあり、そうなると当然、兄上の妻であればいるのはほぼ確定。
 つまり、結婚式から会っていないというのは、ありえない話になってくる。
 あの頃の俺は周りを見ていなかったから……姉上の存在も最近になるまですっかりと忘れていた。
 そんな俺だから、父上や兄上が怒るのも頷ける。

「本当に、困りましたわね。どうしましょうかしら」

 そういうのなら困っている感を出しましょうか。嬉しそうな笑顔で何を言っているのだ?
 こんな事になっているこっちの身にもなって欲しいものだ。
 何処からどう見ても、この二人は似た者夫婦のようだけど……どうすればこの状況から?
 謝り続けていれば、許してくれるだろうか? 

「そうだね。フィールに特訓をして貰っていたようだし。錆びついた剣を研ぎ直すのはどうかな?」

「あら、それはとても楽しそうね」

 剣を鞘に戻したので、ホッとしている間もなく、俺は二人に腕を捕まれ、それを知ってか父上が窓を開けて、俺の体は窓の外へと放り投げられた。
 俺は当然のように空中で静止する。窓からは二つの影が飛び出し、二人は、俺を見て笑いながら手招きをしていた。

「ちょっと……錆びついた剣って、もしかしなくても俺のことを言っているのか?」

「アレス。いつまでそうしているつもりなのかな?」

 見ている分には楽しいのか、父上の声は少しいつもとは違うように感じた。
 いや、それとも半分ぐらいは怒っているのかもしれないな……

「父上。た、助けてください」

「そうだね。私としては兄弟喧嘩をして欲しくはないからね」

「で、ですよね」

 なんだかんだ言って父親だから、俺達の諍いなんて見たくもないのだろう。
 俺にも非が、髪の先ほどあるのは認めるが、謝っても許してくれないあの二人が悪い。

「提案なんだけどね。アトラスにこのまま付き合うか、これから来る三人のご令嬢に今のことを話す。君はどっちが良いのかな?」

「え? ミーア達に?」

「ミーアは知っていることだろうけど、他の二人はどうなのかな? アトラスの結婚式のことも、ミーアを放ったらかしにしてダンジョンに行ったこともバレるけど。それでも良いのかな?」

 ミーアにも当時のことを追求されるだろうし、他の二人も黙ってなんかいないだろう。
 今怒られるか、後でみっちりと怒られるかの違いで、父上も俺が彼女たちを悪く思われたくないことに気がついているようだった。
 あの三人の結束は固く。
 そんなことにでもなれば、何時終わるのか分からない地獄の日々が容易に想像できる。
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