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強者出現

177 アトラス降臨 2

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 今の発言の何処に問題があったのか、何も想像ができない。
 もしかして、亡霊とかいう話じゃないよな?

「ごめん、アレス。もう一度、言ってくれるかな?」

「ええっと、庭にご令嬢が居たのですが……」

 肩に手を置かれ、兄上の笑っている顔が急に怖くなっていた。
 それは今までに何度も味わったものであり、決して忘れられない恐怖だった。しかし、理由がわからない……。

「それは何処のご令嬢なのかな?」

「分かりませんが、来客でもあるのでは?」

 そう言うと、俺は胸ぐらを掴まれ床に叩き付けられた。
 兄上は、倒れた俺を冷たい目で見下ろしていた。そう、かなり怒っていたのだ。
 しかし、今の話で怒られる要素が見つからない。あのご令嬢は一体誰なんだ?

 もしかして、俺の新しい婚約者とか言わないだろうな?
 ミーア達がいるのだからその話は流石にないよな。

「ち、父上。あの、俺。何が問題でしたか?」

「そうだね。よく考えたら良いと思うよ」

 父上は呆れた様子で、頬杖をして俺を見下ろしていた。
 そんな余裕がないから聞いているんだよ。
 一体何がどうなっている?

「失礼します。お茶をお持ちしましたわ」

 先程庭にいたご令嬢が、お茶用のワゴンと一緒に入ってきた。
 慌てて彼女を指差した。

「あ、さっきの……こ、この人ですよ」

「そうか、アレス。せめてもの情けだ。剣を取れ」

 そう言って、兄上は剣を握り締めていた。
 何時切りかかってきてもおかしくないこの状況にも関わらず、ご令嬢はお茶をテーブルへと置いていた。

「あなた。そろそろ、よろしいのではなくて?」

「母上? あれ?」

 この場において、あなたと呼ぶのは母上しかいないはず。
 しかし、この部屋の何処にも母上の姿はなく、確かに女性の声で父上を呼んだ気がしたのだが?
 恐怖のあまり幻聴でも聞こえたのか?

「まさか……父上の?」

「アレスは私も怒らせたいのかな?」

 そんな訳無いだろう!
 でもさっき確かに『あなた』と聞こえた気がする。
 お茶を並べ終えて、ご令嬢は小さくため息をついていた。

「お姉ちゃんは少し怒っています」

「は? お姉ちゃん? ええっと。フィール姉上のことですか?」

 耳元で剣が突き刺さる音が聞こえた。
 顔の真横に兄上の剣が突き刺さっていた。
 やばい、殺される……兄上の目は本気だ。

「お仕置きは後にして、ご休憩してください」

「そうだね。ありがとう」

 兄上は一変し、出されたお茶に口をつける。
 一口含んだだけで、表情はいつもの兄上へと戻っている。
 俺としては一体何がなんだか分からなかった。

「アレスも頂くと良い。ただし床でだ」

 父上の有り難い慈悲の下、俺もお茶をいただくことにした。
 結局こうなるのか……それにしても、兄上の隣りに座っているあのご令嬢は一体?

「は、はい。ありがとうございます」

 ここで姿勢を崩せば、更に追い打ちの制裁が来るのを予想して、正座をして、テーブルに置かれたお茶を飲む。
 すごく美味しいです。そんな当たり前なことを口にするのはご法度だ。
 なぜかって?
 そんなのは決まっている。兄上から『当たり前だ』と言われると思うから。

「アレス。彼女の名前は覚えていないのかな?」

「父上は……い、いえ」

 ここで余計なことを言えばどうなるか分からない。
 兄上は静かにお茶を飲んでいるけど、あれが空になるまでに答えないと、また俺に襲いかかる可能性がある。

「お姉ちゃんです。ふふっ」

 お姉ちゃん? 姉上と言ったらフィール姉上。それとも、まさか姉さんだというのか?
 そんなはずはない。いくら姉さんだとしても、俺が直也だと分かるはずもない。
 だとしたら……お姉ちゃんというのは一体?

「君が八歳の誕生日のこと。よく思い出してごらん?」

「誕生日? しかも八歳? んー?」

 カチャという音がして、兄上の鋭い眼光を直視できない。
 今のはきっとカップを置いた音だ。
 剣はまだ触っていない、ダイジョウブダ……
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