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第6章 沢田くんと夏の恋花火
沢田くんと変質者
しおりを挟む一夜明けて、ついに枇杷島花火まつりの日がやってきた。
私はワクワク1%、不安99%の心境で、この日のために買ったばかりの浴衣に袖を通す。薄い水色地に朝顔をあしらった爽やかな綿麻の浴衣で、帯は赤だ。
沢田くんは来てくれるのだろうか。
小野田くんは、沢田くんを本当に連れてくるのだろうか。
心配だけど、二人を信じるしかない。
夕方の枇杷島駅はすでに浴衣姿で溢れていた。
「おーい、景子ちゃん!」
「あっ、麻由香ちゃんと杏里ちゃん……」
人混みの中で、偶然いつもの顔に出会う。麻由香ちゃんも杏里ちゃんも髪をアップにして、いつもより濃いメイクでバッチリ決めていた。
「沢田は?」
杏里ちゃんが尋ねる。
私と沢田くんが別行動を取ることはみんなに了承してもらっていた。それなのに、私一人でいることを杏里ちゃんは不思議に思ったのだろう。
「まだ、沢田くんが来るかどうか分かんないんだ……」
「そうなんだ」
杏里ちゃんは私を励ますように笑った。
「まあ、頑張れよ」
「うん」
杏里ちゃんと森島くんも、今日でうまく行くといいんだけど。
祈ることしかできない自分を責めながら、二人とはそこで別れた。
さて、白鳥橋で沢田くんを待とう。
決意を新たに駅を出ようとした時だった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あの……」
突然、丸サングラスに大きめなマスクをした背の高いおじさんが、夏なのにぶ厚いコート姿で私の前に立ち塞がった。
「えっ⁉︎」
「あ、あ、あ、あ、あ、あの……」
それさっき聞いた。デジャヴ?
おじさんはマスクとサングラスで表情が見えない。
なんだか怖い!! 変質者かも⁉︎
「な、なんなんですかっ⁉︎」
「あ、あ、あ、あ、あ、あの……あっ、ごめんなさい、同じこと言っちゃって。お前は壊れたレコードかっ! って思いましたよね、すみません」
いや、変質者だと思いました。
とも言えず、私は叫ぶタイミングを失ってオロオロしてしまった。
するとおじさんは、ペコペコしながら言った。
「い、い、い、今、さ、さ、沢田って……言いましたよね。あっ、ごめんなさい、盗み聞きとかじゃないんです、通りすがりにちょっと小耳に挟んでしまったというか。え、え、え、えーと、ごめんなさい、怪しい者じゃありません」
め、め、名刺を出します、と言いながら、おじさんは大きなキャリーバッグの蓋を開けた。
熱湯で温められたアサリ貝のようにバッグはいきなり全開になり、中身が飛び散る。
怪しい粉や、怪しい草や、怪しい民族衣装のようなものが入っていて、思いっきり怪しい。怪しいというしかないほど怪しい。おじさんはアワアワしながら、飛び散ったものを拾い集めている。
仕方ないので私も手伝った。
怪しさ満点だけど、悪い人じゃなさそうだったから。
その時、私はおじさんの荷物の中に、怪しい木彫りのお面があることに気がついた。
こういうの、どこかで一度見たことがあるなあ。
どこだったっけ。
「あ、あ、あ、あ、あ、すいません……。それは、息子へのカムチャッカ土産でして……」
おじさんが私の視線に気がついてペコペコする。
息子。木彫りのお面。海外土産。沢田に反応。異常に腰の低い、怪しげな態度……。
その瞬間、私の頭の中でスパークが起きた。
勢いよくおじさんの方に顔を向けると、おじさんは小鹿のように震えた。
その態度が、どっかの誰かの心の声にそっくりなんですけど!!
「あなたは、もしかして……!」
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