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第6章 沢田くんと夏の恋花火
沢田くんと熱い勝負
しおりを挟むその頃、小野田家では。
ジリリリリリ、ジリリリリリ。
レトロな黒電話を思わせる音がスマホから流れる。
「ううーん……」
小野田大輔はランニングにトランクスというだらしない格好で布団に寝転がったまま音を止めた。画面を見ると、17時00分という文字が光っていた。
「なんだ、まだ5時か……」
二度寝しかけて、小野田は思わず飛び起きる。
「んっ⁉︎ 17時⁉︎ 5時は5時でも夕方じゃねえかーーーっ!!」
隣のK市で行われる枇杷島花火まつりの白鳥橋で、6時に佐藤景子が沢田空と待ち合わせしている。自分はそこに嫌がる空を連れていかなければならないという使命があることを思い出し、小野田は慌てて服を着はじめた。だが、
「いって……!」
ズボンを履こうとした小野田は、突然肩や腕にひどい痛みを感じて動きを止める。
「くっそ……あいつらのせいか……」
小野田は今朝まで一緒にいた前工の連中を思い出し、顔を歪めた。
***
「待てやコラア! ここで会ったが百年目だコラア! 勝負せいやコラア!」
昨日の夕方のことだ。前田工業高校略してマエコーの連中と帰り際に遭遇した小野田は、逃走を図るも失敗。そのまま奴らに捕まった。
「ちくしょう、しつけえんだよお前ら! 俺の顔を見るたび絡んできやがって!」
「うっせえコラア! 勝負せいやコラア!」
こうして無理やり連れていかれた先は、前工のボス、小林の家だった。
「よく来たな、小野田……歓迎するぜ。オレンジジュースでいいか?」
小林はスキンヘッドに刺青をした恐ろしい形相で小野田を歓迎してくれた。
「コーラにしてくれ」
「うるせえコラア! ナマ言ってんじゃねえぞコラア! 果汁100%だぞコラア!」
今のは前工の連中の声だ。外野が騒がしい。
他の選択肢がないなら疑問形で聞くなよ、と思いつつ、小野田は小林の母ちゃんが出してくれた氷入りのオレンジジュースをストローで飲んだ。
そんな小野田の目の前に、使い古されたスーパーファミコンのコントローラーが突き出される。
「今日はマリオカートで勝負だコラア!『ドーナツへいや』でガチバトルだコラア!」
「またドーナツへいやかよ! いいかげん、次の『おばけぬま』に行かせろよ!」
「ああん⁉︎ 小林さんナメんなよコラア! おばけが出てきたらビビるだろうがコラア! テレサ夢に見るほど繊細なんだよコラア!」
「じゃあ『クッパじょう』は?」
「ふざけんなコラア! 小林さんナメんなよコラア! マグマに落ちたら心臓キュってなんだろうがコラア!」
こいつらが一番小林ナメてんじゃねえか? と小野田は思ったが、小林は一言もしゃべらずに『ドーナツへいや』にノコノコ(初心者向け)でスタンバイしようとしている。
ノコノコかよ! どこまで安全策を取る気だ小林!!
でもピーチ姫じゃなくてよかった!!
そんなことを思いながらドンキーコングでエントリーした小野田は、激しいデッドヒートの末になんとかノコノコ小林を撃退した。
***
「まさか、マリオカート一択で朝まで監禁されるとは、な……いててて」
右腕が痛いのは、ボタンを押しすぎた故の筋肉痛だろう。
「あいつら、弱えクセにイキがりやがって……全員倒すのに苦労したぜ全く」
小野田はフッとクールに笑った。
「おっと、それどころじゃねえ。沢田を迎えに行かねえとな!」
たった十二時間の睡眠不足と筋肉痛がなんだとばかりに、小野田は己を奮い立たせ、歩いて五分の距離にある沢田家へと足を引きずりながら向かった。
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