綴った言葉の先で、キミとのこれからを。

小湊ゆうも

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拝啓、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。

手紙の送り主

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 進路希望調査を出した翌週から、慧司への告白が増えた。
 みんな、本格的に離れてしまう前に気持ちを伝えたい、あわよくば残りの高校生活を慧司との思い出でいっぱいにしたい、そういう思いに駆り立てられたのかもしれない。

 慧司はやはり今は誰とも付き合う気はないようで断っていたが、断る前に必ずある質問をしていると女子たちが噂していた。

「この手紙をくれたのはキミ?」
「俺はこの手紙をくれた子が気になっていて、その子を探しているんだけど」
 
 もしそれが本当なのだとしたら、申し訳ないことをしてしまったと思う。
 送り主が俺だと知ったとき、慧司はどう思うんだろう。
 今さら「俺が書きました」とは言えないし、このまま秘密にしているほうが良い。


「大真、帰るぞ」

 放課後、慧司にいつものように声をかけられ、ふたりで靴箱へと向かった。
 この後何する? の話がないから、今日はただ一緒に帰るだけなんだろうか。
 まあ、最近は一緒にいても「お前勉強しろよな」「落ちたら許さねえ」しか言われないから、黙って受験勉強をするべきか。


「あの……!」

 靴箱にスリッパを入れ、靴に持ち替えたとき、後ろから可愛らしい声が聞こえた。
 振り返ると、隣のクラスの女子が、頬を赤らめて慧司を見ていた。

「何?」

 もっと優しく聞けば良いのに、慧司の返事のトーンが低くて、声をかけて来たその子が可哀想に思えた。
 もし慧司がこの子と付き合うことになれば、こうして同情したことを後悔するだろうに。

「お話良いかな……」

 女の子が、ちらりと俺に視線を向けた。どこかに去ってくれと、そういうメッセージをその視線から感じる。

「じゃあ俺、先行ってるわ」

 靴を履き、慧司に軽く手を振ると外に出た。本当は慧司を置いて帰るべきだろうが、告白の結果はやはり気になる。
 バレないように聞けば許される?

 俺は、ふたりから見えないけれど声はギリギリ聞こえる位置に立つと、こっそり眺めた。

 女の子の告白は「好きです、私と付き合ってください」というシンプルなものだった。
 それに対して慧司は、「この手紙をくれたのはキミ?」と、噂通りの質問をする。

 ふと、「書いたのは私です」という子が現れたら、どうするのか気になった。
 私ですと返事をすれば、誰でも付き合えてしまうんじゃないか?


「私が書きました……!」

 ぷるぷる震えながら、女の子は嫌な予感通りの返事をした。
 嘘だとバレるリスクよりも、付き合いたい気持ちが勝ったのだろう。

 正直、ものすごく腹が立つけれど、俺はあの子みたいに直接言葉で伝える勇気はなかったから、こうなっても仕方がないのかもしれない。
 怒る権利は俺にはない。

「キミがくれたんだ?」
「……はい」
「あははっ、さすがにそれはダメだろ。嘘つくなんてありえねえよ」
「え?」

 慧司は低い声で笑うと、それからきつい言葉をその子に向けた。

「どうして嘘だって……。匿名で出してるのに」
「匿名だから私だと言ってもバレないだろう、って考えが透けて見えただけ。残念だったね。騙されないから」
「ひどい……」
「ひどいのはどっち? 他の子にも言ってて、嘘はつくなよって」

 慧司は鞄を掛け直すと、かたまったままの女の子に何のフォローもすることなく背を向けた。
 靴を履いている慧司を見ながら、早くこの場からいなくならないと、聞き耳を立てていたことがバレてしまうと焦りが出てくる。
 けれど、どうしてか足が動かなくて、その場にとどまるしかなかった。

「やっぱり帰ってないじゃん。聞いてた?」
「好きで聞いてたわけじゃ……」
「ははっ、どうだかなあ。好きで聞いてたんだろ?」

 女の子に向けたものとは全く違う、いつもの慧司の声で笑った。それになぜか安心していると、俺の手首を掴んで歩き出した。

 さっきまでかたまっていたのが嘘みたいに、自然と足が前に出る。

「大真、お前は分かった?」
「……何を?」
「さっきの子が、嘘ついてるかどうか」
「さっきの……。あのさあ、お前なあ、さすがにあれは言い過ぎじゃないか?」

 危うく自分の気持ちを横取りされるところだったのに、咄嗟に庇う言葉を口にすると、慧司は「そうかあ?」と俺を射抜くように見つめた。

「何だよ……」
「いや、そんなこと言うんだって思っただけ」
「そんなことって……。だって、お前があまりにも怖い感じで言うからさ」

 目を合わせられなくなって俯くと、慧司が歩くのをやめ、鞄から手紙を取り出し俺に渡した。

「えっ……」
「お前はどう思う?」
「……な、にが?」
「この手紙の送り主だよ。誰だか分かるか?」

 まさかここで、自分があげた手紙を渡されるとは思っていなかった。
 持っていた手に汗が滲む。
 
 不器用ながらに丁寧に糊付けしたあとが見え、この言葉を綴った日のことを思い出した。
 あのときは、こうして慧司が毎日鞄に入れるだとか、送り主を探そうとするだとか、ちっとも予想できなかった。

「……そもそもお前、この手紙持ち歩いてんのかよ」
「送り主がいつ名乗り出てくれても良いようにな」
「へえ……」
 
 まともな返しが何一つできないまま、渡された手紙を握りしめていると、シワになるだろと慧司が取り上げ鞄にしまった。

「大真」
「……な、に」
「俺、嘘つかれたら分かるんだよ」
「……ははっ、そうかよ。じゃあ今日みたいに嘘つかれても、見抜けるっていうなら大丈夫だな」

 怪しさしかない返事を、早口で伝えた。慧司はそんな俺のことを黙って見ている。

「……誰が書いたんだろうな? いつか分かるかな。すげえ楽しみ」

 慧司はそう言うと、ゆっくり口角を上げて笑った。



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