綴った言葉の先で、キミとのこれからを。

小湊ゆうも

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キミへの気持ちは手紙にのせるから、覚悟して受け取って。

キミヘのラブレター

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 あれから一度も先輩と会わないまま、夏休みが終わった。
 避け合っていたわけではなく、先輩は夏期講習で忙しく、僕との時間が取れないようだった。代わりに連絡は時々くれており、そのたびに胸が躍った。
 
 会わないことで、あの日のキスが鮮明に思い出され、先輩への好意が募っていく。
 あのときは、衝動に任せてその場に流された部分もあったけれど、やはりこの気持ちは簡単にどうにかできるものではないし、キスの意味を知りたくなってしまっている。

 ただ、学校が始まってからどんな顔をして先輩に会いに行けば良いのか、会ったとして何を話せば良いのかも分からないし、先輩の部屋でふたりきりになったときに耐えられる自信もない。
 
 それでもこれまで通りの水曜日に、先輩の教室へ迎えに行くことにした。

「祥太郎先輩……」

 教室の入り口から先輩を探したけれど、姿が見えなかった。これまでだったら必ずいてくれたのに、どうして今日はいないんだろう。

 ふと、もう僕に時間を作ってくれないのかもと、そんな不安が頭をよぎった。今日もいつものようにおいでと、そんなことは言われていないし、今後会ってくれるかは分からない。

 どうしようとパニックになり、教室のドアを引いたままの手に力が入る。

「なあ、お前って祥太郎の後輩だよな」
「え……?」

 突然、後ろから知らない先輩に声をかけられた。
 すごく顔が整っている、身長の高い先輩。何の部活動をしているんだろう。体格も良い。

「祥太郎は、先生に呼ばれて職員室にいる」
「あ、そうなんですね」
「お前が来るかもって気にしてたぞ。来たらここで待つように言っといてって、伝言預かってた」
「ありがとうございます……」
「じゃあ、確かに伝えたからな」

 その先輩はそれだけ言うと、教室から出てきた別の先輩と一緒に帰って行った。


「大生! 待った? ごめんなあ」
「全然、大丈夫です」

 しばらくすると、先輩が走って戻って来た。
 息を切らしているから、階段を駆け上がってきたのかもしれない。

 はあーっと膝に手をついて、それから汗を拭った。

「部活辞めたら体力落ちるわ」
「……ふふ、早すぎません?」

 普段のテンションと変わらない先輩に安心しつつも、あの日のキスにドキドキしていたのは僕だけなのだと分かり、それがけっこう寂しい。

「ちゃんと、ここで待っててって伝言聞けた?」
「……ああ、はい! 聞けました。何かすごい顔の整った人から」
「……え?」

 祥太郎先輩の伝言を伝えるために待ってくれていたあの先輩を示す言葉が、顔が整っているという表現しかなくてそう伝えると、先輩は明らかにムッとした。

「何? お前、あいつの顔が好みなの?」
「……好み? いや? 違いますけど」
「ふうん……」

 僕の好みは先輩です、と伝えるわけにはいかないから、僕は否定だけ返した。
 先輩は信じていなさそうな顔をしながら教室に入り、鞄に教材を詰める。
 僕は他に帰る先輩たちの邪魔にならないように、隅へと移動した。

「お待たせ。帰ろうか」
「……はい」

 学年が違うと靴箱の場所も離れるから、そこを出てから玄関先で集合し、肩を並べて歩いた。
 僕も先輩もしばらく無言で歩いていたけれど、先輩が「そういえばあいつ、この前ラブレターもらたらしいんだけど……」と話し始めた。

「ラブレター、ですか?」
「うん。それがさ、匿名だったらしいんだ」
「へえ……。匿名のラブレターかあ……」
「だからあいつ、送り主を探しているんだって」

 想いを手紙にするって難しいけれど、その人を想いながら書く時間は宝物のような気がする。
 それなのに、自分の名前を明かさないのは、何か特別な理由でもあるのだろうか。

「大生は、ラブレターもらったことある?」

 石ころを蹴りながら、先輩が僕にそう聞いた。転がってきたその石を、今度は僕が蹴る。

「あれをラブレターと言っていいのかは分かりませんけど、保育園の頃に女の子にもらいました。……先輩は?」
「俺は、手紙はないかな」
 
 手紙はないなら何があるの? と思ったけれど、それを聞くわけにもいかないから、そのモヤモヤを石ころに込めた。
 思い切り蹴ると、遠くに飛んでいき、草むらへと消えていった。

「あ……、どっか行っちゃった」

 次の石ころを探していると、先輩が僕の手を握り立ち止まった。
 振り向くと、見たことないくらい真剣な顔をしている。

「なあ、もし俺が書いたらもらってくれる?」
「え? 何をですか?」

 体ごと先輩のほうに向け、握られた手にちからを込めた。

「手紙だよ。ラブレター」
「……僕に?」
「そう」

 ふざけているのかと思ったけれど、表情は変わらず真剣なままで、声色もいつもより低い。
 
「本気、ですか?」
「本気だって言ったら?」
「何でそんなこと言うの。先輩、試してばっかりじゃないですか」

 あの日のキスだってそうだ。ズルいことしか言わないで、真意は分からないままだった。
 それなのにまた、そんなこと言って僕を揺さぶるんだ。

「それ込みで、ちゃんと伝えるから。書いたら受け取って、読んでほしい。できたら返事ももらいたい」
「……っ、」

 実際にその手紙をもらえるまでは、どうなるかも先輩の真意も分からないのに、それでも僕の中で勝手に期待が膨らんでいく。

「はやく、ほしいです」
「うん。早めに渡す。だから待ってて」

 ぽろぽろと溢れた涙を、先輩が優しく拭ってくれた。


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