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大好きなあなたへ。どうしたらこの気持ちを受け取ってくれますか。
止まらない気持ち
しおりを挟む「あっちゃん、めっちゃ待ち遠しかったよ~」
「そんなに待たせてねえだろ」
部活が終わり、教室で待っていると、思ったよりも早く先生が迎えに来た。
「仕事はもういいの?」
「だってお前がいるからこれ以上無理だろ」
「えっ、俺のために早く切り上げて来たんだ? キュンじゃん……」
入り口に立っている先生へと走って抱きつくと、先生は廊下に尻もちをつく。
「腰痛めるからやめて」
「まだ若いからいいじゃん」
ふざけたふりをして、先生の胸に頬を擦り寄せた。
「まったくお前はさあ。……鞄取っておいで。帰ろう」
「……うん」
てっきり怒られるかと思ったら、先生は俺の頭を優しく撫で、「わんこみたいだな」と笑っていた。
「俺が、どれだけ楽しみにしてるか分かる? あっちゃん家はテーマパーク並みに楽しいんだよ」
先生の運転する車に乗りながら、テンション高めにそう言うと、馬鹿か? というような顔をされた。
それでも本当に楽しみにしていたんだと、本気で言ってしまえば次から次に想いが溢れてきそうだから、こうしてふざけているくらいが良いんだろう。
俺は膝に乗せていた鞄に手を回し、強めに抱きしめた。
「俺の家、何もないのに?」
「だってあっちゃんがいるんだも~ん! 独り占めできるし! あっちゃん! あっちゃん!」
「……きしょすぎ」
ちらりと視線を動かし、先生のことをこっそり見ると、なぜだか少しだけ嬉しそうに見えた。
「もしかして、俺の可愛さにやられてる?」
「まじ黙れ。ここで降ろすぞ」
「やーん、怖い~!」
騒がしい車内のまま車を走らせ、あっという間に先生のマンションに着いた。
築浅のマンションだからとてもきれいだし、そういうところにもテンションが上がる。
それでも、今からふたりきりになることを考えると緊張もあって、手に汗が滲んだ。
「まだ慣れない?」
俺がエレベーター内でそわそわしていたからか、先生が心配そうに見つめてくる。
「あっちゃんは、どんな気持ち? 俺とふたりは気まずい?」
「急にどうした? 気まずいって言うか、今晩は騒がしくなるなあって思ってる」
眉を垂らし、困ったようにあははと笑った先生を見ていると、やっぱり意識しているのは俺だけだと突きつけられる。
それでもいいけれど、でも俺のことを意識してほしい。でも意識されてしまったら、こうして学校以外での接点が持てなくなる。
そうなるくらいなら、幼馴染としてのポジションを大切に守ることを、今は1番大切にするしかない。
エレベーターを降りてすぐの先生の部屋の前に来たとき、「あー! 車に弁当箱忘れて来た」と先生が項垂れた。
「取り行こうか?」
「いや、いいわ。先に入ってて」
先生は鍵を開けてドアを開け、俺に先に入るように促した。
「え? じゃあさ、あっちゃんが入って来たら、俺はお帰りなさいあなたって言えるやつ?」
「言えないやつだよ。馬鹿が!」
顔を真っ赤にした先生が、俺の頭を思い切り叩く。
「ふざけたこと言ったら、今からでも追い出すからな!」
「ねえ、追い出す以外の語彙はないの? さっきからずっと追い出すしか言わない」
「お前ふざけんな!」
「早く弁当箱取りに行けって」
「……くっ!」
俺の煽りに全て乗っかるせいでイライラしたようで、怒りながら駐車場へと向かう先生の背中を頬を緩ませながら見送った。
言葉通り先に入り、リビングへと向かう。ソファに鞄を置くと、勝手に寝室を開けた。
朝起きて動かしたままだろう布団とシーツがぐしゃぐしゃだったけれど、より生活感があってそれにときめく。
本当は飛び込んで、先生の匂いに包まれたいけれど、お風呂にも入ってない状態でそんなことをしていたら、「汚ねえ!」と怒られそうだから我慢した。
リビングに戻り、とりあえず色々見て回っていると、積まれたチラシの上にピンク色の封筒が置いてあった。
「は?」
黒崎先生へ、と書かれたそれを手に取り裏返すと、クラスの女子の名前が書かれている。
間違いなくラブレターだ。開けてあるから、先生はもう読んでいる。
内容を見るかどうかしばらく悩んでいると、先生が戻って来た音がした。
「おい、響! 結局お帰りなさいあなたごっこやらないのかよ」
自分で言っていて面白くなったのか、けらけら笑いながら先生がリビングに入って来る。
それから俺の手に、手紙があることを確認すると、「……何見てんだよ」と低い声でそう言った。
「見たらダメだった? 俺のことを先に入らせたのが悪いだろ。こんな目につくところに置いてさ」
「だとしてもクラスの女子の名前があるんだから、その子に配慮して見るべきではないだろ」
俺から手紙を取り上げ、先生は元の場所に戻した。見えないように引き出しの中にでも入れれば良いのに、そうしない先生にも腹が立つ。
「何でここに置くんだよ」
「別にいいだろ。隠すほうがやましいじゃん。お前うるさそうだし」
「……っ、生徒のことたぶらかしたんだ? いけない大人だね」
「俺は普通に授業をしてるだけだろ」
動揺している俺とは対照的に、落ち着いたままの先生にイライラが上限を超え、俺は胸ぐらを掴んだ。
「響、やめろって」
「あっちゃんは自分の魅力を知ったほうがいいよ」
「はあ?」
胸ぐらを掴んだままの俺を、先生は両腕で包み込み抱きしめた。
落ち着けよと言いながら、背中を優しく叩いてくれる。
「あのさあ、魅力って言っても年齢でキャーキャー言われてるだけだろ」
「そんなことない! あっちゃんは、なんだかんだ優しいし、かっこいい!」
俺より小さいはずなのに、押しのけようにも先生はびくともせず、先生の匂いに包まれて余計に気持ちが落ち着かない。
「そうか? そう思ってるのはお前くらいだろうな」
「なわけないじゃん!」
「まあどう思われているからこの際置いておくが、そもそもくれたこの子とどうこうなるつもりなんか絶対にないしな。本人には、仕方なく受け取りはしたけど、読むだけで返事を書くつもりもなければ応えもしないって伝えてるし」
これでいいだろ? と言った先生は、俺を解放し、椅子に座らせた。
俺の肩に両手を置き、顔を覗き込みながら「これでも文句あるか?」と言う。
「文句しかない! なんで? なんで返事も書かないし、応えないの?」
先生としては当たり前のことだろうに、あまりにも典型的な内容で納得ができない。
俺は椅子から立ち上がり、先生を壁へと押し付けた。
お前がいるから誰とも付き合わないよ、なんてそんな甘い言葉を言ってもらえる可能性はゼロだし、何かを期待したところで叶わないし、俺の求める回答をしない先生に怒るのは理不尽だと頭では分かっている。
それでも、止まらない。
これまでずっと、ふざけながら誤魔化して耐えてきたじゃないかと、そう言い聞かせても理性が働かないんだ。
「はあ? お前聞くまでもないだろ。生徒だからな、ありえないよ」
「それってさあ! 生徒じゃなかったらアリなの? あの子のこと、女としてみれるってこと?」
先生が何を言っても気に入らない。
「ばっか! そういうことは言ってないだろうが!」
「じゃあ俺は? 俺が生徒じゃなくなったら、あっちゃんは俺のこと、ひとりの人間として意識してくれる?」
「意識って何だよ。お前、意味分からん……、やめろよ……」
先生は俺から離れようと必死に肩を押してくる。
先生も、俺のこの言動が何を意味しているか、本当は分かっているんだと思う。
それ以上言ってほしくないだけで、俺の気持ちはもう、これまでのやりとりで伝わってしまったに違いない。
「……あっちゃん!」
俺から逃げようと思ったら、腹を殴ったり、股間を蹴れば良いのに、そうしないのは先生から俺への優しさなのか、今の俺が怖くてできない、のどっちなんだろう。
でももう、ここまでして何事もなかったようには振る舞えない。自分勝手でごめんね。
「俺、あっちゃんのことが好き。頼むから俺が卒業するまで、誰とも付き合わないで。俺のこと待っててよ」
「お前なあ、男で年上の幼馴染に何言ってんだよ。寝ぼけてんのか」
困った顔で、泣きそうになっている先生を押さえつけ、それからキスをした。
きつく閉じられた唇をこじ開け、舌を捩じ込むと苦しそうな声が漏れた。
「ひび、き……、やめっ……っ」
「……っ、て!」
唇を噛まれ、血の味がする。先生からの拒絶だと分かった。
「……あっちゃんの、馬鹿」
「おい!」
馬鹿は俺なのに。無理やり先生に触れて、もう取り返しがつかない。
俺は鞄を雑に掴むと、そのまま走って帰った。
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