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7中 お兄様とデート
しおりを挟む秋の柔らかな光が、街をまるで優しく包み込むように降り注いでいる昼下がり。私は、兄様と一緒に城下町へと足を踏み入れた。
今日は、MVPに輝いたお兄様との特別なデートの日。街を歩くのは初めてのことなので、胸が高鳴って仕方がない。尻尾もいつも以上にゆらゆらと揺れ、私の心の弾みを映すかのようだ。
通りを進むと、色とりどりの店先には新鮮な果物や、職人が手間暇かけて作った工芸品が並び、活気ある人々の笑顔が行き交う。
ふと足を止めた。視線の先には、あの不思議な香りの漂うパン屋がある。甘く香ばしい香りが、街のざわめきの中でひときわ際立っている。
「お兄様!パンが食べたいです!」
声が思わず弾んだ。まるで私の胸の高鳴りそのままに、言葉が飛び出したようだ。
お兄様は柔らかな笑みを浮かべ、私の隣に立つ。その眼差しは、まるでこの街のすべてを慈しむかのように穏やかで、心臓が少し速く打つのを感じた。
「よし、店に入ろうか。どれが食べたい?」
「うーん……迷うな、全部美味しそう。」
指を差しながら答える私に、お兄様はすぐに小さな籠を取り、迷っていたパンや果物を手際よく入れてくれた。
「好きなものを選ぶといいよ。食べ切れない分は僕が食べてあげるから」
その言葉に、私はぱぁあっと目を輝かせる。思わず心の中で小さく跳ねた。
「ありがとう!お兄様!!大好き!!」
「ぐはっっっっ(可愛い。MVP最高…)」
胸の奥がじんわり温かくなる。
その後も、色とりどりの店をいくつも巡り、甘い香りや新鮮な果物に心躍らせながら、湖へと向かう。歩くたびに尻尾がぴょんぴょん跳ね、私の楽しさを体全体で表しているようだった。
湖に着くと、秋の光が水面に反射し、柔らかい波紋がゆらゆら揺れていた。湖畔の芝生に腰を下ろし、買ったばかりの果物やパンを広げる。
ひとくちかじると、隣の兄様も同じパンを口に運び、穏やかに微笑む。
「自分がわからなくなった時は、いつもここに来るんだ。湖を眺めたり、本を読んだりして過ごす。そしたら…なんとなく、これでいいのかなって思えるんだよね。フィオナと出会えて、一緒にここに来られて本当に嬉しい」
遠くの水面を見つめる兄様の声には、いつも完璧で落ち着いたお兄様が普段見せない葛藤や努力が、そっと垣間見えた。私は胸の奥で、小さなドキドキを感じる。
「お兄様も悩むことがあるんですね…」
「ふふっ。フィオナの中で僕はどう映っているのかな?」
「んー…かっこよくて、なんでもできちゃう…あ!王子様みたいです!!」
「ぷはっ、ははは!フィオナの中で僕は王子様なの?ふふっ、エドワードに自慢しないと…あはははっ」
「そ、そんなに笑わなくても…お兄様は優しくて、甘い紳士な感じが王子様っぽいんですよー。エドワード殿下は、なんて言うか…腹黒暗黒王子?」
「ぶはっっ!ひーっ!はははは!おっかしい!フィオナ、最高!正解だよ、あはははっ」
お兄様は涙を流しながら爆笑し続け、次の日は笑いすぎて筋肉痛で動けなかったという話を後でセドリックから聞いた。
普段見せない一面を見られて、私は少しラッキーな気分になった。
食事の後、私はそっと兄様の肩に寄りかかり、まどろみの中に身を沈めた。温かい風と柔らかな日差しに包まれ、短い昼寝を楽しむ。前世では味わえなかった、穏やかな幸福が胸に満ちる。
「幸せ…(可愛すぎる、天使が肩に…MVP万歳!これからも死守する!)」
ふわりと目を覚ますと、目の前に兄様の顔がある。湖面の光が彼の金色の瞳に反射し、心臓が再び早鐘を打つ。
「うう…むにゃむにゃ……んー…?…えっ!!お兄様??ずっと見てたんですか?ちかっ!!」
「おはよう、フィオナ、よく眠れたかい?」
「はい…ぐっすり……」
兄様は小さく息を吐き、手を差し伸べる。
「お姫様?僕と小舟に乗らない?夕日が綺麗だよ」
「乗りたい!!」
二人で小舟に乗り、湖の中心へ漕ぎ進む。水面に映る橙色の光が、兄様の横顔を黄金色に染める。
「フィオナ、話したいことがある」
声に、いつもの優しさの中に少し硬さが混じる。私は身を乗り出し、その言葉を待った。
「フィオナ、俺と……婚約してほしい」
湖面が静かに揺れる中、驚きで言葉を失った。兄様の真剣な瞳が、私の心をまっすぐに見つめている。
ーー兄弟婚…?あ、そうか、確かこの世界では遺伝は魔力の質によるもので、血は関係なかったはず……よくわからないけど、異世界だもんね、と納得する。
「……でも、本当に……私で、いいんですか?」
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。前世の記憶は誰にも言えないし、言うつもりもない。けれど、それで兄様に迷惑がかかるのは少し怖いと思った。
「もちろんだ。フィオナ以外に考えられない」
兄様はそう言うと、小舟の中で私を優しく抱き寄せる。その腕の温かさに、不安が少しずつ溶けていく。
「…まだ、恋愛として好きかどうか、わからないかもしれない」
「それでも構わない、フィオナはきっと僕を好きになるよ」
兄様はいたずらっぽく笑い、少し頭をかすめて照れるように視線をそらす。その表情が、なんだか可愛らしく思えた。
「私は……兄様と、ずっと一緒にいたいです。だから、婚約、受けます!」
心の底からそう決めた瞬間、兄様は目を輝かせて私を見つめた。
「ほんとかい?…あーよかった。どうしよう、嬉しすぎる…」
レオンハルトは顔を隠して天を見上げ、プルプルと震えた。にやける顔と、溢れてきそうな涙を必死に隠していた。
フィオナには兄としか思われていないことを知っているが、この思いを伝えなければ関係が崩れてしまうのではないかと、不安でいっぱいだった。
パーティーに招かれ、女性が貴重で幼い頃から婚約者がいる世界で、フィオナのようにまだ誰もいない存在は、奪い合いになる可能性がある。それを防ぐため、レオンハルトは腹を決め、婚約を申し込んだのだ。
「兄様…」私はそっと抱きつく。
ビクッッ!
突然のことに、レオンハルトの頭はショートした。
「私と出会ってくれてありがとうございます。大好きです。」
湖に映る夕日の光が二人を包み込む。世界は静かで、でも胸の中は熱く、二人だけの時間が永遠に続くように思えた。
その後、レオンハルトはしばし石化し…溶けたと思ったら鼻血が出て、ロマンチックな場面も、ちょっとドタバタなコミカルさで彩られたのだった。
◆
舟の上で結ばれた私たちは、湖の穏やかな波に揺られながら、未来への一歩を静かに踏み出した。夕日が沈む頃、兄様の手はぎゅっと私の手を握り返し、何も言わなくてもお互いの心が通じ合っていることを確かめ合う。
秋の風が二人の頬を撫で、湖面が金色に輝く中、私の心は初めての幸福感でいっぱいになった。
「兄様……これからも、ずっと……」
「もちろん、フィオナ。ずっと、俺のそばにいてくれ」
湖に映る二人の影が、一つに重なったまま、静かに揺れ続ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです。読んでくれてありがとうございました。MVPの兄様へご褒美回でした!前世の要素がなくなってきているのは幼女と精神が混ざってきているからです。知識は残ります…
スパダリお兄様として書いていたつもりが残念要素がでてきてしまいました。やっぱり親子です。次回はパーティー編です。
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