レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆

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 扉の先には、大規模コンサート会場の様に広いホールが姿を見せた。

 遠くに見える白い壁には、先程レイルーク達が通ったと同じ扉が見える。
 東西南北に扉があるという事は、他の公爵はそこからここに来たのだろう。

 部屋の中央には豪華な長いソファーが、中央の大きな円卓を囲む様に四つ置かれている。

 そこには、既に六人の公爵達が思い思いに座って寛いでいた。

 それぞれのソファーの後ろに、従者が二人づつ控えている。既に公爵全員が揃っていた様だ。


 レオナルドはそちらに向かって歩き出した。

 その後に続いて、優雅に歩き出すレイルーク。


「大丈夫よ」

 ユリアが小さく声をかけてくれる。

 エスコートで手を繋いでいる指先が、少し力が入ったことにユリアに気が付かれたようだ。

 レイルークは大丈夫だと言う代わりに、優しく微笑んだ。



「やっと来たかレオナルド! 待ちくたびれたぞ!」

 公爵の一人が、こちらに気付いて軽く手を上げた。
 レオナルドと同じ歳くらいの、銀髪で黄色い瞳。一見するとイケオジっぽい男性だ。

 レオナルドが軽く舌打ちしたのが分かった。


 レイルーク達が座るであろうソファーの前で立ち止まる。

 位置的にはここが外から見えた中央の塔の真下で、神殿中央にあたる場所なのだろう。
 天井を仰ぎ見たいが、公爵親子達が食い入る様にこちらを見ているので何とか我慢する。


 最初に話しかけた男性が立ち上がった。

「さて、これで全員揃ったわけだ。この祝儀の主役の一人である、レオナルドの息子を早速紹介してもらおうか!」
「五月蝿い。お前らが無理矢理招待したくせに、偉そうに指図するな。切り身にされたいのか」

 レオナルドが吐き捨てる様に言うと、銀髪の男性達の隣りのソファーに座っていた、結い上げた金髪に水色の瞳をした貴婦人が口を開いた。

「レオナルド。久しぶりに会うというのに、相変わらず刃物の様な物言いね。ルシータ様と結婚して、少しはマシになったのかと期待したのだけれど。とんだ期待外れ」

 見るからに豪華な指輪で着飾った指で扇を口元に当て、レオナルドを睨んでいる。

「レオナルドは心底機嫌が悪い様だ。確かに招いたのは我々だ。こちらから名乗るのが筋だろう。立っているアトラス、お前からやれば良い。私達は最後で良い」

 貴婦人達の隣りのソファーに座っている、黒髪にグレーの瞳の男性が冷たく言い放った。

「まあ、そうだな。では私達から名乗るとするか。私は東の領主、アトラス・ディスティニー。そして、この子が私の自慢の長女だ。さ、自己紹介しなさいルミナス」

 ルミナスと呼ばれた美少女は、プラチナブロンドの長く美しい髪に、紅蓮のように赤い瞳だ。
 優雅にソファーから立ち上がって、美しいカーテシーを披露した。

「ご紹介に預かりました、ルミナスでございます。この度は祝儀にご参加頂き、ありがとうございます。以後、よろしくお願い申し上げます」

 十歳にしてはしっかりとした挨拶を述べた。アトラスは満足そうに頷いた。

「十歳なのにしっかりしているだろう? 私の自慢の娘さ。上に四つ離れた兄もいるが、今回はレオナルドの要望で、連れて来られなかったからな。また次の機会にでも会わせようじゃないか!」
「次など無い」

 レオナルドは冷たく切り捨てた。アトラスはわざとらしく肩を竦めると、ルミナスと共に座った。

「本当、触れたら切れそうな刃風の様。……では、気を取り直して私達が自己紹介するわ」

 貴婦人は、瞳と同じ水色のドレスを靡かせて優雅に立ち上がり、上品なカーテシーを披露した。

「初めまして。私は北の領主、ビクトリア・ロゴス。ロゴス公爵女領主ですわ。以後、お見知りおきを。そして隣にいるのが、私の一人娘のキャサリンよ。キャサリン。さあ、ご挨拶なさい」

 ビクトリアの隣に座っていた、二人目の美少女が立ち上がった。
 透き通った水色の髪にコバルトブルーの青い瞳。

 優しそうな微笑みを浮かべると、流れる様に静かなカーテシーをした。

「風魔術の先覚者と謳われた、アームストロング公爵レオナルド閣下にお会いできて光栄に存じます。ご紹介に預かりました、キャサリンと申します。どうぞお見知りおき下さいませ」

 ルミナスと同じく、十歳とは思えない挨拶だ。
 ビクトリアも満足そうに頷いていて、レイルークに視線を移した。

「確か、レイルークというお名前だったわね。レイルークさん。キャサリンはね、学問に精通しているのよ? 聞きたいことが有れば、後で一緒にお話ししてみれば良いわ」
「話などしない」

 レオナルドは再び冷たく切り捨てた。ビクトリアは憎らしそうにレオナルドを睨み付けた。

「全く! よくこんなのがルシータ様と結婚出来たこと! ……憧れのルシータ様がこんな奴と、一緒になるなんて……!」

 どうやらビクトリアはルシータのファンの様だ。レイルークは少し親近感を持った。

 ビクトリアは怒りながらも優雅に着席し、キャサリンもビクトリアの剣幕に、苦笑しながら座った。


「さて、最後は私達だな。私は西のノーザイン・ライトだ。隣が娘だ。……グレイス」

 立ち上がりもせずに名乗ると、目だけを横の少女に向けた。
 漆黒の艶やかな髪に漆黒の瞳の三人目の美少女は、立ち上がるとゆっくりとカーテシーをした。

「グレイス・ライトです。宜しくお願い致します」

 それだけ言うと、直ぐにソファーに座った。
 ノーザインは特に気にせず、レオナルドを見た。

「レオナルド、これでこちらの紹介は済んだ。後はそちらの子供だけだ。折角の祝賀会なんだ。早く紹介してもらおうか?」

(……外見は折角クールなイケオジなのに、中身は随分と嫌味ったらしいおじさんだな……)

 ノーザインの態度に些か腹を立てるレイルーク。レオナルドもご立腹のまま、ノーザインを睨み付けている。

「……娘のユリアだ」

 まずはユリアが紹介される。ユリアは一歩踏み出すと、優雅にカーテシーを披露した。

「お初にお目に掛かります。紹介に預かりました、ユリア・アームストロングと申します。……私は、レイルークを良き姉でありたい、とそう常々思っております。若輩者ではございますが、どうぞ、宜しくお願い申し上げます」

 何やら含みを感じる挨拶に、公爵の親達はユリアを見た。

「あら、レイルークさんのお姉さんだったの。そう言えば、新しく出来たとは聞いていたけれど、貴女なのね」

 棘のある言い方に、レイルークは内心ムッとしたが、ユリアは気にするどころか、ビクトリアに微笑みを浮かべた。

「ビクトリア公爵夫人の様な麗しいご婦人に覚えて頂けていたとは光栄です。ルシータお義母様から聞いておりましたが、とてもお美しくあらせられる」
「ま、まぁ! ルシータ様がそんな事を!?」

(うわー流石姉様。ビクトリア様の歓心を一気に掴んだ)

「そっそう。……そう言えば、貴女はルシータ様の妹君のお子だったわね。確かに、ルシータ様に似ているわ……。オホンッ……まあ、レイルークさんの姉として、良きに計いなさいな」
「はい。ありがとうございます」

 ニッコリと笑うユリアだが、眼はちっとも笑っていないのが声で分かる。
 ユリアは、敵に回すと絶対に怖いタイプだ。

(我が姉ながら、少し末恐ろしい気が……。怒らせないようにしよう)

 レイルークは内心冷や汗をかいた。

「義姉の話はいい。用があるのは息子の方だ。勿体ぶらずにさっさと名乗らせろ」
「黙れ。貴様らに指図される覚えは無いと言った筈だ」

 ノーザインの言葉に、レオナルドが一気に一触即発の雰囲気に包まれる。

 思わずレイルークは声を上げた。
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