紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

雨の街で

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 早かったな。そう言ってアキラは健太郎けんたろう達を出迎えた。
 場所はオルニアルの首都、カラッサ郊外の研究所。様式は孤島の研究施設に似ていたが、規模は遥かに大きい。

 その研究所の応接室のソファーに座った白衣を着たアキラにミラルダは尋ねる。

「最高速で来たからね、それで、どういう経緯でこうなったのか説明してくれるかい?」
「この国の長官補佐官、バレット・サーバスって悪党がいるんだが、そいつがラーグの公爵、お前達の雇い主に渡りを付けた。全面的に非を認め謝罪と補償をするから、協力して欲しいってな」
「長官補佐官? よく分からんが補佐官は文字通り長を補佐するのが仕事だろう?」

 グリゼルダがアキラに疑問を投げかけると彼は口の端を皮肉気に持ち上げた。

「俺も話を聞いた時はそう思ったんだが……奴は若手議員達をラーグの協力と俺の特効薬を餌に炊き付けて、長官を首にした」
「長官を首ッ!? 補佐する人が助ける相手を首にしちゃったのッ!?」

「ああ、奴はこの国で成り上がってトップになるのが目的だそうだ。首にされたローザム……まさか奴が議員長官になってるとは知らなかったが……」

「何だよ? 首になった奴とは知り合いか?」
「ローザムは俺をこの国から追い出す事になった訴えをした奴らの一人だ。今回の件で思いっきり嫌味を言って、恩を着せてやるつもりだったが……ともかく、ローザムじゃ自分が受け継ぐ予定の国が駄目になる、バレットはそう考えたみたいだ」
「コホー……」

 なるほど、寄生体の被害が大きくなったら、そのバレットって人がやりたい事も出来なくなるから……。

 ロミナの姿を借りた健太郎の言葉にミラルダが頷きを返す。

「確かにねぇ、国中がベントみたいになっちまったら、立て直すだけで一苦労だもんねぇ」
「そういう事だ。それで本題だが、寄生体のサンプルは?」
「これだよ。水晶球で言った通り、オリジナルじゃないけどね」
「構わん……研究施設からカラッサに送られた物は輸送中に本体が死んだらしくてな。粘菌細胞が壊死して使えなかったんだ」

 そう言うとアキラはミラルダが鞄から出しテーブルに置いたシリンダーを嬉しそうに眺めた。

「本当にオリジナルで無くても大丈夫なのか?」
「ああ、俺がオリジナルを求めたのはその方が、遺伝子……俺の作ったマン・パラピュレーターは寄生する相手に合わせ遺伝子構造を変化させる。寄生した相手に異物だと認識させると面倒だからな、しかし遺伝子の根幹は変わらない」
「ふむ……大元であるあの粘菌ならどんな種に寄生した者にも効く薬が作れると?」

 顎に手を当てたグリゼルダにアキラは頷きを返す。

「そういう事だ。しかし無いならよりオリジナルから近い系譜、子や孫に当たる者が欲しかった。研究施設に近いベントなら恐らくいってもひ孫ぐらいの筈だ」
「……なら、研究施設で寄生された奴を回収しときゃ良かったな」
「終わった事は言っても仕方が無い。ともかく俺はコイツを調べて新しい薬を作る……後はコーエンや錬金術師共と協力して薬を量産するだけだ」

 そう言ってシリンダーを手に立ち上がったアキラに、ミラルダが声を掛ける。

「あたし等に出来る事はあるかい?」
「そうだな……」

 アキラはロミナ姿の健太郎に目を向けた。



「あまり思い出したくはないが、そこのエルフはその……あいつなんだよな?」

 あいつと言った時、アキラの顔が微妙に引きつる。健太郎に全ての力を奪われた事はまだ彼の中でトラウマの様だ。

「そうだよ」
「なら、薬をこの国全土にばら撒ける方法を考えてくれ。今の所、議員共が考えているのは軍隊を使った配給らしいが、それじゃ既に寄生されて暴れる奴らにゃ安全に使えねぇからな……あんな妙な機械に変形出来たんだ。それぐらい出来るだろう?」
「コホーッ!」

 簡単に言わないでよねッ! 大体、俺達はその薬って奴がどんな物なのかも知らないんだぞッ!

「言われてみればそうだねぇ。ねぇ、アキラ、薬ってのは飲み薬かい?」
「ああ、本来は静脈注射が一番が効果が早いが、この世界じゃ薬の研究の進んだオルニアルでさえ注射器は開発されていないからな」
「なんだい注射器って?」
「はぁ……針で薬剤を直接、体に流し込む為の器具だ。血管や筋肉組織に突き刺して体に薬を浸透させる」
「うぇ、針を血管に……そんな事して大丈夫なの?」
「ふぅ……こういう反応だから多少効果が低くても飲み薬にしたんだ」

 ミラルダとパムの反応に都合、二回ため息を吐きながらアキラは説明を終え、じゃあなと応接室を後にした。

「国中にばら撒くか……ミシマの鉄の鳥で空から撒くか?」
「それでは範囲が狭すぎるだろう」
「うーん、ねぇミラルダ、ミシマはどんな物になれるの?」

 パムが首をかしげるとミラルダはえーとと、これまでの冒険を思い出しつつ、鞄から取り出したノートに健太郎の変形を書き出していった。

 最初はバイク、次に鉄の車、その次がバリスタ、巨人に星の打ち上げ台、携帯、鉄の鳥に分解再生機、早い鉄の鳥、鉄の船。

「こんな感じかねぇ……書き出してみると無茶苦茶だねぇ」
「コホー……」

 あはは……。

 健太郎自身、滅茶苦茶だなぁとは思うがそうなってしまったのだから仕方が無い。結果、乾いた笑いを上げるしか無かった。

「ふぅ……ここでうんうん唸っていてもいい案は出そうにないねぇ……そうだ、街に食事にでも行こうか?」
「そういやここ何日かはフィルの炊き出ししか食ってなかったな。あれも不味くは無かったが……」

 ギャガンはフィルが作ってくれた麦がゆを思い出し、苦笑を浮かべた。
 ベントの街は流通が途絶え、基本、日持ちのする物が中心だった。
 主食は小麦等の穀物、それに干し肉や干し魚、ドライフルーツ等の乾物系がメインだった。
 海沿いの街だったベントは漁港としての側面も備えていたが、あの状況で漁に出る漁師はおらず生鮮食品はほぼ手に入らない状況だった。

「……早く事態を収束させて、フィル達にも美味しい物を食べさせてあげたいね」
「そうだな」

 そんな事を話しながら、健太郎達は研究所を出て街へと向かった。
 流石に首都だけあってカラッサの街では寄生生物の被害はほぼ起きていない。
 研究所で案内してくれた警備兵の話ではアキラが作った薬で、拡大を取り敢えずは防げているそうだ。
 ただそれも完全では無く、少数ながらも発症者の焼却処分は続いているそうだが……。

 空は先行き不安な一行の心を表す様に、雲がかかり今にも泣きだしそうだった。
 そして、その予想は当たり、食事を終えた一行が店を出た時には大粒の雨が石畳を打っていた。

「こいつは暫く止みそうにないねぇ」



 道沿いの店の前、張り出した屋根の下でミラルダが呟く。

「雨か……雨の様に広範囲に薬を降らせる事が出来れば、アキラが言っていた国中に薬をばら撒く事も可能なのだろうが……」
「そういや魔法で雨を降らせてたな? あれは使えねぇのか?」
「あったねぇ、ミシマの光で作った道を冷やした奴」
「あれは限定的な物だ。個人の魔力では如何に魔力量の多い魔人であっても、半径二百メートル程度が限界だ」
「そうなんだ……」
「コホー……」

 雨か……たしか元の世界でも人工降雨については研究されていたよな……雨……。

 空を見上げていた健太郎の視界に水滴が弾ける。

 あれ、俺、軒下にいた筈なのに……?

「ミシマ、今度は何になったんだいッ!?」
「シュゴーッ!?」

 えっ!? 俺ってばどうなってんのッ!?

 慌てる健太郎を他所に変形した体の一部、漏斗の様な形の器具に雨粒が流れ込む。
 その直後、健太郎の視界に二つの文字が浮かんだ。
 恐らく一つはイエス、もう一つはノーでは無いだろうか。

 どうする、イエスを選択するのは怖い。だが雨を思い浮かべたこの状況なら……ええいッ、ままよッ!!

 健太郎は思い切って最初に選択していたイエスだろう文字を意識し、バルカンの時と同じくゴーサインを送った。

 ゴウンゴウン、そんな音を立てて健太郎の体が稼働を始め、体の中央から伸びた直径二メートル程の煙突からもうもうと蒸気が立ち昇る。
 それはやがて空に昇り元々空にかかっていた雲を分厚く黒く変えていく。

「ミシマッ、何やってんだいッ!?」
「これは……雲を生んでいる?」
「ねぇ、ドンドン雨が強くなってるよッ!!」
「ミシマ、もう分かったから雲を止めろッ!!」
「シュゴー……」

 それが……変形と一緒で一定以上吐き出さないと止められないみたい……。

 雨に濡れるカラッサの街に健太郎の変形した体が発した蒸気機関車の様な音が、突然の豪雨に慌てる人々の中、静かに鳴り響いた。
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