紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

宇宙戦艦ミシマ

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 ゴウンゴウン、そんな音を立てて青黒い金属の塊が丘と谷の上空を猛スピードで飛んでいる。
 その固まり、流線型の空飛ぶ金属の船の艦橋では赤い髪の半獣人とその仲間達が座席に腰を下ろしていた。

「鉄の鳥と違って全然揺れないねぇ……これだったらイレーネさんも大丈夫だね」
「えっ、ええ…………鉄の車や鉄の鳥の話は聞いてたけど、これは……」



 ミラルダに声を掛けられたイレーネは艦橋の窓から地上の様子を見下ろしている。

 もっと大きくて揺れない物、そんなパムの言葉から宇宙戦争物の戦艦を想像した健太郎けんたろうの体は、その想像を反映し恒星間航行用の巨大航宙艦へと姿を変えた。

「まさかこれ程大きな船、しかもそれが飛ぶとはな」
「ゴウンゴウン……」

 いやぁ、さっきはゴメンね。ちょっと銀河の英雄達の事を思い浮かべちゃったら、体が暴走しちゃって……。

 いつもの様に唐突に始まった変形は健太郎の意思では止められず、危うくギャガン達を巻き込み掛けたが彼らの身体能力のおかげで何とか事なきを得た。
 その後、変形を終えた健太郎は船体側面のハッチを開け、ミラルダ達を船内に迎え入れたのだ。

「何だい、銀河の英雄って?」
「ゴウンゴウン」

 こんな感じの宇宙戦艦……星の世界で戦う船を指揮して戦争する英雄達の物語が、俺達の世界にはあったんだよ。

「星の世界……じゃあ、この船は天界に行けるのかい?」
「ゴウンゴウン」

 多分ね。行ってみる?

「…………いや、今日の所は止めとくよ」
「ねぇミラルダ、ミシマはなんだって?」
「コイツは異界で星の世界、天界に行く船だってさ」



「天界か……天界にゃこの世を去った剣豪達が暮らしてるって話だ……ミシマ、ちょっくら天界に……」
「ギャガン、今は仕事が先だよ」
「チッ、分かったよ」

 健太郎の変形を当たり前に受け入れているミラルダ達を見て、椅子に腰を下ろしたイレーネはエリートギルド職員の仮面を取り繕う事も忘れ声を上げた。

「何で皆、平然と受け入れているのよッ!? おかしいでしょッ!? 人サイズのゴーレムがこんな大きな物になるなんてッ!?」
「そう言われてもなぁ……ミシマがおかしいのは今に始まった事ではないし……」
「いいじゃねぇか。こんだけ安定してりゃあ、酔わなくてすむだろうし、ざっと探索したとこじゃ寝室や風呂、台所もついてるみてぇだしよぉ」
「そうそう、何かそれ以外にも動く絵の付いた箱が一杯並べられてる部屋とかもあったよッ!! 相変わらずミステリアスだよねッ!!」
「まぁ、ともかく快適にフェンデアまで行けるんだから、良しとしようじゃないか」

 そんなミラルダ達の言葉にイレーネは「いい加減すぎる」と憤っていた。

 彼女は国交のある無しに関わらず、ラーグの隣国を飛び回り、各国の調査を行っていた。
 その国の中には魔人の国エルダガンドや錬金国家オルニアルの様な魔法技術、錬金技術に特化した国も含まれている。
 だが、そんなラーグより進んだ技術を持つ国であっても、健太郎が変形した空飛ぶ金属の船の様な話は噂話でも聞いた事が無い。

 まるで古代の英雄譚、神話と空想の物語に登場する神の船の様だ。

「ミシマは転生者だ。その体も恐らく異界の産物。我々の世界の常識を当てはめても仕方が無い」
「それにしたって……この速度で空を飛び、恐らく千を超える人員を運べる船なんて……これがあれば戦争の形が変わるわ……」
「ゴウンゴウン」

 悪いけど俺は戦争に加担する気は無いよ。

「そうそう、あたし等はあくまで冒険者、みんなの困り事を聞いて解決するのが仕事だよ。それにイレーネさんもそのギルドの職員じゃないか。戦争の事なんて考える必要は無いだろ?」
「大有りよ、技術に遅れるラーグが他国に侵略されていないのは、力のある冒険者の存在が大きいのよ。冒険者で名を売って騎士に取り立てられる人だっているし、ギルドと軍隊、いえ、国は切っても切り離せないわ」
「だとしてもあたし等は国同士の争いにタッチする気はないよ」

 ミラルダの言葉にグリゼルダも頷く。



「……私ももう関わり合いになりたくは無いな」
「俺も軍人はもういいぜ」
「わたしも戦争は御免かな」
「あなた達、名誉騎士になるんじゃないの?」
「ゴウンゴウン……」

 その予定だけど、もし王様が俺達の力を当てにして他国と戦争するって言うなら、名誉騎士は辞退するよ……人を殺すのはもう沢山だ。

 健太郎の脳裏にオルニアルでの事が蘇る。あれは戦争では無く寄生生物の犠牲者から人々を守る為だった。
 しかし、人の姿をした者を倒す経験は健太郎の心に苦い物を残していた。
 ベヒモスの力で大半の犠牲者は蘇った様だが、それでも砕ける骨の感触は今でも拳に残っている。

「……そうだね……あたしも人に対して攻撃魔法を使うのはもうやりたくないねぇ……」
「確かにアレは後味が悪かったな」
「俺ももう人を斬るのはいいぜ」
「だね……」
「はぁ……意味不明だわ」

 冒険者を続けるなら人と戦う場面は必ず訪れる筈だ。
 だが彼らは人間と戦う事に疲れた顔を見せている。

 イレーネはギルドのネットワークを通して、事前に健太郎達の経歴も聞いていた。
 オルニアルで彼らが為した事も文字の上では知っている。

 しかし、文字と数字だけでは実際の事は分からない。魔法の炎で人の焼ける臭いも、振るった刃から伝わる衝撃も、砕かれる骨の音も……。
 誰かの命を奪うという事、その事で下腹に重くのしかかる冷たさ。それは実際に経験しないと分からないのだ。

 その例に漏れず、ギルドの仕事に携わってはいても、基本、事務方のイレーネには健太郎達の気持ちは分からない様だった。

「ゴウンゴウンッ!!」

 島が見えるよっ!!

 そんな会話している間に宇宙戦艦モードの健太郎はロックローズを抜け、外洋を渡り蜥蜴人達が住むフェンデアへと近づいていた。

「あれがフェンデア?」
「ええ……資料によると、蜥蜴人達は島の東西南北で四つの部族の別れ暮らしているそうよ」

 イレーネはそうミラルダに返し、座席から腰をあげ、艦橋の窓に歩み寄り緑に覆われた島に視線を向けた。

「それでまずはどの部族に接触する?」
「まずは北部、ロックローズのドワーフ達と交流のあるンネグラ族と交渉をしましょう」
「そのンネグラってのは、友好的なのか?」
「ええ、ンネグラ族にはドワーフ語が話せる人がいるみたいだから、交渉は任せてちょうだい」
「ドワーフ語かぁ、アレって唸り声にしか聞こえないんだよねぇ」
「慣れれば聞き取れる様になるわ。話すにはコツがいるけど、こんな感じで」

 そう言ってイレーネは「ヴァーボォーラー(こんにちは)」と低く声を響かせた。
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