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8 召喚と戦い
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この前は先輩に迷惑をかけてしまった。
レオンと術を一緒に唱えたあの後、ほぼ気絶状態から数時間でどうにか意識は戻った。へたっている間は、先輩に介抱してもらうという無様な格好を見せてしまった。
忙しい中、時間を割いてもらっているというのに最悪だ。
ーーー、でもそのおかげでなんとなく術の感覚が掴めた気がする。もう少し、自分なりに改良すればどうにかできるかもしれない。
「では、外に行って召喚した魔物を戦わせてみましょう」
と教壇に立つ教師に言われて、唖然とした。今からやるという焦りと、うっかり今日だったことを忘れていた自分にショックを受けた。
「イーナは、とりあえず召喚術を成功させてからだ」
「はい……」
周りは召喚したものを見せ合う中で、イーナの元に教師が直々に近寄ってきてはそう言う。
明日でも、今日でも、成功させなければ先には進めない。皆に教室に置いて行かれるのを焦りつつ、イーナは黙々と術式を描いていく。
円を描いて、羅列する文字は正確に、供物は決して忘れてはいけない。そうして、一つずつ確認作業を終えて、術式を描き終わり、そして杖をもつ。
まずは、深呼吸。
イーナは胸いっぱいに息を吸い、ゆっくりと吐き杖を両手に持ち替えて術式の前に立つ。
この前の感覚を思い出せ、レオンさんが教えてくれた事を発揮するのはここだ。
目を閉じて、杖に魔力を送る。端から端まで行き届いたのを感じてから、イーナは杖の先で術式を小突いた。
すると、杖の先から描いた線は光り、その煌々とした光は全体に広がっていく。
問題はここからだ。火の術みたいに安定させつつ、均等に魔力を送らないといけない。そうしないと、前のように途中で術式が爆発を起こす。
震える杖を抑えて、イーナは術を唱え続けた。強く握った杖から、パキリッと木の弾ける音がすれば、術の光は輝きを増し辺りが白くなる。
ーーーそして、術は成功した。
どうにか成功させたイーナは杖を伝ってその場でへたり込み。白く光る世界から現れたのは一つの黒い影。光を徐々に失い影が正体を表していく。
小さくて、丸っこくて、長い二つの耳もち、足を使って高く跳ねる魔獣。
「……ウサギ」
「これは、魔獣ウサギだな」
隣で見ていた教師が顎を撫でながら頷いた。
召喚したのは黒いウサギのような魔獣だった。唯一魔物だと分かるのは頭の中心に生えた小さな角だけ。目の前で無垢に跳ねる魔獣を見てイーナは肩を落とした。
「出来なかった事を考えると上出来だな」
「はい……」
「気を落とすな。数日でどうにかしたんだ、自身を褒めるべきだ」
「分かってます、分かっていますけど……何も役にたたじゃないですか」
「そうだな、癒しだな」
このウサギの形をした魔獣は、ただ角が生えた動物だと言って過言ではない。攻撃する事もなければ、戦いの補助をしてくれるわけでもないから、すこし魔力を帯びた愛玩動物である。
実際、ペットとして飼う人もいると聞く。
「今日の授業はできないが、召喚する事はできたから、君は合格だ。また、今度の頑張ってくれ」
「……はい、ありがとうございます」
残念ながら魔物同士を戦わせる授業は見学となるが、今回のノルマは達成したので教師からは合格をもらった。
「とりあえず、よろしく黒兎」
持っていた杖を床に置く。やっと成功させたのに結果がこれとは悔しいが、文句を言っても仕方ないので飛び跳ねていた魔獣をイーナは抱き上げた。
魔獣は抱き上げても大人しく、鼻をヒクヒクと動かすだけで全く危険性がない。ペットとし飼われだけあるとイーナはそのまま抱っこしたまま、教師と共に外に出た。
外では、すでに戦いは行われていて色んな所から、鳴き声や、衝突音、色んな音がする。
教師は監督するために戦う生徒の方に向かい、周りに迷惑がかからない程度の木陰で見学する。
さすが某学園と言われるだけある。そう感心するほどに、召喚している魔物全て屈強で強そうだ。人形もいれば、魔獣の大型種まで召喚している者までおり、魔術の力の差をことごとく見せつけられる。
「ほんとここにいたら、落ち込むな」
この場の唯一の自身の味方、腕の中で収まる黒兎に話しかけた。
「お前には、何言っているか分からないか」
魔物の中には人間の言葉がわかる種族がいるらしいが、それは高等な魔物であって、誰でも召喚できる黒兎のような下等な魔物には関係ない話ーーー、黒い兎はこちらを見つめて首を横に振る。
あれ、今言葉に反応した?
「おい、そこのお前。俺と勝負しろ」
呼ばれてイーナは顔を上げると男子生徒が立っていた。男子生徒の横には、虎のような体格に熊の顔をした魔獣を従え。ニヤニヤとした顔つきで勝負を挑んでくる。
確かに、俺は良いカモだ。大きく鋭い牙と爪を持った魔獣と、ペットとなる小さな魔獣を戦えさせれば、どっちが勝つのかを観なくとも分かる。
弱い奴と戦って楽しいかと思いつつ、そんな勝負を当然受ける事はしない。
「ごめんだけど、今日は見学で」
「はい、はい、そういうのはいいから。戦わせないと授業になんないだろ」
イーナの言葉を遮られ、いつの間にいた男子生徒の友人達によって腕を掴まれてイーナは無理矢理木陰から出された。
腕を抱いていた黒兎は強制的に飛び降りることになり、地面に着地した途端に後ろ足を蹴ってダンダンと音を鳴らす。
「だから、この黒兎は戦えないって」
「はいはい、言い訳はいいから。はじめまーす」
無理矢理、広い場に出されてイーナは拒否するが男子生徒達は話を聞かずに手を上げて勝負の合図をする。
「ほーら、その兎前に出さないとお前が怪我するぞ」
煽るように男子生徒は大型の魔獣を前に出す。今回は生徒同士の勝負が許可されている。勝負にての多少の怪我は勉強とみなされて、校則違反とはならない。
それに優秀な治癒師がこの学園にいるため、『多少の怪我』は死なないギリギリまでなら適応されるという鬼畜なもの。と言ってもそこまでやる生徒はなかなかいないが、目の前の生徒はそうではなさそうだ。
にじり詰め寄ってくる魔獣と目が合い、油じみた汗を流すイーナ。事情を知っている教師を探すが、遠くの方にいるようで姿が見えない。
負けることを知っていて黒兎を前に出す事はできず、イーナは腰に片手を回そうとした時だった。
横から黒く丸い物体が飛んできては、魔獣の前に着地する。
「おい!」
大型の魔獣と対立するのは、細く小さな四本足で立つウサギの魔獣。体格差は歴然で、大型の魔獣の足元にも及ばない。
「おっ、ウサギちゃんやる気か? 良いぜ。行け魔獣、お前の役目を果たして来い」
「やめろっ、こんなのただの無駄な戦いだ」
男子生徒が手を前に出し魔獣に行けと指示する。イーナは止めに入ろうとしたが後ろにいた生徒達によって動きを封じられた。
そして、黒兎は逃げる事はなく後ろ足を蹴り魔獣に飛びかかる。
誰もが分かっていた結果。どっしりと構えていた大型の魔獣の軽い一振りで、黒兎は弾けるように消え去った。
黒い血がイーナの顔には飛び散る。「これで、課題終わり」と目の前では喜び、周りは「よかったな」とニタニタと笑い合う。
分かっていたことなのに、何もできなかった。
「いてッーーーおい誰だよ。俺の足を踏んだのは」
イーナを掴んでいた生徒の一人が少々怒り気味に周りを見たが、知らないと全員が首を横に降った。
「いい加減な嘘を、いって。おい! 誰だよ……蹴って……くるのは」
蹴られたと訴える生徒が下を向けば、目をまんまるとさせてイーナから離れた。
「うッううさぎぃ」
「どうした? 突然、驚いて」
あまりにも驚く生徒を見て、周りも、イーナも下を向けば、そこには目の前で散ったはず黒兎がいた。
周りにいた全員、召喚した者までが、傷一つない黒兎を見て頭を捻る。
「っーーーガッ!」
突如として、雄叫びのような獣の悲鳴が聞こえてきた。その声に驚き一斉に顔を向ければ、大型の魔獣の耳に黒兎が必死に噛み付いていたのだ。
「おっおい、落ち着けっ! そんな奴、すぐに倒せる」
召喚した生徒が宥めるが魔獣は耳を持たず。
振り払おうと暴れる大きな体に周りは距離を取るしかなく。それでも、力の限り暴れたおかげで耳に食いついた黒兎はどこかに吹き飛んだが。
「なぁ、あれ」
誰かが震えた指先で大型の魔獣の頭を指した。頭の上から顔を覗かせているのは、もう一匹の黒兎。一匹が見えたと思えば、胴体にはもう一匹がしがみついていて、さらに足元にはもう一匹が待ち構えていた。
「どんどん、増えてね?」
探せば、探すほど黒兎は増えていく。大型の魔獣も諦めず、黒兎を振り払ったり、潰したりするが、圧倒的に黒兎の増える速度が早い。
「ぎゃあー! 俺の魔物がぁ!」
小さな黒兎によって囲われていく大型の魔獣。召喚した生徒は青ざめて頭を抱える。
数分も経たずに、艶やかな茶色だった毛並みは黒い丸い物体に変わり、鳴き声すら小さくなっていく。
物音すら聞こえなくなった時には、黒い塊は平らとなり沢山の黒兎は四方八方に散っていく。その場には大型の魔獣の毛の一つすらも綺麗さっぱりなかった。
「……えぐっ」
「おえっー」
確かに、胸が悪くなるような光景だった。
イーナの動きを封じていた生徒達は、足元にいる黒兎を見ては喉が締まるように鳴り、イーナから手をゆっくりと離し後退りする。
そして、ある一定の距離が開けば、大型の魔獣を従えていた男子生徒と共に全力で逃げて行く。
何が起きたのか、正確に掴めないイーナ。とりあえず、嫌がらせをしてきた生徒達は去ったので、足元にいる黒兎を抱き上げる。
「何はともあれ、助けてくれてありがとう」
黒兎はブーブーと鼻を鳴らし、どういたしましてと言われているような気がした。
「でも、やりすぎだな。ははっ…………、教師にどう説明しよう」
大型の魔獣を骨まで残さず倒してしまった黒兎。やはり、小さいから言っても魔物という事だろう。
レオンと術を一緒に唱えたあの後、ほぼ気絶状態から数時間でどうにか意識は戻った。へたっている間は、先輩に介抱してもらうという無様な格好を見せてしまった。
忙しい中、時間を割いてもらっているというのに最悪だ。
ーーー、でもそのおかげでなんとなく術の感覚が掴めた気がする。もう少し、自分なりに改良すればどうにかできるかもしれない。
「では、外に行って召喚した魔物を戦わせてみましょう」
と教壇に立つ教師に言われて、唖然とした。今からやるという焦りと、うっかり今日だったことを忘れていた自分にショックを受けた。
「イーナは、とりあえず召喚術を成功させてからだ」
「はい……」
周りは召喚したものを見せ合う中で、イーナの元に教師が直々に近寄ってきてはそう言う。
明日でも、今日でも、成功させなければ先には進めない。皆に教室に置いて行かれるのを焦りつつ、イーナは黙々と術式を描いていく。
円を描いて、羅列する文字は正確に、供物は決して忘れてはいけない。そうして、一つずつ確認作業を終えて、術式を描き終わり、そして杖をもつ。
まずは、深呼吸。
イーナは胸いっぱいに息を吸い、ゆっくりと吐き杖を両手に持ち替えて術式の前に立つ。
この前の感覚を思い出せ、レオンさんが教えてくれた事を発揮するのはここだ。
目を閉じて、杖に魔力を送る。端から端まで行き届いたのを感じてから、イーナは杖の先で術式を小突いた。
すると、杖の先から描いた線は光り、その煌々とした光は全体に広がっていく。
問題はここからだ。火の術みたいに安定させつつ、均等に魔力を送らないといけない。そうしないと、前のように途中で術式が爆発を起こす。
震える杖を抑えて、イーナは術を唱え続けた。強く握った杖から、パキリッと木の弾ける音がすれば、術の光は輝きを増し辺りが白くなる。
ーーーそして、術は成功した。
どうにか成功させたイーナは杖を伝ってその場でへたり込み。白く光る世界から現れたのは一つの黒い影。光を徐々に失い影が正体を表していく。
小さくて、丸っこくて、長い二つの耳もち、足を使って高く跳ねる魔獣。
「……ウサギ」
「これは、魔獣ウサギだな」
隣で見ていた教師が顎を撫でながら頷いた。
召喚したのは黒いウサギのような魔獣だった。唯一魔物だと分かるのは頭の中心に生えた小さな角だけ。目の前で無垢に跳ねる魔獣を見てイーナは肩を落とした。
「出来なかった事を考えると上出来だな」
「はい……」
「気を落とすな。数日でどうにかしたんだ、自身を褒めるべきだ」
「分かってます、分かっていますけど……何も役にたたじゃないですか」
「そうだな、癒しだな」
このウサギの形をした魔獣は、ただ角が生えた動物だと言って過言ではない。攻撃する事もなければ、戦いの補助をしてくれるわけでもないから、すこし魔力を帯びた愛玩動物である。
実際、ペットとして飼う人もいると聞く。
「今日の授業はできないが、召喚する事はできたから、君は合格だ。また、今度の頑張ってくれ」
「……はい、ありがとうございます」
残念ながら魔物同士を戦わせる授業は見学となるが、今回のノルマは達成したので教師からは合格をもらった。
「とりあえず、よろしく黒兎」
持っていた杖を床に置く。やっと成功させたのに結果がこれとは悔しいが、文句を言っても仕方ないので飛び跳ねていた魔獣をイーナは抱き上げた。
魔獣は抱き上げても大人しく、鼻をヒクヒクと動かすだけで全く危険性がない。ペットとし飼われだけあるとイーナはそのまま抱っこしたまま、教師と共に外に出た。
外では、すでに戦いは行われていて色んな所から、鳴き声や、衝突音、色んな音がする。
教師は監督するために戦う生徒の方に向かい、周りに迷惑がかからない程度の木陰で見学する。
さすが某学園と言われるだけある。そう感心するほどに、召喚している魔物全て屈強で強そうだ。人形もいれば、魔獣の大型種まで召喚している者までおり、魔術の力の差をことごとく見せつけられる。
「ほんとここにいたら、落ち込むな」
この場の唯一の自身の味方、腕の中で収まる黒兎に話しかけた。
「お前には、何言っているか分からないか」
魔物の中には人間の言葉がわかる種族がいるらしいが、それは高等な魔物であって、誰でも召喚できる黒兎のような下等な魔物には関係ない話ーーー、黒い兎はこちらを見つめて首を横に振る。
あれ、今言葉に反応した?
「おい、そこのお前。俺と勝負しろ」
呼ばれてイーナは顔を上げると男子生徒が立っていた。男子生徒の横には、虎のような体格に熊の顔をした魔獣を従え。ニヤニヤとした顔つきで勝負を挑んでくる。
確かに、俺は良いカモだ。大きく鋭い牙と爪を持った魔獣と、ペットとなる小さな魔獣を戦えさせれば、どっちが勝つのかを観なくとも分かる。
弱い奴と戦って楽しいかと思いつつ、そんな勝負を当然受ける事はしない。
「ごめんだけど、今日は見学で」
「はい、はい、そういうのはいいから。戦わせないと授業になんないだろ」
イーナの言葉を遮られ、いつの間にいた男子生徒の友人達によって腕を掴まれてイーナは無理矢理木陰から出された。
腕を抱いていた黒兎は強制的に飛び降りることになり、地面に着地した途端に後ろ足を蹴ってダンダンと音を鳴らす。
「だから、この黒兎は戦えないって」
「はいはい、言い訳はいいから。はじめまーす」
無理矢理、広い場に出されてイーナは拒否するが男子生徒達は話を聞かずに手を上げて勝負の合図をする。
「ほーら、その兎前に出さないとお前が怪我するぞ」
煽るように男子生徒は大型の魔獣を前に出す。今回は生徒同士の勝負が許可されている。勝負にての多少の怪我は勉強とみなされて、校則違反とはならない。
それに優秀な治癒師がこの学園にいるため、『多少の怪我』は死なないギリギリまでなら適応されるという鬼畜なもの。と言ってもそこまでやる生徒はなかなかいないが、目の前の生徒はそうではなさそうだ。
にじり詰め寄ってくる魔獣と目が合い、油じみた汗を流すイーナ。事情を知っている教師を探すが、遠くの方にいるようで姿が見えない。
負けることを知っていて黒兎を前に出す事はできず、イーナは腰に片手を回そうとした時だった。
横から黒く丸い物体が飛んできては、魔獣の前に着地する。
「おい!」
大型の魔獣と対立するのは、細く小さな四本足で立つウサギの魔獣。体格差は歴然で、大型の魔獣の足元にも及ばない。
「おっ、ウサギちゃんやる気か? 良いぜ。行け魔獣、お前の役目を果たして来い」
「やめろっ、こんなのただの無駄な戦いだ」
男子生徒が手を前に出し魔獣に行けと指示する。イーナは止めに入ろうとしたが後ろにいた生徒達によって動きを封じられた。
そして、黒兎は逃げる事はなく後ろ足を蹴り魔獣に飛びかかる。
誰もが分かっていた結果。どっしりと構えていた大型の魔獣の軽い一振りで、黒兎は弾けるように消え去った。
黒い血がイーナの顔には飛び散る。「これで、課題終わり」と目の前では喜び、周りは「よかったな」とニタニタと笑い合う。
分かっていたことなのに、何もできなかった。
「いてッーーーおい誰だよ。俺の足を踏んだのは」
イーナを掴んでいた生徒の一人が少々怒り気味に周りを見たが、知らないと全員が首を横に降った。
「いい加減な嘘を、いって。おい! 誰だよ……蹴って……くるのは」
蹴られたと訴える生徒が下を向けば、目をまんまるとさせてイーナから離れた。
「うッううさぎぃ」
「どうした? 突然、驚いて」
あまりにも驚く生徒を見て、周りも、イーナも下を向けば、そこには目の前で散ったはず黒兎がいた。
周りにいた全員、召喚した者までが、傷一つない黒兎を見て頭を捻る。
「っーーーガッ!」
突如として、雄叫びのような獣の悲鳴が聞こえてきた。その声に驚き一斉に顔を向ければ、大型の魔獣の耳に黒兎が必死に噛み付いていたのだ。
「おっおい、落ち着けっ! そんな奴、すぐに倒せる」
召喚した生徒が宥めるが魔獣は耳を持たず。
振り払おうと暴れる大きな体に周りは距離を取るしかなく。それでも、力の限り暴れたおかげで耳に食いついた黒兎はどこかに吹き飛んだが。
「なぁ、あれ」
誰かが震えた指先で大型の魔獣の頭を指した。頭の上から顔を覗かせているのは、もう一匹の黒兎。一匹が見えたと思えば、胴体にはもう一匹がしがみついていて、さらに足元にはもう一匹が待ち構えていた。
「どんどん、増えてね?」
探せば、探すほど黒兎は増えていく。大型の魔獣も諦めず、黒兎を振り払ったり、潰したりするが、圧倒的に黒兎の増える速度が早い。
「ぎゃあー! 俺の魔物がぁ!」
小さな黒兎によって囲われていく大型の魔獣。召喚した生徒は青ざめて頭を抱える。
数分も経たずに、艶やかな茶色だった毛並みは黒い丸い物体に変わり、鳴き声すら小さくなっていく。
物音すら聞こえなくなった時には、黒い塊は平らとなり沢山の黒兎は四方八方に散っていく。その場には大型の魔獣の毛の一つすらも綺麗さっぱりなかった。
「……えぐっ」
「おえっー」
確かに、胸が悪くなるような光景だった。
イーナの動きを封じていた生徒達は、足元にいる黒兎を見ては喉が締まるように鳴り、イーナから手をゆっくりと離し後退りする。
そして、ある一定の距離が開けば、大型の魔獣を従えていた男子生徒と共に全力で逃げて行く。
何が起きたのか、正確に掴めないイーナ。とりあえず、嫌がらせをしてきた生徒達は去ったので、足元にいる黒兎を抱き上げる。
「何はともあれ、助けてくれてありがとう」
黒兎はブーブーと鼻を鳴らし、どういたしましてと言われているような気がした。
「でも、やりすぎだな。ははっ…………、教師にどう説明しよう」
大型の魔獣を骨まで残さず倒してしまった黒兎。やはり、小さいから言っても魔物という事だろう。
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