学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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10 黒兎の扱い

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授業は無事に終わったものの、スズランから色々聞いて不安で仕方ない。一番問題なのが黒兎の事だ。自身が食われるのはまだ良いが、他人を巻き込むとなれば話が違う。
言っていた一箇所に集めて焼くのは、散ってしまった以上あまり現実的ではない。
まずは、一匹でもいいから黒兎をコントロールする事から始めようと、イーナは黒兎を抱えながら廊下を歩いていた。

「お前!」

真っ赤な顔。苛立ちに足音をたて、指先を震えさせながらこちらに向かってくるのは、先程大型の魔獣を従えていた男子生徒。偶然にも鉢合わせてしまった。

「さっきはよくも恥をかかせたな。お前のせいで周りに笑われた」

咎めるように、強く指してくる。恥をかいたと怒ってくるが、最初に仕掛けてきたのはそちらであり、黒兎を下に見て勝手に負けたのもそちらであると、イーナは言葉にはしなかったが表情を歪めた。

「今度、おなじ……こと……を」

言葉は途切れ、何故か目線が上の方にずれていく男子生徒。そして、血が上っていたはずの顔色はみるみると、青くさせては目が泳ぎ出す。

「ひぃッ」

喉を引きつかせる男子生徒。どうしたのかを問う前に男子生徒は、後ろを向いて走り去ってしまった。
会話する暇もなかった。といって面と会話していても喧嘩腰になっていただろうと、逃げていく背中に安堵する。

「イーナ」

次は後ろから声が聞こえた。声のする方に振り返ってみると、レオンがこちらに歩いてきていた。

「こんにちわ、レオン先輩。この前はありがとうございます」
「うん、こんにちわ。それより、どうだった今日の授業。聞いたけど、召喚術だったらしいね」
「えっと、それが」
「……やっぱり、ダメだった。もう少し突っ込んで教えていればと思っていたから」
「いえ、レオン先輩の教え方は完璧でしたから。そのおかげで……成功? したのか……、どうだろう」

形はどうあれ召喚術には成功した。とりあえず、レオンに結果を伝えるために黒兎を自身の目線と同じ高さに上げる。

「魔獣兎……かな? すごいじゃないか。成功したんだね」

レオンは術を成功したことを褒めてくれるが、イーナは居心地が悪かった。その浮かない顔にレオンは首を傾げる。

「どうしたの? もしかして何かを言われた」
「いや、言われたとかでは無くて……少しご相談いいですか」

返事は勿論聞くよ。腰を落ち着けるためにも場所を変える事にした。

生徒がいない方が話しやすいだろうと、レオンに提案され校舎の外にある小高い丘に案内された。
辺りは草原が広がり、遠くの方には山が見え。爽やかな風が舞い込んできては、花をサラサラと揺らす。
普段はここで戦いの演習に使ったりするが、今日はそのような授業はないので、ただ静かな草原である。
二人はそこに座り、イーナは一連の黒兎の事をレオンに話す。

「なるほどね。確かに、だいぶトリッキーなものを作り上げたね。無限増殖だけならまだ良いけど、攻撃性が有るとなると話が変わってくる」
「そうなんですよ。人を殺しかねないと言われたので、どうしようかと悩んでいて。色々試したい気持ちはあるんですが、それで大きな事になったらと思うと……余計に何も思いつかなくて」
「うーん、確かに。黒兎は指示していないのに動き出し、戦った。それはイーナが思うように指示が通っていないってことだから、扱いは気をつけないといけないね」
「……はい、そうです」

空が青いな、遠い目しながらイーナは遠くの景色を見る。話を聞いたレオンは、徐に黒兎を抱き上げた。

「普通は主人以外に抱き上げられたら、攻撃とみなす魔物は多いのだけど、黒兎は特に反応ないし、判別できるくらいには知能はあるのかな」

黒兎は鳴くことなければ大人しく、レオンの腕の中で収まっている。大型の魔獣と戦った時とまるで違う。戦っている時は牙を剥き出し獰猛な獣だったが、今は草原をモシャモシャと食べる可愛らしい兎。

「どう見ても、無害なんだけどな」

どうしたら良いのだろうか。そんな表情をしながらレオンが黒兎を地面に下ろすと、黒兎は跳ねてイーナの膝の上にまた戻っては丸くなる。

「何よりも、こちらの指示が通らないと話が始まらないね」

レオンが指先を鳴らすと、何もない空間から精霊が姿を現し、聞き取れないほど小さな声で何かを呟いては、再び指を鳴らすとレオンの手の中には笛が現れた。
長細く小さな金属の笛、どこも変哲のないその笛をイーナに手渡す。

「それだけの知能があるなら、試しに笛で指示するのはどうかな。笛の合図なら、大勢をまとめられるはず」

物は試し。レオンの提案に頷き、イーナは立ち上がり黒兎に一度吹いたら集合だからと説明してから、笛を高く吹いてみた。
吹いた途端に、丘の向こうから黒い点が一斉に集まってきてはこちらに向かって走ってくるのが見えた。それが何であるか見なくとも分かっているが、予想以上の反応にイーナの目は点になる。

いや、こわっ

何とは言わないが、ーーー数えていられないほど、足元にわらわらと集まってくる黒兎。あまりの集まりにレオンも驚いたようでその場を立つ。

「ーーー、これは、すごいね。これで全部なのかな」
「たぶん……すいません、わかんないです」
「それもそうなるよね。見ていても、個体差がほぼないから」

その場に大人しく座り、耳を立てて上を見上げる黒兎達。

「指示を待っているんじゃないかな」
「えっ、そうなんですか。でも、今指示することなんかないし」

急には思いつかない。そう言葉にすれば、黒兎は一匹を残して一斉に散っていく。
嘘だろと思った時は、遠くの方に黒い点は移動していた。

「ちょっと、なんで。去るのも早すぎないか」
「あー、なるほど。やる事ないと分かったから去ったのもあるけど、たぶん燃やされると思ったんじゃないかな。こちらの言葉が完全に理解できるし」
「ハッ」

黒兎の目の前で散々話していたことを思い出し、イーナは口をワナワナとさせた。黒兎達が、指示を聞かない理由が分かったからだ。

「笛で集まるのが分かったことだから、これから、ゆっくりやっていこうね。黒兎の信頼を取り戻すためにも、俺も手伝うから」
「せんぱいぃ、ありがとうございます」
「一応教えた責任あるし、特訓あるのみだね」
「はい」

やっぱり、優しい先輩だ。でも、何かを忘れているような。

「そういや、その黒兎の話をしたのは白い精霊を従えて子かな」
「えっと、そうです。スズランって人が教えてくれて、よく分かりましたね」
「なんとなくだよ。一応、知り合いだし、それだけ詳しく話せる生徒は学園では少ないから」
「スズランさん、やっぱりすごい人なんですね。もし、忠告してもらわなかったら……また、会った時に礼を言わないと」
「うん、そうだね」

レオンは少しだけ歯切れ悪く頷いた。少々不思議に思ったがイーナは授業の時間が迫っていたので、学園の方に戻ることにした。

「では、先輩これで」
「うん、また明日」

ここに残るとレオンは言ったので頭を下げてから、イーナは黒兎と共に丘を降りていく。

「アイツ、面倒なことを。複雑な術式をわざと組んだな」

笑顔で手を振るレオンの独り言は、イーナにはもう聞こえず。そして、自身の黒く焦げた指先をレオンは冷たく見つめた。











毎日の日常。自室に帰ってきたら電話を持ってベッドに座り、弟に今日あった出来事を話す。
 
「ほんと、兄さんらしい話だね」

受話器から聞こえてくるのは、落胆のため息と小馬鹿にしたような鼻息。親愛なる弟だとしても、さすがに苛立ちを覚える。

「何が言いたい。返答次第では怒るからな」
「だって、昔からそうでしょ。思った通りにいかないというか、さらに上のことをやらかすよね」
「やらかすって……褒めてないな」
「もちろん、褒めてないよ。それで何度危険な目に遭ったと思っているの、兄さん? 死にそうなこともあった」
「はいはい、すいません。今回もどうにかしますから」
「本当にどうにかなるかな。こっちに帰ってくる前に、紐は解いておいてよ。絶対に面倒なことになるから」
「お前、年々口うるさくなってないか」
「そう? じゃあ、兄さんに似てきているのかも」
「……っお前嫌い」
「俺は好きですよ、兄さん」

年々、口が上手くなる弟。よちよちと後ろをついてきた頃が、薄れゆく遠い記憶のようになっていく。

「えっと……スズランさん? その人が言っていたように、兄さんは、能力はあるけど魔術師としての常識がないから気をつけて」
「ほんと、言う時は言うよな」
「これだけ厳しく言っても、やる時はやるから、頭の隅に留めるくらいはしてください」

何かを言い返したい気持ちはあるが、そのせいで巻き込んできた弟に反論できる言葉はなかった。でも兄としてのプライドが、素直に「はい」とは言えず無言になる。

「兄さん……たくっ、こう言う時は返事しないんだから。どうでもあろうと充実した日常を送っていて何よりです。レオンさんに会って良かったですね」

確かにレオンに会ってからと言うもの、色の無かった日常が良くも悪くもはっきりと色付いた。術が変な方向に進んだり、変な人には絡まれたりと、楽しいとは言えないが、自分はやっと学園に行っていると強く思える。

「なんだか、あの人に会ってから、なんか運が向いた気がする」

拾ってメガネをかけてくれた恩人。レオンの事を改めて考えてみると。

「そうか。俺、結構あの人の事が好きなのかも」
「それは良かった。良い人に出会ったね」

弟がふんわりと笑う。
うん、そうだ。良い人、悪い人なのか、分からない時もあるけれど。それでも、話しかけられて嬉しいのは、単純に人として好きだからだ。
言葉で表せた途端に、胸の内にあった付きものが取れていく。そうか、こんな単純な話だったのだ。

「やっぱり、お前と話すとスッキリ」
「言っておくけど、俺はお悩み相談電話窓口じゃないからね」




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