学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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小さな休憩を終えたイーナは再び教室に戻り、術の練習をしていた。

「あんていさせる、あんていさせる」

声に出しながら、目の前で燃え盛る炎に魔力を送る。杖を持った手は熱く、重く、魔力が術式に回っていくのを感じる。

「ダメだ……」

燃えていたはずの火は小さくなり、消えていく。火を出すことには慣れてきたが、灯し続ける事がなかなか出来ずにいた。
2日、3日で出来ることなら悩む必要はないとイーナは肩を落とす。少しは進歩した事を褒めよう。焦っても仕方ないので、杖を一度下ろして焼きごけた術式を引き直すことにした。

「頑張っているね」

背後からの声に心臓が飛び抜けそうなくらいにイーナは体を揺らしては、震える手で杖をギュッと握り体を反対に向けると、隣でひし形のピアスが揺れる。そこにはレオンがいた。
イーナは渇いた笑みが溢れ出る。

「レオンさん、驚かさないでください。いつの間にいたんですか」
「ごめん、ごめん。夢中だったから話しけるのを躊躇してしまったんだ」

軽く謝るレオン。
用があると出て行って、すぐ帰ってきたレオンに本当に用事を済ませてきたのか、不信な目で見つめていたら、「大丈夫、もう済ませてきたから」とレオンは返してきた。

「ーーーやっぱり、難しい?」

使い切った術式を見ては、レオンはこちらに距離を詰めてくる。

「なかなか、感覚が掴めなくて」
「じゃあ、一度感覚を手にすれば理解できるんじゃない」
「えっと、それは……」

イーナは言葉を詰まらせる。一度でも成功すれば真似が出来るのだが、そもそも悲しいことに、そこまで到達する事ができていない。

「うん、だから。体に触れてもいいかな」
「……なんで?」
「感覚がわからないんでしょ? だったら、君に魔力を送って、一緒に術を唱えるのはどう」
「そんな事が出来るのですか」
「うん、出来るよ。言ってしまえば、君を杖にする感覚だね」
「つえ……」

自身が杖のように扱われるのは素直に頷きにくいが、その感覚が一度でも味わえるならと好奇心と探究心の方が勝ち。

「お願いしてもいいですか」
「分かった。とりあえず、術式を引き直そうか」

レオンは地面に描かれた術式を指先で一度鳴らすだけで消し、再び術式をイーナは自ら描き直していく。

「書き終わったらジャケット脱いで、密着面積を出来るだけ増やしたいから」

脱がないといけないのかと躊躇していると、横で顔色一つ変えずジャケットを脱ぐ先輩は至って真剣であり、羞恥心を感じる自身の方が、雑念があるようだ。
だから、レオンを問い詰めることはやめた。

「よし、出来た」術式を描き終わり、ジャケットを脱いでシャツ姿となり準備は完了し、あとは杖を持って前に立つだけ。

「術式の前に立って、後ろから抱きつく形になるけど大丈夫?」
「もちろん、大丈夫です。心の準備出来ていますから」
「はは、肩の力は抜いてね」

イーナは杖を両手で持ち術式の前に立ち、レオンはイーナの後ろから軽く覆い被さる。
そして、大きな手は腕を辿りイーナの手首を掴んだ。
背中から他人の心臓の音が伝わってくる。耳元で違う息遣いが聞こえて、レオンがすぐ後ろにいる事を理解しながらも杖に魔力を行き渡らせていく。

「そのまま、動かず」

ジャケットを脱いだ分、温かい体温が伝わってきて意識がそちらに逸れてしまいそうになり、必死に抑えて目の前の術に集中する。

「ひっ」

それを嘲笑うかのように、手首を掴んでいた片手がシャツをめくり、腹を触る。

「あのっ」
「落ち着いて、術に集中して、手は当てるだけだから」

低い声が耳元で囁いてきては、手を当てられた腹がズンっと重くなるのを感じた。
なんとも言えない気持ち悪さがある重みに集中しろと言われても、脳内に雑念が湧いてきて注意が散漫になる。それでも気持ちをぐっと抑えて、目の前の事だけを考えて無理矢理でも意識を持っていく。
そうしている内、中から外に伝わるように体が熱くなり、杖の先まで魔力が回る。
術式目掛けて杖を振れば、再び火が天井まで燃え盛る。ここまではイーナもできる事。

「よし、いい子。そのまま、送り続けるのをイメージして」

軸が揺れるように杖が震える。ここで本来なら火は揺らぎ小さくなって消えていくが、天高く火は燃え続けていた。
ずっと出来なかった事が、易々と出来てしまう事に口が勝手に開く。中がジワリと熱く、手がずっしりと重い、先程はまるで違う感覚。すごい、最強の魔術師が魔力を送っていると実感する。


「こんな感じかな。どう、感覚は掴めた?」
「なんとなくですけど、掴めましたっ……あれっ?」

火を小さくしようと力を弱めた時だった。メガネを掛けているはずなのに、目の前の輪郭が歪みゆらゆらと横に揺れる。
 
「なにがっ……? 起きて」

力が勝手に抜ける、強く握っていた筈の杖は手からこぼし、地面に転がっていく。赤く燃えていた火は、一瞬にして消えた。

ーーー立っていられない。

2本の足はただの棒とかして、崩れるように倒れる。
地面に頭をぶつける前にレオンがイーナの手首を取って阻止する。
イーナは座り込み、レオンに手首を掴まれて腕を上げた状態となった。
みっともない格好だがそれすらも言葉に出来ず、酸素を求めて息をし、開いた口からは涎が垂れていく。

「れっおんせんぱいっ、まりょくこつかつっ?」
「術を唱えて魔力が枯渇した訳じゃないよ。その逆、緩和状態だね」
「かんわ?」
「コップに入っている飲み物でいうなら、注ぎすぎて溢れかえっている状態になっている。ごめんね、魔力を送りすぎたみたい」
「?」

魔力の緩和? 駄目だ、何も考えられない。音がぐわんぐわんと何十にも聞こえてくる。渦の中にいる気分だ。
見上げて理解できるのは、先輩のニコニコとした笑顔だけ。

「うん、これくらいなら大丈夫そうだね。でも、無理はダメだって聞くし、次はもう少し弱めるよ。時間はあるからゆっくりじっくりやらないとね」
「せんぱいっ?」
「ううん、イーナにはまだまだ関係ない話だからね。心配しないで、手はまだ出さないよ。ってこの声ももう聞こえないと思うけど」

レオンはイーナの手首を持つのをやめ、倒れいく体を腕の中に閉じ込めた。

「数時間もすれば治るから」

横抱きに変えて、イーナのこめかみにキスをする。キスをされてもイーナの頭は理解できず、メガネを触れる。レオンに何かを伝えなくてはいけないのに、それを忘れて抱っこされるまま。

「僕のイーナ……可愛いよ」

隙間から見える青い瞳。ネトネトした水飴のような声で囁かれて、ゾクリッとイーナの体は震えた。イーナは何故震えたのかは、理解はできていない。
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