学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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6 術の練習

「うお、火が出た」
「そうそう、そんな感じで力を保って」

術式を描いた地面から小さな火が出てきた。
ここは術が練習できる教室となっている。広い部屋の一体には特殊な術がかけてあり、結界のように決して術が部屋から漏れ出すことはない。
そして、約束した次の日にさっそく、イーナはレオンに術を教えてもらっていた。

「杖の端から端まで魔力が行き渡るのを感じて」

言われた通りにイメージし、目を閉じて集中する。手に持っている杖がどんどん暖かくなるのを感じ、杖の先端に火が集まっていくのが浮かぶ。
その感覚を掴み、杖を一振りすれば、目の前の火がさらに燃え盛り天井に到達する。

「すごっ……」
「いい感じ、その感覚を保つ事ができれば、召喚術が出来るはずだから」

大きな火はすぐに小さくなっては、消えていく。魔力を均等に回しつつ、安定させるのは難しいということだ。
それでもレオンの教え方は下手な教師より上手いという。事実、なかなか出来なかった火の術が出来てしまった。

「そろそろ移動のお時間になります」 

部屋の端で待っていた黒いスーツを着た男が足音を立てずに近づいては、レオンに淡々とそう言う。彼はレオンの付き人と兼、護衛だと聞いている。

「……遅らせてもいいだろ」

レオンは振り返り、表情は見えないが不満である。

「それは困ります。貴方に行ってもらわないと意味がありません」
「そもそも、行きたくないんだけど」
「文句はお父上にお願いします。私は貴方を連れて来いと言われているだけですので」

二人の間で空気が重くなるのを感じ。

「あの! 俺はさっきの術を復習したいのでどうぞ行ってください。えっと、レオン先輩、今日はありがとうございます。明日もよろしくお願いします」

頭を下げて割入ると「せんぱい……」とレオンは噛み締める様に言っては口角が上がっていた。
こちらに改めて向き直り、機嫌が良さそうなレオン。

「そうだね。じゃあ、今日はここまでにして、明日にしよう。明日の時間帯は今日と同じでいいかな」
「はい、お願いします」

明日も付き合ってもらえる事を確約してもらい、レオンは黒服の人と去っていく。
部屋の扉が閉まる頃に丁度お腹が鳴り、休憩がついでにイーナは食堂に向かう事とした。





昨日は人が多くて入れなかったが、今日は、3時もあって楽々と入れしまう。
何しよう。全校生徒が扱うため広々と豪華内装の食堂。ウキウキしながらカウンターにメニューを見に行く。いつもの定番もあれば、季節の合わせたものまで、色々あって悩む。

「今日は新鮮なイチゴが入りましたので、おやつのショートケーキはどうですか」

カウンター向こうの店員がキラキラとした笑顔で勧めてくる、甘いもの。
 
ショートケーキとは、生クリームとイチゴをスポンジで挟み。外側を生クリームでコーティングした後にイチゴをのせたケーキ。甘さがある生クリームと酸味があるイチゴが絡み合い、いくらでも食べられる一品である。
 
とイーナは、特に甘いものに目がなかった。これは必要経費だと自身を黙らせ、店員におすすめされるままに指して注文する。

つい、頼んでしまった。

トレーの上にのるのは、ショートケーキと紅茶。本当は、腹持ちがいいもの頼みたかったが誘惑に勝ってなかった。
補助金があるとはいえ、無駄なものまで頼めるお金はないというのに。後悔しても頼んだ後、食べるしかなく席に着く。
その席は四人席なのだが、人が空いているので一人で伸び伸びと座れる。
次の授業まで時間が空いているので、ゆっくりと食べようとフォークでケーキを刺した時だった。

「近づかないで、もらえるかな」

女子生徒三人が恐ろしい顔してこちらに近づいてきたと思えば、一人がバンッと手のひらで机を叩いた。
揺れる机。紅茶は波打ち少しだけ溢れ、イーナは慌ててケーキを引き上げた。
机の向かいにいる女子生徒三人をイーナは全く知らないし、出会ったこともない。

「えっと、どちらさんですか」
「そんな事はどうでいい! 手紙なんかを渡して、レオン様に近づくなと言ってる」

先程机を叩いた二つくくりの女子は両手をついては、再び机を揺らす。
 
「ここのルール分かってる? アンタみたいな平凡が近づいていい人じゃない。そんな事もわからないの」

問い詰めてくる女子生徒たち。同級生すら話す機会が持てなかったイーナが、そのルールを知るはずもなく。自身は、どうやら超えてはいけないラインを土足で踏んでしまったようだ。

「えっと、レオンさんのお友達で?」
「どう見たら、そう思える」
「えっ? じゃあ、貴方達はなんですか。友人でもないんですか」
「はぁ? あの…….それは……あれ。守り人みたいな、えっと」

二つくくりの女子は関係を訊くと途端に歯切れを悪くなる。「カナリアちゃん、今それ関係ないから」と隣の女子生徒に腕をゆすられる。

「とーにかく、レオン様に近づかないで……、というか話を聞きながらケーキを食うなぁ!」

時間が経つほど生クリームが溶けるので仕方がない。うん、やはりケーキは美味しい。

「いや、ですね。ほんと嫌な人達。知らない他所様に強く当たるなんて、地が知れていますね。嫌だ、嫌だ」

嫌味たらしく横から近づいてきたのは、またまた三人の生徒だった。イーナはその三人の生徒の顔は知っていた。
昨日、スズランという人にぶつかった時に駆けつけてきた三人組だ。

「はぁ? よく言うわよ。偶然ぶつかった奴に対して制裁だ、なんだって、言って怪我させてたじゃない」

すかさず、その三人に歯向かうために、三人の女子は振り返った。

「彼がわざとスズラン様に当たったのです。二度と行われないために、必要な事でした。私たちは安寧と平和を願っているのです」
「結局は暴力に任せている時点でお察しね。私達は注意だけど、貴方達は暴力。どっちの方が、地が知れるかしら」

二つのグループはバチバチと視線をぶつけ合い、敵対する。聞いている通りなら、レオンの知り合いとスズランの知り合いが、喧嘩しそうで、そうとう仲が悪いという事だ。
大変そうだなと、他人事なので目の前にあるケーキを切り分けは食べる。

「どけ、ここは食堂だ。喧嘩をするなら、外でしろ」

トレーを持ちながら割入ってきては、真向かいに座ったのはロタリオだった。どちらともよくない人物だったようで「げっ」「……っ」と苦虫を噛み潰したような声を出す。
そして、二つくくりの女子が、牙むき出しロタリオの前に出て来た。

「ロタリオ……っよくも私の前に顔を出せるな」
「言っておくが今回の件もだが、レオンが悪い。挑発したのは相手だったとはいえ、やり過ぎだ」
「やり返してはダメだと言っている? それをおかしいと思わないわけ」
「防衛することはダメだとは言っていない。圧倒的な差があるというのに、アイツは問答無用で振り下ろした事が問題だ。建物損壊、病院送り、過度の追撃、まだ話すことがあるか」
「だとしても相手より処罰が多いって、どういうことか説明して欲しいところだけどね。この事を貴方と話しても埒が明かない」

フンっと鼻息を鳴らす二つくくりの女子は、踵返しては食堂から出て行くので余った二人は慌ててはついて行った。
「お前達も何かようがあるか」とロタリオがスズランの知り合い達を睨むと、三人は青ざめて後退りをする。
「なんでもないです」と言って食堂から三人は逃げた。

「ロタリオさん、この前はありがとうございます」

レオンの元まで案内してくれたロタリオ。しかし、紫紺の瞳は薄め、なんとも言えないと片頬を引きつらせる。イーナはロタリオとレオンと何かあったのではと訊いてみると、違うと首を横に振られ。

「実は……アイツの元まで君を案内した事を後悔していてな。さきほどもそうだが、トラブルに巻き込んでしまって申し訳ない」

なんとなく嫌な予感はしていたとロタリオは頭を下げられ、誰かに頭を下げられる様な事態にはなっていないので、イーナは手を横に仰ぐ。

「いやいや、大丈夫ですよ。ただ、あちらは注意しただけですし、ロタリオさん関係ありませんから」
「そうだが……あの集団」
「彼女達と彼らは学園では有名なんですか」
「有名というか、厄介者というか。まともな生徒は関わらない方がいい人間だな。なにより、レオンが、どうしても怪しくて。いつも、違う反応だったし……」
「レオンさんが、ですか。レオンさんは良い人ですよ。こっちの間違えをフォローとか、術を教えてくれますし」

良い先輩だと言おうとした時に、ロタリオの瞳は小さな点となり口は大きく開いては、誰の話だと言いたげだった。

「えっと、レオン先輩の話ですよね。黄色い頭の青い目の人ですよね」
「そっ、そうだ、同じ人物のはずだ。あまりにも有り得ない事を言うから少し驚いた」
「そんなにおかしいですか」
「おかしいもなにも……いや、憶測はやめよう。とにかく、何かあれば、前にも言ったがこちらを頼ってくれ」
「ありがとうございます」

イーナはケーキを持ちながら頭を下げる。俺が嫌なら別の者に相談するなどしてくれと、再び念を押されてこの話は終わった。
ため息を吐くロタリオ。聴いている感じでは、厄介な人に会い、厄介な集団に目をつけられ、いつのまにか自分は渦の中心に来ていたようだ。
面倒だなと思いながらも、イーナは紅茶を啜る。

そのあと、ロタリオと世間話を挟みながらイーナはケーキを完食した。
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