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一緒に居られるだけで
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お昼ご飯を食べて、繁華街をブラブラと歩く。
斗希くんが立ち止まるたびに僕も足を止め、入る店について行っては出るまで端で待つのももう慣れた。
でも、これだけは何度遭遇しても慣れそうにない。
「ねぇねぇ、君1人? 今からカラオケに行くんだけど、一緒にどう?」
「お兄さん何してるの? 暇なら遊ばない?」
「あの、お時間ありますか? 良かったらそこのカフェにでも⋯」
僕が後ろにいるからか、僕に気付かず斗希くんをナンパする女の人が後を絶たない。救いなのは斗希くんが無反応な事なんだけど⋯僕がちゃんとした恋人なら割って入れるんだけどな。
「ね、今度はあのお店行こうよ」
「この間言ってたとこ?」
「うん」
「いいよ。どの辺りだっけ」
「確か駅近くだったかな」
ふと擦れ違ったカップルの話が耳に入ってきた。
仲睦まじいやり取りを羨ましいと思わない事もないけど、こうしてデート出来るだけでも幸せだからいいんだ。こうしてる間は、僕が1番斗希くんの近くにいられるから。
あ、そういえばこの通りって、僕がよく行く雑貨屋さんがあるところだ。
「斗希くん」
「ん?」
「少し行ったところに雑貨屋さんがあるんだけど、寄ってもいいかな」
「⋯好きにしろ」
「ありがとう」
デート中、僕はあまりどこに行きたいとかは言わないんだけど、行きたい時に聞けば斗希くんはダメとは言わない。たまに見せてくれるこういう優しさが嬉しくて、笑顔でお礼を言えばふいっと顔を逸らされる。
いつもの事だしと先に立って歩き一足先に雑貨屋さんに入ると、斗希くんも僕のあとに続いてきた。
このお店に売ってる雑貨はシンプルでモノトーンが多く、統一感が出しやすい。
ペン立て、もう少し大きいの欲しいと思ってたんだよね。
「んー⋯これは大きすぎるかな。⋯あ、こっちは回転するんだ」
手に取って周りを見てみたり、大きさを比べてみたりしながらどれにしようか考えてたら、不意に斗希くんの気配が近付きビクリと肩が跳ねた。
「外いる」
「あ、う、うん。僕もこれ買ってすぐ行くね」
「ゆっくり選べば」
やっぱり退屈だったかなと今手に持ってるペン立てに決めようとしたら、それが取り上げられて棚に戻される。そのまま僕に背中を向けて、女の子たちの視線を浴びながら斗希くんはお店から出て行った。
確かにまだ全部は見きれてなかったけど⋯。
待たせるのは申し訳ないし、大きさと形だけで考えて早く戻ろう。
結局あのあと5分はかかったけど、ちゃんと気に入った物が買えてホッとした僕は足早にお店を出て斗希くんに声をかけようとした。でも外にいるはずの斗希くんの姿が見えなくて、あれ? と目を瞬く。
ゆっくり選べばって言ってたから、もしかしたら時間を潰す為に今は離れてるのかも。
そう考え、近くにコンビニがあった事を思い出した僕は念の為見てみようとそこまで足を運ぶ事にした。
時間的には3分もかからなくて、ここを曲がればコンビニだと曲がり角を進んだ瞬間目に入った光景に慌てて引き返す。
「ってかさ、斗希1人でブラついてんだったらうち来ない?」
「今から材料買ってタコパするんだけど」
「え、斗希が来てくれるなら嬉しい!」
登校時、いつも一緒にいる友達数人が斗希くんを囲んで話してる。
確かさやかさん⋯だったかな? 彼女は表情を明るくして斗希くんの腕に抱き着き、甘えた様子で「行こ行こ」って誘ってて⋯傍から見たらあの2人が恋人みたいだ。
友達に誘われてるし、デートはおしまいかな。
「斗希来るんならタコ焼きだけじゃ足らないな」
「惣菜買えばいいんじゃね?」
「それもアリか。斗希、何食いたい?」
「行かねぇよ」
「え!?」
あれ? 行かないの?
覗き込んでもバレないよう角ギリギリで話を聞いてるんだけど、断るところは初めて見たからさやかさんと同じような反応をしてしまった。
「何で? もう帰るだけでしょ? 行こうよ」
「うるせぇな」
「やだ、斗希がいないとつまんない!」
「連れがいるんだよ」
さやかさんはよっぽど来て欲しいのか可愛らしく頬を膨らませる。
だけど斗希くんの言葉を聞いて大きく目を見瞠ると、辺りを見回して首を傾げた。
「どこにもいないけど」
「別行動中」
「なら連絡して、もう帰るって言えば良くない?」
確かに、行く気があるならその方が手っ取り早い。でも斗希くんは溜め息をつくと、腕を上げてさやかさんの手を解き遠目にも分かるくらい冷たい目を向けた。
僕だって、あそこまで怖い顔をされた事はないってくらいの。
「何でお前に指図されなきゃいけねぇんだよ。いちいち口出すな」
「そ、そんなつもりじゃ⋯」
「うぜぇ」
そう吐き捨て友達に背中を向けた斗希くんがこっちへ歩いてくるのが見えて、僕は慌てて来た道を引き返し雑貨屋さんまで戻る。
1度中に入り、さも今買い終わりましたよ風を装って外に出るとちょうど斗希くんが入口まで来たところだった。
「あ、斗希くん」
「終わったか」
「うん。待っててくれてありがとう」
「⋯行くぞ」
珍しく先へ促してくれるのはさっきの事があったからかな。というか、まさか斗希くんが僕を優先してくれるなんて思わなかった。てっきり友達と行くと思ってたし。
嬉しくて、最初よりも少しだけ近くを歩いたけど何も言われなかった。
日が落ち始めた頃、バイトの時間だという斗希くんと駅前で別れ、家へと帰った僕はさっそく机の上に新しいペン立てを並べ、元からあった物と入れ替える。
これだけ余裕があれば新しく増えても入りそう。
(それにしても、今日は楽しかったな)
たくさん斗希くんの顔が見れたし声も聞けた。
月曜日からはまた登校時に遠くから見るしか出来なくなるけど、今日を思い出せばしはらくは寂しいって気持ちも薄れるはず。
僕はスマホを手にして斗希くんの名前をタップすると、『デート楽しかったよ、ありがとう』とメッセージを送った。返事はないって思ってるからそのまま机に置いて、夕飯の準備に取り掛かる。
今日はいい夢が見れるかもしれない。
斗希くんが立ち止まるたびに僕も足を止め、入る店について行っては出るまで端で待つのももう慣れた。
でも、これだけは何度遭遇しても慣れそうにない。
「ねぇねぇ、君1人? 今からカラオケに行くんだけど、一緒にどう?」
「お兄さん何してるの? 暇なら遊ばない?」
「あの、お時間ありますか? 良かったらそこのカフェにでも⋯」
僕が後ろにいるからか、僕に気付かず斗希くんをナンパする女の人が後を絶たない。救いなのは斗希くんが無反応な事なんだけど⋯僕がちゃんとした恋人なら割って入れるんだけどな。
「ね、今度はあのお店行こうよ」
「この間言ってたとこ?」
「うん」
「いいよ。どの辺りだっけ」
「確か駅近くだったかな」
ふと擦れ違ったカップルの話が耳に入ってきた。
仲睦まじいやり取りを羨ましいと思わない事もないけど、こうしてデート出来るだけでも幸せだからいいんだ。こうしてる間は、僕が1番斗希くんの近くにいられるから。
あ、そういえばこの通りって、僕がよく行く雑貨屋さんがあるところだ。
「斗希くん」
「ん?」
「少し行ったところに雑貨屋さんがあるんだけど、寄ってもいいかな」
「⋯好きにしろ」
「ありがとう」
デート中、僕はあまりどこに行きたいとかは言わないんだけど、行きたい時に聞けば斗希くんはダメとは言わない。たまに見せてくれるこういう優しさが嬉しくて、笑顔でお礼を言えばふいっと顔を逸らされる。
いつもの事だしと先に立って歩き一足先に雑貨屋さんに入ると、斗希くんも僕のあとに続いてきた。
このお店に売ってる雑貨はシンプルでモノトーンが多く、統一感が出しやすい。
ペン立て、もう少し大きいの欲しいと思ってたんだよね。
「んー⋯これは大きすぎるかな。⋯あ、こっちは回転するんだ」
手に取って周りを見てみたり、大きさを比べてみたりしながらどれにしようか考えてたら、不意に斗希くんの気配が近付きビクリと肩が跳ねた。
「外いる」
「あ、う、うん。僕もこれ買ってすぐ行くね」
「ゆっくり選べば」
やっぱり退屈だったかなと今手に持ってるペン立てに決めようとしたら、それが取り上げられて棚に戻される。そのまま僕に背中を向けて、女の子たちの視線を浴びながら斗希くんはお店から出て行った。
確かにまだ全部は見きれてなかったけど⋯。
待たせるのは申し訳ないし、大きさと形だけで考えて早く戻ろう。
結局あのあと5分はかかったけど、ちゃんと気に入った物が買えてホッとした僕は足早にお店を出て斗希くんに声をかけようとした。でも外にいるはずの斗希くんの姿が見えなくて、あれ? と目を瞬く。
ゆっくり選べばって言ってたから、もしかしたら時間を潰す為に今は離れてるのかも。
そう考え、近くにコンビニがあった事を思い出した僕は念の為見てみようとそこまで足を運ぶ事にした。
時間的には3分もかからなくて、ここを曲がればコンビニだと曲がり角を進んだ瞬間目に入った光景に慌てて引き返す。
「ってかさ、斗希1人でブラついてんだったらうち来ない?」
「今から材料買ってタコパするんだけど」
「え、斗希が来てくれるなら嬉しい!」
登校時、いつも一緒にいる友達数人が斗希くんを囲んで話してる。
確かさやかさん⋯だったかな? 彼女は表情を明るくして斗希くんの腕に抱き着き、甘えた様子で「行こ行こ」って誘ってて⋯傍から見たらあの2人が恋人みたいだ。
友達に誘われてるし、デートはおしまいかな。
「斗希来るんならタコ焼きだけじゃ足らないな」
「惣菜買えばいいんじゃね?」
「それもアリか。斗希、何食いたい?」
「行かねぇよ」
「え!?」
あれ? 行かないの?
覗き込んでもバレないよう角ギリギリで話を聞いてるんだけど、断るところは初めて見たからさやかさんと同じような反応をしてしまった。
「何で? もう帰るだけでしょ? 行こうよ」
「うるせぇな」
「やだ、斗希がいないとつまんない!」
「連れがいるんだよ」
さやかさんはよっぽど来て欲しいのか可愛らしく頬を膨らませる。
だけど斗希くんの言葉を聞いて大きく目を見瞠ると、辺りを見回して首を傾げた。
「どこにもいないけど」
「別行動中」
「なら連絡して、もう帰るって言えば良くない?」
確かに、行く気があるならその方が手っ取り早い。でも斗希くんは溜め息をつくと、腕を上げてさやかさんの手を解き遠目にも分かるくらい冷たい目を向けた。
僕だって、あそこまで怖い顔をされた事はないってくらいの。
「何でお前に指図されなきゃいけねぇんだよ。いちいち口出すな」
「そ、そんなつもりじゃ⋯」
「うぜぇ」
そう吐き捨て友達に背中を向けた斗希くんがこっちへ歩いてくるのが見えて、僕は慌てて来た道を引き返し雑貨屋さんまで戻る。
1度中に入り、さも今買い終わりましたよ風を装って外に出るとちょうど斗希くんが入口まで来たところだった。
「あ、斗希くん」
「終わったか」
「うん。待っててくれてありがとう」
「⋯行くぞ」
珍しく先へ促してくれるのはさっきの事があったからかな。というか、まさか斗希くんが僕を優先してくれるなんて思わなかった。てっきり友達と行くと思ってたし。
嬉しくて、最初よりも少しだけ近くを歩いたけど何も言われなかった。
日が落ち始めた頃、バイトの時間だという斗希くんと駅前で別れ、家へと帰った僕はさっそく机の上に新しいペン立てを並べ、元からあった物と入れ替える。
これだけ余裕があれば新しく増えても入りそう。
(それにしても、今日は楽しかったな)
たくさん斗希くんの顔が見れたし声も聞けた。
月曜日からはまた登校時に遠くから見るしか出来なくなるけど、今日を思い出せばしはらくは寂しいって気持ちも薄れるはず。
僕はスマホを手にして斗希くんの名前をタップすると、『デート楽しかったよ、ありがとう』とメッセージを送った。返事はないって思ってるからそのまま机に置いて、夕飯の準備に取り掛かる。
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