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プレゼント
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僕と斗希くんが出会ったのは1年前の、雨が降りそうなジメジメした日だった。
その日は朝からツイてなくて、朝ご飯の食パンは焦がすし飲み物はひっくり返すし、忘れ物はするし転びそうになるしと散々だったんだ。
その中でも1番最悪だったのは、バイト帰りに酔っ払いに絡まれた事。
よっぽと酔ってたみたいで、僕を女の子だと勘違いして肩を抱き、今から一緒に飲みに行こうってぐいぐい引っ張られて⋯男だって否定しても未成年だって言っても聞いてくれない上に抵抗しても力じゃ敵わない、誰も助けてくれないしで半ベソかいてたら、斗希くんが酔っ払いの腕を掴んで剥がしてくれた。
酔っ払いは回らない口で斗希くんに文句を言ってたけど、斗希くんは無視して僕の手を引いてそこから連れ出してくれたんだ。
その姿があまりにもカッコよくて、僕は瞬間的に恋に落ちた。
その日から1年以上が経って、今もこうして付き合えてるのって本当に奇跡だ。とっくに振られててもおかしくないのに、斗希くんは僕の好きに応えてくれてる。
ぶっきらぼうだし言葉もキツいけど、心根は優しい人なんだよね。
だからずっと想いは変わらないし、募っていく一方。
⋯だけどその裏で、最近になって前より考えるようになった事がある。
もし斗希くんに、本当に好きな人が出来たら、僕はどうするんだろうって。ちゃんと諦められるかな。
泣いて縋るような事はしたくない。斗希くんを困らせたくないし、迷惑もかけたくない。
そうなった時、その人が絶対に斗希くんを幸せにしてくれるなら⋯⋯静かに消えようかな。斗希くんが幸せなら、僕はそれでいいから。
もうすぐ夏休みが始まる。
外の気温は連日30℃を超え、日陰にいても汗を掻くほど暑い。こういう時は冷たい水を浴びると気持ちいいんだろうな。でもインドアな僕には、プールや海はハードルが高い。
それから7月末にはボクの誕生日がある。両親とは離れて暮らしてるから毎年プレゼントが送られてきてて、去年はたくさんの食材とガラスで出来たペンだった。インクと、元気ですかのメッセージカード付きで。
会いたいけど、あまりにも遠くてしばらく帰れていない。
せっかくだし、今年は夏休みに入ったら8月頭まで実家にいようかな。どのみち斗希くんは友達と遊ぶだろうし、去年と同じで誕生日は覚えてないだろうから。
久し振りにのんびりしてもいいかも⋯⋯なんて思ってたら、夏休みに入って3日後の夜、斗希くんからメッセージが届いた。
『来週の金曜、空けとけ』
来週の金曜日と言えば僕の誕生日で、そのタイミングの良さにまさかと思いつつも期待してしまう。だから誘ってくれたのかなって。
でも用事があるだけかもしれないし。いつも通り、会える事だけを楽しみにしてよう。
そうして金曜日、いつもとは違う場所で斗希くんと待ち合わせた僕は、どうしたらいいか分からなくて俯いてた。
例の如く時間より15分早く来て斗希くんを待ってたんだけど、今日は時間通りに来た斗希くんは何を言うでもなくジッと僕を見下ろしてきて⋯もうかれこれ10分は経ってる。こんな風に凝視された事ないから僕は困惑しか出来ない。
これ、もしかして僕が何か言わないと始まらないのかな。
「⋯斗希くん?」
「ん?」
「えっと⋯僕の顔に、何かついてる?」
「⋯いや⋯」
あ、会話が終わっちゃった。
うーん⋯とりあえずここにいても仕方ないし、どこかに入ろうかな。
「斗希くん、暑いしカフェとかに入らない?」
「⋯⋯⋯」
「そんな気分じゃない?」
「⋯喉乾いてんの?」
「乾いてなくはないけど、ここに立ってるだけだと熱中症になるかもしれないから」
何せ今の気温は33℃。直射日光でないとはいえ、水分も摂らずにいたらいつかは体調を崩す。そうならない為に提案しただけなんだけど、あんまりお店には入りたくない感じかな。
それならと斗希くんに「ちょっと待ってて」と言って自販機まで行った僕は、斗希くんの好きな飲み物を買って戻り差し出す。
一瞬にして険しい顔になった斗希くんだったけど、受け取ってくれてホッとした僕はチラリと空を見上げた。
夏らしい、雲ひとつない晴天が広がってる。
「⋯⋯陽依」
「うん?」
「これやる」
「え?」
いい天気だなーって思ってたら不意に名前が呼ばれて、喜びに浸る間もなく小さな箱が渡されて目を瞬く。
水色の包装紙でラッピングされ、白と青色の細いリボンで結ばれたそれはどう見てもプレゼントで⋯⋯本当にまさかのまさかなお誘いだったの?
「⋯これ⋯」
「誕生日だろ、お前」
「⋯⋯⋯」
「いらねぇなら捨てろ」
「い、いらなくない⋯捨てない⋯っ」
驚いて固まってたらぶっきらぼうに吐き捨てられ、取り上げられたら困ると首を振った僕はじっと箱を見つめる。
斗希くんが〝僕の為に〟選んでくれたプレゼント。僕の事を考えて、これがいいって決めてくれたんだよね。
どうしよう⋯泣いちゃいそう。
「嬉しい⋯すっごくすっごく嬉しい⋯。ありがとう、斗希くん」
両手で包んで胸元へと抱き寄せ、僕は斗希くんを見上げて笑う。
顔を顰められてすぐに逸らされたけど、それでも嬉しい事に変わりはない。
いつもと同じだと思ってた誕生日に、こんなサプライズが待ってたなんて思わなかった。実家に帰らなくて本当に良かった。
例えいつかお別れしなきゃいけない日が来ても、この日の事だけはずっと忘れない。
斗希くんからのプレゼントは、シルバーのシンプルなチェーンブレスレットだった。
こんなに素敵な物を貰えるなんてってまた1人で感動。
数ヶ月後にくる斗希くんの誕生日プレゼントは去年よりももっと考えなきゃ。出来ればちゃんと、斗希くんが気に入ってくれる物がいい。
オシャレな斗希くんに見合うもの、何があるかな。
その日は朝からツイてなくて、朝ご飯の食パンは焦がすし飲み物はひっくり返すし、忘れ物はするし転びそうになるしと散々だったんだ。
その中でも1番最悪だったのは、バイト帰りに酔っ払いに絡まれた事。
よっぽと酔ってたみたいで、僕を女の子だと勘違いして肩を抱き、今から一緒に飲みに行こうってぐいぐい引っ張られて⋯男だって否定しても未成年だって言っても聞いてくれない上に抵抗しても力じゃ敵わない、誰も助けてくれないしで半ベソかいてたら、斗希くんが酔っ払いの腕を掴んで剥がしてくれた。
酔っ払いは回らない口で斗希くんに文句を言ってたけど、斗希くんは無視して僕の手を引いてそこから連れ出してくれたんだ。
その姿があまりにもカッコよくて、僕は瞬間的に恋に落ちた。
その日から1年以上が経って、今もこうして付き合えてるのって本当に奇跡だ。とっくに振られててもおかしくないのに、斗希くんは僕の好きに応えてくれてる。
ぶっきらぼうだし言葉もキツいけど、心根は優しい人なんだよね。
だからずっと想いは変わらないし、募っていく一方。
⋯だけどその裏で、最近になって前より考えるようになった事がある。
もし斗希くんに、本当に好きな人が出来たら、僕はどうするんだろうって。ちゃんと諦められるかな。
泣いて縋るような事はしたくない。斗希くんを困らせたくないし、迷惑もかけたくない。
そうなった時、その人が絶対に斗希くんを幸せにしてくれるなら⋯⋯静かに消えようかな。斗希くんが幸せなら、僕はそれでいいから。
もうすぐ夏休みが始まる。
外の気温は連日30℃を超え、日陰にいても汗を掻くほど暑い。こういう時は冷たい水を浴びると気持ちいいんだろうな。でもインドアな僕には、プールや海はハードルが高い。
それから7月末にはボクの誕生日がある。両親とは離れて暮らしてるから毎年プレゼントが送られてきてて、去年はたくさんの食材とガラスで出来たペンだった。インクと、元気ですかのメッセージカード付きで。
会いたいけど、あまりにも遠くてしばらく帰れていない。
せっかくだし、今年は夏休みに入ったら8月頭まで実家にいようかな。どのみち斗希くんは友達と遊ぶだろうし、去年と同じで誕生日は覚えてないだろうから。
久し振りにのんびりしてもいいかも⋯⋯なんて思ってたら、夏休みに入って3日後の夜、斗希くんからメッセージが届いた。
『来週の金曜、空けとけ』
来週の金曜日と言えば僕の誕生日で、そのタイミングの良さにまさかと思いつつも期待してしまう。だから誘ってくれたのかなって。
でも用事があるだけかもしれないし。いつも通り、会える事だけを楽しみにしてよう。
そうして金曜日、いつもとは違う場所で斗希くんと待ち合わせた僕は、どうしたらいいか分からなくて俯いてた。
例の如く時間より15分早く来て斗希くんを待ってたんだけど、今日は時間通りに来た斗希くんは何を言うでもなくジッと僕を見下ろしてきて⋯もうかれこれ10分は経ってる。こんな風に凝視された事ないから僕は困惑しか出来ない。
これ、もしかして僕が何か言わないと始まらないのかな。
「⋯斗希くん?」
「ん?」
「えっと⋯僕の顔に、何かついてる?」
「⋯いや⋯」
あ、会話が終わっちゃった。
うーん⋯とりあえずここにいても仕方ないし、どこかに入ろうかな。
「斗希くん、暑いしカフェとかに入らない?」
「⋯⋯⋯」
「そんな気分じゃない?」
「⋯喉乾いてんの?」
「乾いてなくはないけど、ここに立ってるだけだと熱中症になるかもしれないから」
何せ今の気温は33℃。直射日光でないとはいえ、水分も摂らずにいたらいつかは体調を崩す。そうならない為に提案しただけなんだけど、あんまりお店には入りたくない感じかな。
それならと斗希くんに「ちょっと待ってて」と言って自販機まで行った僕は、斗希くんの好きな飲み物を買って戻り差し出す。
一瞬にして険しい顔になった斗希くんだったけど、受け取ってくれてホッとした僕はチラリと空を見上げた。
夏らしい、雲ひとつない晴天が広がってる。
「⋯⋯陽依」
「うん?」
「これやる」
「え?」
いい天気だなーって思ってたら不意に名前が呼ばれて、喜びに浸る間もなく小さな箱が渡されて目を瞬く。
水色の包装紙でラッピングされ、白と青色の細いリボンで結ばれたそれはどう見てもプレゼントで⋯⋯本当にまさかのまさかなお誘いだったの?
「⋯これ⋯」
「誕生日だろ、お前」
「⋯⋯⋯」
「いらねぇなら捨てろ」
「い、いらなくない⋯捨てない⋯っ」
驚いて固まってたらぶっきらぼうに吐き捨てられ、取り上げられたら困ると首を振った僕はじっと箱を見つめる。
斗希くんが〝僕の為に〟選んでくれたプレゼント。僕の事を考えて、これがいいって決めてくれたんだよね。
どうしよう⋯泣いちゃいそう。
「嬉しい⋯すっごくすっごく嬉しい⋯。ありがとう、斗希くん」
両手で包んで胸元へと抱き寄せ、僕は斗希くんを見上げて笑う。
顔を顰められてすぐに逸らされたけど、それでも嬉しい事に変わりはない。
いつもと同じだと思ってた誕生日に、こんなサプライズが待ってたなんて思わなかった。実家に帰らなくて本当に良かった。
例えいつかお別れしなきゃいけない日が来ても、この日の事だけはずっと忘れない。
斗希くんからのプレゼントは、シルバーのシンプルなチェーンブレスレットだった。
こんなに素敵な物を貰えるなんてってまた1人で感動。
数ヶ月後にくる斗希くんの誕生日プレゼントは去年よりももっと考えなきゃ。出来ればちゃんと、斗希くんが気に入ってくれる物がいい。
オシャレな斗希くんに見合うもの、何があるかな。
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