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自分に出来る事を
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これから先の事をどうするか。結局、斗希くんとは話せていない。
でも誕生日や花火大会に誘われたおかけで、もう少し頑張ってみるのもありかもしれないって思い始めてた。
少なくとも、完全に斗希くんが僕の事を面倒だと思わずにいてくれる間はいいんじゃないかなって。
⋯⋯ただの僕の願望ではあるんだけど。
ある日の朝。
駅へと向かって歩いていた僕は、曲がり角から出てきた背の高い高校生が斗希くんだと気付いて目を瞬いた。
珍しく彼の周りには友達がいなくて、それを見た瞬間考えるより先に足が動く。
こんな機会めったにない。
「お、おはよう、斗希くん」
斜め後ろに立ち挨拶をすると、斗希くんは足を止めて怪訝そうに振り向き、僕の顔を見るなり眉を顰めた。すぐに前を向きまた歩き始める。
「んー」
「今日は1人なの? 友達は⋯」
「駅にいる」
「あ⋯そ、そうなんだ⋯」
そっか、駅にはいるんだ。待ち合わせる場合もあるんだね。
駅まではもうそんなに距離はないから残念だなって思いつつ、せっかくだしちょっとだけでも話したくなった僕は斗希くんを見上げる。
横顔ではないけど、ちゃんと顔が見えるのは嬉しい。
「あの、斗希くん」
「⋯⋯何」
「えっと⋯その⋯」
「⋯⋯⋯」
「⋯⋯あ、こ、今度の日曜日、海浜公園でイベントがあるんだって。フリマとか屋台とか出るみたいなんだけど、良かったら一緒に⋯」
「やめとく」
「⋯そ、そっか⋯」
言葉途中でバッサリと切られ胸の奥がズキリと痛む。
ダメだな、僕。調子に乗ってしまった。
誕生日と花火大会の事を斗希くんから言ってくれたからって、僕が誘って斗希くんが応えてくれるなんてあんまりないのに。
それに、そういうイベントこそ友達と行った方が楽しいもんね。僕と行ったって⋯ううん、卑屈になるな。次のデートで楽しいって思って貰えばいいんだから。
「斗希くん」
「?」
「僕、頑張るね」
「何を⋯」
「斗希ー!」
これからも斗希くんの恋人でいられるように。
いつかお別れの日が来ても、付き合って悪くはなかったなって思って貰えるように。
怪訝そうな斗希くんが足を止めた時、少し先からさやかさんの声が聞こえてきた。僕は慌てて斗希くんと距離を取り、ぐっとカバンの持ち手を握る。
「学校、行ってらっしゃい」
それだけ言って早歩きで斗希くんから離れ、斗希くんへと駆け寄る友達の横を通り過ぎて駅へと入る。
ほんのちょっとだったけど話せて嬉しかった。
それにしても、友達に変に思われたり怪しまれたりしなかったかな。真横にいた訳じゃないから大丈夫だとは思うけど。
斗希くんの意に沿わない事はしたくない。バレるのは嫌だろうから、そこは慎重にならないと。
誰に言って貰えなくたって、僕が恋人である事は変わらないんだから。
ある日の夕方。
思わぬ偶然って本当にあるんだなって、僕は今改めて思い知った。
僕は時々新しいレシピを探す為にSNSを見る時がある。料理上手な人は、美味しそうな写真と一緒に材料や分量を載せてたりするからそれを見て作ったりしてるんだけど、ゆっくりスクロールしてたらたまたま見知った名前を見つけて指が止まった。
よくある名前だし、このアカウントがその子とは限らないのに、僕はどうしても気になってネイルされた指のアイコンをタップしてみる事にした。
すぐに投稿されたものがずらりと出てくる。
『今日はみんなでお買い物! 荷物持ってくれた、優しい♡』
『クレープ食べたー。1人は甘い物苦手で眉間にシワ寄せてる、ウケるww』
『見て見て! 手の大きさ全然違う!』
『いつも着けてるこのゴツい指輪、ちょうだいって言ったら無視された』
ほとんど毎日のように投稿してて、そのどれにも必ず1人男の子が写ってる。顔は見えないし、呟いてる事柄をアップにしてるから身バレしないようにはしてるんだろうけど、指輪の投稿で僕は確信した。
写真に載ってるゴツい指輪を着けた手は、どう考えても斗希くんだ。
この指輪、確かにいつもしてるし気に入ってるって言ってたはず。
だとしたらやっぱり、このアカウントの持ち主は斗希くんの友達であるさやかさんだ。
「⋯⋯⋯」
みんなでお買い物、クレープを食べた。他にもどこそこに行ったとか、ご飯を食べたとか、僕とはしない事を友達とはしてる。
夏休みも、海やプールだけじゃなく、友達のお兄さんのお誘いでバーベキューにも行ってるみたい。見慣れたライトブラウンの髪がちょこちょこ写ってる。
後ろ姿で並んだ2人の写真を見つけた時、僕は無意識に唇を噛んだ。
当たり前のように斗希くんの隣にいるさやかさん。誰に見られても気にしなくていいし、伸ばした手を引っ込めなくていい。
僕は触れるのさえ諦めてるのに。
うう⋯素敵なカップルってコメントがたくさんついてる。
「⋯いいな⋯」
羨ましいって思っちゃいけないんだろうけど、どうしても思ってしまう。
深く息を吐き、頭を振って軽く頬を叩いた僕はさやかさんのアカウントを閉じると改めてレシピの検索に取り掛かった。
頑張るって決めたんだから、他と見比べて嘆くのはやめよう。
僕には、僕にしか出来ない事がきっとあるはず。それを探すのもありだよね。
でも誕生日や花火大会に誘われたおかけで、もう少し頑張ってみるのもありかもしれないって思い始めてた。
少なくとも、完全に斗希くんが僕の事を面倒だと思わずにいてくれる間はいいんじゃないかなって。
⋯⋯ただの僕の願望ではあるんだけど。
ある日の朝。
駅へと向かって歩いていた僕は、曲がり角から出てきた背の高い高校生が斗希くんだと気付いて目を瞬いた。
珍しく彼の周りには友達がいなくて、それを見た瞬間考えるより先に足が動く。
こんな機会めったにない。
「お、おはよう、斗希くん」
斜め後ろに立ち挨拶をすると、斗希くんは足を止めて怪訝そうに振り向き、僕の顔を見るなり眉を顰めた。すぐに前を向きまた歩き始める。
「んー」
「今日は1人なの? 友達は⋯」
「駅にいる」
「あ⋯そ、そうなんだ⋯」
そっか、駅にはいるんだ。待ち合わせる場合もあるんだね。
駅まではもうそんなに距離はないから残念だなって思いつつ、せっかくだしちょっとだけでも話したくなった僕は斗希くんを見上げる。
横顔ではないけど、ちゃんと顔が見えるのは嬉しい。
「あの、斗希くん」
「⋯⋯何」
「えっと⋯その⋯」
「⋯⋯⋯」
「⋯⋯あ、こ、今度の日曜日、海浜公園でイベントがあるんだって。フリマとか屋台とか出るみたいなんだけど、良かったら一緒に⋯」
「やめとく」
「⋯そ、そっか⋯」
言葉途中でバッサリと切られ胸の奥がズキリと痛む。
ダメだな、僕。調子に乗ってしまった。
誕生日と花火大会の事を斗希くんから言ってくれたからって、僕が誘って斗希くんが応えてくれるなんてあんまりないのに。
それに、そういうイベントこそ友達と行った方が楽しいもんね。僕と行ったって⋯ううん、卑屈になるな。次のデートで楽しいって思って貰えばいいんだから。
「斗希くん」
「?」
「僕、頑張るね」
「何を⋯」
「斗希ー!」
これからも斗希くんの恋人でいられるように。
いつかお別れの日が来ても、付き合って悪くはなかったなって思って貰えるように。
怪訝そうな斗希くんが足を止めた時、少し先からさやかさんの声が聞こえてきた。僕は慌てて斗希くんと距離を取り、ぐっとカバンの持ち手を握る。
「学校、行ってらっしゃい」
それだけ言って早歩きで斗希くんから離れ、斗希くんへと駆け寄る友達の横を通り過ぎて駅へと入る。
ほんのちょっとだったけど話せて嬉しかった。
それにしても、友達に変に思われたり怪しまれたりしなかったかな。真横にいた訳じゃないから大丈夫だとは思うけど。
斗希くんの意に沿わない事はしたくない。バレるのは嫌だろうから、そこは慎重にならないと。
誰に言って貰えなくたって、僕が恋人である事は変わらないんだから。
ある日の夕方。
思わぬ偶然って本当にあるんだなって、僕は今改めて思い知った。
僕は時々新しいレシピを探す為にSNSを見る時がある。料理上手な人は、美味しそうな写真と一緒に材料や分量を載せてたりするからそれを見て作ったりしてるんだけど、ゆっくりスクロールしてたらたまたま見知った名前を見つけて指が止まった。
よくある名前だし、このアカウントがその子とは限らないのに、僕はどうしても気になってネイルされた指のアイコンをタップしてみる事にした。
すぐに投稿されたものがずらりと出てくる。
『今日はみんなでお買い物! 荷物持ってくれた、優しい♡』
『クレープ食べたー。1人は甘い物苦手で眉間にシワ寄せてる、ウケるww』
『見て見て! 手の大きさ全然違う!』
『いつも着けてるこのゴツい指輪、ちょうだいって言ったら無視された』
ほとんど毎日のように投稿してて、そのどれにも必ず1人男の子が写ってる。顔は見えないし、呟いてる事柄をアップにしてるから身バレしないようにはしてるんだろうけど、指輪の投稿で僕は確信した。
写真に載ってるゴツい指輪を着けた手は、どう考えても斗希くんだ。
この指輪、確かにいつもしてるし気に入ってるって言ってたはず。
だとしたらやっぱり、このアカウントの持ち主は斗希くんの友達であるさやかさんだ。
「⋯⋯⋯」
みんなでお買い物、クレープを食べた。他にもどこそこに行ったとか、ご飯を食べたとか、僕とはしない事を友達とはしてる。
夏休みも、海やプールだけじゃなく、友達のお兄さんのお誘いでバーベキューにも行ってるみたい。見慣れたライトブラウンの髪がちょこちょこ写ってる。
後ろ姿で並んだ2人の写真を見つけた時、僕は無意識に唇を噛んだ。
当たり前のように斗希くんの隣にいるさやかさん。誰に見られても気にしなくていいし、伸ばした手を引っ込めなくていい。
僕は触れるのさえ諦めてるのに。
うう⋯素敵なカップルってコメントがたくさんついてる。
「⋯いいな⋯」
羨ましいって思っちゃいけないんだろうけど、どうしても思ってしまう。
深く息を吐き、頭を振って軽く頬を叩いた僕はさやかさんのアカウントを閉じると改めてレシピの検索に取り掛かった。
頑張るって決めたんだから、他と見比べて嘆くのはやめよう。
僕には、僕にしか出来ない事がきっとあるはず。それを探すのもありだよね。
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