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ある日の帰り道
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橋の上で待ち始めて10分ほど経ったけど、斗希くんは結局あの子を振り切れなかったらしく別行動になった。1人で露店を回るのもつまらないし、斗希くんと一緒じゃないなら意味がないからどうしようか。
とりあえずここまで来たんだから花火だけは見ようと欄干に肘をついて待ってたら、笛のような高い音がしたあと地響きに似た大きな音が鳴った。顔を上げると大輪の花火が夜空に広がってて、周りから歓声が上がる。
大きな音がするたび咲く花火に目を細め、おもむろにスマホを出してカメラを起動した僕は花が開いた瞬間シャッターを押した。
画質はお察しだけど、綺麗な写真が撮れて笑みが零れる。
それを斗希くんとのトーク画面へと貼り付けた。
『花火、綺麗だね』
きっと斗希くんも、今頃どこかであの子と見てるんだろうな。
来年は僕たちの関係がどうなってるか分からないし、もしかしたらこれが最初で最後だったかもしれないのに別行動になったのは本当に残念だ。
せめてと動画も撮ってたらメッセージが届いて、確認すると斗希くんだった。
『一緒に見れなくて悪い』
「⋯⋯⋯」
この人は、本当に僕の知ってる斗希くんなんだろうか。
前まではどれだけ連絡しても返事がきた事なかったのに、少し前の埋め合わせデートからちょっとだけやり取りが増えた気がする。
こんな風に、大事にされてると勘違いしそうになるようなメッセージなんて初めてだし。
斗希くんにそんな気はないのは僕がよく分かってるけど。
おおよそ20分続いた打ち上げ花火が終わり、僕は元来た道を辿り帰路へと着く。
駅の近くで斗希くんとあの子を見つけたけど、自分のペースで気怠げに歩く斗希くんをさやかさんが小走りで追いかけてた。
遠目にだけどその横顔はどこか不機嫌そうに見えて⋯ずっとあの調子だったんだろうな。
意地が悪いとは思うけど少しだけ、ほんの少しだけ良かったって思ってしまった。もし楽しそうだったら、それはそれでショックだったし。
でも、誘って貰えた事は本当に嬉しかったな。
あと何回、斗希くんとデート出来るだろう。
卒業後、僕は色んな事情により進学ではなく就職を選んだ。
これに関しては斗希くんにも話してなくて、それどころか僕についての話って本当に当たり障りない事しか言ってない。将来とか両親の事とか、深い部分は触れる事すらしてなかった。
聞かれたら答えるつもりではあったけど、その日は来なかったから斗希くんは興味なかったんだろうな。
「ひーよーり」
夏休みが明けてすぐの放課後、就職について先生に相談したあと教室へと戻っていたら、明るい声と共に後ろから抱き着かれた。
顔を上げると友人の世平 夏生くんがいて、にこやかにぼくの顔を覗き込んでくる。
「夏生くん」
「今から帰るの? オレも一緒していい?」
「いいけど⋯宮下くんは?」
「知らなーい」
「また喧嘩したんだ」
夏生くんには1つ下の幼馴染みがいて、普段は仲がいいのにちょっとした事ですぐ言い合いになったり喧嘩したりしてる。
放っておいたらいつの間にか仲直りしてるから僕もそこまで気にしないけど、宮下くんは存外心配性だから今もモヤモヤしてるんだろうな。
「だって凛人のヤツ、今日はうちに来るって言ったのにバイトに行かなきゃいけなくなったって。バイトとオレ、どっちが大事なんだって話」
「うーん⋯それは仕方ない気が⋯」
高校生にとってバイトって貴重な資金源だし、宮下くんに至っては夏生くんと遊ぶ為の費用だろうから⋯そこは宮下くんを擁護せざるを得ない。
ぷんすこしている夏生くんの素直さを羨ましいなと思いつつ、離れてはくれなさそうだからそのまま歩き出す。でもクラスは違うから1度別れて、荷物を持って廊下に出ると困った顔をした宮下くんが夏生くんのクラスの前に立ってた。
少しして夏生くんが出てきたけど、宮下くんに気付いて一瞬止まったあとフイと顔を逸らす。
「夏生⋯」
「バイトなんでしょー。早く行きなよ」
「終わったら行くから」
「来なくていい」
拗れてるなぁ。
夏生くんに突っぱねられてしゅんとしてる宮下くんに苦笑を漏らしてたら、夏生くんが僕の方へと走ってきて背中へと回り込んだ。
「バイト、今日で1週間連続なんでしょ? うちに来るより休んだ方がいいんじゃない?」
「でも⋯」
「来たら口きかない。行こ、陽依」
「な、夏生⋯」
ああ、ますます落ち込んじゃった。
背中を押されて、宮下くんに何も言えないままその場をあとにする。
「良かったの?」
「うちに来たら弟に絡まれて落ち着けないから」
「そうなんだ。夏生くんは優しいね」
「お人好しなんだよ、あいつ」
お互いを大切に思うからこその気遣いなんだろうな。
何だかんだ微笑ましい2人にクスリと笑い。最寄り駅へと向かって並んで歩く。
夏生くんは、オレンジ色の髪が特徴的な明るい男の子だ。人懐っこくて誰とでもすぐ仲良くなれる性格で友達も多く、人との距離感が近め。オシャレで、ビビットカラーの服を良く着てるからどこにいても目立つ。
対して宮下くんは、大人しめではあるけど自分の意見はハッキリ言える子で、斗希くんほどではなくとも背が高く、顔が整ってるからモテるんだよね。でもわんこタイプで、基本的には夏生くんにだけ懐いてる感じ。
2人を見てると、幼馴染みっていいなって思う。
「あ、ねぇ陽依。今度ケーキバイキング行こうよ」
「うん、いいよ」
改札を抜けてホームに降り、電車を待ってるとまた抱き着かれてそう誘われる。
甘い物は好きだし、夏生くんとはたまに遊んでるから特に気に留める事もなく頷いたら嬉しそうにはにかんだ。
「やった。最近甘いもの欲がヤバくて、ガッツリ食べたいなって思ってたんだよね」
「それなら胃薬持って行った方がいいかも」
「確かにー⋯⋯わっ!」
抱き着かれたまま話してたら、夏生くんが突然声を上げて離れた。慌てて振り向くと驚いた顔の夏生くんと眉間に深い皺を寄せた斗希くんがいて、状況が飲み込めない僕は目を瞬く。
いつの間に⋯というか、どうしてこの駅に? 斗希くんの高校は1つ前なのに。
「え、え? 誰?」
「斗希くん⋯?」
「⋯⋯チッ」
困惑しながらも斗希くんを見上げると、少しの間のあと夏生くんの腕を離し背を向けて改札への階段を上がって行った。
「え、ほんとに誰? 何?」
怪訝な声を出す夏生くんに言えなくてごめんねと思いつつ、電車が来るまでもう後ろ姿も見えなくなった階段を眺めてた。
どうしてあんなに不機嫌そうだったんだろう。
とりあえずここまで来たんだから花火だけは見ようと欄干に肘をついて待ってたら、笛のような高い音がしたあと地響きに似た大きな音が鳴った。顔を上げると大輪の花火が夜空に広がってて、周りから歓声が上がる。
大きな音がするたび咲く花火に目を細め、おもむろにスマホを出してカメラを起動した僕は花が開いた瞬間シャッターを押した。
画質はお察しだけど、綺麗な写真が撮れて笑みが零れる。
それを斗希くんとのトーク画面へと貼り付けた。
『花火、綺麗だね』
きっと斗希くんも、今頃どこかであの子と見てるんだろうな。
来年は僕たちの関係がどうなってるか分からないし、もしかしたらこれが最初で最後だったかもしれないのに別行動になったのは本当に残念だ。
せめてと動画も撮ってたらメッセージが届いて、確認すると斗希くんだった。
『一緒に見れなくて悪い』
「⋯⋯⋯」
この人は、本当に僕の知ってる斗希くんなんだろうか。
前まではどれだけ連絡しても返事がきた事なかったのに、少し前の埋め合わせデートからちょっとだけやり取りが増えた気がする。
こんな風に、大事にされてると勘違いしそうになるようなメッセージなんて初めてだし。
斗希くんにそんな気はないのは僕がよく分かってるけど。
おおよそ20分続いた打ち上げ花火が終わり、僕は元来た道を辿り帰路へと着く。
駅の近くで斗希くんとあの子を見つけたけど、自分のペースで気怠げに歩く斗希くんをさやかさんが小走りで追いかけてた。
遠目にだけどその横顔はどこか不機嫌そうに見えて⋯ずっとあの調子だったんだろうな。
意地が悪いとは思うけど少しだけ、ほんの少しだけ良かったって思ってしまった。もし楽しそうだったら、それはそれでショックだったし。
でも、誘って貰えた事は本当に嬉しかったな。
あと何回、斗希くんとデート出来るだろう。
卒業後、僕は色んな事情により進学ではなく就職を選んだ。
これに関しては斗希くんにも話してなくて、それどころか僕についての話って本当に当たり障りない事しか言ってない。将来とか両親の事とか、深い部分は触れる事すらしてなかった。
聞かれたら答えるつもりではあったけど、その日は来なかったから斗希くんは興味なかったんだろうな。
「ひーよーり」
夏休みが明けてすぐの放課後、就職について先生に相談したあと教室へと戻っていたら、明るい声と共に後ろから抱き着かれた。
顔を上げると友人の世平 夏生くんがいて、にこやかにぼくの顔を覗き込んでくる。
「夏生くん」
「今から帰るの? オレも一緒していい?」
「いいけど⋯宮下くんは?」
「知らなーい」
「また喧嘩したんだ」
夏生くんには1つ下の幼馴染みがいて、普段は仲がいいのにちょっとした事ですぐ言い合いになったり喧嘩したりしてる。
放っておいたらいつの間にか仲直りしてるから僕もそこまで気にしないけど、宮下くんは存外心配性だから今もモヤモヤしてるんだろうな。
「だって凛人のヤツ、今日はうちに来るって言ったのにバイトに行かなきゃいけなくなったって。バイトとオレ、どっちが大事なんだって話」
「うーん⋯それは仕方ない気が⋯」
高校生にとってバイトって貴重な資金源だし、宮下くんに至っては夏生くんと遊ぶ為の費用だろうから⋯そこは宮下くんを擁護せざるを得ない。
ぷんすこしている夏生くんの素直さを羨ましいなと思いつつ、離れてはくれなさそうだからそのまま歩き出す。でもクラスは違うから1度別れて、荷物を持って廊下に出ると困った顔をした宮下くんが夏生くんのクラスの前に立ってた。
少しして夏生くんが出てきたけど、宮下くんに気付いて一瞬止まったあとフイと顔を逸らす。
「夏生⋯」
「バイトなんでしょー。早く行きなよ」
「終わったら行くから」
「来なくていい」
拗れてるなぁ。
夏生くんに突っぱねられてしゅんとしてる宮下くんに苦笑を漏らしてたら、夏生くんが僕の方へと走ってきて背中へと回り込んだ。
「バイト、今日で1週間連続なんでしょ? うちに来るより休んだ方がいいんじゃない?」
「でも⋯」
「来たら口きかない。行こ、陽依」
「な、夏生⋯」
ああ、ますます落ち込んじゃった。
背中を押されて、宮下くんに何も言えないままその場をあとにする。
「良かったの?」
「うちに来たら弟に絡まれて落ち着けないから」
「そうなんだ。夏生くんは優しいね」
「お人好しなんだよ、あいつ」
お互いを大切に思うからこその気遣いなんだろうな。
何だかんだ微笑ましい2人にクスリと笑い。最寄り駅へと向かって並んで歩く。
夏生くんは、オレンジ色の髪が特徴的な明るい男の子だ。人懐っこくて誰とでもすぐ仲良くなれる性格で友達も多く、人との距離感が近め。オシャレで、ビビットカラーの服を良く着てるからどこにいても目立つ。
対して宮下くんは、大人しめではあるけど自分の意見はハッキリ言える子で、斗希くんほどではなくとも背が高く、顔が整ってるからモテるんだよね。でもわんこタイプで、基本的には夏生くんにだけ懐いてる感じ。
2人を見てると、幼馴染みっていいなって思う。
「あ、ねぇ陽依。今度ケーキバイキング行こうよ」
「うん、いいよ」
改札を抜けてホームに降り、電車を待ってるとまた抱き着かれてそう誘われる。
甘い物は好きだし、夏生くんとはたまに遊んでるから特に気に留める事もなく頷いたら嬉しそうにはにかんだ。
「やった。最近甘いもの欲がヤバくて、ガッツリ食べたいなって思ってたんだよね」
「それなら胃薬持って行った方がいいかも」
「確かにー⋯⋯わっ!」
抱き着かれたまま話してたら、夏生くんが突然声を上げて離れた。慌てて振り向くと驚いた顔の夏生くんと眉間に深い皺を寄せた斗希くんがいて、状況が飲み込めない僕は目を瞬く。
いつの間に⋯というか、どうしてこの駅に? 斗希くんの高校は1つ前なのに。
「え、え? 誰?」
「斗希くん⋯?」
「⋯⋯チッ」
困惑しながらも斗希くんを見上げると、少しの間のあと夏生くんの腕を離し背を向けて改札への階段を上がって行った。
「え、ほんとに誰? 何?」
怪訝な声を出す夏生くんに言えなくてごめんねと思いつつ、電車が来るまでもう後ろ姿も見えなくなった階段を眺めてた。
どうしてあんなに不機嫌そうだったんだろう。
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