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私たちの大事な友達(円香視点)
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「絶対ないよ、有り得ない」
「中学の時だって彼女いた事ないのに」
「告白してもみーんな同じ事言われてフラれてたんでしょ?」
「そう。〝ヒナが一番大事だから無理〟って。そんな人がこんな写真撮られる? 奏音が撮らせたんじゃないの?」
「その説濃厚だね」
朝学校へ行くと、教室内はいつも以上にザワザワしていた。それは昨日の夜、三枝先輩とティーンエイジャーの間で人気急上昇中のモデル、奏音の熱愛報道が出たから。その数時間後には先輩が所属する事務所がホームページに「事実無根です」とコメントを出してたけど……あの様子じゃ見てないんだろうな。
というか、そんな振り方してたんですね、先輩。
私の友達の陽向くんは、真面目で一生懸命で優しくて、背が低めで細身なのにちゃんと男の子の部分もあって、何より一緒にいると凄く落ち着く子だ。表情が豊かで笑った顔がすごく可愛くて……だから、あんな風に落ち込んでる姿見たくなかった。
「無理もないわよね」
「ライブ直前なのにこんな記事が出るなんて…」
隣で俯いている陽向くんを見つめる千里ちゃんも悲しそうな顔をしてる。
テレビも朝からその話ばかりだし、朝刊や新聞にも大きく書かれてて、挙句には号外まで出て大騒ぎ。いくらなんでもやり過ぎだと思うのは私だけかな。
クラスの女の子たちは信じていない人の方が多いからまだマシだけど。事務所自体が否定したんだから当然とはいえ、そもそも三枝先輩が陽向くん以外と付き合うはずなんてないんだよ。
先輩はいつだって、陽向くんしか見てなかったもん。
私が陽向くんと三枝先輩の事を知ったのは中学に入ってからすぐの事だった。三年生に物凄く綺麗な先輩がいて、でも全然笑わないしむしろ感情がないんじゃないかって言われててどんな人か気になったのが始まり。
その時はちょうどお昼休みだったんだけど、校内散策で歩き回ってた私は中庭でキラキラしたものを見付けて近付いて、思わず目が釘付けになった。
王子様のような顔立ちに日に透けてキラキラと光る蜂蜜色の髪。どう考えてもあの人が噂の三枝先輩だって思ったと同時に、膝の上に座ってる小柄な男の子が凄く気になった。先輩に手ずからお菓子を食べさせて貰ってる可愛い男の子。その後に楢篠陽向くんって名前と、先輩とは幼馴染みって事を知ったんだけど、とにかく二人の雰囲気が穏やかで柔らかくて。
陽向くんを見つめる先輩の目は愛しいって気持ちを少しも隠さないくらい優しかったし、先輩を見上げる陽向くんの顔も安心しきってて凄く素敵だなって思ったんだ。
三枝先輩はみんなから無表情で無感情なんて言われてるけど、陽向くんの前では普通に笑ったりしてたから最初はどういう事って思ってた。でもそれが陽向くんにだけ向けられるものなんだって知ってこれが萌えかって一人悶えたりして。
三枝先輩は陽向くんにしか興味ないんだなって私でさえ気付いたのに、陽向くんは全然気付かなくてもどかしいって拳を握った事を覚えてる。
実はその時に男の子同士の恋愛っていいかもって思い始めたの。新しい扉、開けちゃったんだよね。
千里ちゃんとはその頃知り合った訳だけど、まさかこんなに綺麗な子が同胞だとは思わなかった。世間って本当に狭い。
一緒に三枝先輩と陽向くんを見守っていこうねって約束は今も健在だ。
高校生になって陽向くんと同じクラスになって、困ってるみたいだったから思い切って声をかけてみたけど本当にそうして良かったって今は思ってる。だって陽向くん、思った以上に危なっかしいんだもん。
ずっと先輩が守ってきたからか、ちょっとした事で絆されてお人好しを発揮する。だからついつい世話を焼きたくなるんだよね。
きっと千里ちゃんも同じだと思う。
三枝先輩の代わりに、私たちが陽向くんを悪者から守らなきゃ。
「なぁ、これどういう事?」
出た。今一番、陽向くんから引き離さなきゃ行けない男。
日下部くんは何故か三枝先輩を嫌っていて、その先輩が大事にしてる陽向くんに事ある毎に意地悪してくるから私たちの中では敵として認定されてる。
落ち込む陽向くんの前に何かを広げて見せたんだけど、まさかあれ、三枝先輩の記事? 何てひどいことを!
「何で熱愛報道出とんの?」
「そ、そんな事オレに言われても…」
「お前、真那と連絡取ってへんのか?」
「…連絡、来てない……」
「はぁ? あのなぁ…」
「ちょっと、陽向くんにそんなもの見せないでよ」
「先輩の事務所が否定コメントを出してたでしょう? 見ていないの?」
クラスメイトが遠巻きに見る中、困惑している陽向くんと怖い顔をしている日下部くんの間に手を差し込んで止めに入る。千里ちゃんの言葉に反応したのは陽向くんで、大きく目を見開いたあと顔を伏せた。
「コメントくらい知っとるけど、自分らはこれ見てへんの?」
「もちろん見たよ。でも有り得ない」
「何が」
「三枝先輩が、陽向くん以外に触る事が」
それにあの写真、どこか不自然だったんだよね。だって先輩の手は見えないけど奏音に触れてる感じはなかったし、どっちかと言えば奏音の方が抱きついてるみたいだった。
「何それ、幼馴染みやから? それこそ有り得へんやろ。大体、男やったら可愛い子の方がええに決まっとるやん」
「だからそれが先輩には当てはまらないんだってば」
「?」
陽向くんも先輩も公表してないから言えないのがもどかしい。でも本当に有り得ないし、私も千里ちゃんも信じてないから陽向くんも信じないで欲しいよ。
先輩が陽向くんの悲しむ事、するはずないんだから。
きゅっと眉を寄せてる陽向くんが両手でスマホを握ってる事に気付いた。きっと、先輩からの連絡を待ってるんだ。
「とにかく、俺は真那を許さへんからな。俺の目の黒いうちは、アイツとはくっつけさせへんっ」
私と千里ちゃんが睨みを効かせているからか、日下部くんは陽向くんを指差しながらそう言い捨てるとさっさと自分の席へと戻って行った。
今のはどういう意味なんだろう。
「……ごめん」
「陽向くんが謝るような事じゃないってば」
「昨日も、朝も、真那から何の連絡もなくて……そんな事ないって自分でも分かってるのに不安でさ…」
「陽向くん……」
「女々しいな、オレ…」
もー、先輩は何ですぐに弁明しないの? もしかして事務所から何か言われてる? でもせめて陽向くんにだけは連絡してあげて欲しい。
私は千里ちゃんと顔を見合わせたあと、「絶対大丈夫だから、三枝先輩を信じてあげて」と言って陽向くんの肩に手を置いた。
放課後、昇降口で日下部くんの後ろ姿と出くわした。朝の事でちょっとだけムカついていた私は駆け寄ってその制服を掴む。
背の高い日下部くんはつんのめる事もなく立ち止まり、眉を顰めて振り返ると私の顔を見るなり不思議そうな顔をした。
「あれ、陽向くんのオトモダチやん。何か用か?」
「無神経」
「へ?」
「陽向くんだって先輩から連絡来なくて不安がってるのに、あんなの見せて最低だよ」
「そんなん知らんし…」
「日下部くんの事情だって陽向くんは知らないよ」
「………」
ただでさえ日下部くんは三枝先輩を嫌いって豪語してて陽向くん気にしてるのに、追い討ちをかけるような事して悪いと思わないの?
「……前から気になっとったんやけど、いくら仲ええからってあの距離感おかしない? 陽向も、幼馴染みの熱愛出たくらいであないに落ち込んで…何か、まるで浮気されたみたいな顔しとったし」
「え? あ、えっと……」
「もしかして、あの二人ってデキとるん?」
この男、意外に勘が鋭い。聞かれても私の口からは言えないんだけど。
どうしたらいいか悩んでいると、私の肩にポンと手が置かれた。振り向くと千里ちゃんがいて、いつもの涼しい顔をして日下部くんを見上げている。
「それを知ってどうするつもり?」
「…否定せぇへんって事は、そうなんやな」
「バラすの?」
「人様の恋愛事情言い触らすような真似せんわ。むしろ真那にそういう相手がおるんやったら好都合やし」
「どういう意味?」
大嫌いとか遊ぶとか言ったくせに。でもそういうところちゃんとしてるのは素直に感心する。というか、男同士には反応しないんだ。
「アイツに熱上げとるおバカで可愛い子の目を覚まさしてやんねん」
「…良く分かんないけど、陽向くんを虐めるのだけはやめてよね」
「……せやな。何か可哀想になってきたし、揶揄うくらいにしとくわ」
何の心境の変化か、ずいぶんあっさりと手の平を返す日下部くんに思わず千里ちゃんと顔を見合わせる。
「困らせるのもナシだからね」
「まぁ、極力? ってか、過保護すぎん? アイツ男やで?」
「そんなもの、萌えの前では無意味だわ」
「も、もえ…?」
「とにかく、陽向くんに悲しい顔させたら日下部くんの薄い本作るからね」
「……自分らちょいちょい変な発言しとるけど何なん?」
日下部くんは見た目や体格的には攻めなんだけど、仕返しなら受けとして描くのもありね。土方かそっち系のガタイのいい攻めと組み合わせて……やだ、まだ何もしてないのに描きたくなってきちゃった。
一人妄想して顔が緩んでいたのか、千里ちゃんがクスリと笑い私の背中を撫でる。
「円香ったら、顔に出てるわよ」
「あはは、捗っちゃった」
「ふふ、いけない子ね」
「……よ、よー分からんけど、俺、帰るわな」
「ええ、また明日」
「またねー」
「……おう」
いそいそと帰って行く日下部くんに二人で手を振って見送る。
もしかして自分がネタにされたって気付いちゃったかな。でも実際、日下部くんも一部の界隈では関西弁受けとして人気が出そうな気もするけど……あーでもでも、やっぱり王道が一番だよね。
マナ×ヒナ、バンザイ!
「陽向くんと三枝先輩の件、早く解決するといいね」
「そうね。陽向くんには笑顔が似合うもの」
「こういう時、男の子だったらどうするのかな」
陽向くんには、三枝先輩との事を相談出来る男友達がいない。でも、だからって私たちにしてくれるかと言えば微妙なところなんだよね。
信頼されてないとかじゃなく、先輩がアイドルだから、言っちゃいけない事を言ってしまわないようにしてるって感じ。ラブラブな話ならいくらでも聞けるのに、こういう時は力にもなれない自分が嫌だ。
「大丈夫よ。あの二人は、そんな簡単に崩れるような関係じゃないわ」
「……そうだよね。ずーっと一緒だったんだもん。大丈夫だよね」
「ええ。という訳で円香、私たちはいつも通りでいるために、今日は本屋さんに行きましょうか」
「いいねー、千里ちゃん。ちょうど新刊出てるし、行こう行こう」
陽向くんが気負わないように、私たちだけでも普段と変わらずにいたら少しだけでも元気になってくれるはず。
だから私と千里ちゃんは暗い空気を飛ばすように明るく話しながら昇降口を後にした。
いつかどんな事でも話して貰えるような関係になれたらいいな。私たちはずっと陽向くんと三枝先輩の味方だし、何があったって嫌いになんてならない。
どうか一日でも早く、陽向くんが三枝先輩と会えますように。
「中学の時だって彼女いた事ないのに」
「告白してもみーんな同じ事言われてフラれてたんでしょ?」
「そう。〝ヒナが一番大事だから無理〟って。そんな人がこんな写真撮られる? 奏音が撮らせたんじゃないの?」
「その説濃厚だね」
朝学校へ行くと、教室内はいつも以上にザワザワしていた。それは昨日の夜、三枝先輩とティーンエイジャーの間で人気急上昇中のモデル、奏音の熱愛報道が出たから。その数時間後には先輩が所属する事務所がホームページに「事実無根です」とコメントを出してたけど……あの様子じゃ見てないんだろうな。
というか、そんな振り方してたんですね、先輩。
私の友達の陽向くんは、真面目で一生懸命で優しくて、背が低めで細身なのにちゃんと男の子の部分もあって、何より一緒にいると凄く落ち着く子だ。表情が豊かで笑った顔がすごく可愛くて……だから、あんな風に落ち込んでる姿見たくなかった。
「無理もないわよね」
「ライブ直前なのにこんな記事が出るなんて…」
隣で俯いている陽向くんを見つめる千里ちゃんも悲しそうな顔をしてる。
テレビも朝からその話ばかりだし、朝刊や新聞にも大きく書かれてて、挙句には号外まで出て大騒ぎ。いくらなんでもやり過ぎだと思うのは私だけかな。
クラスの女の子たちは信じていない人の方が多いからまだマシだけど。事務所自体が否定したんだから当然とはいえ、そもそも三枝先輩が陽向くん以外と付き合うはずなんてないんだよ。
先輩はいつだって、陽向くんしか見てなかったもん。
私が陽向くんと三枝先輩の事を知ったのは中学に入ってからすぐの事だった。三年生に物凄く綺麗な先輩がいて、でも全然笑わないしむしろ感情がないんじゃないかって言われててどんな人か気になったのが始まり。
その時はちょうどお昼休みだったんだけど、校内散策で歩き回ってた私は中庭でキラキラしたものを見付けて近付いて、思わず目が釘付けになった。
王子様のような顔立ちに日に透けてキラキラと光る蜂蜜色の髪。どう考えてもあの人が噂の三枝先輩だって思ったと同時に、膝の上に座ってる小柄な男の子が凄く気になった。先輩に手ずからお菓子を食べさせて貰ってる可愛い男の子。その後に楢篠陽向くんって名前と、先輩とは幼馴染みって事を知ったんだけど、とにかく二人の雰囲気が穏やかで柔らかくて。
陽向くんを見つめる先輩の目は愛しいって気持ちを少しも隠さないくらい優しかったし、先輩を見上げる陽向くんの顔も安心しきってて凄く素敵だなって思ったんだ。
三枝先輩はみんなから無表情で無感情なんて言われてるけど、陽向くんの前では普通に笑ったりしてたから最初はどういう事って思ってた。でもそれが陽向くんにだけ向けられるものなんだって知ってこれが萌えかって一人悶えたりして。
三枝先輩は陽向くんにしか興味ないんだなって私でさえ気付いたのに、陽向くんは全然気付かなくてもどかしいって拳を握った事を覚えてる。
実はその時に男の子同士の恋愛っていいかもって思い始めたの。新しい扉、開けちゃったんだよね。
千里ちゃんとはその頃知り合った訳だけど、まさかこんなに綺麗な子が同胞だとは思わなかった。世間って本当に狭い。
一緒に三枝先輩と陽向くんを見守っていこうねって約束は今も健在だ。
高校生になって陽向くんと同じクラスになって、困ってるみたいだったから思い切って声をかけてみたけど本当にそうして良かったって今は思ってる。だって陽向くん、思った以上に危なっかしいんだもん。
ずっと先輩が守ってきたからか、ちょっとした事で絆されてお人好しを発揮する。だからついつい世話を焼きたくなるんだよね。
きっと千里ちゃんも同じだと思う。
三枝先輩の代わりに、私たちが陽向くんを悪者から守らなきゃ。
「なぁ、これどういう事?」
出た。今一番、陽向くんから引き離さなきゃ行けない男。
日下部くんは何故か三枝先輩を嫌っていて、その先輩が大事にしてる陽向くんに事ある毎に意地悪してくるから私たちの中では敵として認定されてる。
落ち込む陽向くんの前に何かを広げて見せたんだけど、まさかあれ、三枝先輩の記事? 何てひどいことを!
「何で熱愛報道出とんの?」
「そ、そんな事オレに言われても…」
「お前、真那と連絡取ってへんのか?」
「…連絡、来てない……」
「はぁ? あのなぁ…」
「ちょっと、陽向くんにそんなもの見せないでよ」
「先輩の事務所が否定コメントを出してたでしょう? 見ていないの?」
クラスメイトが遠巻きに見る中、困惑している陽向くんと怖い顔をしている日下部くんの間に手を差し込んで止めに入る。千里ちゃんの言葉に反応したのは陽向くんで、大きく目を見開いたあと顔を伏せた。
「コメントくらい知っとるけど、自分らはこれ見てへんの?」
「もちろん見たよ。でも有り得ない」
「何が」
「三枝先輩が、陽向くん以外に触る事が」
それにあの写真、どこか不自然だったんだよね。だって先輩の手は見えないけど奏音に触れてる感じはなかったし、どっちかと言えば奏音の方が抱きついてるみたいだった。
「何それ、幼馴染みやから? それこそ有り得へんやろ。大体、男やったら可愛い子の方がええに決まっとるやん」
「だからそれが先輩には当てはまらないんだってば」
「?」
陽向くんも先輩も公表してないから言えないのがもどかしい。でも本当に有り得ないし、私も千里ちゃんも信じてないから陽向くんも信じないで欲しいよ。
先輩が陽向くんの悲しむ事、するはずないんだから。
きゅっと眉を寄せてる陽向くんが両手でスマホを握ってる事に気付いた。きっと、先輩からの連絡を待ってるんだ。
「とにかく、俺は真那を許さへんからな。俺の目の黒いうちは、アイツとはくっつけさせへんっ」
私と千里ちゃんが睨みを効かせているからか、日下部くんは陽向くんを指差しながらそう言い捨てるとさっさと自分の席へと戻って行った。
今のはどういう意味なんだろう。
「……ごめん」
「陽向くんが謝るような事じゃないってば」
「昨日も、朝も、真那から何の連絡もなくて……そんな事ないって自分でも分かってるのに不安でさ…」
「陽向くん……」
「女々しいな、オレ…」
もー、先輩は何ですぐに弁明しないの? もしかして事務所から何か言われてる? でもせめて陽向くんにだけは連絡してあげて欲しい。
私は千里ちゃんと顔を見合わせたあと、「絶対大丈夫だから、三枝先輩を信じてあげて」と言って陽向くんの肩に手を置いた。
放課後、昇降口で日下部くんの後ろ姿と出くわした。朝の事でちょっとだけムカついていた私は駆け寄ってその制服を掴む。
背の高い日下部くんはつんのめる事もなく立ち止まり、眉を顰めて振り返ると私の顔を見るなり不思議そうな顔をした。
「あれ、陽向くんのオトモダチやん。何か用か?」
「無神経」
「へ?」
「陽向くんだって先輩から連絡来なくて不安がってるのに、あんなの見せて最低だよ」
「そんなん知らんし…」
「日下部くんの事情だって陽向くんは知らないよ」
「………」
ただでさえ日下部くんは三枝先輩を嫌いって豪語してて陽向くん気にしてるのに、追い討ちをかけるような事して悪いと思わないの?
「……前から気になっとったんやけど、いくら仲ええからってあの距離感おかしない? 陽向も、幼馴染みの熱愛出たくらいであないに落ち込んで…何か、まるで浮気されたみたいな顔しとったし」
「え? あ、えっと……」
「もしかして、あの二人ってデキとるん?」
この男、意外に勘が鋭い。聞かれても私の口からは言えないんだけど。
どうしたらいいか悩んでいると、私の肩にポンと手が置かれた。振り向くと千里ちゃんがいて、いつもの涼しい顔をして日下部くんを見上げている。
「それを知ってどうするつもり?」
「…否定せぇへんって事は、そうなんやな」
「バラすの?」
「人様の恋愛事情言い触らすような真似せんわ。むしろ真那にそういう相手がおるんやったら好都合やし」
「どういう意味?」
大嫌いとか遊ぶとか言ったくせに。でもそういうところちゃんとしてるのは素直に感心する。というか、男同士には反応しないんだ。
「アイツに熱上げとるおバカで可愛い子の目を覚まさしてやんねん」
「…良く分かんないけど、陽向くんを虐めるのだけはやめてよね」
「……せやな。何か可哀想になってきたし、揶揄うくらいにしとくわ」
何の心境の変化か、ずいぶんあっさりと手の平を返す日下部くんに思わず千里ちゃんと顔を見合わせる。
「困らせるのもナシだからね」
「まぁ、極力? ってか、過保護すぎん? アイツ男やで?」
「そんなもの、萌えの前では無意味だわ」
「も、もえ…?」
「とにかく、陽向くんに悲しい顔させたら日下部くんの薄い本作るからね」
「……自分らちょいちょい変な発言しとるけど何なん?」
日下部くんは見た目や体格的には攻めなんだけど、仕返しなら受けとして描くのもありね。土方かそっち系のガタイのいい攻めと組み合わせて……やだ、まだ何もしてないのに描きたくなってきちゃった。
一人妄想して顔が緩んでいたのか、千里ちゃんがクスリと笑い私の背中を撫でる。
「円香ったら、顔に出てるわよ」
「あはは、捗っちゃった」
「ふふ、いけない子ね」
「……よ、よー分からんけど、俺、帰るわな」
「ええ、また明日」
「またねー」
「……おう」
いそいそと帰って行く日下部くんに二人で手を振って見送る。
もしかして自分がネタにされたって気付いちゃったかな。でも実際、日下部くんも一部の界隈では関西弁受けとして人気が出そうな気もするけど……あーでもでも、やっぱり王道が一番だよね。
マナ×ヒナ、バンザイ!
「陽向くんと三枝先輩の件、早く解決するといいね」
「そうね。陽向くんには笑顔が似合うもの」
「こういう時、男の子だったらどうするのかな」
陽向くんには、三枝先輩との事を相談出来る男友達がいない。でも、だからって私たちにしてくれるかと言えば微妙なところなんだよね。
信頼されてないとかじゃなく、先輩がアイドルだから、言っちゃいけない事を言ってしまわないようにしてるって感じ。ラブラブな話ならいくらでも聞けるのに、こういう時は力にもなれない自分が嫌だ。
「大丈夫よ。あの二人は、そんな簡単に崩れるような関係じゃないわ」
「……そうだよね。ずーっと一緒だったんだもん。大丈夫だよね」
「ええ。という訳で円香、私たちはいつも通りでいるために、今日は本屋さんに行きましょうか」
「いいねー、千里ちゃん。ちょうど新刊出てるし、行こう行こう」
陽向くんが気負わないように、私たちだけでも普段と変わらずにいたら少しだけでも元気になってくれるはず。
だから私と千里ちゃんは暗い空気を飛ばすように明るく話しながら昇降口を後にした。
いつかどんな事でも話して貰えるような関係になれたらいいな。私たちはずっと陽向くんと三枝先輩の味方だし、何があったって嫌いになんてならない。
どうか一日でも早く、陽向くんが三枝先輩と会えますように。
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