人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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会いたい

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 熱愛報道から三日経ったものの、今だに真那からの連絡はない。二周年記念ライブはこっちでの公演が今日で終わってるし、あとにも仕事は入っていないはずなんだけど二十二時を過ぎてもメッセージの一つも来なくて、オレはスマホを枕の下に差し込んだ。
 速報が流れるまでは毎日くれてたのに、何で計ったようにパッタリやむかな。

 真那の事務所は全面的に否定しているのに対して、奏音さんの事務所は仲の良い友人だと聞いているとコメントを出したものだから、ますます真那のファンが怒って呟きサイトとかに奏音さんの事を悪く書く人が増えてる。ギスギスしてて何か嫌だ。
 あの件について、水島さんも、志摩さんも、風音さんも、誰も何も教えてくれない。

「真那が一言違うって言ってくれれば、まだマシなのに」

 思った以上にダメージを受けてるのは、オレがすっかり真那に惚れ込んでるからだ。恋人になってまだそんなに月日も経ってないけど、これまで積み重ねて来た年月があるはずなのに不安でしょうがない。

『好きだよ、ヒナ』

 目を閉じればいつでも真那の顔も声も思い出せるけど、出来ることなら肉眼で見たいし直に聞きたい。

「……真那のばかやろう…」

 言い訳ぐらいしてみろってんた。
 今が一番、真那の存在が遠い気がする。





 真那からの音信が途絶えたまま二週間。昨日から降り続く雨のせいで各地に大雨洪水警報が出され、さすがに高校も休校になった。予想外の三連休にひどく戸惑う。
 どんよりとした空に気持ちまで落ち込んで、いつもなら終わらせてる家事が何一つ出来ていない。辛うじて着替えはしたけど、朝ご飯も食べずにソファに寝転がってる。
 テレビはあれ以来点けてなくてずっと家の中はシンとしてた。
 真那の家にいた二週間が懐かしい。

「連絡…オレからしてみた方がいいのかもな」

 芸能人にはいろいろな制約がある。もし真那が連絡して来ない理由が事務所の指示とかそういう事でって言うなら、オレから送るくらいは問題ないはずだ。ダメなら見なかった事にするだろうし。
 一つ息を吐いて起き上がったオレは、覚悟を決めてメッセージアプリを開いた。でも真那の名前をタップする前に電話がかかってきて、しかもその相手が志摩さんだったから一瞬理解が出来なくて目を丸くする。
 応答ボタンをスライドし電話に出ると、久し振りに聞く柔らかな声が聞こえてきた。

『陽向くん?』
「志摩、さん…どうして……」
『説明はあとで。裏に車を停めてるんだけど、出て来れないかな』
「え?」
『真那に会いに行こう』
「……!」

 少しだけ早口な志摩さんに戸惑いつつも、続いた言葉に大きく目を見開く。
 真那に会える? 会ってもいいのか?
 色んな感情が駆け巡ったけど、オレの気持ちは一つだけだった。
    会えるなら、会いたい。

「すぐ行きます…!」

 意気込んで返事をしたオレは薄手のカーディガンを引っ掴んで玄関へいき、扉を開けた先に見えた激しい雨に若干腰が引けつつも傘を差して裏へと回る。そこには聞いた通り一台の車が止まっていた。
 一台しかないし合ってるはずとは思いつつもそっと近付いたら、助手席側の窓が半分開いて運転席にいる志摩さんが顔を覗かせる。
    これ、もしかしなくても志摩さんの車か。

「凄い雨だね。とりあえず乗って」
「は、はい」

 扉を開かれ傘を畳んで急いで乗り込むと、志摩さんが濡れそぼった傘を後部座席の足元の方へ移動させてくれた。
 それからゆっくりと車を発進させ大通りへ向かう。

「急にごめんね。やっと水島さんから許可が降りたんだ」
「許可?」
「うん。あの報道のあと、これ以上何かあっても困るからって事務所に言われて、みんな家族にさえ連絡を控えてたんだ。ライブもあったし、有り難い事に忙しかったから俺と風音は特に何とも思わなかったけど、真那は酷かったよ」

 だから真那からも連絡来なかったのか。
 確かに【soar】は事務所にとっての要とも言える存在だし、騒ぎが増えるのは良くないよな。家族にもって事だから、恋人のオレには尚更連絡なんて取れなくて当たり前だ。

「速報が流れた時生放送中だったのは知ってるよね?    終わって事務所に戻ったその足で真那は社長のところに行って、今すぐ陽向くんとの事を公表させろって直談判しに行ってた」
「え?」
「さすがに今は無理だってどうにか納得させたみたいだけど……正直かなり荒れてる。仕事はちゃんとしてくれるから水島さんも口には出さないけど、なるべく早く陽向くんと会えるようにしないとって思ってたんだ」

 今の状況で公表はさすがにぶっ飛びすぎ……でも、真那はそうしてもいいって思ってくれてるんだな。
 ただ、いくら同性愛が世間で認められつつあるとはいえ、人気アイドルが同性と付き合ってるってファンが知ったら、さすがに引かれるんじゃないか?ファンも減るんじゃ…。

「真那は俺や風音より年下だけど、ちゃんと業界人として必要な忍耐だとか心構えだとかは持ってるんだよ。でも今回はさすがにプチッと来たみたいで、無理やり陽向くんと連絡取ろうとして水島さんと揉めてね……スマホ、また壊したんだ」
「ええ!?」
「真那もショックだったみたいで、それからは俺たちにも分かるくらい目に見えて落ち込んでた」

 良く壊す奴だなと呆れるべきか、水島さんと揉めるなと叱るべきか。っていうか、それならオレが連絡しても無意味だったんだな。

「記事の話は直接真那から聞いた方が陽向くんも安心するだろうから今は言わないでおくよ」
「あ、ありがとうございます」
「こっちこそ遅くなってごめんね。不安だったよね」
「……はい…。真那の事、信じてはいるんですけど…速報が流れた日からピタッと連絡なくなったから」
「あー…そうだよね。事務所もそこら辺は融通効かせてくれても良かったんだけど」

 事務所の判断は正しい。真那やみんなを守るためには、少しでも怪しく見えるものはない方がいいもんな。
 ただオレが弱かっただけだ。

「あんまりにも真那の精神状態が悪いから、今日は今やってるソロ曲のレコーディングで真那の仕事は終わり。あと一時間くらいしたらマンションに帰ると思うから、出迎えてあげて。これ、真那の部屋の鍵」
「ありがとうございます」
「陽向くんは一般人なのに、俺たちの都合で振り回してごめんね」
「え? いえ、志摩さんや風音さん、水島さんがいて下さるから真那も楽しんでアイドルやってるし、皆さんのおかげで普通なら会う時間さえない真那に会えるんですから。むしろ感謝してます」
「陽向くんは本当にいい子だなぁ。こんなふうに支えてくれる子がいて、真那が羨ましいよ」
「えーっと、片手くらいなら」
「ヤキモチ焼きの真那が許してくれないよ。気持ちだけ有り難く貰っておくね」

 右手を上げてヒラヒラと振って見せると、最初よりは明るい声になった志摩さんが笑いながら首を振る。薄々気付いてたけど、やっぱり周りから見ても分かるくらい真那はヤキモチ焼きなのか。

 それからは記事とは関係ない他愛ない話をしつつ、念の為マンションから少し離れた場所で降ろして貰ったオレは、さも住人ですよーって顔をしてオートロックを解除し中に入ってエレベーターに向かう。
 ここに来るのも久し振りだ。
 最上階まで上がり、どの階で降りたか知られない為一階のボタンを押して真那の部屋へと向かう。解錠し、扉を開けて驚いた。
 物凄く部屋が汚い。

「泥棒にでも入られたのかってくらい散らかってるな」

 家事能力のない真那だけど、戻す場所さえ固定していれば部屋を散らかすような事はまずなくて、だからこそこの珍しい状況にオレはあんぐりと口を開けた。
 とりあえず玄関周りから綺麗にしようと、脱ぎ散らかされた靴をシューズボックスにしまい、同じように脱いだまま放置されてるだろう服を拾いつつリビングに向かう。いくら着る服には困らないくらいあるって言ってもこれはやり過ぎだ。たぶん、速報が出た日からまともに洗濯もしてない。
 水島さんも方々を回るハメになってただろうし、こうなるのも仕方ないか。

 部屋中に散らばっていた服を回収し洗濯機へ入れスイッチを押す。テーブルの上には『食う気がなくても食え!』と書かれたメモが貼られた弁当箱がいくつか置いてあり、未開封のものもあれば少しだけ食べたらしいものもあって、真那なりに食事は摂っていたみたいだ。
 残念ながらもうゴミ箱行きになるけど、それを重ねて纏め、キッチンへ行ったオレは更に驚く。
 キッチンの壁にオレがメモしておいた簡単な料理レシピの紙が貼ってあり、且つ料理をした形跡があったから。

「……頑張ったんだな」

 綺麗だったフライパンがちょっと焦げてるし、コンロには吹きこぼれたような跡が残ってる。掃除の仕方も教えてやんなきゃダメだったか。
 でも、ちゃんとどうにかしようって慣れないながらにキッチンに立つ真那の姿を想像すると得も言われぬ感動が湧き上がってきた。

 早く帰って来ないかな。

 オレは時計を見上げてふっと息を吐くと、引き出しからゴミ袋を取り出し不必要なものを突っ込んで行く。こうしていれば時間はあっという間に過ぎるだろうし、部屋も綺麗になるからまさに一石二鳥だ。

 一度腰を上げ気合いを入れ直したオレは、着たままだったカーディガンを脱ぎ再び作業を開始した。
 へこたれて帰ってきた真那が、すぐにでも落ち着けるように。
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