魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

文字の大きさ
17 / 43

17話 思いよ届け

しおりを挟む
「ねぇ……リベリオ……」
『眠たいんだろう、寝たらどうだ?』

 本格的に寝てしまいそうだから、私はソファーに横になって毛布にくるまっている。うとうとしながらも、ちょっと気になることがあってリベリオを呼び出した。

「そうなんだけど、魔物ってなんで出てくるの?」
『魔物か……過剰な魔力を体に蓄えた動物や植物が変化したものだと言われている』
「……魔力?」
『各地に温泉の湯やガスのように魔力が湧いてくる場所が時折現れる。それを瘴気、という者もいるが私はその言い方は好きではない』

 リベリオはちょっと持って回った言い方をした。

「なんで?」
『魔物は魔物になって困りはしない。悪いものだと考えるのは人間くらいさ』
「ふーん……」

 こうやって聞くとリベリオもやっぱり人間じゃないんだな、と思う。

「じゃあ、魔力が出るとこを塞げばいいのかな?」
『それができればとっくにやってるだろう。どこから出るのかいつ出るのかもわからんのだ』
「そっか……」

 じゃあ、この現象は自然災害に近いって事かな……。せめて備えを万全にするしか……。そこまで考えて眠気の限界が来て私は眠りに落ちた。



『こちらは園田真白さんの携帯番号でしょうか』
「……はい?」
『至急、○○病院までお越し下さい』
「……え?」

 そんな間抜けな返事しかできなかった。今朝まで二人きりのドライブを楽しみにしていた父と母。事故で即死と伝えられても、葬儀のごたごたの中でも、どこか現実味がなかった。
 
「母さん! 配達きたよ! ねぇ……」

 でもそんな慌ただしさが治まったある日、がらんとした一軒家で誰も返事をしてくれなかった時、はじめてもう二人ともいないのだ、と悟った。それから家を処分して、荷物はトランクルームに押し込んで、自分は小さなアパートに引っ越した。そして大学を休学して闇雲にバイトをしてその寂しさを紛らわしていた。

「どうして帰って来てくれないの……!」
「はいっ?」
「え?」

 目を開けると驚いた顔のクラリスと目が合った。クラリスは毛布を手にしている。

「申し訳ございません! 毛布が落ちそうだったもので」
「あ……寝てたのね……夢、か」

 あの頃の事を夢に見るのは久し振り。私は、むくりとソファから起き上がった。あれ、なんか部屋が暗くない?

「わっ、もう夕方!?」
「よく眠ってらしたので……」
「起こしてよぉ」

 大変、ザールさん一人に任せきりにしてしまった。私は慌てて起きて家を飛び出した。救護棟のドアを開けると、ザールさんはペンを片手に書き物をしていた。

「ごめんなさいっ!」
「おや、ゆっくりしてて良かったんですよ」
「そう言う訳には……」

 と、ふと私の目にザールさんのノートが目に止まった。ローズマリーやミントという単語。これは……。

「これ、私の事を書いているのですか?」
「はい。真白さんの記録です。もしかして私は今毎日凄いものを見ているのではないかと思いまして記録を取り始めました」
「そんな……あの、あんまりへんな事書かないで下さいね」

 ちょっと恥ずかしいな。

「さ、もう兵士もこないでしょうし閉めますよ」
「あ、はい……」

 あーもう、私は何しに来たんだろう……。

「そんな落ち込まないで下さい。元々救護棟の回復術師は私しか居なかったんですし。兵士が少ない今なら大丈夫ですよ」
「でも……」

 いつまでも自己嫌悪から落ち込み続ける私を見て、ザールさんはクスッと笑った。

「じゃあちょうど読みたい本があるので、明日は真白さんがメインで頑張って下さい。それでおあいこにしましょう」
「は、はい」
「さあ真っ暗になってしまう。帰りましょう」

 ザールさんは沈んでいく夕日を見つめた。ブライアンさん達も今頃は野営に取りかかっているのだろうか。

「みんな、早く帰ってくるといいですね……」
「ええ……」

 私も遠く旅だって行ったみんなの事を思いながら、救護棟を出た。

「申し訳ありませんでした。勝手な判断をしまして」

 家に帰るなりクラリスにそう謝られた。気が付かずにグウグウ寝てたのは私なんだから気にしなくていいのに。

「いいから気にしないで。……あ! 梅干し!」

 そう言えばバタバタしていて梅干し作りを中断したままだった。いい感じに青さが抜けてきていたから早く漬けないと。

「クラリス、夕食が終わったら漬けるの手伝って!」
「あ……はい」

 クラリスはなんだかあっけに取られたような顔をしていた。



「さーて」

 さっと夕食をすませて、梅干し作りだ。今回は念の為にちょっとだけ濃いめに塩分濃度二十%にしようと思う。漬ける分のリームの実を計り、塩を用意する。

「これを消毒したこの壺に塩と実を交互に入れてまずは二、三日塩漬けにするの」
「漬け物ってこうやって作るんですか……」
「色んなやり方があるけどね」

 もらったリームの実の三分の一といっても結構な量がある。実はこんなに沢山の梅干しを作った事はない。うまくいくといいな。
 黙々と二人で塩漬けを作っていると、ふとクラリスが呟いた。

「真白様はこういう事は覚えているのに、どうしてご自分の事は覚えてらっしゃらないんでしょうね」
「え!? あ、うん……」

 そ、そうでした……私は記憶喪失設定だった……。クラリスは不思議そうにこちらを見つめている。

「そうね、困っちゃうわね」

 私は曖昧に笑いながら誤魔化した。……はあ、いずれクラリスの目を誤魔化せなくなりそう……。と、いうかそのうち話さないといけないだろうな。

「じゃあ、もう遅いしこの辺にしておきましょう」
「はい、では真白様おやすみなさい」

 塩漬けがすんだら紫蘇も一緒に漬けて三週間ほど寝かせる。そしたらようやく完成だ。

「……すごい頑張っちゃったけど、私それまでここにいるのかしら」

 私は元も子もない考えに至って、ちらりと辞典を見た。リベリオが帰還の方法を探し出すまで一体どれくらいかかるのだろう。

「どっちにしても……今は帰れないな」

 魔物と戦っている騎士団のみんなに何も言わずに姿を消す訳にはいかない。

「みんな無事で帰ってきますように」

 信じる事だ、とフレデリック殿下は言った。きっとやり遂げてくれると私も信じよう。あんなに毎日打撲や筋肉痛に耐えて訓練してきた彼らだもの。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...