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21話 隊長とお出かけ
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「ほらついたぞ、真白」
「へっ!?」
「……帽子を買いに来たんだろう」
そうでした。馬車は城下町の帽子屋の前に停まっている。私が馬車を降りて、続いてブライアンさんが降り立つと道端の人々の目が彼に吸い寄せられる。
「王国騎士団のブライアン大隊長だ……」
「きゃあ!? ホンモノ?」
そんな声が人垣から聞こえる。でもブライアンさんはまるで気にしていないように私を振り返った。
「さあ行こう」
「え、ええ……」
彼は帽子屋の扉を開いて私を中に導く。
「うわぁ……こんなに沢山……」
フリルたっぷりの帽子だけでなくヘッドアクセサリーや男性向けと思われる帽子もある。
「どれでも好きなのを選んでいてくれ。おい店主、この羽根なんだが……」
ブライアンさんは私にそう言うと、魔物の大きな羽根を取り出して店主と打ち合わせをはじめた。
「……どれにしようかな」
私は店内を眺めた。フリルやレースをあしらったものが多い。これがここの流行なんだろう。ただ私の趣味かというとそうでもない。
「あ、麦わら帽子」
その中に大きめのリボンがついた麦わら帽子を見つけた。日々暑くなっているしこれから日差しも強くなるだろう。これはツバも大きいししっかり紫外線を防いでくれそうだな。
「それがいいのか?」
「え、ええ……」
「それもいいが少しくだけだデザインだな。店主、おすすめは?」
ブライアンさんは横にいた店主に聞いた。
「そうですね、こちらの方ですとこれなどは」
それは小ぶりな白い帽子だった。
「あててみたらどうだ」
「あ、はい……」
スッキリしたデザインのその帽子は今日の出で立ちにも良く似合う。でも、これに大きな赤い羽根がつくのよね。
「いいじゃないか。ではこれを。あとこの麦わらの帽子も」
ブライアンさんはポン、ポンと帽子を店主に手渡してカウンターに向かった。
「えっ……あ、自分で買いますよ」
「プレゼントだ。恥をかかさないでくれ」
「はい……」
ブライアンさんはおどけたように片眼をつむってみせた。奢りでしたか……こういうの初めてでどういう顔をしたら正解なのか分からない。私が一人で百面相をしていると、ブライアンさんが手招きをしている。
「真白、まだ仮止めだがこれでどうだ?」
「え?」
見るとカウンターの上のさっきの白い帽子に、小さなふわふわの羽毛がついている。……素敵。
「あら……これ……?」
「今回討伐した魔物の胸の羽毛だ」
ブライアンさんは私の反応を見ていたずらっぽく笑った。もしかしてからかわれたのかしら?
「真白は赤い羽根って感じじゃないからな。魔物の皮や羽は魔除けになると言われているから。受け取ってくれ、騎士団も皆なにかしら身につけている」
「……ありがとうございます」
「これで真白も騎士団の一員だ」
そうブライアンさんに肩を叩かれながら言われた私は正直悪い気はしなかった。
「ありがとうございました、じゃあ……」
私はブライアンさんに頭を下げて町を散策しようとくるりと方向転換した。知らない世界の知らない町。どんなものがあるのかしら。するとブライアンさんは私の腕を掴んだ。
「ちょっと待て、どこに行くつもりだ?」
「ちょっとぷらりと町を見たいんですが」
私がそう答えるとブライアンさんは首を振った。
「王都は治安のいい方だが……一人歩きをさせるわけにはいかない」
ブライアンさんはぎろりと周りを見渡した。この間、市場をちょっとだけ覗いた時も平気だったけれど。
「どこに行くつもりだ?」
「何も決めていません。そうですね……あっちに行って見ましょう」
私は適当に歩き出した。ブライアンさんは馬車の御者に一声かけてから後を追ってくる。帽子店の周り、この当たりはファッション関係のお店が多いみたいだ。
「賑わっていますね」
「ああ、特にこのあたりは国の流行の最先端だから地方からも人が沢山やってくる」
「へぇ……」
そのあたりを冷やかして歩いていると、あるお店に目が吸い寄せられた。
「ちょっと外で待っててください、ここ見てきます!」
私はその店の扉をあけた。むっと店内に満ちている皮の匂い。カウンターにいた店主がふとこちらを見て怪訝そうな顔をした。
「お嬢さん。ここは紳士向けの革製品の店だよ。お目当てのものはないんじゃないかな?」
「いいえ、あります。これ!」
私はウィンドウから見えた肩掛けカバンを手に取った。
「うん……ぴったり!」
それは辞典を入れるのにちょうどいい大きさだった。素っ気ないくらいの無骨な風合いがある。
「それは山羊の革のカバンだ。柔らかいのに丈夫で軽い」
「へぇ……こういうのを探していたんです!」
いつも辞典は大事に手で抱えて移動していたけれど、これがあれば両手が空く。試しに辞典を入れて肩から斜めがけにすると柔軟性のある革がぴったりと体に沿うようだった。
「これ下さい!」
「なら肩紐を調節しよう」
店主のおじさんが作業をしている間に店の中をぐるりと見渡す。カバンの他にはカード入れやポーチや小銭入れもある。私はこういうぬくもりのある感じ好きだな。
「このポーチも一緒にいいですか?」
「それは水棲の魔物の革だから高いよ。防水性は抜群だけどね」
「おいくらです?」
店主はそっと値段を耳打ちしてくれた。うん、まぁ出せる値段かな。でも魔物の素材って市場に出回っているのね。
「ではこれも」
「ははは、じゃあ儂もおまけしないとな……ほれ、お嬢さんの好きなものはなんだい?」
「えーと、草花とか」
「そうかい。じゃあこことこの辺に草花の文様の焼き印を入れるのは? サービスだよ」
「是非お願いします!」
わぁ、一気に私のものになった感じがする。おじさんの手によって模様をつけて貰ったカバンは素朴でありながら女性らしい感じになった。
「ありがとうございます」
「いやいや、またどうぞ」
ふふふ、いい買い物しちゃった。私は上機嫌で店を出た。
「へっ!?」
「……帽子を買いに来たんだろう」
そうでした。馬車は城下町の帽子屋の前に停まっている。私が馬車を降りて、続いてブライアンさんが降り立つと道端の人々の目が彼に吸い寄せられる。
「王国騎士団のブライアン大隊長だ……」
「きゃあ!? ホンモノ?」
そんな声が人垣から聞こえる。でもブライアンさんはまるで気にしていないように私を振り返った。
「さあ行こう」
「え、ええ……」
彼は帽子屋の扉を開いて私を中に導く。
「うわぁ……こんなに沢山……」
フリルたっぷりの帽子だけでなくヘッドアクセサリーや男性向けと思われる帽子もある。
「どれでも好きなのを選んでいてくれ。おい店主、この羽根なんだが……」
ブライアンさんは私にそう言うと、魔物の大きな羽根を取り出して店主と打ち合わせをはじめた。
「……どれにしようかな」
私は店内を眺めた。フリルやレースをあしらったものが多い。これがここの流行なんだろう。ただ私の趣味かというとそうでもない。
「あ、麦わら帽子」
その中に大きめのリボンがついた麦わら帽子を見つけた。日々暑くなっているしこれから日差しも強くなるだろう。これはツバも大きいししっかり紫外線を防いでくれそうだな。
「それがいいのか?」
「え、ええ……」
「それもいいが少しくだけだデザインだな。店主、おすすめは?」
ブライアンさんは横にいた店主に聞いた。
「そうですね、こちらの方ですとこれなどは」
それは小ぶりな白い帽子だった。
「あててみたらどうだ」
「あ、はい……」
スッキリしたデザインのその帽子は今日の出で立ちにも良く似合う。でも、これに大きな赤い羽根がつくのよね。
「いいじゃないか。ではこれを。あとこの麦わらの帽子も」
ブライアンさんはポン、ポンと帽子を店主に手渡してカウンターに向かった。
「えっ……あ、自分で買いますよ」
「プレゼントだ。恥をかかさないでくれ」
「はい……」
ブライアンさんはおどけたように片眼をつむってみせた。奢りでしたか……こういうの初めてでどういう顔をしたら正解なのか分からない。私が一人で百面相をしていると、ブライアンさんが手招きをしている。
「真白、まだ仮止めだがこれでどうだ?」
「え?」
見るとカウンターの上のさっきの白い帽子に、小さなふわふわの羽毛がついている。……素敵。
「あら……これ……?」
「今回討伐した魔物の胸の羽毛だ」
ブライアンさんは私の反応を見ていたずらっぽく笑った。もしかしてからかわれたのかしら?
「真白は赤い羽根って感じじゃないからな。魔物の皮や羽は魔除けになると言われているから。受け取ってくれ、騎士団も皆なにかしら身につけている」
「……ありがとうございます」
「これで真白も騎士団の一員だ」
そうブライアンさんに肩を叩かれながら言われた私は正直悪い気はしなかった。
「ありがとうございました、じゃあ……」
私はブライアンさんに頭を下げて町を散策しようとくるりと方向転換した。知らない世界の知らない町。どんなものがあるのかしら。するとブライアンさんは私の腕を掴んだ。
「ちょっと待て、どこに行くつもりだ?」
「ちょっとぷらりと町を見たいんですが」
私がそう答えるとブライアンさんは首を振った。
「王都は治安のいい方だが……一人歩きをさせるわけにはいかない」
ブライアンさんはぎろりと周りを見渡した。この間、市場をちょっとだけ覗いた時も平気だったけれど。
「どこに行くつもりだ?」
「何も決めていません。そうですね……あっちに行って見ましょう」
私は適当に歩き出した。ブライアンさんは馬車の御者に一声かけてから後を追ってくる。帽子店の周り、この当たりはファッション関係のお店が多いみたいだ。
「賑わっていますね」
「ああ、特にこのあたりは国の流行の最先端だから地方からも人が沢山やってくる」
「へぇ……」
そのあたりを冷やかして歩いていると、あるお店に目が吸い寄せられた。
「ちょっと外で待っててください、ここ見てきます!」
私はその店の扉をあけた。むっと店内に満ちている皮の匂い。カウンターにいた店主がふとこちらを見て怪訝そうな顔をした。
「お嬢さん。ここは紳士向けの革製品の店だよ。お目当てのものはないんじゃないかな?」
「いいえ、あります。これ!」
私はウィンドウから見えた肩掛けカバンを手に取った。
「うん……ぴったり!」
それは辞典を入れるのにちょうどいい大きさだった。素っ気ないくらいの無骨な風合いがある。
「それは山羊の革のカバンだ。柔らかいのに丈夫で軽い」
「へぇ……こういうのを探していたんです!」
いつも辞典は大事に手で抱えて移動していたけれど、これがあれば両手が空く。試しに辞典を入れて肩から斜めがけにすると柔軟性のある革がぴったりと体に沿うようだった。
「これ下さい!」
「なら肩紐を調節しよう」
店主のおじさんが作業をしている間に店の中をぐるりと見渡す。カバンの他にはカード入れやポーチや小銭入れもある。私はこういうぬくもりのある感じ好きだな。
「このポーチも一緒にいいですか?」
「それは水棲の魔物の革だから高いよ。防水性は抜群だけどね」
「おいくらです?」
店主はそっと値段を耳打ちしてくれた。うん、まぁ出せる値段かな。でも魔物の素材って市場に出回っているのね。
「ではこれも」
「ははは、じゃあ儂もおまけしないとな……ほれ、お嬢さんの好きなものはなんだい?」
「えーと、草花とか」
「そうかい。じゃあこことこの辺に草花の文様の焼き印を入れるのは? サービスだよ」
「是非お願いします!」
わぁ、一気に私のものになった感じがする。おじさんの手によって模様をつけて貰ったカバンは素朴でありながら女性らしい感じになった。
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