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第八章
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このエメレンスからの告白に驚いたのはリューディアだけではない。ヘイデンもイルメリも。それはモーゼフがリューディアのことを「ブス」と言い、彼女を遠ざけていた、というのはコンラット公爵家の関係者であるならば、誰でも知っていること。それの真相が今、エメレンスの口から明かされたということ。
「モーゼフ殿下は、わたくしのことを嫌ってはいなかったのですか?」
リューディアの震える声を聞いたエメレンスはしまった、とさえ思う。だがここまできてしまったら、引き返すこともできない。
「そうだよ、ディア。あの愚かな兄に代わってボクが謝罪する。君をずっと傷つけてきたこと。本当に、悪かったと思っている」
いつの間にかリューディアは、大粒の零れそうな涙をその目に溜めていた。辛うじて、それが流れ出てこないのは、リューディアが目を大きく開いているから。
「いいえ。エメレンス殿下に謝っていただくようなことではございません。わたくしが、きちんとモーゼフ殿下とお話をしなかったことが原因なのです」
「だけど、兄上は、リューディアに近づくとまともに話せなくなるからね。君のことが好きすぎて」
イルメリは吹き出しそうになった。彼女から見たら、モーゼフもエメレンスも子供のような存在だし、エメレンスの話を聞いていれば恋愛に奥手な男の話にしか聞こえてこない。
「わたくしは、モーゼフ殿下に嫌われてはいなかったのですね……」
「もし、兄上とやり直したいと君が望むなら、ボクも協力するよ」
リューディアは涙の溜まっている目で、エメレンスを見上げた。だが、そう言ったエメレンスも苦しそうな表情を浮かべている。ほんの数時間前、リューディアに向かって結婚して欲しいと、そう言った彼。彼がどのような思いでその言葉を口にしているのか。
リューディアは首を横に振る。
「モーゼフ殿下に嫌われていなかった。それだけわかれば充分です。もう、わたくしには、モーゼフ殿下への気持ちはありません」
「そういうことだ、エメレンス殿下。もう、この話は終わりにしよう。あまりディアの傷口を広げないでもらえるか? 俺にとっては可愛い妹なのでな」
「それを言ったら、ボクにとっても可愛いボクの好きな人です」
ぶほっと思わずお茶を吹きだしそうになったのは、イルメリだった。黙ってこの三人の話を聞いていたのだが、ここにきてエメレンスが変化球を投げてくるとは思わなかったのだ。
「ん、んんっ」
吹き出しそうになったことを誤魔化すように、イルメリは咳払いをする。
「エメレンス殿下、あなた、もしかして、リューディアに?」
「はい。気持ちを伝えました」
エメレンスが堂々と答える。
「いや、ちょっと待て、おい、どういうことだ」
ここに一人。エメレンスの気持ちというものに気付いていなかった男が一人。もちろんそれはヘイデンなのだが。
「ヘイデン。とりあえず、その話は置いておきましょう。まずは、そう……、そうそう、そうよ。モーゼフ殿下のことよ。あの、フリートという女性とのことよ」
話を脱線させた原因を作ったイルメリが、それを本線へと無理矢理引き戻した。
「そうです。ですから、兄上があのフリートという女性と結婚をしたいと言い出すことが不自然なのです。向こうにいる、兄上の護衛からの情報によりますと、どうやら兄上の様子が非常におかしい、と」
今までの脱線した話が無かったかのように、エメレンスも淡々と語り出した。
「ああ、それはシオドリックも言っていたな。リューディアとの婚約を解消して、一月経った辺りから、様子がおかしいときがある、と。まあ、俺にとっては、リューディアと対面させたときから、おかしい奴だと思っていたが」
どうやらヘイデンもあの脱線した話を置いておくことができたようだが、さりげなく毒を吐いている。
エメレンスは、それに気付かなかったのか、表情をぴくりとも変えず、言葉を続ける。
「それで。いろいろと総合的に考えた結果。そのフリートという女性ですが。兄上に対して、魅了の魔法とか、そういった魔導具を使っているのではないか、と。そう考えたわけです。まあ、何やら兄上をこう、操る術というか。意思を奪う術というか。そんな感じのものです」
ヘイデンは腕を組み、顎をさすりながら考える。フニペロ・メイソン、及びフリート・メイソン。メイソン侯爵家。
「メイソン侯爵家は、代々魔導具師を輩出している家柄だ……。フニペロ自身も、ここに赴任する前は、魔導具師として活躍していた……」
ヘイデンの言葉を聞きながら、エメレンスは奥歯を噛み締めた。
「モーゼフ殿下は、わたくしのことを嫌ってはいなかったのですか?」
リューディアの震える声を聞いたエメレンスはしまった、とさえ思う。だがここまできてしまったら、引き返すこともできない。
「そうだよ、ディア。あの愚かな兄に代わってボクが謝罪する。君をずっと傷つけてきたこと。本当に、悪かったと思っている」
いつの間にかリューディアは、大粒の零れそうな涙をその目に溜めていた。辛うじて、それが流れ出てこないのは、リューディアが目を大きく開いているから。
「いいえ。エメレンス殿下に謝っていただくようなことではございません。わたくしが、きちんとモーゼフ殿下とお話をしなかったことが原因なのです」
「だけど、兄上は、リューディアに近づくとまともに話せなくなるからね。君のことが好きすぎて」
イルメリは吹き出しそうになった。彼女から見たら、モーゼフもエメレンスも子供のような存在だし、エメレンスの話を聞いていれば恋愛に奥手な男の話にしか聞こえてこない。
「わたくしは、モーゼフ殿下に嫌われてはいなかったのですね……」
「もし、兄上とやり直したいと君が望むなら、ボクも協力するよ」
リューディアは涙の溜まっている目で、エメレンスを見上げた。だが、そう言ったエメレンスも苦しそうな表情を浮かべている。ほんの数時間前、リューディアに向かって結婚して欲しいと、そう言った彼。彼がどのような思いでその言葉を口にしているのか。
リューディアは首を横に振る。
「モーゼフ殿下に嫌われていなかった。それだけわかれば充分です。もう、わたくしには、モーゼフ殿下への気持ちはありません」
「そういうことだ、エメレンス殿下。もう、この話は終わりにしよう。あまりディアの傷口を広げないでもらえるか? 俺にとっては可愛い妹なのでな」
「それを言ったら、ボクにとっても可愛いボクの好きな人です」
ぶほっと思わずお茶を吹きだしそうになったのは、イルメリだった。黙ってこの三人の話を聞いていたのだが、ここにきてエメレンスが変化球を投げてくるとは思わなかったのだ。
「ん、んんっ」
吹き出しそうになったことを誤魔化すように、イルメリは咳払いをする。
「エメレンス殿下、あなた、もしかして、リューディアに?」
「はい。気持ちを伝えました」
エメレンスが堂々と答える。
「いや、ちょっと待て、おい、どういうことだ」
ここに一人。エメレンスの気持ちというものに気付いていなかった男が一人。もちろんそれはヘイデンなのだが。
「ヘイデン。とりあえず、その話は置いておきましょう。まずは、そう……、そうそう、そうよ。モーゼフ殿下のことよ。あの、フリートという女性とのことよ」
話を脱線させた原因を作ったイルメリが、それを本線へと無理矢理引き戻した。
「そうです。ですから、兄上があのフリートという女性と結婚をしたいと言い出すことが不自然なのです。向こうにいる、兄上の護衛からの情報によりますと、どうやら兄上の様子が非常におかしい、と」
今までの脱線した話が無かったかのように、エメレンスも淡々と語り出した。
「ああ、それはシオドリックも言っていたな。リューディアとの婚約を解消して、一月経った辺りから、様子がおかしいときがある、と。まあ、俺にとっては、リューディアと対面させたときから、おかしい奴だと思っていたが」
どうやらヘイデンもあの脱線した話を置いておくことができたようだが、さりげなく毒を吐いている。
エメレンスは、それに気付かなかったのか、表情をぴくりとも変えず、言葉を続ける。
「それで。いろいろと総合的に考えた結果。そのフリートという女性ですが。兄上に対して、魅了の魔法とか、そういった魔導具を使っているのではないか、と。そう考えたわけです。まあ、何やら兄上をこう、操る術というか。意思を奪う術というか。そんな感じのものです」
ヘイデンは腕を組み、顎をさすりながら考える。フニペロ・メイソン、及びフリート・メイソン。メイソン侯爵家。
「メイソン侯爵家は、代々魔導具師を輩出している家柄だ……。フニペロ自身も、ここに赴任する前は、魔導具師として活躍していた……」
ヘイデンの言葉を聞きながら、エメレンスは奥歯を噛み締めた。
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