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第二章:契約結婚? いえ、雇用関係です!(11)
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クライブは部屋に入るとマリアンヌをイリヤに渡した。彼はこれから着替えるのだが、イリヤはどうしたらいいのだろう。
「そこに座っていろ、すぐに着替える」
「はぁ……」
別にイリヤがここにいなくてもいいのではないだろうか。クライブに促されたふかふかのソファに身体を預け、マリアンヌを抱き上げて「たかいたかい」をしてみる。
首はしっかりと据わっているものの、まだ一人でのおすわりは不安定なところがある。腰がしっかりと据わるまで、もう少しといったところだろう。となれば、月齢は半年から九か月程度か。成長から月齢を推測するのは、個人差もあるため難しい。
それでも妹たちのあのときの姿と重なる。彼女たちは、母親はどうしているだろう。
音もなくソファが沈んだ。
「あ~、だ~」
「なんだって機嫌がいいな。この姿のマリアンヌをあいつに自慢してやりたい」
クライブは人差し指でつんつんとマリアンヌの頬をつつくと「ぶぶぅ」と彼女は涎を出す。
「マリーの正確な月齢はわからないんですよね?」
異世界から召喚された聖女であるが、言葉が通じない。
「ああ、残念ながら」
「そろそろ、離乳食を始めてもいいかもしれませんね。たくさん、涎も出ているみたいですし」
マリアンヌが食べようとしていたお菓子にも手を伸ばそうとしていたし、それを見て涎を出していたのを思い出す。
「やはり、食事のときにはマリアンヌも食堂に連れていきましょう。大人の食べる食べ物にも反応を示すのなら、やはり食べることに興味があると思うので」
確か、妹たちがそうだったはず。
「そうか。オレには離乳食というものがよくわからないが。料理人に伝えておく。それで大丈夫か?」
「大丈夫だと思います」
マリアンヌはクライブの眼鏡に興味があるようで、先ほどから手を伸ばしている。
「閣下……マリーの前で眼鏡は危険かもしれません」
「ああ、だったら外すか」
すんなりと眼鏡を外し、テーブルの隅に置く。それはマリアンヌの手が届かぬ場所。
「ですが、外したら見えないのでは? これ、見えます? 指は何本に見えますか?」
彼の目の前で人差し指を立てて、横に振った。
「一本だ。オレは視力が悪くて眼鏡をかけているわけじゃない」
「そうなんですか? え? なんで? なんで見えるのに眼鏡をかけているんですか?」
マリアンヌはイリヤの胸元に手を伸ばしている。
「眼鏡をかけているほうが、知的に見えるだろう?」
「もしかして、それが理由……?」
その言葉に、彼は答えなかった。ただイリヤの胸元に頭を預けているマリアンヌを愛おしそうに見つめている。
そう言われると眼鏡を外したクライブは、一気に幼く見える。立場上の威厳というものだろうか。
「あ、あのですね。家に手紙を出したいのですが、よろしいでしょうか?」
「手紙?」
彼はそう聞き返すが、彼の人差し指が不自然な位置で止まっている。またマリアンヌの頬をつんつんとつつこうとしたのだろう。だが、気持ちはわかる。ぷっくりとしたもちもちのほっぺは、触らずにはいられないのだ。
「はい。閣下と結婚したことを母に報告したくて」
黙って腕を組んだ彼は、何かを考え込んでいる様子。
「……そうだな。イリヤの家、マーベル子爵邸に挨拶にいかねばならないな」
「え、いや。いいですよ。どうせ今の父は叔父ですし」
「そういうわけにはいかないだろう? 君の両親にはきちんと挨拶をしておきたい」
「どうせ、契約結婚なのに。マリアンヌが結婚したら、私たちは離縁ですよ?」
そのマリアンヌは、イリヤの胸の間に顔を埋めて眠っている。
「イリヤがそう思うのは自由だが。それだってあと十年以上も先の話だ。それまでに君の気持ちが変わるかも知れないしな」
なぜかクライブの眼差しが優しく感じられ、胸に突き刺さる。だが、それに返す言葉が見つからなかった。
「そこに座っていろ、すぐに着替える」
「はぁ……」
別にイリヤがここにいなくてもいいのではないだろうか。クライブに促されたふかふかのソファに身体を預け、マリアンヌを抱き上げて「たかいたかい」をしてみる。
首はしっかりと据わっているものの、まだ一人でのおすわりは不安定なところがある。腰がしっかりと据わるまで、もう少しといったところだろう。となれば、月齢は半年から九か月程度か。成長から月齢を推測するのは、個人差もあるため難しい。
それでも妹たちのあのときの姿と重なる。彼女たちは、母親はどうしているだろう。
音もなくソファが沈んだ。
「あ~、だ~」
「なんだって機嫌がいいな。この姿のマリアンヌをあいつに自慢してやりたい」
クライブは人差し指でつんつんとマリアンヌの頬をつつくと「ぶぶぅ」と彼女は涎を出す。
「マリーの正確な月齢はわからないんですよね?」
異世界から召喚された聖女であるが、言葉が通じない。
「ああ、残念ながら」
「そろそろ、離乳食を始めてもいいかもしれませんね。たくさん、涎も出ているみたいですし」
マリアンヌが食べようとしていたお菓子にも手を伸ばそうとしていたし、それを見て涎を出していたのを思い出す。
「やはり、食事のときにはマリアンヌも食堂に連れていきましょう。大人の食べる食べ物にも反応を示すのなら、やはり食べることに興味があると思うので」
確か、妹たちがそうだったはず。
「そうか。オレには離乳食というものがよくわからないが。料理人に伝えておく。それで大丈夫か?」
「大丈夫だと思います」
マリアンヌはクライブの眼鏡に興味があるようで、先ほどから手を伸ばしている。
「閣下……マリーの前で眼鏡は危険かもしれません」
「ああ、だったら外すか」
すんなりと眼鏡を外し、テーブルの隅に置く。それはマリアンヌの手が届かぬ場所。
「ですが、外したら見えないのでは? これ、見えます? 指は何本に見えますか?」
彼の目の前で人差し指を立てて、横に振った。
「一本だ。オレは視力が悪くて眼鏡をかけているわけじゃない」
「そうなんですか? え? なんで? なんで見えるのに眼鏡をかけているんですか?」
マリアンヌはイリヤの胸元に手を伸ばしている。
「眼鏡をかけているほうが、知的に見えるだろう?」
「もしかして、それが理由……?」
その言葉に、彼は答えなかった。ただイリヤの胸元に頭を預けているマリアンヌを愛おしそうに見つめている。
そう言われると眼鏡を外したクライブは、一気に幼く見える。立場上の威厳というものだろうか。
「あ、あのですね。家に手紙を出したいのですが、よろしいでしょうか?」
「手紙?」
彼はそう聞き返すが、彼の人差し指が不自然な位置で止まっている。またマリアンヌの頬をつんつんとつつこうとしたのだろう。だが、気持ちはわかる。ぷっくりとしたもちもちのほっぺは、触らずにはいられないのだ。
「はい。閣下と結婚したことを母に報告したくて」
黙って腕を組んだ彼は、何かを考え込んでいる様子。
「……そうだな。イリヤの家、マーベル子爵邸に挨拶にいかねばならないな」
「え、いや。いいですよ。どうせ今の父は叔父ですし」
「そういうわけにはいかないだろう? 君の両親にはきちんと挨拶をしておきたい」
「どうせ、契約結婚なのに。マリアンヌが結婚したら、私たちは離縁ですよ?」
そのマリアンヌは、イリヤの胸の間に顔を埋めて眠っている。
「イリヤがそう思うのは自由だが。それだってあと十年以上も先の話だ。それまでに君の気持ちが変わるかも知れないしな」
なぜかクライブの眼差しが優しく感じられ、胸に突き刺さる。だが、それに返す言葉が見つからなかった。
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