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第三章:お仕事はきっちりとこなします(1)
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隣で眠るイリヤを見下ろし、クライブは静かに息を吐いた。
彼女の胸元は静かに上下しており、ぐっすりと夢の世界に入り込んでいるらしい。
彼女と出会って一日半。出会って数時間で結婚をしたと言えば、誰もが驚くだろう。
クライブ自身だって、まさか自分が結婚するとは思っていなかった。それもこれもすべて、国王であるエーヴァルトが原因である。つまり、国王のせい。人のせいにするものではないとクライブは常々口にしているが、今回の件だけは例外である。
彼女は十九歳とは聞いているが、こうやって眠っている姿はもっと幼く見えた。頬にかかるマホガニーの髪が、寝息でふわふわ動いている。それをさっと手で払いのける。
聖女召喚の儀が行われたのは、およそ一か月前。聖女は無事に召喚されたが、赤ん坊だった。そのまますくすくと成長して、聖女となってこの国を魔物から救ってくれればいいのだが、その聖女本人が問題児であった。
誰の手にも負えない。
書類上はクライブの娘となったが、王城で国王夫妻が引き取って育てていた。それでも乳母も手を焼くし、たまに暴走する魔法は国家魔法使いであっても二人から三人がかりでやっと。
それなのに、イリヤは一人で聖女マリアンヌを眠りにつかせ、そのマリアンヌもすっかりとイリヤになついている。誰もできなかった偉業を、簡単にやってのけたのだ。たったそれだけのことと思えるかも知れないが、エーヴァルトやクライブからしたら偉業である。
これならマリアンヌの成長を待ち、聖なる力で魔物を蹴散らしてもらえばよい。
その件について、クライブの結婚がもれなくついてきたのは、やはりエーヴァルトの仕業としか思えない。彼は、魔法が使えるイリヤをこちら側に取り込もうとしている。
魔法は貴重な力。ある種族の血を引く者が使えるとされているが、それはまだ詳しく解明されていない。魔法研究者たちが、こぞって研究している最中でもある。
結局、毒婦や悪女と噂されていた彼女であるが、イリヤ本人の話を聞く限り、その噂に悪意が込められているのはすぐに気づいた。それに彼女と接すれば、噂通りの人間ではないとわかる。
家族思いで真っ直ぐな女性。
それが、クライブが彼女に抱いた印象である。少々お淑やかさに欠けるものの、クライブ自身がお淑やかな女性を望んでいるわけではないので、大した問題ではない。ただ、公爵夫人としての振る舞いを求める場面はあるかもしれないが、彼女であればそれなりに対処してくれるような、そんな期待すらある。
幸せそうな彼女の寝顔を見ていると、なぜか頬っぺたをつんつんとしたくなった。
その欲求に抗えず、指で頬をつついてみるが、起きる様子はない。予想していたよりも柔らかな頬にもっと触れたい欲が出てきたところで、自分の頬をつねる。
やはり、自分のものとは違った。
マリアンヌの頬とも異なる。でも柔らかかったし、こうやって眺めていると彼女がかわいいとさえ思えてくる。
そもそも彼女は、悪意が立つくらいに顔立ちは整っているほうだから、そう思うのも自然なのだろう、たぶん。
エーヴァルトに提案された無理難題のような結婚も引き受けたのも、彼女に興味を持ったからである。もっと彼女を知りたいという欲が、どこかにあった。どのような女性なのか、もっと知りたい――
クライブが彼女を眺めていたのは、眠れないからであって悶々としているからではない。
これから眠るというのにシャツを着せられて、肌がむず痒い。慣れないことをしたから眠れない、ただそれだけ。
はぁ、と大きく息を吐く。オイルランプの灯火は弱々しくなっており、しばらくしたら消えるだろう。
どうせ彼女も眠ってしまったし、今なら脱いでも怒られない。
そう思ってクライブは、シャツに手をかけた。
彼女の胸元は静かに上下しており、ぐっすりと夢の世界に入り込んでいるらしい。
彼女と出会って一日半。出会って数時間で結婚をしたと言えば、誰もが驚くだろう。
クライブ自身だって、まさか自分が結婚するとは思っていなかった。それもこれもすべて、国王であるエーヴァルトが原因である。つまり、国王のせい。人のせいにするものではないとクライブは常々口にしているが、今回の件だけは例外である。
彼女は十九歳とは聞いているが、こうやって眠っている姿はもっと幼く見えた。頬にかかるマホガニーの髪が、寝息でふわふわ動いている。それをさっと手で払いのける。
聖女召喚の儀が行われたのは、およそ一か月前。聖女は無事に召喚されたが、赤ん坊だった。そのまますくすくと成長して、聖女となってこの国を魔物から救ってくれればいいのだが、その聖女本人が問題児であった。
誰の手にも負えない。
書類上はクライブの娘となったが、王城で国王夫妻が引き取って育てていた。それでも乳母も手を焼くし、たまに暴走する魔法は国家魔法使いであっても二人から三人がかりでやっと。
それなのに、イリヤは一人で聖女マリアンヌを眠りにつかせ、そのマリアンヌもすっかりとイリヤになついている。誰もできなかった偉業を、簡単にやってのけたのだ。たったそれだけのことと思えるかも知れないが、エーヴァルトやクライブからしたら偉業である。
これならマリアンヌの成長を待ち、聖なる力で魔物を蹴散らしてもらえばよい。
その件について、クライブの結婚がもれなくついてきたのは、やはりエーヴァルトの仕業としか思えない。彼は、魔法が使えるイリヤをこちら側に取り込もうとしている。
魔法は貴重な力。ある種族の血を引く者が使えるとされているが、それはまだ詳しく解明されていない。魔法研究者たちが、こぞって研究している最中でもある。
結局、毒婦や悪女と噂されていた彼女であるが、イリヤ本人の話を聞く限り、その噂に悪意が込められているのはすぐに気づいた。それに彼女と接すれば、噂通りの人間ではないとわかる。
家族思いで真っ直ぐな女性。
それが、クライブが彼女に抱いた印象である。少々お淑やかさに欠けるものの、クライブ自身がお淑やかな女性を望んでいるわけではないので、大した問題ではない。ただ、公爵夫人としての振る舞いを求める場面はあるかもしれないが、彼女であればそれなりに対処してくれるような、そんな期待すらある。
幸せそうな彼女の寝顔を見ていると、なぜか頬っぺたをつんつんとしたくなった。
その欲求に抗えず、指で頬をつついてみるが、起きる様子はない。予想していたよりも柔らかな頬にもっと触れたい欲が出てきたところで、自分の頬をつねる。
やはり、自分のものとは違った。
マリアンヌの頬とも異なる。でも柔らかかったし、こうやって眺めていると彼女がかわいいとさえ思えてくる。
そもそも彼女は、悪意が立つくらいに顔立ちは整っているほうだから、そう思うのも自然なのだろう、たぶん。
エーヴァルトに提案された無理難題のような結婚も引き受けたのも、彼女に興味を持ったからである。もっと彼女を知りたいという欲が、どこかにあった。どのような女性なのか、もっと知りたい――
クライブが彼女を眺めていたのは、眠れないからであって悶々としているからではない。
これから眠るというのにシャツを着せられて、肌がむず痒い。慣れないことをしたから眠れない、ただそれだけ。
はぁ、と大きく息を吐く。オイルランプの灯火は弱々しくなっており、しばらくしたら消えるだろう。
どうせ彼女も眠ってしまったし、今なら脱いでも怒られない。
そう思ってクライブは、シャツに手をかけた。
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