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第二章:契約結婚? いえ、雇用関係です!(10)
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「浄化魔法ですね。これで雑菌もあっという間にさようならです。旦那様は私の力をご存知なのですから、もう隠す必要もないかなと思いまして。家にいるときも、必要に応じて使っていましたから」
魔法が使えると知られているのに、わざわざ隠す必要もないだろう。
「そうか。だが、魔法は貴重な力。いくらこの屋敷内であっても、信頼のおける者以外の前ではけして使うな」
この場にいたのはクライブとチャールズ、そしてマリアンヌのみ。この者たちは信頼のおける者に該当するようだ。
「わかりました」
イリヤがしゅんとすると、クライブは困ったような顔をする。目が合った。だけど、すぐに逸らされた。
クライブという人間はよくわからない。まだ出会って一日しか経っていないのだから、それも仕方ない。一日で相手のすべてを理解しろというほうが、無理な話である。
「あ~あ~、う~」
マリアンヌがクライブの腕の中にうつっても、彼女はご機嫌なままだった。
「あら、パパの腕も嫌がらないみたいですね」
「う~う~」
両手をぶんぶんと動かして、その手の先がクライブの眼鏡をとらえた。
「あっ」
眼鏡はひゅん向こう側へと飛んでいく。それを慌ててチャールズが追いかけ、拾った。
「旦那様」
「ああ、すまない。だが、マリアンヌを抱くと眼鏡が危険だということがわかった」
片手で器用にマリアンヌを抱くクライブの様子をみていると、子守りの経験があるのだろうかと思えてしまうほど。
「マリー。パパの眼鏡で遊んでは駄目ですよ」
イリヤの言葉に「あ~う~」と返事をするマリアンヌだが、それよりもクライブの表情が穏やかである。眼鏡が吹っ飛ばされたというのに。もしかして、いじめられるのが好きなタイプの人間なのだろうか。被虐性がある、とか。
「着替えたいのだが、部屋に連れて行ってもいいか?」
クライブのその問いは、誰に許可を求め、誰を連れていくのかがわからない。
ここにいるのは四人。そして、彼が抱いているのはマリアンヌ。となれば、マリアンヌを部屋に連れていくのをイリヤかチャールズに許可を求めていると考えるのが妥当だろう。しかしチャールズが使用人であるのを考えると、やはりイリヤに尋ねたと考えるのが無難だ。
「はい」
クライブは、マリアンヌが眼鏡に手を出さないように彼女を縦抱きにした。肩に顔を預けているから、彼の後ろを歩くイリヤからは楽しそうなマリアンヌの表情がよく見える。
「あ~あ~」
マリアンヌはイリヤに向かって手を伸ばす。イリヤも彼女の手に自分の手を伸ばすと、がしっとマリアンヌがイリヤの指をつかんだ。
「きゃ、きゃっ」
何が楽しいのか、声を出して手足をばたつかせる。
ドンッ――
「あっ……急に立ち止まらないでください」
よくわからないがクライブがその場で立ち止まったため、イリヤは彼の背に顔面をぶつけてしまった。ふわっと汗と香水の混じった匂いが鼻をかすめる。
「マリアンヌが身を乗り出したからな。危ないと思って止まっただけだ。もしかして、どこか痛めたか?」
顔だけ後ろを向けて、彼はイリヤを見下ろす。
「大丈夫です。おでこがぶつかっただけなので」
「ふむ。大丈夫そうだな、赤くはなっていない」
クライブは空いている手でイリヤの前髪を上げ、額を確認した。イリヤだってそれほど衝撃があったわけではない。だけど、彼に文句の一つや二つを言いたくて、「急に止まるな」と言っただけなのだ。
それなのにイリヤの様子を心配して顔をのぞき込まれたら、違う意味で赤くなってしまう。
「大丈夫ですから。ほら、さっさと着替えましょう」
イリヤはクライブの背を押して、先を急がせた。その間も、マリアンヌは「きゃ、きゃ」と声をあげているし、数歩後れてついてくるチャールズは笑みをたたえている。
魔法が使えると知られているのに、わざわざ隠す必要もないだろう。
「そうか。だが、魔法は貴重な力。いくらこの屋敷内であっても、信頼のおける者以外の前ではけして使うな」
この場にいたのはクライブとチャールズ、そしてマリアンヌのみ。この者たちは信頼のおける者に該当するようだ。
「わかりました」
イリヤがしゅんとすると、クライブは困ったような顔をする。目が合った。だけど、すぐに逸らされた。
クライブという人間はよくわからない。まだ出会って一日しか経っていないのだから、それも仕方ない。一日で相手のすべてを理解しろというほうが、無理な話である。
「あ~あ~、う~」
マリアンヌがクライブの腕の中にうつっても、彼女はご機嫌なままだった。
「あら、パパの腕も嫌がらないみたいですね」
「う~う~」
両手をぶんぶんと動かして、その手の先がクライブの眼鏡をとらえた。
「あっ」
眼鏡はひゅん向こう側へと飛んでいく。それを慌ててチャールズが追いかけ、拾った。
「旦那様」
「ああ、すまない。だが、マリアンヌを抱くと眼鏡が危険だということがわかった」
片手で器用にマリアンヌを抱くクライブの様子をみていると、子守りの経験があるのだろうかと思えてしまうほど。
「マリー。パパの眼鏡で遊んでは駄目ですよ」
イリヤの言葉に「あ~う~」と返事をするマリアンヌだが、それよりもクライブの表情が穏やかである。眼鏡が吹っ飛ばされたというのに。もしかして、いじめられるのが好きなタイプの人間なのだろうか。被虐性がある、とか。
「着替えたいのだが、部屋に連れて行ってもいいか?」
クライブのその問いは、誰に許可を求め、誰を連れていくのかがわからない。
ここにいるのは四人。そして、彼が抱いているのはマリアンヌ。となれば、マリアンヌを部屋に連れていくのをイリヤかチャールズに許可を求めていると考えるのが妥当だろう。しかしチャールズが使用人であるのを考えると、やはりイリヤに尋ねたと考えるのが無難だ。
「はい」
クライブは、マリアンヌが眼鏡に手を出さないように彼女を縦抱きにした。肩に顔を預けているから、彼の後ろを歩くイリヤからは楽しそうなマリアンヌの表情がよく見える。
「あ~あ~」
マリアンヌはイリヤに向かって手を伸ばす。イリヤも彼女の手に自分の手を伸ばすと、がしっとマリアンヌがイリヤの指をつかんだ。
「きゃ、きゃっ」
何が楽しいのか、声を出して手足をばたつかせる。
ドンッ――
「あっ……急に立ち止まらないでください」
よくわからないがクライブがその場で立ち止まったため、イリヤは彼の背に顔面をぶつけてしまった。ふわっと汗と香水の混じった匂いが鼻をかすめる。
「マリアンヌが身を乗り出したからな。危ないと思って止まっただけだ。もしかして、どこか痛めたか?」
顔だけ後ろを向けて、彼はイリヤを見下ろす。
「大丈夫です。おでこがぶつかっただけなので」
「ふむ。大丈夫そうだな、赤くはなっていない」
クライブは空いている手でイリヤの前髪を上げ、額を確認した。イリヤだってそれほど衝撃があったわけではない。だけど、彼に文句の一つや二つを言いたくて、「急に止まるな」と言っただけなのだ。
それなのにイリヤの様子を心配して顔をのぞき込まれたら、違う意味で赤くなってしまう。
「大丈夫ですから。ほら、さっさと着替えましょう」
イリヤはクライブの背を押して、先を急がせた。その間も、マリアンヌは「きゃ、きゃ」と声をあげているし、数歩後れてついてくるチャールズは笑みをたたえている。
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