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第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(5)
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神官長の生ぬるい視線を感じた。いや、その生ぬるい視線は他に三人分。
そもそもクライブが、あんな場所で結婚していたと宣言したのが原因である。
「今、マリアンヌがパパと言わなかったか?」
「閣下。それでは、陛下と同じですよ」
他の人に聞こえぬように、彼の耳元でそうささやく。だがその姿すら、他の四人からは仲睦まじい様子に見えたようだ。
コホンとわざとらしい咳払いが聞こえた。
「閣下。聖女様を別室にご案内して、今後のことを相談しましょう」
神官長の言葉で、イリヤはクライブの手をペシッと払った。
イリヤが通されたのは、応接室である。ここに通されたのは、初めてかもしれない。
「マリー!」
早速アルベルトがパタパタと足音を立ててやってきた。
イリヤは、どうしましょうと意見を求めるようにしてクライブを見上げる。
「今のマリアンヌであれば大丈夫だろう。これから彼らと話をするのに、むしろマリアンヌを他の者に見てもらえるのであれば、こちらとしては都合がいい」
だからアルベルトをけしかけたのではないかと勘ぐってしまう。
「アルベルト様。マリアンヌをお願いしますね」
イリヤは、アルベルトの後ろに控えていた乳母にマリアンヌを預ける。マリアンヌの世話をしたことのある乳母である。一時期、マリアンヌに手こずった彼女であるが、今は穏やかな笑みを浮かべている。
マリアンヌがアルベルトたちと部屋を出て行くのを見送ってから、力が抜けたかのようにイリヤはすとんとソファに身を預けた。クライブはさも当たり前のように隣に座ってくる。あとは、神官長たちは空いている場所にと適当に座る。
「イリヤ嬢。このたびは、聖女役を引き受けてくださったことに感謝する」
神官長が深く頭を下げると、魔法使いの三人も頭を下げた。
召喚の儀に立ち会える魔法使いも、国家魔法使いの中では魔力が強く地位の高い者であると聞いている。
「はぁ……緊張しました。とにかく、なんとか誤魔化せたようで安心しました」
そこへワゴンを手にした侍女がやってきた。
彼女の動きを、そこにいる者たちが黙って見守る。
イリヤが聖女代理であることを、召喚の儀に立ち会った者以外に知られてはならないのだ。
侍女は一礼して、部屋を出て行った。
「はぁああああああ」
イリヤからは変な声が漏れ出た。クライブはその様子を微笑みながら見ている。隣から感じる視線を、イリヤは無視する。
「イリヤ嬢。お茶でも飲んで、まずは落ち着きましょう」
神官長の声に促されるようにして、カップを手にした。紅茶の香りによって、強張った身体が解きほぐされる。
「ふぅ、美味しいです」
「ささ、お菓子もどうぞ。イリヤ嬢の好きなお菓子をお聞きして、取りそろえておきました」
まるで商人のように、神官長は手をすりすりとこすり合わせている。これから口にすることの重大さを暗示させるような動きにも見えた。
紅茶を半分ほど飲んだイリヤは、カップをテーブルの上に戻す。そして、姿勢を正してしっかりと神官長を見る。
「それで、今後のお話ですよね?」
「そうです、そうです。さすがイリヤ嬢。閣下が見込んだだけのことはあります。まさか、お二人が結婚されていたとは。そうですか、そうですか……」
相変わらず神官長の笑い方は、うさんくさい。
そもそもクライブが、あんな場所で結婚していたと宣言したのが原因である。
「今、マリアンヌがパパと言わなかったか?」
「閣下。それでは、陛下と同じですよ」
他の人に聞こえぬように、彼の耳元でそうささやく。だがその姿すら、他の四人からは仲睦まじい様子に見えたようだ。
コホンとわざとらしい咳払いが聞こえた。
「閣下。聖女様を別室にご案内して、今後のことを相談しましょう」
神官長の言葉で、イリヤはクライブの手をペシッと払った。
イリヤが通されたのは、応接室である。ここに通されたのは、初めてかもしれない。
「マリー!」
早速アルベルトがパタパタと足音を立ててやってきた。
イリヤは、どうしましょうと意見を求めるようにしてクライブを見上げる。
「今のマリアンヌであれば大丈夫だろう。これから彼らと話をするのに、むしろマリアンヌを他の者に見てもらえるのであれば、こちらとしては都合がいい」
だからアルベルトをけしかけたのではないかと勘ぐってしまう。
「アルベルト様。マリアンヌをお願いしますね」
イリヤは、アルベルトの後ろに控えていた乳母にマリアンヌを預ける。マリアンヌの世話をしたことのある乳母である。一時期、マリアンヌに手こずった彼女であるが、今は穏やかな笑みを浮かべている。
マリアンヌがアルベルトたちと部屋を出て行くのを見送ってから、力が抜けたかのようにイリヤはすとんとソファに身を預けた。クライブはさも当たり前のように隣に座ってくる。あとは、神官長たちは空いている場所にと適当に座る。
「イリヤ嬢。このたびは、聖女役を引き受けてくださったことに感謝する」
神官長が深く頭を下げると、魔法使いの三人も頭を下げた。
召喚の儀に立ち会える魔法使いも、国家魔法使いの中では魔力が強く地位の高い者であると聞いている。
「はぁ……緊張しました。とにかく、なんとか誤魔化せたようで安心しました」
そこへワゴンを手にした侍女がやってきた。
彼女の動きを、そこにいる者たちが黙って見守る。
イリヤが聖女代理であることを、召喚の儀に立ち会った者以外に知られてはならないのだ。
侍女は一礼して、部屋を出て行った。
「はぁああああああ」
イリヤからは変な声が漏れ出た。クライブはその様子を微笑みながら見ている。隣から感じる視線を、イリヤは無視する。
「イリヤ嬢。お茶でも飲んで、まずは落ち着きましょう」
神官長の声に促されるようにして、カップを手にした。紅茶の香りによって、強張った身体が解きほぐされる。
「ふぅ、美味しいです」
「ささ、お菓子もどうぞ。イリヤ嬢の好きなお菓子をお聞きして、取りそろえておきました」
まるで商人のように、神官長は手をすりすりとこすり合わせている。これから口にすることの重大さを暗示させるような動きにも見えた。
紅茶を半分ほど飲んだイリヤは、カップをテーブルの上に戻す。そして、姿勢を正してしっかりと神官長を見る。
「それで、今後のお話ですよね?」
「そうです、そうです。さすがイリヤ嬢。閣下が見込んだだけのことはあります。まさか、お二人が結婚されていたとは。そうですか、そうですか……」
相変わらず神官長の笑い方は、うさんくさい。
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