このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(4)

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 彼らが言っていることは、ある意味間違いではない。その場に本物の聖女がおり、その彼女が聖なる力を持っているのだから。

「イリヤが、聖女だったのか……?」
「クライブ様、これはいったい?」

 イリヤも猿芝居にのることにした。

「まんま~、ぱっぱ~」

 いつの間にか目を覚ましたマリアンヌは、見知らぬ場所に来たというのにご機嫌であった。いや、彼女にとってはこの場に来るのは二回目のはず。

「聖女様が、閣下の奥方だと?」
「イリヤ……聞いたことのある名だな……」
「マーベル子爵家の?」
「あの毒婦が?」

 口うるさいと言われている彼らは、本当にうるさかった。みな、好き勝手にいろいろと口にする。

「イリヤ。陛下から話があるから、こちらに来てくれないか?」
「え、と……クライブ様。私はどうしてここに? 先ほどまで、お部屋にいたはずなのですが……」

 イリヤの演技にクライブも困惑している様子。どうやら彼は、アドリブは苦手なようだ。

「なるほど。イリヤ嬢は部屋にいたところ、突然こちらに呼び出されたということだな?」

 うんうん、とエーヴァルトは頷いている。さすが国王なだけのことはあって、演じるのは得意なのだろう。

「聖女召喚の儀は成功した。さらに聖女様は、宰相クライブの奥方であることがわかった」
「何かの間違いではないのか?」

 そうやってイリヤの力を疑う声があがった。こうなることも、エーヴァルトもクライブも想定済みだった。だからこそ、聖女の身代わりにイリヤが選ばれたのだ。

「イリヤ。どうやら君は聖女様のようだ。だが、この場にいる彼らは君を聖女とは認めたくないようだ。何かこう、力を使うことはできないか?」
「力?」
「そうです。聖女様」

 声を張り上げたのは神官長である。

「聖女様には聖なる力があるはずです。何かこう、力を感じませんか?」
「力ですか?」
「はい……こう、胸が熱くなってくるといいますか。みなぎってくると言いますか。ほら、指をパチンと鳴らしてください」

 イリヤは神官長の言葉に従って、指をパチンと鳴らす。すると、周囲に花びらがポン、ポンと生まれて、それがひらひらと落ちていった。

「……聖女様だ」

 誰かが呟いた。

「イリヤ嬢は聖なる力を持っている……?」

 先ほどからそんなことを言っているのは、召喚の儀を行った魔法使いたちである。

「どうだ? 君たち。これでもイリヤ嬢が聖女様ではないと、疑うのか?」

 エーヴァルトが低い声で言い放つが、その言葉の節々には権力が見え隠れする。

「……いえ」
「まさか、聖女様がこの国にいらっしゃったと、それに驚いているだけです」

 言い訳がましく口にする彼らである。

「むしろ、聖女様が異界人ではなく、この国にいたことに感謝すべきだろう。異界人であれば、言葉が通じないという問題だってあるかもしれないしな」

 エーヴァルトのその言葉は、まるでマリアンヌのことを言っているようにも聞こえた。

「では、イリヤ。別室に案内する」

 クライブが、すっとイリヤの腰に手を回す。

 やっと茶番劇が幕を閉じようとしていた。観客の口うるさい奴らはエーヴァルトによって部屋を追い出される。
 イリヤはこれから楽屋裏にでも連れていかれるのだろう。今日の劇の反省会だ。多分。

「まんま~、ぱっぱ~」
「イリヤ……」

 クライブがなぜか熱い視線を向けてくる。
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