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第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(3)
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最近のマリアンヌは、こうやっていろんな言葉を発するようになった。まだ歩くことはできないが、高速ハイハイで部屋の隅から隅を移動するから、ナナカも大変そうだ。
クライブと出会ったときに放った「一人でも大丈夫」という言葉を撤回したいくらい。
イリヤが部屋をうろうろと歩きながら、マリアンヌの背をぽんぽんと叩くと、次第に静かになっていく。このままではマリアンヌは眠るだろう。
いつ呼ばれるのか。イリヤが思うのはそればかり。
「まったくもう」
室内に誰かいるわけでもないのに、文句を言いたくなる。
「パパ。まだですかね~?」
もう一度マリアンヌに問うが、もう返事はない。眠ってしまったようだ。抱っこ紐のおかげで、マリアンヌを抱いていてもさほど重くはないいのだが、イリヤも待ちくたびれてしまった。そのまま、ソファに座る。
ぱっと世界がかわった。
「おぉ~」
「召喚の儀は成功しました」
「聖女様……」
イリヤはぱちぱちと瞬く。目の前には、神官服の男性とローブ姿の男たち。そして少し離れた場所にエーヴァルトとクライブがいる。
「え?」
まさか、本当にクライブの屋敷から移動するとは。しかも、イリヤは何もしていない。ソファに座ったら、場所が変わったのだ。
「他の者を呼んできます」
一人のローブ姿の男性が、部屋を出て行った。別室に控えている口うるさいと言われている人たちを連れてくるのだろう。
イリヤはぐるりと周囲を見回した。広い部屋ではない。こぢんまりとした部屋で、むしろ衣装部屋と同じくらいの広さかもしれない。
足元には複雑な魔方陣が描かれていた。その中心部に、マリアンヌを抱いたイリヤがいた。
もう一度、ぐるりと周りを見る。すると、クライブと目が合った。
「イリヤ?」
「クライブ様?」
そこに、先ほど出て行ったローブ姿の男が戻ってくる。彼は、後ろに複数の人を引き連れていた。彼らが口うるさいとクライブが言っていた人たちだろう。
「閣下。聖女様とお知り合いですか!」
そのタイミングで、神官服の男性――神官長が声を張り上げた。神官長もエーヴァルト側の人間である。むしろ、この召喚の儀を行った者たちすべて。
となれば、神官長は今、わざとらしい演技をしているのだ。
「あ、あぁ。妻、だ……」
クライブの言葉に噴き出したのはエーヴァルトである。そしてクライブが舞台俳優に向いていないということだけはわかった。
今の言葉は、非常に不自然な感じがした。
「クライブ。君は結婚した……のか?」
知っているくせにそう尋ねるエーヴァルトがわざとらしいのだが、これも彼らの作戦のうちなのだろうか。
「陛下には伝えていたような気がするのですが? 結婚したから、マリアンヌを引き取ると」
「そうだったか?」
素人役者が二人、わざとらしい芝居をしている。神官長も魔法使いたちも間違いなくグルである。
後から現れた男たちは、イリヤとマリアンヌをじぃっと見ている。
「……まさか、聖女様が閣下の奥方であったとは」
神官長の言葉を確かめるかのように、魔法使いたちは何かの力を感じ取ろうとしていた。恐らく、聖なる力を探っているのだろう。瘴気を祓うだけの力があるかどうか。
「神官長。間違いなく、彼女は聖女様でいらっしゃいます。聖なる力を感じます」
一人の魔法使いの言葉に、残りの二人も頷く。
クライブと出会ったときに放った「一人でも大丈夫」という言葉を撤回したいくらい。
イリヤが部屋をうろうろと歩きながら、マリアンヌの背をぽんぽんと叩くと、次第に静かになっていく。このままではマリアンヌは眠るだろう。
いつ呼ばれるのか。イリヤが思うのはそればかり。
「まったくもう」
室内に誰かいるわけでもないのに、文句を言いたくなる。
「パパ。まだですかね~?」
もう一度マリアンヌに問うが、もう返事はない。眠ってしまったようだ。抱っこ紐のおかげで、マリアンヌを抱いていてもさほど重くはないいのだが、イリヤも待ちくたびれてしまった。そのまま、ソファに座る。
ぱっと世界がかわった。
「おぉ~」
「召喚の儀は成功しました」
「聖女様……」
イリヤはぱちぱちと瞬く。目の前には、神官服の男性とローブ姿の男たち。そして少し離れた場所にエーヴァルトとクライブがいる。
「え?」
まさか、本当にクライブの屋敷から移動するとは。しかも、イリヤは何もしていない。ソファに座ったら、場所が変わったのだ。
「他の者を呼んできます」
一人のローブ姿の男性が、部屋を出て行った。別室に控えている口うるさいと言われている人たちを連れてくるのだろう。
イリヤはぐるりと周囲を見回した。広い部屋ではない。こぢんまりとした部屋で、むしろ衣装部屋と同じくらいの広さかもしれない。
足元には複雑な魔方陣が描かれていた。その中心部に、マリアンヌを抱いたイリヤがいた。
もう一度、ぐるりと周りを見る。すると、クライブと目が合った。
「イリヤ?」
「クライブ様?」
そこに、先ほど出て行ったローブ姿の男が戻ってくる。彼は、後ろに複数の人を引き連れていた。彼らが口うるさいとクライブが言っていた人たちだろう。
「閣下。聖女様とお知り合いですか!」
そのタイミングで、神官服の男性――神官長が声を張り上げた。神官長もエーヴァルト側の人間である。むしろ、この召喚の儀を行った者たちすべて。
となれば、神官長は今、わざとらしい演技をしているのだ。
「あ、あぁ。妻、だ……」
クライブの言葉に噴き出したのはエーヴァルトである。そしてクライブが舞台俳優に向いていないということだけはわかった。
今の言葉は、非常に不自然な感じがした。
「クライブ。君は結婚した……のか?」
知っているくせにそう尋ねるエーヴァルトがわざとらしいのだが、これも彼らの作戦のうちなのだろうか。
「陛下には伝えていたような気がするのですが? 結婚したから、マリアンヌを引き取ると」
「そうだったか?」
素人役者が二人、わざとらしい芝居をしている。神官長も魔法使いたちも間違いなくグルである。
後から現れた男たちは、イリヤとマリアンヌをじぃっと見ている。
「……まさか、聖女様が閣下の奥方であったとは」
神官長の言葉を確かめるかのように、魔法使いたちは何かの力を感じ取ろうとしていた。恐らく、聖なる力を探っているのだろう。瘴気を祓うだけの力があるかどうか。
「神官長。間違いなく、彼女は聖女様でいらっしゃいます。聖なる力を感じます」
一人の魔法使いの言葉に、残りの二人も頷く。
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