このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
64 / 88

第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(8)

しおりを挟む
「聖女様が現れたという話は、あっという間に広がります。ですが、そうなれば本当に現れたのか? 実在するのか? と不安になる者も出てきます。そのためにも、その姿をみなの前にお見せする必要があるのです」

 そういうものなの? という意味を込めて、クライブを見れば、彼はそういうものだと言わんばかりに大きく頷いた。

「では、我々は陛下と聖女様のお披露目の儀について話し合います。イリヤ嬢は、今日は、疲れたでしょう? 帰ってゆっくりとお休みください。今後は神殿にも足を運んでもらうようになりますが、それは閣下を通して連絡いたします」

 わざわざクライブを通すと発言したのは、彼が睨みをきかせていたからだ。彼がなぜこのような態度を取るのか、イリヤにはさっぱりわからない。

 神官長と魔法使いたちに挨拶をして、イリヤはクライブと共に部屋を後にする。マリアンヌはいつものライブラリーで遊んでいることだろう。イリヤがいないところで、暴れていないか心配になったが、そうなったときには誰かがすぐに呼びにくるはずだ。
 ライブラリーの扉の前で立ち止まると、マリアンヌのきゃっきゃとした楽しそうな声が聞こえてきた。

「失礼します」

 扉を叩いて入室すると「まんま~、ぱっぱ~」とマリアンヌはおすわりしながら両手を振り回している。
 その姿があまりにも愛らしくて、クライブと顔を見合わせた。

「閣下。今、マリアンヌがママって呼びましたよね?」
「ああ、パパとも呼んだな」

 これではエーヴァルトと同じではないかと思いつつも、やはり親として認められたような気がして嬉しさを隠しきれない。

「マリー。ぼくはアルベルト。アルってよんで」

 アルベルトが対抗心を剥き出しにしてきた。こういうところは、父親のエーヴァルトにそっくりである。

「あ~あ~」
「いま、アルってよんだよね?」

 聞く者によってはそう聞こえたかもしれない。

「そうですね、アルベルト様」

 イリヤは微笑みながら答えた。

「マリーは、お利口ね。みんなのことが、わかるようになったのね」

 マリアンヌの顔をのぞきこむと、抱っこしてといわんばかりに両手を広げている。イリヤがマリアンヌを抱き上げると、アルベルトはつまらなさそうに見上げてきた。

「アルベルト様も抱っこしてほしいのですか?」

 イリヤが尋ねると、アルベルトは恥ずかしそうにもじもじとする。

「では、私が抱っこしてもよろしいですか?」

 そう言ってかがんだのはクライブである。すると、アルベルトは余計にもじもじし始めた。

「失礼します」

 クライブがアルベルトを抱き上げる。

 マリアンヌは自分の目の高さと同じくらいになったアルベルトに手を伸ばす。
 クライブもそれに気づいて、イリヤの隣に寄り添った。抱っこされている二人は、何が楽しいのか手をつないで、きゃっきゃと笑っている。

「あれですかね? フォークが転がっても面白い年頃というものでしょうか」

 イリヤの言葉に「そういうものなのか?」とクライブは首を傾げた。
 そこへ乱暴に扉を開いて入室してきた人物がいる。

 扉の開き方だけで、イリヤにはわかった。やってきた人物は間違いなくエーヴァルトだ。

「クライブ。いつの間に息子を産んだのだ? ってアルじゃないか。なんで君が私の息子を抱っこしている。アル、こちらに来なさい」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

【完結】そうは聖女が許さない〜魔女だと追放された伝説の聖女、神獣フェンリルとスローライフを送りたい……けど【聖水チート】で世界を浄化する〜

阿納あざみ
ファンタジー
光輝くの玉座に座るのは、嘘で塗り固められた偽りの救世主。 辺境の地に追いやられたのは、『国崩しの魔女』の烙印を押された、本物の奇跡。 滅びゆく王国に召喚されたのは、二人の女子高生。 一人は、そのカリスマ性で人々を魅了するクラスの女王。 もう一人は、その影で虐げられてきた私。 偽りの救世主は、巧みな嘘で王国の実権を掌握すると、私に宿る“本当の力”を恐れるがゆえに大罪を着せ、瘴気の魔獣が跋扈する禁忌の地――辺境へと追放した。 だが、全てを失った絶望の地でこそ、物語は真の幕を開けるのだった。 △▼△▼△▼△▼△ 女性HOTランキング5位ありがとうございます!

巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。

彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位! 読者の皆様、ありがとうございました! 婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。 実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。 鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。 巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう! ※4/30(火) 本編完結。 ※6/7(金) 外伝完結。 ※9/1(日)番外編 完結 小説大賞参加中

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...