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第七章:新しいお仕事にはまだ慣れません(5)
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普段はあんな感じのエーヴァルトであるのに、トリシャが言っていたことが納得できるような気がしてきた。
一応、立場はわきまえているようだ。
あんな悪ふざけをして、マリアンヌに対して気持ち悪いくらいの執着をみせているのも、そこにクライブがいるからだろう。エーヴァルトとクライブの関係もふざけ合いながらも、悪いものではない。むしろ羽目を外したエーヴァルトをクライブが止めることで、うまく執務がまわっているように思える。そしてエーヴァルトはときどき羽目を外すことで、重圧をうまく分散させているようにも見えた。
「イリヤ……」
「ぱ~ぱ~」
「陛下たちが終わったら、次はオレたちの番だ」
「マリーは?」
残念ながら、近くにナナカの姿は見えない。
「トリシャ様にたのんだ。だから、問題ない」
マリアンヌはエーヴァルトよりもトリシャに懐いている。だけど、クライブとトリシャは犬猿の仲だったはず。
そうも言っていられない状況なのだろう。
クライブに促され、マリアンヌを抱っこしながらトリシャのもとへと向かう。
「クライブ、マリーを預かる」
「え~、や~」
すれ違いざま、エーヴァルトが手を伸ばしてきたが、マリアンヌはぷいっとそっぽを向く。
「マリアンヌ。お利口さんね。パパとママは少しだけお仕事があるのよ」
「あ~い~」
トリシャに向かって腕をあげたマリアンヌを、トリシャはひょいっと抱き上げた。
「懐かしいわね。アルベルトもこんな感じだったのよね」
離れた場所で侍従と一緒にこちらの様子をみていたアルベルトに視線を向ける。
「あ~う~」
「マリアンヌ。アルベルトのところへいきましょうね」
トリシャとマリアンヌのやりとりを、エーヴァルトは少し悔しそうに眺めていた。
これでマリアンヌの心配はなくなった。
クライブと共に大広間の中央へ向かい、一礼する。
デビュタントのとき、父親と踊ってから誰かと踊ったという記憶がない。
「緊張しているのか?」
クライブが顔を寄せ、耳元でささやく。彼の吐息は頬をなでる。
「え、えぇ。そうですね。この状況で緊張するなっていうほうが無理ですよ」
「いつものイリヤでいればいい」
クライブの手が腰を支えた。
三拍子のリズムに合わせてステップを踏むと、嘆美の声がちらほらと上がり始める。
「クライブ様。みんな、クライブ様だとは思っていないのではないですか?」
先ほどから、聖女様の相手の男性は誰だと、そういった声が聞こえてくるのだ。
「どうせ、あとで顔見知りには挨拶しにいかねばならないからな。そのときに、いやでもわかるだろう」
唇の端を引きつらせるクライブに、イリヤは微笑んだ。
曲が終わって二人がその場を去ると、次から次へと他の人たちが中央に集まってくる。
「イリヤ。とりあえず、面倒くさい奴らを紹介する。顔だけ覚えておけ。名前は覚える必要はない」
イリヤも気が重いように、クライブもその気持ちは同じようであった。
「聖女様」
クライブと共に、お目当ての場所へ向かおうとしたところを、呼び止められた。
「どうか、私とも一曲踊っていただけませんか?」
三十歳前後の男だろう。聖女に取り入ろうという気持ちがまざまざと感じられた。
「聖女様は忙しい」
クライブが冷たく言い放つ。
「先ほどから話題になっております。聖女様の隣にいる男性はいったい誰なのかと。あなたは聖女様に相応しい身分をお持ちなのでしょうか?」
「ほほぅ。ルーフス侯爵はご子息にどういった教育をしているのか?」
男は驚いたように目を開ける。
「父を……ご存知でしたか?」
「そうだな。王城で毎日のように顔を合わせているが?」
「……クライブ様」
一応、立場はわきまえているようだ。
あんな悪ふざけをして、マリアンヌに対して気持ち悪いくらいの執着をみせているのも、そこにクライブがいるからだろう。エーヴァルトとクライブの関係もふざけ合いながらも、悪いものではない。むしろ羽目を外したエーヴァルトをクライブが止めることで、うまく執務がまわっているように思える。そしてエーヴァルトはときどき羽目を外すことで、重圧をうまく分散させているようにも見えた。
「イリヤ……」
「ぱ~ぱ~」
「陛下たちが終わったら、次はオレたちの番だ」
「マリーは?」
残念ながら、近くにナナカの姿は見えない。
「トリシャ様にたのんだ。だから、問題ない」
マリアンヌはエーヴァルトよりもトリシャに懐いている。だけど、クライブとトリシャは犬猿の仲だったはず。
そうも言っていられない状況なのだろう。
クライブに促され、マリアンヌを抱っこしながらトリシャのもとへと向かう。
「クライブ、マリーを預かる」
「え~、や~」
すれ違いざま、エーヴァルトが手を伸ばしてきたが、マリアンヌはぷいっとそっぽを向く。
「マリアンヌ。お利口さんね。パパとママは少しだけお仕事があるのよ」
「あ~い~」
トリシャに向かって腕をあげたマリアンヌを、トリシャはひょいっと抱き上げた。
「懐かしいわね。アルベルトもこんな感じだったのよね」
離れた場所で侍従と一緒にこちらの様子をみていたアルベルトに視線を向ける。
「あ~う~」
「マリアンヌ。アルベルトのところへいきましょうね」
トリシャとマリアンヌのやりとりを、エーヴァルトは少し悔しそうに眺めていた。
これでマリアンヌの心配はなくなった。
クライブと共に大広間の中央へ向かい、一礼する。
デビュタントのとき、父親と踊ってから誰かと踊ったという記憶がない。
「緊張しているのか?」
クライブが顔を寄せ、耳元でささやく。彼の吐息は頬をなでる。
「え、えぇ。そうですね。この状況で緊張するなっていうほうが無理ですよ」
「いつものイリヤでいればいい」
クライブの手が腰を支えた。
三拍子のリズムに合わせてステップを踏むと、嘆美の声がちらほらと上がり始める。
「クライブ様。みんな、クライブ様だとは思っていないのではないですか?」
先ほどから、聖女様の相手の男性は誰だと、そういった声が聞こえてくるのだ。
「どうせ、あとで顔見知りには挨拶しにいかねばならないからな。そのときに、いやでもわかるだろう」
唇の端を引きつらせるクライブに、イリヤは微笑んだ。
曲が終わって二人がその場を去ると、次から次へと他の人たちが中央に集まってくる。
「イリヤ。とりあえず、面倒くさい奴らを紹介する。顔だけ覚えておけ。名前は覚える必要はない」
イリヤも気が重いように、クライブもその気持ちは同じようであった。
「聖女様」
クライブと共に、お目当ての場所へ向かおうとしたところを、呼び止められた。
「どうか、私とも一曲踊っていただけませんか?」
三十歳前後の男だろう。聖女に取り入ろうという気持ちがまざまざと感じられた。
「聖女様は忙しい」
クライブが冷たく言い放つ。
「先ほどから話題になっております。聖女様の隣にいる男性はいったい誰なのかと。あなたは聖女様に相応しい身分をお持ちなのでしょうか?」
「ほほぅ。ルーフス侯爵はご子息にどういった教育をしているのか?」
男は驚いたように目を開ける。
「父を……ご存知でしたか?」
「そうだな。王城で毎日のように顔を合わせているが?」
「……クライブ様」
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