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第七章:新しいお仕事にはまだ慣れません(6)
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イリヤがクライブの名を呼ぶと、男の顔からさっと血の気が引いた。
「クライブ……? ファクト公爵? 宰相閣下ですか?」
「そうだが、何か?」
「い、いえ。なんでもありません。まさか、聖女様のお相手が閣下だったとは思っておりませんでした。閣下と聖女様はどういった関係ですか?」
相手がクライブであったと知っても、なかなか引かないその心意気だけは褒めてやりたい。
「オレとイリヤの関係? イリヤはオレの妻だが?」
――言った。この人、本当に言った。しかもこの場で。
なぜかイリヤの心臓がドキドキとうるさい。このドキドキは何からくるドキドキなのか。
「妻? 閣下ご結婚されていたのですか? 聖女様と?」
男の声が少しだけ大きくなった。周囲も何事かと聞き耳を立て始める。
「ああ。結婚してそろそろ半年経つな」
「では、聖女様と結婚したわけではなく?」
「結婚してから聖女だとわかっただけだ。イリヤ、他にも挨拶をせねばならない。行くぞ」
イリヤは男に軽く頭を下げて、クライブと共にその場を去る。
一人に話せば、ああいった話はあっという間に広まるだろう。それにクライブはこれから挨拶ついでにそれを口にするつもりでいるのだ。
「いいか、イリヤ。これから紹介する人物が面倒くさい奴らだ。顔を合わせるたびに、聖女召喚云々を言い、さっさと聖女をミルトの森へ送れと言っているような者たちだ」
「わかりました」
クライブと並んで歩くだけなのに、好奇の目がイリヤにまとわりついた。
状況を見て、声をかけようとする者もいるのだろう。
だがクライブはそういった人物を敏感に感じ取ると、その者から彼女をかばおうとする。けれどもイリヤは、それについては何も言わなかった。
ここははっきりいって敵陣のような場所である。
聖女という好意的な視線の奥には、本物か偽物か見極めてやろうという思惑が漂っているのだ。
「リグナー公爵」
クライブが声をかけると、でっぷりとした年配の男性が顔をしかめた。
「私の名を呼ぶとは? 貴殿は? いや、それよりも隣にいるのは聖女殿か?」
「リグナー公爵。私の顔も忘れたのですか? とうとう耄碌したと?」
クライブの声に、リグナー公爵はじとっと睨みつける。
「まさか……その目の色……ファクトの若造か」
失礼な言い草であるが、クライブも彼らのいないところではかなり失礼なことを言っていたので、おあいこだろう。
「イリヤ、リグナー公爵に挨拶を」
「リグナー公爵。はじめまして、イリヤ・ファクトです」
ドレスの裾をつまみあげ、淑女の礼をする。
イリヤの言葉に、リグナー公爵は顔をしかめる。
「……まさか聖女殿が、マーベル子爵令嬢であったことにも驚いたが……もしや、さっさと聖女殿と婚姻関係を結んだのか? ファクト公爵」
「なにをおっしゃっているのやら。私がイリヤと結婚したのは、半年も前のことですよ? 聖女だから結婚したのではなく、好いた女性がたまたま聖女であった。そういうことですが?」
リグナー公爵のこめかみがひくひくとうごめいている。
さすがクライブが口うるさい奴らと言っていただけのことはあるのだろう。何かと、クライブにつっかかり、クライブをぎゃふんと言わせたいような、そんな雰囲気が醸し出されている。
「閣下。我々にも聖女様を紹介していただけませんか」
クライブ対リグナー公爵の構図は、他の第三者によって強制的に終了となった。
それからイリヤはクライブに連れられ、王城に出入りできるような者たちを紹介される。ようは、それなりの身分で地位もある者だ。
「イリヤ……」
ふと声をかけられ、イリヤは振り返った。
「サブル侯爵……」
「クライブ……? ファクト公爵? 宰相閣下ですか?」
「そうだが、何か?」
「い、いえ。なんでもありません。まさか、聖女様のお相手が閣下だったとは思っておりませんでした。閣下と聖女様はどういった関係ですか?」
相手がクライブであったと知っても、なかなか引かないその心意気だけは褒めてやりたい。
「オレとイリヤの関係? イリヤはオレの妻だが?」
――言った。この人、本当に言った。しかもこの場で。
なぜかイリヤの心臓がドキドキとうるさい。このドキドキは何からくるドキドキなのか。
「妻? 閣下ご結婚されていたのですか? 聖女様と?」
男の声が少しだけ大きくなった。周囲も何事かと聞き耳を立て始める。
「ああ。結婚してそろそろ半年経つな」
「では、聖女様と結婚したわけではなく?」
「結婚してから聖女だとわかっただけだ。イリヤ、他にも挨拶をせねばならない。行くぞ」
イリヤは男に軽く頭を下げて、クライブと共にその場を去る。
一人に話せば、ああいった話はあっという間に広まるだろう。それにクライブはこれから挨拶ついでにそれを口にするつもりでいるのだ。
「いいか、イリヤ。これから紹介する人物が面倒くさい奴らだ。顔を合わせるたびに、聖女召喚云々を言い、さっさと聖女をミルトの森へ送れと言っているような者たちだ」
「わかりました」
クライブと並んで歩くだけなのに、好奇の目がイリヤにまとわりついた。
状況を見て、声をかけようとする者もいるのだろう。
だがクライブはそういった人物を敏感に感じ取ると、その者から彼女をかばおうとする。けれどもイリヤは、それについては何も言わなかった。
ここははっきりいって敵陣のような場所である。
聖女という好意的な視線の奥には、本物か偽物か見極めてやろうという思惑が漂っているのだ。
「リグナー公爵」
クライブが声をかけると、でっぷりとした年配の男性が顔をしかめた。
「私の名を呼ぶとは? 貴殿は? いや、それよりも隣にいるのは聖女殿か?」
「リグナー公爵。私の顔も忘れたのですか? とうとう耄碌したと?」
クライブの声に、リグナー公爵はじとっと睨みつける。
「まさか……その目の色……ファクトの若造か」
失礼な言い草であるが、クライブも彼らのいないところではかなり失礼なことを言っていたので、おあいこだろう。
「イリヤ、リグナー公爵に挨拶を」
「リグナー公爵。はじめまして、イリヤ・ファクトです」
ドレスの裾をつまみあげ、淑女の礼をする。
イリヤの言葉に、リグナー公爵は顔をしかめる。
「……まさか聖女殿が、マーベル子爵令嬢であったことにも驚いたが……もしや、さっさと聖女殿と婚姻関係を結んだのか? ファクト公爵」
「なにをおっしゃっているのやら。私がイリヤと結婚したのは、半年も前のことですよ? 聖女だから結婚したのではなく、好いた女性がたまたま聖女であった。そういうことですが?」
リグナー公爵のこめかみがひくひくとうごめいている。
さすがクライブが口うるさい奴らと言っていただけのことはあるのだろう。何かと、クライブにつっかかり、クライブをぎゃふんと言わせたいような、そんな雰囲気が醸し出されている。
「閣下。我々にも聖女様を紹介していただけませんか」
クライブ対リグナー公爵の構図は、他の第三者によって強制的に終了となった。
それからイリヤはクライブに連れられ、王城に出入りできるような者たちを紹介される。ようは、それなりの身分で地位もある者だ。
「イリヤ……」
ふと声をかけられ、イリヤは振り返った。
「サブル侯爵……」
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