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第八章:これは雇用契約なので溺愛は不要です、と思っていたはずなのに(4)
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額に汗を光らせるクライブが、イリヤの様子を気遣うようにして声をかけてきた。
「怪我はないか?」
「……はい。クライブ様に助けていただきましたから」
イリヤは取り出した手巾でクライブの額の汗をぬぐい、魔物の返り血も拭き取った。
「それよりも、マリーは……」
大きく周囲を見回した。マリアンヌはどこにいるのか。エーヴァルトはどこにいるのか。
「まんま~、ぱっぱ~」
マリアンヌが高い場所にいる。と思ったら、エーヴァルトの肩に乗っていた。
「マリー」
「まんま~、まんま~」
そのような場所で暴れたら、落ちてしまうかもしれない。
「こら、マリー。暴れるでない」
「まんま~、まんま~」
「こら、あ、いたい」
おろせ、おろせ、と言わんばかりに、エーヴァルトの頭をぽかぽかと叩き始めた。痛い痛いと騒いでいるエーヴァルトであるが、その顔は気持ち悪いくらいににやけている。
それでもマリアンヌが落ちては危ないと思っているのか、彼女の身体をつかみ、肩からおろす。
マリアンヌは地面に足がつくと、エーヴァルトの足を支えにして立っているのだが、まんま、まんまとイリヤを呼んでいた。
イリヤが慌ててマリアンヌに向かって小走りで近づき、マリアンヌもエーヴァルトの足から手をはなし、イリヤに向かって一歩踏み出す。
「クライブ様!」
その出来事に、イリヤは大きな声でクライブを呼ぶ。
すぐにマリアンヌはバランスを崩して尻餅をつきそうになったところを、エーヴァルトが支えた。
「見ました? 今! マリーが歩きました」
「……見た」
「てことは、今日がマリーの誕生日ってことで、いいですよね?」
「そうだな……」
エーヴァルトに捕まったマリアンヌは、またぽかぽかと彼の足を叩いている。もちろん、エーヴァルトはそのようなことを気にせず、マリアンヌに言葉をかけた。あのデレデレした顔を見ればわかるが、マリアンヌであれば叩かれようが殴られようが、気にならないのだ。
イリヤがマリアンヌに近づき、抱き上げた。
「まんま~」
「やはり、イリヤ殿には敵わないな」
「エーヴァルト様、見ました? マリーが歩いたんですよ」
たかいたかいとマリアンヌの身体を持ち上げると、きゃ、きゃと楽しげな声をあげる。
「見た。今日は、なんて素晴らしい日なんだ。マリーのはじめの一歩が見られただなんて」
「それで、クライブ様と決めたのですが。マリーが歩いた日を一歳の誕生日にしようって」
「つまり、今日がマリーの誕生日……なんてことだ……プレゼントを準備していない。いや、パーティーを開かなければ」
「イリヤ……こいつには内緒にしておけ、と……」
「あっ……」
マリアンヌが歩いたことが嬉しくて、おもわず誕生日の件もぽろっと口にしてしまった。
「エーヴァルト様……今のことは聞かなかったことに……」
「できるわけがないだろう? 今日は素晴らしい日だ。マリーが初めて歩き、それがマリーの誕生日だなんて」
ひとり感極まっているエーヴァルトであるが、それはアレンの声にかき消された。
「聖女様。ご無事ですか? 怪我はされておりませんか?」
「はい。クライブ様が守ってくださったので……」
アレンが満足そうにうなずいたところで、彼の部下たちが駆け寄ってきた。
「隊長。この辺りの瘴気なのですが……」
「怪我はないか?」
「……はい。クライブ様に助けていただきましたから」
イリヤは取り出した手巾でクライブの額の汗をぬぐい、魔物の返り血も拭き取った。
「それよりも、マリーは……」
大きく周囲を見回した。マリアンヌはどこにいるのか。エーヴァルトはどこにいるのか。
「まんま~、ぱっぱ~」
マリアンヌが高い場所にいる。と思ったら、エーヴァルトの肩に乗っていた。
「マリー」
「まんま~、まんま~」
そのような場所で暴れたら、落ちてしまうかもしれない。
「こら、マリー。暴れるでない」
「まんま~、まんま~」
「こら、あ、いたい」
おろせ、おろせ、と言わんばかりに、エーヴァルトの頭をぽかぽかと叩き始めた。痛い痛いと騒いでいるエーヴァルトであるが、その顔は気持ち悪いくらいににやけている。
それでもマリアンヌが落ちては危ないと思っているのか、彼女の身体をつかみ、肩からおろす。
マリアンヌは地面に足がつくと、エーヴァルトの足を支えにして立っているのだが、まんま、まんまとイリヤを呼んでいた。
イリヤが慌ててマリアンヌに向かって小走りで近づき、マリアンヌもエーヴァルトの足から手をはなし、イリヤに向かって一歩踏み出す。
「クライブ様!」
その出来事に、イリヤは大きな声でクライブを呼ぶ。
すぐにマリアンヌはバランスを崩して尻餅をつきそうになったところを、エーヴァルトが支えた。
「見ました? 今! マリーが歩きました」
「……見た」
「てことは、今日がマリーの誕生日ってことで、いいですよね?」
「そうだな……」
エーヴァルトに捕まったマリアンヌは、またぽかぽかと彼の足を叩いている。もちろん、エーヴァルトはそのようなことを気にせず、マリアンヌに言葉をかけた。あのデレデレした顔を見ればわかるが、マリアンヌであれば叩かれようが殴られようが、気にならないのだ。
イリヤがマリアンヌに近づき、抱き上げた。
「まんま~」
「やはり、イリヤ殿には敵わないな」
「エーヴァルト様、見ました? マリーが歩いたんですよ」
たかいたかいとマリアンヌの身体を持ち上げると、きゃ、きゃと楽しげな声をあげる。
「見た。今日は、なんて素晴らしい日なんだ。マリーのはじめの一歩が見られただなんて」
「それで、クライブ様と決めたのですが。マリーが歩いた日を一歳の誕生日にしようって」
「つまり、今日がマリーの誕生日……なんてことだ……プレゼントを準備していない。いや、パーティーを開かなければ」
「イリヤ……こいつには内緒にしておけ、と……」
「あっ……」
マリアンヌが歩いたことが嬉しくて、おもわず誕生日の件もぽろっと口にしてしまった。
「エーヴァルト様……今のことは聞かなかったことに……」
「できるわけがないだろう? 今日は素晴らしい日だ。マリーが初めて歩き、それがマリーの誕生日だなんて」
ひとり感極まっているエーヴァルトであるが、それはアレンの声にかき消された。
「聖女様。ご無事ですか? 怪我はされておりませんか?」
「はい。クライブ様が守ってくださったので……」
アレンが満足そうにうなずいたところで、彼の部下たちが駆け寄ってきた。
「隊長。この辺りの瘴気なのですが……」
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