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第八章:これは雇用契約なので溺愛は不要です、と思っていたはずなのに(5)
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その言葉に目を鋭くしたのは、エーヴァルトである。普段、へらへらとしている彼だが、トリシャが言っていたようにやるときはやる男なのだ。それはクライブも認めている事実であり、裏表が激しいといえばそれまでだが、表をくっきりと演じるための裏なのだろう。気を許した者にだけ見せる裏の姿。
「確認ができませんでした……瘴気がなくなっています。詳しくは、魔法使いたちに調べてもらう必要がありますが」
「そこに私を案内しろ」
きりっとしたエーヴァルトの声に、騎士たちは「はい」と礼儀正しく返事をする。
マリアンヌの身体はクライブの腕の中にうつった。
イリヤたちもエーヴァルトの後ろをついていく。
「いつもであれば、この辺りに瘴気が漂っているのですが……」
「クライブ様、瘴気ってどのようなものなのですか?」
イリヤは少しだけ背伸びして、彼の耳元で小さく尋ねた。
「黒い霧みたいなものだ。その霧が晴れた場所に魔物が現れるとも言われていて、どういった規則で瘴気が出て魔物が現れるのかは、さっぱりわからない。とにかく、瘴気がある場所から魔物が出てくる」
「そしてその瘴気が時空の歪みと呼ばれるところから?」
「そうだ」
時空の歪みが瘴気を産み、瘴気が魔物を呼び寄せる。
「その時空の歪みをなんとかしないと、また魔物が出る?」
「ああ。それでも瘴気を祓えば、すぐに魔物は増えない。いずれ、時空の歪みを封じる必要はあるが、今の聖女の力では無理だろう」
「だぁあ?」
まるで二人の会話を理解しているかのように、マリアンヌが声をあげた。
「今、できることは、魔物を討伐すること。そして瘴気を祓うことくらいだ……」
「……どうやら、瘴気がなくなっているようだな」
エーヴァルトの声でクライブの話は中断された。
「イリヤ嬢。よくやった。君のおかげで瘴気は祓われた」
エーヴァルトはイリヤの両手をとって、ぶんぶんと振り回す。
「え?」
もちろんイリヤには瘴気を祓う力などない。それは聖女にのみが使える力だから。
「あ~あ~」
マリアンヌもクライブに抱っこされながら、腕をぶんぶんと振り回していた。
「マリー?」
イリヤがマリアンヌを見つめると、彼女は上機嫌で声をあげている。
「クライブ様?」
彼は黙って深く頷いた。
クライブもイリヤの言いたいことを理解したようだ。
瘴気を祓ったのはマリアンヌしかいない。エーヴァルトと共に魔物を倒していたあのときに、一緒に瘴気まで祓っていたのだろう。
しかしここにいる者たちは、イリヤが聖女だと思っている。
「だが、正式には魔法使いを派遣して確認してもらおう。時空の歪みについても、彼らにみてもらう。イリヤ殿、時空の歪みは確認できるか?」
それはイリヤにもはっきりとわかった。時空の歪みと呼ばれるものは、何もない空間がもやもやっと歪んでいるように見えるのだ。その場では、『|』が『<』になるように見える。
「……はい。その辺りがもやもやっとしているかと」
「あいあい」
マリアンヌが返事をしているから、間違いないだろう。
「なるほど。これをどうにかするのは、難しいか?」
イリヤが本物の聖女ではないとわかっているくせに、エーヴァルトは畳みかけてきた。
「そうですね。今日のところは、少し……」
「陛下。今日は魔物が不意に襲ってきて、それで魔力も消耗しております。さらに、瘴気も祓ったとなれば、いくら聖女であっても力の限界というものがあるのでは?」
「あだあだ」
先ほどまでエーヴァルトとよいコンビであったマリアンヌは、今は、完全にクライブの味方になっている。
「確認ができませんでした……瘴気がなくなっています。詳しくは、魔法使いたちに調べてもらう必要がありますが」
「そこに私を案内しろ」
きりっとしたエーヴァルトの声に、騎士たちは「はい」と礼儀正しく返事をする。
マリアンヌの身体はクライブの腕の中にうつった。
イリヤたちもエーヴァルトの後ろをついていく。
「いつもであれば、この辺りに瘴気が漂っているのですが……」
「クライブ様、瘴気ってどのようなものなのですか?」
イリヤは少しだけ背伸びして、彼の耳元で小さく尋ねた。
「黒い霧みたいなものだ。その霧が晴れた場所に魔物が現れるとも言われていて、どういった規則で瘴気が出て魔物が現れるのかは、さっぱりわからない。とにかく、瘴気がある場所から魔物が出てくる」
「そしてその瘴気が時空の歪みと呼ばれるところから?」
「そうだ」
時空の歪みが瘴気を産み、瘴気が魔物を呼び寄せる。
「その時空の歪みをなんとかしないと、また魔物が出る?」
「ああ。それでも瘴気を祓えば、すぐに魔物は増えない。いずれ、時空の歪みを封じる必要はあるが、今の聖女の力では無理だろう」
「だぁあ?」
まるで二人の会話を理解しているかのように、マリアンヌが声をあげた。
「今、できることは、魔物を討伐すること。そして瘴気を祓うことくらいだ……」
「……どうやら、瘴気がなくなっているようだな」
エーヴァルトの声でクライブの話は中断された。
「イリヤ嬢。よくやった。君のおかげで瘴気は祓われた」
エーヴァルトはイリヤの両手をとって、ぶんぶんと振り回す。
「え?」
もちろんイリヤには瘴気を祓う力などない。それは聖女にのみが使える力だから。
「あ~あ~」
マリアンヌもクライブに抱っこされながら、腕をぶんぶんと振り回していた。
「マリー?」
イリヤがマリアンヌを見つめると、彼女は上機嫌で声をあげている。
「クライブ様?」
彼は黙って深く頷いた。
クライブもイリヤの言いたいことを理解したようだ。
瘴気を祓ったのはマリアンヌしかいない。エーヴァルトと共に魔物を倒していたあのときに、一緒に瘴気まで祓っていたのだろう。
しかしここにいる者たちは、イリヤが聖女だと思っている。
「だが、正式には魔法使いを派遣して確認してもらおう。時空の歪みについても、彼らにみてもらう。イリヤ殿、時空の歪みは確認できるか?」
それはイリヤにもはっきりとわかった。時空の歪みと呼ばれるものは、何もない空間がもやもやっと歪んでいるように見えるのだ。その場では、『|』が『<』になるように見える。
「……はい。その辺りがもやもやっとしているかと」
「あいあい」
マリアンヌが返事をしているから、間違いないだろう。
「なるほど。これをどうにかするのは、難しいか?」
イリヤが本物の聖女ではないとわかっているくせに、エーヴァルトは畳みかけてきた。
「そうですね。今日のところは、少し……」
「陛下。今日は魔物が不意に襲ってきて、それで魔力も消耗しております。さらに、瘴気も祓ったとなれば、いくら聖女であっても力の限界というものがあるのでは?」
「あだあだ」
先ほどまでエーヴァルトとよいコンビであったマリアンヌは、今は、完全にクライブの味方になっている。
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