異聞対ソ世界大戦

みにみ

文字の大きさ
5 / 7
対ソ連戦争開戦

雷の破砕

しおりを挟む
1941年6月22日、満州国境でのソ連軍第一次攻勢は
日本軍の頑強な防御と、何よりもあの「謎の巨大兵器」の一撃によって、完全に頓挫した。
ソ連軍の前線司令部は、その日のうちに、恐るべき兵器の正体と
その効果をモスクワの最高司令部に報告しなければならなかった。


極東戦線総司令部、クリメント・ヴォロシロフ元帥は
その日の戦闘報告書を握りしめ、顔を紅潮させていた。
彼の眼の前には、巨大なクレーターの写真と、完全に融解したT-34の残骸が置かれていた。

「一撃で中隊を壊滅だと?そんな馬鹿げた兵器が、この世に存在するというのか!
 日本軍の持つ兵器ではない!これはきっと、米英が極秘に持ち込んだ新型の超重砲だ!」

ヴォロシロフは、スターリンへの報告を恐れていた。
史実のソ連軍指導層と同様に、スターリンの非現実的な期待と
それに反する報告がもたらす結果(すなわち粛清)は、彼にとって何よりも恐ろしいものだった。

しかし、現実は彼の恐れを超えていた。
その夜遅く、モスクワからスターリン本人の勅命が無線で届いた。

「あの『音を立てて鋼鉄を砕く悪魔の兵器』を即刻、地図上から抹殺せよ。
 それが破壊されない限り、極東でのいかなる地上攻勢も許可しない。
 手段は問わない。失敗は許されない。成功せよ、ヴォロシロフ同志。
 でなければ、貴様は敵前逃亡者と見なす。」

この「勅命」は、ヴォロシロフと極東戦線の全将校に
死か勝利かの二者択一を迫るものだった。地上部隊が完全に釘付けにされた今
残された唯一の選択肢は、航空戦力による強行破壊しかなかった。


ヴォロシロフは、夜通しの検討の末、破壊作戦の実施を決定。
作戦名はロシア語で「雷鳴の破壊」を意味する
「разрушение молнии」(ラズルーシェニエ・モルニイ)作戦と命名された。

目標は、日本軍が「イカヅチ」と呼ぶ試製四十一糎榴弾砲そのものと
その周辺に構築された厳重な防御陣地であった。

偵察機からの報告と捕虜からの情報により
「イカヅチ」の防衛体制は非常に強固であることが判明していた。

地上防衛: 専属のM4シャーマン戦車中隊二個と、三個歩兵連隊が周囲にトーチカと塹壕を設営。

対空火器: 多数の対空機関銃と高射砲に加え
アメリカ製試製SG対空電波探知機(レーダー)が導入されており、低空からの奇襲はほぼ不可能。

航空戦力: 近辺の野戦飛行場には、日本陸軍のエース部隊、飛行第64戦隊が配備され
隊長機である加藤少佐の指揮の下、*50機を超える一式戦闘機「隼」が常時発進可能状態にあった。

ヴォロシロフは、この鉄壁の防御を突破するためには、
航空戦力の「圧倒的な物量と火力」を集中投下するしかないと結論付けた。

投入戦力

IL-2  32機、Yak-1 16機、LaGG-3
合計60機 圧倒的な航空戦力
ヴォロシロフは、この60機の大編隊を
「ノモンハンの屈辱を晴らす鉄槌」として、6月23日早朝の出撃を命じた。

1941年6月23日、午前6時00分。

「イカヅチ」の防衛線に設置されたアメリカ製の
試製SG対空電波探知機が、その仕事を果たした。
レーダー員は、機器の画面上に現れた
巨大な編隊の光点を視認するやいなや、即座に警報を鳴らした。

「敵機多数!方位三五〇、高度三〇〇〇メートル!大規模編隊です!」

警報は瞬時に飛行第64戦隊の野戦飛行場に伝えられた。
滑走路脇の待機所で待機していたパイロットたちが、轟音と共に機体へと駆け上がる。

「来たか、ソ連の野郎どもめ!ノモンハンの落とし前をつけてやる!」

隊長、加藤少佐は、愛機である「隼」の操縦席に飛び乗り、エンジンを始動させた。
彼の率いる一式戦闘機「隼」は、即応体制にあった28機が
次々と土煙を上げながら滑走路を加速し、緊急発進した。


加藤少佐の隼隊は、上昇性能を活かして急上昇し
高度4000メートルでソ連軍の大編隊を迎撃した。

ソ連の編隊は、中央を32機のIL-2シュトゥルモヴィクが固め
その周囲をYak-1とLaGG-3が厳重に護衛する、極めて統制の取れた陣形であった。

「全機聞け!まず護衛機を叩く!敵のIL-2には手を出すな!」
加藤少佐が指示を出す。

隼は、その優れた運動性能と軽量さを活かし、ソ連の護衛戦闘機へと襲いかかった。
互いにノモンハン事件で屈辱を味わった日本のエースたちと
ドイツとの戦いに備えて鍛え上げられたソ連のエースたちが、満州の空で激突した。

Yak-1と隼は、空中でのドッグファイトに突入した。
隼は旋回半径の小ささを武器にYak-1の懐に入り込み、機銃弾を浴びせる。
ソ連戦闘機もまた、ノモンハン時代より遥かに向上した性能と火力を活かし、隼を追い詰めていく。


しかし、戦闘はすぐに日本軍の想定外の苦戦へと傾き始めた。

加藤少佐の指示に反し、何機かの隼がIL-2への攻撃を試みた。
IL-2は、その頑丈さから「空飛ぶ戦車」*と恐れられる機体であった。

「ちくしょう、装甲が厚すぎる!」

隼の主武装は12.7mm機関砲であり、これは対地攻撃を主任務とする
IL-2の厚い防弾鋼板を貫通するには、極めて非力だった。
弾丸はIL-2の機体表面で火花を散らすだけで、致命的な損傷を与えることができなかった。

逆に、IL-2の持つ後部銃座から放たれる反撃弾が
運動性こそ高いものの防御力の劣る隼を捉え始めた。

一機の隼が、IL-2の反撃弾を受け、黒煙を噴きながら離脱。

別の隼は、護衛のYak-1に追いつかれ、主翼を吹き飛ばされて錐揉み降下を始めた。

「くそっ!このままではまずい!IL-2が対空砲火の射程圏内に入るぞ!」
加藤少佐は悪態をついた。彼は、ソ連軍がIL-2を突破口として
地上部隊への航空支援を行う算段であることを理解していた。

日本の迎撃戦闘機は、その軽快さゆえに、ソ連の護衛戦闘機を振り切ることはできても
敵の主力であるIL-2の重装甲を破る有効な手段を欠いていた。
ソ連軍の編隊は、護衛戦闘機の盾を破られても
IL-2の鉄壁の防御力によって、着実に目標へと近づきつつあった。


絶望的な戦況の中、加藤少佐の目の端に、高空から降り注ぐ
太陽の光を反射した純白の翼端がキラリと光るのが見えた。

「まさか… あいつらか」

その機体は、猛烈な速度で降下しつつ、ソ連のIL-2編隊へと向かっていた。
それは、これまでの陸軍機とは異なる、流れるような優美な曲線を描いていた。

そして次の瞬間、その純白の機体は翼内に備えた機銃を一斉射

弾丸はIL-2の主翼付け根という、装甲が比較的薄いとされる急所を正確に捉えた。
その瞬間、IL-2の頑丈な主翼は内部構造ごと粉砕され
機体はコントロールを失い、白煙を上げながらバラバラになりつつ地上へと落下していった。

「零戦だ!!!」

加藤少佐は叫んだ。それは、史実において太平洋の米航空機を一手に請け負い
その驚異的な運動性能と火力で、「ZEROと出会えば逃げてもいい」とまで呼ばれた
日本海軍の最優秀戦闘機と言える零式艦上戦闘機であった。

ソ連軍は、極東戦線が陸軍主体の戦場であると認識しており
海軍の高性能戦闘機がここに現れるとは全く予期していなかった。

高空から18機の零戦隊が、太陽を背に
ソ連のIL-2へと一斉に急降下攻撃を仕掛けてきたのだ。
零戦の主武装である20mm機関砲は、隼の12.7mm機関砲とは
比較にならない破壊力を持ち、IL-2の装甲すら容易く粉砕する

零戦隊の指揮官、第一航空隊戦闘機隊の室戸少佐は
無線機を通じて、戦場に響き渡る声で呟いた。

「ここからは俺らの時間だ。陸軍殿、高空の護衛機を任せたぞ!」

海軍の高性能戦闘機、零戦の突然の参戦は、満州上空の航空戦のパワーバランスを
一瞬にして逆転させたのである。ソ連の破壊作戦は
奇襲を仕掛けようとしたその瞬間、予期せぬ海軍のエース部隊の参戦により
最大の危機に直面することとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。 第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

万能艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
第一次世界大戦において国家総力戦の恐ろしさを痛感した日本海軍は、ドレットノート竣工以来続いてきた大艦巨砲主義を早々に放棄し、個艦万能主義へ転換した。世界の海軍通はこれを”愚かな判断”としたが、この個艦万能主義は1940年代に置いてその真価を発揮することになる…

藤本喜久雄の海軍

ypaaaaaaa
歴史・時代
海軍の至宝とも言われた藤本喜久雄造船官。彼は斬新的かつ革新的な技術を積極的に取り入れ、ダメージコントロールなどに関しては当時の造船官の中で最も優れていた。そんな藤本は早くして脳溢血で亡くなってしまったが、もし”亡くなっていなければ”日本海軍はどうなっていたのだろうか。

九九式双発艦上攻撃機

ypaaaaaaa
歴史・時代
欧米列強に比べて生産量に劣る日本にとって、爆撃機と雷撃機の統合は至上命題であった。だが、これを実現するためにはエンジンの馬力が足らない。そこで海軍航空技術廠は”双発の”艦上攻撃機の開発を開始。これをものにしして、日本海軍は太平洋に荒波を疾走していく。

処理中です...