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邀撃 比島方面迎撃戦
戦線離脱
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14時53分。戦艦「武蔵」は
最早、第一遊撃部隊の艦隊速力24ノットについていくことが
不可能となっていた。既に第三波、第四波の猛攻を浴び
その巨体は満身創痍。艦首は深く喫水線下に沈み込み、船体は重い呻きを上げていた。
旗艦「大和」に座乗する栗田健男中将は、苦渋の決断を下した。
これ以上、「武蔵」を艦隊に留まらせることは
全艦隊の進撃を遅らせ、全体の壊滅を招きかねない。
彼は、「武蔵」に戦線離脱を命じた。
「…『武蔵』ニ対シ、駆逐艦『清霜』ヲ
護衛トシテ戦闘海域離脱ヲ命ズ。針路、ブルネイへ」
この電信は、「武蔵」にとって、そして猪口敏平艦長にとって
囮(おとり)としての役割の終焉と、生還への一縷の望みを意味していた。
しかし、同時に、孤立無援の巨艦が
さらに苛烈な敵の集中攻撃に晒されることをも予期させた。
駆逐艦「清霜」が、「武蔵」の傍らに寄り添うように針路を取る。
さらに、一時的な警戒部隊として重巡「利根」
駆逐艦「島風」「浜風」が、「武蔵」の周囲に展開した。
しかし、この小規模な護衛戦力で、空からの大編隊を防ぎきることは、不可能に近かった。
14時55分。米軍は、この日本の超弩級戦艦が落伍し
孤立していることを明確に確認した。
ハルゼー大将の第三艦隊から発進した艦載機
実に69機に及ぶ大編隊が、この傷ついた獲物へ向かって
シブヤン海の空を埋め尽くすように殺到した。
「武蔵」の艦橋には、既に疲労困憊の将兵たちが
最後の力を振り絞って配置に就いていた。
15時15分。まず、ヘルダイバー急降下爆撃機9機が、艦の中枢部を狙って猛攻を仕掛けた。
「…爆弾投下!避けろ!」
「武蔵」は、最早、満足な回頭運動も行えない。
4発の直撃弾が、装甲を貫通し、艦内部で炸裂した。
轟音は艦底まで響き、艦体全体が激しく振動する。
直後、アベンジャー雷撃機8機が、低空から魚雷を放った。
まるで、巨大な鮫の群れが獲物を狩るかのようだ。回避は絶望的であった。
「ドオォーン!」
右舷に2本、左舷に1本の魚雷が、喫水線下を直撃。
船体が大きく持ち上げられるような衝撃に、多くの乗員が床に叩きつけられた。
艦内の照明がちらつき、暗闇と煙が充満する。
艦は再び傾斜を始めたが、機関は未だ停止しない。
しかし、浸水は急速に拡大し、「武蔵」の速力は、ついに16ノットにまで低下した。
それでも、「武蔵」は沈まない。その巨躯の怪物は
並の戦艦であれば既に4度は沈没しているであろう被弾を受けながらも
シブヤン海にその威容を移していた。
それは、不沈艦の設計思想と
内部で必死に戦う応急員たちの不屈の闘志の賜物であった。
艦隊から完全に孤立した「武蔵」は続く攻撃で、さらに深手を負う。
37機もの敵機が、今度は艦の機能停止と中枢部の破壊を狙い、集中攻撃を仕掛けた。
15時25分。3機のヘルダイバーから投弾を受け
500ポンド爆弾2発が直撃。
艦の損傷は、最早、計算できるレベルを超えていた。
そして、5分後、地獄の業火が「武蔵」の心臓部を襲った。
7機のヘルダイバーが急降下し、1000ポンド爆弾3発を投下。
一発が、艦橋直下の緊急手術室で炸裂した。
凄まじい爆発により、52名の乗員が即死、20名が重軽傷を負うという
甚大なる人的被害を被った。
応急処置を行うべき場所が、一瞬にして地獄の窯に変貌したのだ。
さらに恐るべき一撃が続く。もう一発の1000ポンド爆弾が
まるで精密誘導されたかのように「武蔵」の艦橋頂部を狙い澄まし、直撃したのだ。
「武蔵」の防空指揮所甲板、第一艦橋、作戦室甲板を垂直に貫通し
艦内部で炸裂した。爆風は、艦橋内部へ逆流し
そこにいた武蔵の幹部たちを容赦なく殺傷した。
防空指揮所では、高射長の広瀬栄助少佐
測的長の山田武男大尉を含む13名が戦死。
猪口艦長を含む11名が負傷。猪口艦長は右肩に重傷を負い
その軍服は鮮血に染まったが、彼は激痛に耐え、決して指揮を放棄しなかった。
「…まだ、やれる!全砲、撃ち続けろ!」
第一艦橋では、仮屋実航海長を含む39名が戦死
8名が負傷という、壊滅的な損害が発生。
この瞬間に、「武蔵」は、その指揮系統を半ば失った。
直ちに、加藤憲吉副長が指揮を継承し
三浦徳四郎通信長が臨時の航海長となって、艦を動かし続けた。
満身創痍の「武蔵」に、米軍は最後の決定打を浴びせかけた。
アベンジャー雷撃機12機が押し寄せ、9発の命中弾と2発の至近弾を浴びせる。
そして、雷撃である。もはや、艦はほとんど操舵不能に近い状態にあった。
「…魚雷!左右より多数!」
ほぼ同時に、左舷に3本、右舷に2本の魚雷が命中し
浸水被害をさらに拡大させた。
艦底が抉られ、海水が滝のように艦内部へと流れ込む。
しかし、米軍の猛攻は止まらない。さらに4本の魚雷が艦首部へ命中し
続けざまに後方からも2本の魚雷が、「武蔵」を死の淵へと追い詰めた。
この第五次空襲で、「武蔵」は、累計爆弾25発、魚雷18本という、想像を絶する被弾を受けたのだ。
15時30分。第五次空襲が終了。
「武蔵」の速力は、ついに10ノットにまで低下した。
それは、もはや航行と呼べる速度ではない。
艦内の応急員たちは、注排水装置を操作し
必死の努力によって傾斜をほぼゼロに保っていたが、
浸水は、もはや止めることができなかった。
艦橋測距儀は折れ、ハリネズミのようだった中央部の対空砲群は
爆撃と主砲の爆風によってほぼ壊滅していた。
満身創痍。しかし、沈まない。「武蔵」はその巨躯を
血と油の海に浮かべながら、なおも進路を保とうとしていた。
その姿は、まるで矢尽き刀折れてもなお立ち尽くす武将、弁慶の立往生のようであった。
「武蔵」は、護衛の駆逐艦「清霜」に守られながら
ブルネイへと向かうべく、シブヤン海を
ゆっくりと、しかし、最後まで尊厳を保って航行し続けた。
この不屈の巨艦の存在こそが、栗田艦隊の進撃を可能にした、最後の防壁であった。
最早、第一遊撃部隊の艦隊速力24ノットについていくことが
不可能となっていた。既に第三波、第四波の猛攻を浴び
その巨体は満身創痍。艦首は深く喫水線下に沈み込み、船体は重い呻きを上げていた。
旗艦「大和」に座乗する栗田健男中将は、苦渋の決断を下した。
これ以上、「武蔵」を艦隊に留まらせることは
全艦隊の進撃を遅らせ、全体の壊滅を招きかねない。
彼は、「武蔵」に戦線離脱を命じた。
「…『武蔵』ニ対シ、駆逐艦『清霜』ヲ
護衛トシテ戦闘海域離脱ヲ命ズ。針路、ブルネイへ」
この電信は、「武蔵」にとって、そして猪口敏平艦長にとって
囮(おとり)としての役割の終焉と、生還への一縷の望みを意味していた。
しかし、同時に、孤立無援の巨艦が
さらに苛烈な敵の集中攻撃に晒されることをも予期させた。
駆逐艦「清霜」が、「武蔵」の傍らに寄り添うように針路を取る。
さらに、一時的な警戒部隊として重巡「利根」
駆逐艦「島風」「浜風」が、「武蔵」の周囲に展開した。
しかし、この小規模な護衛戦力で、空からの大編隊を防ぎきることは、不可能に近かった。
14時55分。米軍は、この日本の超弩級戦艦が落伍し
孤立していることを明確に確認した。
ハルゼー大将の第三艦隊から発進した艦載機
実に69機に及ぶ大編隊が、この傷ついた獲物へ向かって
シブヤン海の空を埋め尽くすように殺到した。
「武蔵」の艦橋には、既に疲労困憊の将兵たちが
最後の力を振り絞って配置に就いていた。
15時15分。まず、ヘルダイバー急降下爆撃機9機が、艦の中枢部を狙って猛攻を仕掛けた。
「…爆弾投下!避けろ!」
「武蔵」は、最早、満足な回頭運動も行えない。
4発の直撃弾が、装甲を貫通し、艦内部で炸裂した。
轟音は艦底まで響き、艦体全体が激しく振動する。
直後、アベンジャー雷撃機8機が、低空から魚雷を放った。
まるで、巨大な鮫の群れが獲物を狩るかのようだ。回避は絶望的であった。
「ドオォーン!」
右舷に2本、左舷に1本の魚雷が、喫水線下を直撃。
船体が大きく持ち上げられるような衝撃に、多くの乗員が床に叩きつけられた。
艦内の照明がちらつき、暗闇と煙が充満する。
艦は再び傾斜を始めたが、機関は未だ停止しない。
しかし、浸水は急速に拡大し、「武蔵」の速力は、ついに16ノットにまで低下した。
それでも、「武蔵」は沈まない。その巨躯の怪物は
並の戦艦であれば既に4度は沈没しているであろう被弾を受けながらも
シブヤン海にその威容を移していた。
それは、不沈艦の設計思想と
内部で必死に戦う応急員たちの不屈の闘志の賜物であった。
艦隊から完全に孤立した「武蔵」は続く攻撃で、さらに深手を負う。
37機もの敵機が、今度は艦の機能停止と中枢部の破壊を狙い、集中攻撃を仕掛けた。
15時25分。3機のヘルダイバーから投弾を受け
500ポンド爆弾2発が直撃。
艦の損傷は、最早、計算できるレベルを超えていた。
そして、5分後、地獄の業火が「武蔵」の心臓部を襲った。
7機のヘルダイバーが急降下し、1000ポンド爆弾3発を投下。
一発が、艦橋直下の緊急手術室で炸裂した。
凄まじい爆発により、52名の乗員が即死、20名が重軽傷を負うという
甚大なる人的被害を被った。
応急処置を行うべき場所が、一瞬にして地獄の窯に変貌したのだ。
さらに恐るべき一撃が続く。もう一発の1000ポンド爆弾が
まるで精密誘導されたかのように「武蔵」の艦橋頂部を狙い澄まし、直撃したのだ。
「武蔵」の防空指揮所甲板、第一艦橋、作戦室甲板を垂直に貫通し
艦内部で炸裂した。爆風は、艦橋内部へ逆流し
そこにいた武蔵の幹部たちを容赦なく殺傷した。
防空指揮所では、高射長の広瀬栄助少佐
測的長の山田武男大尉を含む13名が戦死。
猪口艦長を含む11名が負傷。猪口艦長は右肩に重傷を負い
その軍服は鮮血に染まったが、彼は激痛に耐え、決して指揮を放棄しなかった。
「…まだ、やれる!全砲、撃ち続けろ!」
第一艦橋では、仮屋実航海長を含む39名が戦死
8名が負傷という、壊滅的な損害が発生。
この瞬間に、「武蔵」は、その指揮系統を半ば失った。
直ちに、加藤憲吉副長が指揮を継承し
三浦徳四郎通信長が臨時の航海長となって、艦を動かし続けた。
満身創痍の「武蔵」に、米軍は最後の決定打を浴びせかけた。
アベンジャー雷撃機12機が押し寄せ、9発の命中弾と2発の至近弾を浴びせる。
そして、雷撃である。もはや、艦はほとんど操舵不能に近い状態にあった。
「…魚雷!左右より多数!」
ほぼ同時に、左舷に3本、右舷に2本の魚雷が命中し
浸水被害をさらに拡大させた。
艦底が抉られ、海水が滝のように艦内部へと流れ込む。
しかし、米軍の猛攻は止まらない。さらに4本の魚雷が艦首部へ命中し
続けざまに後方からも2本の魚雷が、「武蔵」を死の淵へと追い詰めた。
この第五次空襲で、「武蔵」は、累計爆弾25発、魚雷18本という、想像を絶する被弾を受けたのだ。
15時30分。第五次空襲が終了。
「武蔵」の速力は、ついに10ノットにまで低下した。
それは、もはや航行と呼べる速度ではない。
艦内の応急員たちは、注排水装置を操作し
必死の努力によって傾斜をほぼゼロに保っていたが、
浸水は、もはや止めることができなかった。
艦橋測距儀は折れ、ハリネズミのようだった中央部の対空砲群は
爆撃と主砲の爆風によってほぼ壊滅していた。
満身創痍。しかし、沈まない。「武蔵」はその巨躯を
血と油の海に浮かべながら、なおも進路を保とうとしていた。
その姿は、まるで矢尽き刀折れてもなお立ち尽くす武将、弁慶の立往生のようであった。
「武蔵」は、護衛の駆逐艦「清霜」に守られながら
ブルネイへと向かうべく、シブヤン海を
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