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序章
Countdown
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1946年の秋は、世界にとって異常なほど穏やかな季節だった。
欧米の主要都市では、人々が第二次世界大戦を知らぬまま、
戦前のままの生活様式を謳歌していた。ロンドンの通りには二階建てバスが走り、
パリのカフェは賑わい、ニューヨークのウォール街は活気に満ちていた。
しかし、その平和な表面の下で、歴史の歯車は静かに、
しかし確実に、恐ろしい方向へと向きを変えつつあった。
ベルリン、東京、そしてローマの三つの首都で、
世界を根底から覆すための最終調整が進められていたのだ。
ベルリンの総統官邸地下深く、分厚いコンクリートの壁に囲まれた
作戦室では、緊迫した空気が張り詰めていた。窓の外は、
すでに秋の終わりを告げる冷たい雨が降っているが、この部屋の中は、
地図と書類、そして煙草の煙が充満し、熱気に包まれていた。
卓上には、精巧な地形図が広げられ、無数のピンと線が引かれている。
ドイツ国防軍の最高司令官たちは、総統の前に立ち、最終的な報告を行っていた。
総統は、大戦を経験しなかったこの世界線においても、
そのカリスマ性と、他者を圧倒する強固な意志は健在だった。
彼の瞳は、卓上の地図を鋭く見つめ、その口元には微かな笑みが浮かんでいる。
それは、長年抱き続けてきた「新しいヨーロッパ秩序」の夢が
いよいよ現実のものとなることへの確信に満ちた笑みだった。
「これで全てが整ったのだな?」
総統の声は、静かでありながらも、
その中に鋼鉄のような響きを含んでいた。
「は。総統。」国防軍最高司令部長官ヴィルヘルム・カイテル元帥が
敬礼の姿勢のまま答える。
「航空機部隊の展開は予定通り。
Me 262『シュワルツ』とAr 234『ブリッツ』の初期部隊は
既に秘密飛行場へ集結済みです。燃料、弾薬の備蓄も十分。
E-50『パンターII』戦車の第一波も、国境付近の隠蔽された
集結地へ移動を完了しております。」
彼は続けた。
「V2ロケットの改良型、コードネーム『フライトハマー』は
照準調整が最終段階に入っております。その誘導精度は
目標誤差50メートル以内を達成しており、パリの主要インフラ
司令部を確実に叩くことが可能です。」
総統は満足げに頷いた。
「我々のジェット機とロケットは、敵に反撃の暇を与えぬだろう。
彼らは、空がこのような速さで移動する兵器で満たされることなど
想像だにしておらぬのだからな。」
参謀総長アルフレート・ヨードルは、卓上の地図に手を伸ばし、
フランス国境を示した。
「奇襲の成功は、電撃戦の原則をさらに強化します。
初期の混乱に乗じ、我々は瞬く間にフランスの中心部へと食い込み
連合軍が組織的な防御を構築する前に決着をつけます。
エレクトロニクス部門からは、敵の通信を麻痺させるための電波妨害装置
『メデューサ』の最終調整が完了したとの報告が入っております。
これにより、敵の指揮系統は一時的に混乱するでしょう。」
ドイツの技術者たちは、平和な時代において、
軍事技術の飽くなき探求を続けてきた。
ジェットエンジン、ロケット、レーダー、そして初期のコンピューター技術…。
これらは全て、総統の「新しい戦争」の構想のために注ぎ込まれてきたのだ。
彼らは、連合国が未だレシプロ機と戦艦の時代に留まっていると確信していた。
その「旧時代の戦争」の常識を、自分たちの「新時代の戦争」が打ち破る、
そのことに陶酔していた。
総統は椅子から立ち上がり、作戦室の中央をゆっくりと歩いた。
「カイテル、ヨードル。我々の計画は、単なる領土の拡張ではない。
それは、旧態依然とした世界秩序の破壊であり、
真の文明をもたらすための序章だ。英仏は、もはや世界の指導者ではない。
アメリカは、海を隔てた臆病者だ。彼らは、我々が築き上げてきた技術の粋
その真の力を理解しておらぬ。」
彼の声には、深い自負と、未来への確信が宿っていた。
「我々の『冬の閃光作戦』は、彼らを眠りから叩き起こし、
現実を突きつけることになるだろう。
そして、彼らが目を覚ました時には、全ては手遅れになっている。」
東京の皇居深く、厳重な警備が敷かれた一室では、
大本営陸海軍部が合同で開戦前夜の最終会議を開いていた。
ここもまた、地図と書類、そして緊張した静けさに満ちていた。
日中の軍事衝突は回避されたものの、資源に乏しい日本の指導者たちは、
アジアにおける自国の優位性を確立し、
欧米列強の経済的・政治的圧力から脱却する機会を常にうかがっていた。
海軍軍令部総長永野修身は、卓上の太平洋の巨大な地図に、
小さな旗を立てていた。その旗は、ハワイ諸島、ミッドウェー
そして南方の油田地帯を示している。
「ハワイ奇襲攻撃は、これまでの全ての演習
シミュレーションにおいて成功確率は極めて高いと出ております。」
永野は、落ち着いた声で報告した。
「ジェット推進式艦上攻撃機『橘花改』の訓練は最終段階に入り
その高速性と精密誘導魚雷『雷神』の搭載能力は
米太平洋艦隊の戦艦群を瞬時に無力化するに足るものです。」
陸軍参謀総長杉山元は、顔にわずかな興奮の色を浮かべていた。
「陸軍としては、南方資源地帯への同時侵攻作戦の準備を完了しております。
航空機は、制空戦闘機『震電』の量産先行型が、既に配備され、
その驚異的な加速性能は、敵のレシプロ機を圧倒するでしょう。
この機体は、ドイツから供与された技術と、我々の独自の航空力学の結晶です
また、南方作戦部隊には、密林での作戦に特化した新型装甲車両も配備済みです。」
海軍の若き航空参謀の一人が、興奮気味に付け加えた。
「ハワイへの攻撃隊は、同時に電子妨害装置『電波錯乱機』を搭載した
偵察機を先行させます。これにより、米軍の通信網とレーダーは一時的に麻痺し
彼らの反撃を遅らせることが可能です。奇襲は、ただの攻撃ではありません
それは、敵の目と耳を奪い、その精神を打ち砕く行為です。」
日本の指導者たちは、西洋列強の圧倒的な国力と技術力に常に脅威を感じていた。
しかし、この数年間の秘密裏の技術開発と、
ドイツからのジェットエンジン技術の供与は、
彼らに「一撃必殺」の可能性を見出させていたのだ。
彼らは、連合国がその技術的な進歩を過小評価し、
平和な日常に安穏としていることを確信していた。
「この戦いは、皇国日本の未来を賭けた『聖戦』であります。」
陸軍大臣東條英機が、厳しい表情で言った。
「欧米列強の不当な圧力を打ち破り、
大東亜共栄圏を築き上げるための第一歩となるでしょう。
我々の新兵器は、彼らの戦艦や航空機とは、次元の異なる力を有している。」
永野は頷き、続けた。
「伊四百型潜水艦は、既に攻撃開始地点への移動を完了しております。
万一の事態に備え、『晴嵐』の格納と発射訓練は万全です。
その隠密性と長距離攻撃能力は、彼らの想像を絶する。」
彼らは、ハワイへの奇襲成功が、アメリカの太平洋艦隊に壊滅的な打撃を与え、
その後の太平洋における日本の優位を確立すると信じていた。
そして、その優位が、南方資源地帯の確保、
ひいては日本の国力強化へと繋がる絵を描いていた。
「この『冬の閃光作戦』は、世界史の転換点となるでしょう。」
東條の言葉は、その部屋の全ての者に、揺るぎない決意を共有させた。
彼らは、来るべき日が、日本の、そしてアジアの「解放」の始まりとなると信じていた。
ローマのパラッツォ・ヴェネツィアでは、ムッソリーニが、
ベルリンと東京からの最終合意の電報を手に、
満足げな表情でバルコニーに立っていた。彼の視線の先には、
古代ローマの栄光を偲ばせるコロッセオが見える。
彼もまた、失われた「新ローマ帝国」の夢を、この「新しい戦争」に託していた。
「同志たちよ、ついにこの時が来た。」ムッソリーニの声は、自信に満ちていた。
「ゲルマンの獅子と日本の侍が、世界を刷新するための剣を抜いた。
我々もまた、その先鋒として、地中海に新たな秩序を築き上げるのだ。」
彼の周りには、イタリア軍の最高幹部たちが集まっていた。
彼らは、ドイツの圧倒的な軍事力と日本の奇襲戦術に感銘を受けつつも
イタリアがその中でどのような役割を果たすべきか、議論を重ねていた。
空軍参謀長ジュリオ・ドゥーエは、誇らしげに報告した。
「ドイツの技術供与のおかげで、我が国の航空戦力は飛躍的に向上しました
ジェット戦闘機Re.2007の試作機は、既に最終テストを終え、
その速度は従来の戦闘機を凌駕します。爆撃機P.108Bも
その航続距離と搭載量を強化し、フランス南部からの戦略爆撃を可能にします。」
海軍からは、地中海の制海権確保に向けた計画が報告された。
イタリア海軍は、小型で機動性の高い潜水艦の開発に力を入れており、
ドイツのUボート技術を取り入れることで、その性能をさらに向上させていた。
「我々の潜水艦隊は、連合国の地中海での海上交通路を確実に寸断するでしょう。」
海軍司令官は述べた。
「そして、ドイツ軍との連携により、
北アフリカからフランス南部への展開も容易になります。」
ムッソリーニは、彼らの報告に満足げな表情を見せた。
彼は、イタリアの軍事力が、もはや「伊達」ではないことを
世界に示す機会が到来したと確信していた。
「イギリスは、もはや地中海の覇者ではない。
フランスは、我々の隣人でありながら、常にその傲慢さを捨てなかった。
アメリカは、遠い海の向こうで、我々の真の力を理解しておらぬ。」
ムッソリーニの言葉は、彼の内に秘めた野心を鮮明に映し出していた。
「『冬の閃光作戦』は、我々が新ローマ帝国を再建するための
決定的な一歩となるだろう。地中海は再び我々の海となり
我々はヨーロッパ南部の真の支配者となるのだ。」
彼の言葉は、将軍たちの士気を高め、彼らもまた、
来るべき「新しい戦争」の可能性に陶酔していた。
彼らは、奇襲の成功が、短期的な勝利をもたらし、
その後の有利な交渉へと繋がると信じていた。
一方、連合国側は、この秋も通常通りの平和な日々を過ごしていた。
ワシントンD.C.では、ルーズベルト大統領が景気回復の最終段階と、
戦後の国際秩序の再構築について演説を行っていた。
ロンドンでは、チャーチル首相が、対独関係における安定を強調し、
欧州の平和が続いていることを国民に訴えていた。
パリでは、政府が国民の生活水準向上に向けた政策を発表していた。
彼らは、ドイツや日本、イタリアが水面下で
どれほどの軍事技術を進化させてきたか、
そしてどれほどの危険な野心を抱いているかについて、
ほとんど正確な情報を得ていなかった。あるいは、得ていたとしても、
その脅威を過小評価していた。彼らの情報機関は、
枢軸国が大規模な再軍備を行っていることは把握していたものの、
それが「新時代の戦争」の準備であるとは夢にも思っていなかったのだ。
アメリカの軍事予算は、戦艦の建造と航空母艦の維持に主に費やされており、
ジェット機の開発はあくまで「次世代」の技術として、
基礎研究段階に留まっていた。ロッキードP-80「シューティングスター」や
ベルP-59「エアコメット」のような試作機は存在したが、
それらが大規模に生産され、実戦配備されるのは、
まだ数年先の話だと考えられていた。レーダー技術は発達していたが
その使用は主に早期警戒や艦隊の指揮統制に限定されており
ドイツや日本のように、電子戦や精密誘導への応用は進んでいなかった。
イギリスも同様だった。本土防衛のためのレーダー網
「チェーンホーム」は確立されていたが、その技術は旧式化しつつあった
ジェット戦闘機「グロスター ミーティア」は開発されていたが、
その生産数は限定的であり、主力は依然としてスピットファイアや
ハリケーンの改良型だった。フランスは、マジノ線という
巨大な要塞線に安心しきっており、航空戦力や機甲戦力の近代化は、
予算と政治的安定の優先順位が低かった。
平和の慣例は、連合国側の情報収集能力を鈍らせ、警戒心を低下させていた。
彼らは、国際連盟の枠組みが、再び大規模な戦争が勃発するのを
防ぐことができると信じていた。経済的なブロック化や外交的な摩擦はあったものの、
それが武力衝突へと発展するとは考えていなかったのだ。
彼らは、過去の戦争の教訓から学び、その反省の上に
平和な世界を築いていると信じて疑わなかった。
その結果、1946年の秋、連合国の最高指導者たちは、
差し迫った危機に対する備えをほとんどしていなかった。
彼らは、年末の休暇計画や、戦後の国際秩序の再構築、
あるいは国内経済の課題に目を向けていた。
そして、彼らが知らぬ間に、遠く離れた枢軸国の作戦室では、
「冬の閃光作戦」の最終合意がなされていた。その作戦は、
彼らが「平和な世界」と信じて疑わなかった日常を、
一夜にして地獄へと変える、恐るべき計画だったのである。
世界は、その表面上の穏やかさとは裏腹に、
静かに、そして確実に、未曽有の激動の時代へと突入しようとしていた。
そして、その引き金を引くのは、旧時代の戦争を知らず、
新時代の兵器に陶酔する者たちであった。
彼らは、来るべき戦争が、これまでのいかなる戦争とも異なる
「新しい戦争」となることを確信し、その可能性に、心を躍らせていたのである。
欧米の主要都市では、人々が第二次世界大戦を知らぬまま、
戦前のままの生活様式を謳歌していた。ロンドンの通りには二階建てバスが走り、
パリのカフェは賑わい、ニューヨークのウォール街は活気に満ちていた。
しかし、その平和な表面の下で、歴史の歯車は静かに、
しかし確実に、恐ろしい方向へと向きを変えつつあった。
ベルリン、東京、そしてローマの三つの首都で、
世界を根底から覆すための最終調整が進められていたのだ。
ベルリンの総統官邸地下深く、分厚いコンクリートの壁に囲まれた
作戦室では、緊迫した空気が張り詰めていた。窓の外は、
すでに秋の終わりを告げる冷たい雨が降っているが、この部屋の中は、
地図と書類、そして煙草の煙が充満し、熱気に包まれていた。
卓上には、精巧な地形図が広げられ、無数のピンと線が引かれている。
ドイツ国防軍の最高司令官たちは、総統の前に立ち、最終的な報告を行っていた。
総統は、大戦を経験しなかったこの世界線においても、
そのカリスマ性と、他者を圧倒する強固な意志は健在だった。
彼の瞳は、卓上の地図を鋭く見つめ、その口元には微かな笑みが浮かんでいる。
それは、長年抱き続けてきた「新しいヨーロッパ秩序」の夢が
いよいよ現実のものとなることへの確信に満ちた笑みだった。
「これで全てが整ったのだな?」
総統の声は、静かでありながらも、
その中に鋼鉄のような響きを含んでいた。
「は。総統。」国防軍最高司令部長官ヴィルヘルム・カイテル元帥が
敬礼の姿勢のまま答える。
「航空機部隊の展開は予定通り。
Me 262『シュワルツ』とAr 234『ブリッツ』の初期部隊は
既に秘密飛行場へ集結済みです。燃料、弾薬の備蓄も十分。
E-50『パンターII』戦車の第一波も、国境付近の隠蔽された
集結地へ移動を完了しております。」
彼は続けた。
「V2ロケットの改良型、コードネーム『フライトハマー』は
照準調整が最終段階に入っております。その誘導精度は
目標誤差50メートル以内を達成しており、パリの主要インフラ
司令部を確実に叩くことが可能です。」
総統は満足げに頷いた。
「我々のジェット機とロケットは、敵に反撃の暇を与えぬだろう。
彼らは、空がこのような速さで移動する兵器で満たされることなど
想像だにしておらぬのだからな。」
参謀総長アルフレート・ヨードルは、卓上の地図に手を伸ばし、
フランス国境を示した。
「奇襲の成功は、電撃戦の原則をさらに強化します。
初期の混乱に乗じ、我々は瞬く間にフランスの中心部へと食い込み
連合軍が組織的な防御を構築する前に決着をつけます。
エレクトロニクス部門からは、敵の通信を麻痺させるための電波妨害装置
『メデューサ』の最終調整が完了したとの報告が入っております。
これにより、敵の指揮系統は一時的に混乱するでしょう。」
ドイツの技術者たちは、平和な時代において、
軍事技術の飽くなき探求を続けてきた。
ジェットエンジン、ロケット、レーダー、そして初期のコンピューター技術…。
これらは全て、総統の「新しい戦争」の構想のために注ぎ込まれてきたのだ。
彼らは、連合国が未だレシプロ機と戦艦の時代に留まっていると確信していた。
その「旧時代の戦争」の常識を、自分たちの「新時代の戦争」が打ち破る、
そのことに陶酔していた。
総統は椅子から立ち上がり、作戦室の中央をゆっくりと歩いた。
「カイテル、ヨードル。我々の計画は、単なる領土の拡張ではない。
それは、旧態依然とした世界秩序の破壊であり、
真の文明をもたらすための序章だ。英仏は、もはや世界の指導者ではない。
アメリカは、海を隔てた臆病者だ。彼らは、我々が築き上げてきた技術の粋
その真の力を理解しておらぬ。」
彼の声には、深い自負と、未来への確信が宿っていた。
「我々の『冬の閃光作戦』は、彼らを眠りから叩き起こし、
現実を突きつけることになるだろう。
そして、彼らが目を覚ました時には、全ては手遅れになっている。」
東京の皇居深く、厳重な警備が敷かれた一室では、
大本営陸海軍部が合同で開戦前夜の最終会議を開いていた。
ここもまた、地図と書類、そして緊張した静けさに満ちていた。
日中の軍事衝突は回避されたものの、資源に乏しい日本の指導者たちは、
アジアにおける自国の優位性を確立し、
欧米列強の経済的・政治的圧力から脱却する機会を常にうかがっていた。
海軍軍令部総長永野修身は、卓上の太平洋の巨大な地図に、
小さな旗を立てていた。その旗は、ハワイ諸島、ミッドウェー
そして南方の油田地帯を示している。
「ハワイ奇襲攻撃は、これまでの全ての演習
シミュレーションにおいて成功確率は極めて高いと出ております。」
永野は、落ち着いた声で報告した。
「ジェット推進式艦上攻撃機『橘花改』の訓練は最終段階に入り
その高速性と精密誘導魚雷『雷神』の搭載能力は
米太平洋艦隊の戦艦群を瞬時に無力化するに足るものです。」
陸軍参謀総長杉山元は、顔にわずかな興奮の色を浮かべていた。
「陸軍としては、南方資源地帯への同時侵攻作戦の準備を完了しております。
航空機は、制空戦闘機『震電』の量産先行型が、既に配備され、
その驚異的な加速性能は、敵のレシプロ機を圧倒するでしょう。
この機体は、ドイツから供与された技術と、我々の独自の航空力学の結晶です
また、南方作戦部隊には、密林での作戦に特化した新型装甲車両も配備済みです。」
海軍の若き航空参謀の一人が、興奮気味に付け加えた。
「ハワイへの攻撃隊は、同時に電子妨害装置『電波錯乱機』を搭載した
偵察機を先行させます。これにより、米軍の通信網とレーダーは一時的に麻痺し
彼らの反撃を遅らせることが可能です。奇襲は、ただの攻撃ではありません
それは、敵の目と耳を奪い、その精神を打ち砕く行為です。」
日本の指導者たちは、西洋列強の圧倒的な国力と技術力に常に脅威を感じていた。
しかし、この数年間の秘密裏の技術開発と、
ドイツからのジェットエンジン技術の供与は、
彼らに「一撃必殺」の可能性を見出させていたのだ。
彼らは、連合国がその技術的な進歩を過小評価し、
平和な日常に安穏としていることを確信していた。
「この戦いは、皇国日本の未来を賭けた『聖戦』であります。」
陸軍大臣東條英機が、厳しい表情で言った。
「欧米列強の不当な圧力を打ち破り、
大東亜共栄圏を築き上げるための第一歩となるでしょう。
我々の新兵器は、彼らの戦艦や航空機とは、次元の異なる力を有している。」
永野は頷き、続けた。
「伊四百型潜水艦は、既に攻撃開始地点への移動を完了しております。
万一の事態に備え、『晴嵐』の格納と発射訓練は万全です。
その隠密性と長距離攻撃能力は、彼らの想像を絶する。」
彼らは、ハワイへの奇襲成功が、アメリカの太平洋艦隊に壊滅的な打撃を与え、
その後の太平洋における日本の優位を確立すると信じていた。
そして、その優位が、南方資源地帯の確保、
ひいては日本の国力強化へと繋がる絵を描いていた。
「この『冬の閃光作戦』は、世界史の転換点となるでしょう。」
東條の言葉は、その部屋の全ての者に、揺るぎない決意を共有させた。
彼らは、来るべき日が、日本の、そしてアジアの「解放」の始まりとなると信じていた。
ローマのパラッツォ・ヴェネツィアでは、ムッソリーニが、
ベルリンと東京からの最終合意の電報を手に、
満足げな表情でバルコニーに立っていた。彼の視線の先には、
古代ローマの栄光を偲ばせるコロッセオが見える。
彼もまた、失われた「新ローマ帝国」の夢を、この「新しい戦争」に託していた。
「同志たちよ、ついにこの時が来た。」ムッソリーニの声は、自信に満ちていた。
「ゲルマンの獅子と日本の侍が、世界を刷新するための剣を抜いた。
我々もまた、その先鋒として、地中海に新たな秩序を築き上げるのだ。」
彼の周りには、イタリア軍の最高幹部たちが集まっていた。
彼らは、ドイツの圧倒的な軍事力と日本の奇襲戦術に感銘を受けつつも
イタリアがその中でどのような役割を果たすべきか、議論を重ねていた。
空軍参謀長ジュリオ・ドゥーエは、誇らしげに報告した。
「ドイツの技術供与のおかげで、我が国の航空戦力は飛躍的に向上しました
ジェット戦闘機Re.2007の試作機は、既に最終テストを終え、
その速度は従来の戦闘機を凌駕します。爆撃機P.108Bも
その航続距離と搭載量を強化し、フランス南部からの戦略爆撃を可能にします。」
海軍からは、地中海の制海権確保に向けた計画が報告された。
イタリア海軍は、小型で機動性の高い潜水艦の開発に力を入れており、
ドイツのUボート技術を取り入れることで、その性能をさらに向上させていた。
「我々の潜水艦隊は、連合国の地中海での海上交通路を確実に寸断するでしょう。」
海軍司令官は述べた。
「そして、ドイツ軍との連携により、
北アフリカからフランス南部への展開も容易になります。」
ムッソリーニは、彼らの報告に満足げな表情を見せた。
彼は、イタリアの軍事力が、もはや「伊達」ではないことを
世界に示す機会が到来したと確信していた。
「イギリスは、もはや地中海の覇者ではない。
フランスは、我々の隣人でありながら、常にその傲慢さを捨てなかった。
アメリカは、遠い海の向こうで、我々の真の力を理解しておらぬ。」
ムッソリーニの言葉は、彼の内に秘めた野心を鮮明に映し出していた。
「『冬の閃光作戦』は、我々が新ローマ帝国を再建するための
決定的な一歩となるだろう。地中海は再び我々の海となり
我々はヨーロッパ南部の真の支配者となるのだ。」
彼の言葉は、将軍たちの士気を高め、彼らもまた、
来るべき「新しい戦争」の可能性に陶酔していた。
彼らは、奇襲の成功が、短期的な勝利をもたらし、
その後の有利な交渉へと繋がると信じていた。
一方、連合国側は、この秋も通常通りの平和な日々を過ごしていた。
ワシントンD.C.では、ルーズベルト大統領が景気回復の最終段階と、
戦後の国際秩序の再構築について演説を行っていた。
ロンドンでは、チャーチル首相が、対独関係における安定を強調し、
欧州の平和が続いていることを国民に訴えていた。
パリでは、政府が国民の生活水準向上に向けた政策を発表していた。
彼らは、ドイツや日本、イタリアが水面下で
どれほどの軍事技術を進化させてきたか、
そしてどれほどの危険な野心を抱いているかについて、
ほとんど正確な情報を得ていなかった。あるいは、得ていたとしても、
その脅威を過小評価していた。彼らの情報機関は、
枢軸国が大規模な再軍備を行っていることは把握していたものの、
それが「新時代の戦争」の準備であるとは夢にも思っていなかったのだ。
アメリカの軍事予算は、戦艦の建造と航空母艦の維持に主に費やされており、
ジェット機の開発はあくまで「次世代」の技術として、
基礎研究段階に留まっていた。ロッキードP-80「シューティングスター」や
ベルP-59「エアコメット」のような試作機は存在したが、
それらが大規模に生産され、実戦配備されるのは、
まだ数年先の話だと考えられていた。レーダー技術は発達していたが
その使用は主に早期警戒や艦隊の指揮統制に限定されており
ドイツや日本のように、電子戦や精密誘導への応用は進んでいなかった。
イギリスも同様だった。本土防衛のためのレーダー網
「チェーンホーム」は確立されていたが、その技術は旧式化しつつあった
ジェット戦闘機「グロスター ミーティア」は開発されていたが、
その生産数は限定的であり、主力は依然としてスピットファイアや
ハリケーンの改良型だった。フランスは、マジノ線という
巨大な要塞線に安心しきっており、航空戦力や機甲戦力の近代化は、
予算と政治的安定の優先順位が低かった。
平和の慣例は、連合国側の情報収集能力を鈍らせ、警戒心を低下させていた。
彼らは、国際連盟の枠組みが、再び大規模な戦争が勃発するのを
防ぐことができると信じていた。経済的なブロック化や外交的な摩擦はあったものの、
それが武力衝突へと発展するとは考えていなかったのだ。
彼らは、過去の戦争の教訓から学び、その反省の上に
平和な世界を築いていると信じて疑わなかった。
その結果、1946年の秋、連合国の最高指導者たちは、
差し迫った危機に対する備えをほとんどしていなかった。
彼らは、年末の休暇計画や、戦後の国際秩序の再構築、
あるいは国内経済の課題に目を向けていた。
そして、彼らが知らぬ間に、遠く離れた枢軸国の作戦室では、
「冬の閃光作戦」の最終合意がなされていた。その作戦は、
彼らが「平和な世界」と信じて疑わなかった日常を、
一夜にして地獄へと変える、恐るべき計画だったのである。
世界は、その表面上の穏やかさとは裏腹に、
静かに、そして確実に、未曽有の激動の時代へと突入しようとしていた。
そして、その引き金を引くのは、旧時代の戦争を知らず、
新時代の兵器に陶酔する者たちであった。
彼らは、来るべき戦争が、これまでのいかなる戦争とも異なる
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そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
改大和型戦艦一番艦「若狭」抜錨す
みにみ
歴史・時代
史実の第二次世界大戦が起きず、各国は技術力を誇示するための
「第二次海軍休日」崩壊後の無制限建艦競争に突入した
航空機技術も発達したが、それ以上に電子射撃装置が劇的に進化。
航空攻撃を無力化する防御陣形が確立されたことで、海戦の決定打は再び「巨大な砲」へと回帰した。
そんな中⑤計画で建造された改大和型戦艦「若狭」 彼女が歩む太平洋の航跡は
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!
克全
ファンタジー
上杉謙信の弟に転生したウェブ仮想戦記作家は、四兄の上杉謙信や長兄の長尾晴景に殺されないように動く。特に黒滝城主の黒田秀忠の叛乱によって次兄や三兄と一緒に殺されないように知恵を絞る。一切の自重をせすに前世の知識を使って農業改革に産業改革、軍事改革を行って日本を統一にまい進する。
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