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真珠湾:ジェットの閃光と旧時代の終焉
目指すは真珠湾
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1946年12月2日。北太平洋の荒波が打ち寄せる
日本本土最北端に近い入り組んだ湾、単冠湾は
普段とは異なる異様な熱気に包まれていた。人里離れたその静かな入り江に
日本の誇る最新鋭の、そして最大級の軍艦たちが集結していたのだ
夜の帳が降りる中、湾内に停泊する艦影は、闇に溶け込み、
まるで存在しないかのように静まり返っていた。
しかし、その漆黒の艦体の中では、無数の人々が
これから始まるであろう歴史的な作戦に向けて、最後の準備に追われていた。
この艦隊を率いるのは、日本海軍の航空戦術の第一人者
山口多聞中将。彼の名は、航空機を艦隊戦の主軸と見抜いた先見の明と
いかなる困難にも動じない冷静沈着さで海軍内部に広く知られていた。
彼の率いる部隊は、「山口機動艦隊」と通称され
その編成は、世界の海軍史において前例を見ないほどに航空戦力に特化していた。
旗艦である航空母艦赤城の艦橋では
山口中将が静かに海図を広げていた。
彼の傍らには、幕僚たちが控えている。誰もが言葉少なで
ただ、作戦の成功を祈るかのように、じっと前を見つめていた。
海図の上には、単冠湾からハワイへと続く
長大で、そして危険な航路が赤い線で示されている。
艦隊の核を成すのは、六隻の主力空母
一航戦の赤城、加賀。これらは長年
日本の航空戦力を支えてきたベテランの空母だが
最新鋭の航空機運用に対応できるよう、秘匿裏に大規模な改修が施されていた。
エレベーターはジェット機特有の機体構造に合わせ拡張され
飛行甲板は耐熱処理が強化されている。
続いて、二航戦の飛龍、蒼龍。これらもまた、
その名の通り、日本の航空戦の屋台骨を支える存在だ。
そして、さらに驚くべきことに
最新鋭の五航戦、翔鶴、瑞鶴が加わっていた。
これらは史実よりも早く、そしてさらに洗練された形で完成しており
その巨大な飛行甲板は、従来の艦載機だけでなく
新時代のジェット機をも多数搭載できるよう設計されていた。
だが、真に目を引くのは、八航戦の存在だった。
空母大鳳、そして雲龍、天城、葛城の四隻。
これらは、史実では太平洋戦争末期に建造された、
あるいは計画のみに終わった大型正規空母だ。
この平和な世界線において、日本の技術力と計画性は、
それらを全て完成させていたのだ。特に大鳳は、装甲飛行甲板を持ち、
その防御力は他の空母を凌駕すると言われていた。
合計十隻にも及ぶ正規空母が、一堂に会して作戦行動に出る。
これは、世界の海軍が想像だにしなかった規模であり
まさに「移動要塞」と呼ぶにふさわしい光景だった。
しかし、山口機動艦隊の編成は、航空母艦だけに留まらなかった。
空母を護衛するのは、高速戦艦群だ。
第三戦隊の金剛、比叡、榛名、霧島は、高速性能を活かし、機動艦隊の盾となる。
そして、その編成に、世界を震撼させるであろう存在が加わっていた。
第一戦隊、大和、武蔵、信濃。史実では航空母艦として
改装されるはずだった信濃もこの世界線では大和、武蔵と同様に
その巨大な主砲は、依然として世界最強の威力を誇り
分厚い装甲は敵の砲弾を弾くと信じられていた
しかし、彼らの役割は、空母の護衛であり、いかに強力な戦艦であっても
航空戦力の傘の下で行動することを余儀なくされる。
それは、旧時代の巨艦巨砲主義が、新時代の航空戦力の前に
その主役の座を譲りつつあることを象徴していた。
さらに、強力な巡洋艦部隊が加わる。
第四戦隊の高雄、愛宕、摩耶、鳥海は
その重厚な武装と防御力で艦隊を支援する。
そして、第八戦隊の利根、筑摩は、搭載する水上偵察機
(これもまた最新鋭の電子偵察機に改装されていた)によって
広範囲の偵察を行う役割を担っていた。
艦隊の目を、そして盾となるのは、駆逐艦部隊だ。
第六十一駆逐隊の秋月、冬月、涼月、照月、霜月、宵月は
その高い対空能力とレーダーで艦隊の防空網を形成する。
彼らの砲塔には、最新の電子照準装置が組み込まれ、
高速で飛来する敵機を確実に捕捉できるよう改修されていた。
さらに、最強最鋭の二水戦 軽巡洋艦神通と
第8駆逐隊、第15駆逐隊、第16駆逐隊、第18駆逐隊といった精鋭駆逐隊が
艦隊の対潜、対水上警戒を担い、完璧な布陣を敷いていた。
12月2日の夜、単冠湾は静寂の中にあった。
しかし、その静寂は、嵐の前の静けさに過ぎなかった。
日付が変わり、12月3日未明。山口機動艦隊は、
静かに、しかし決然と、湾から太平洋へと滑り出した。
漆黒の艦体は、波のうねりに身を任せ、艦首から立つ白い波飛沫だけが
その巨大な存在を示していた。漁火一つない暗闇の中
艦隊は北東へと針路を取り、長い、長い航海の始まりを告げた。
艦隊の指揮官である山口多聞中将は
旗艦赤城の艦橋で、日々の天候報告と
各艦からの通信状況を注意深く確認していた
彼の顔には疲労の色が浮かんでいたが
その瞳は常に鋭く、艦隊のあらゆる動きを監視していた。
「通信妨害は確認されていないか?」
彼の問いに、通信士が答える。
「はっ、中将。異常ありません。米軍の通信は、平時と変わらない状況です。」
「よし。」
この作戦の肝は、奇襲の成功にある。広大な太平洋を
これだけの巨大な艦隊が、アメリカ軍のレーダー網や
偵察網に一切感知されることなく、真珠湾まで到達するという
途方もない計画だった。そのために、艦隊は厳格な無線封止を敷いていた
無線電波を発することは、敵に自らの位置を知らせる自殺行為に等しい
全艦は、互いの位置を把握するために、最新鋭の無光通信(LiFiに似た光通信技術)や
指向性の極めて高い極超短波通信を限定的に使用し、厳密な管制下で艦隊行動を行っていた。
航海中、艦隊は幾度かの荒天に見舞われた。
波は高く、艦体を激しく揺さぶった。特に、
最新鋭のジェット機を搭載した空母群は、荒波の中で機体を固定し、
損傷から守るために、細心の注意が払われた。
しかし、訓練を積んだ乗組員たちは、一糸乱れぬ動きで任務を遂行した。
彼らは、自らが担う歴史的な使命を深く理解しており、その責任感から疲労を忘れるほどだった。
艦隊の航路は、アメリカの偵察機や哨戒艦艇の巡回ルートを巧みに避け、
北太平洋の荒れた海域を突き進んだ。時には、
荒天を積極的に利用し、悪天候の中に身を隠すこともあった。
日本の気象専門家チームが、数ヶ月にわたる綿密な気象分析を行い、
ハワイに向かうルート上で悪天候が発生しやすい時期を特定していたのだ。
これもまた、奇襲を成功させるための緻密な計算の一つだった。
艦隊の各艦では、攻撃に参加するパイロットたちが、
最後のブリーフィングを受けていた。彼らの多くは、
従来のレシプロ機だけでなく、ジェット推進式艦上攻撃機「橘花改」の
訓練を積んだエリートたちだ。彼らは、その高速性と
最新の電子照準器を備えた「橘花改」の性能に絶対の自信を持っていた。
「いいか、諸君!」航空隊司令官が、パイロットたちに檄を飛ばす。
「我々の『橘花改』は、これまでのいかなる航空機とも違う。
その速度は、敵の想像を絶する。敵は、我々が接近するのを認識した時には、
既に手遅れとなっているだろう。無線誘導弾『迅雷』は
これまでの爆弾とは一線を画す。目標を確実に捕捉し、命中させる。
我々の任務は、米太平洋艦隊の戦艦群を、
真珠湾に釘付けにしたまま、完全に無力化することだ!」
パイロットたちの瞳は、燃え盛る炎のように輝いていた。
彼らは、この作戦が、自分たちの、
そして日本、ひいては世界の運命を左右するものであることを理解していた。
12月7日。真珠湾攻撃の決行前夜。
艦隊は、ハワイの北方、約300海里の地点に到達していた。
この距離ならば、攻撃隊は十分に目標へ到達し、帰還することが可能だ。
海は、穏やかなうねりを見せるだけだった。
月は雲に隠れ、星の瞬きだけが、わずかに空に点滅していた。
赤城の格納庫では、「橘花改」が最終整備を受けていた。
その流線型の機体は、まるで捕食者が獲物を狙うかのように
静かに、しかし恐ろしい存在感を放っていた。
整備員たちは、機体一つ一つを丁寧に点検し、燃料タンクを満たし、
爆弾倉に無線誘導弾「迅雷」を搭載していった。
格納庫の照明は抑えられ、赤いランプが薄暗く周囲を照らしていた。
一方、攻撃隊に先行する、「電波錯乱機二号改三」を搭載した
橘花改二偵察機の準備も進んでいた。この機体は、通常の攻撃能力は持たず
強力な電波妨害装置と、広範囲を精密に走査できる高性能レーダーを搭載している
その目的は、米軍の通信網とレーダーを一時的に麻痺させ、
奇襲の成功率を最大限に高めることにある。
偵察機のパイロットたちは、その任務の重要性を理解しており、緊張感に包まれていた。
山口中将は、艦橋から水平線を見つめていた。
彼の脳裏には、これまでの全ての訓練
シミュレーションのデータが走馬灯のように駆け巡っていた。
彼は、この作戦に絶対の自信を持っていた。
彼が最も恐れていたのは、敵の不測の事態ではなく
自らの計画のわずかな狂いだった。しかし、全ての準備は整った。
あとは、天候と運命に身を委ねるだけだった。
そして、1946年12月8日。
ハワイ時間午前7時。
真珠湾上空に、未確認の高速機影が接近し始めた。
アメリカ海軍のレーダー手は、その異様な速度と編隊規模に困惑していた。
「おい、この反応はなんだ?!」
レーダー画面に表示される機影は、通常の航空機とは比較にならない速度で
真珠湾へと向かっていた。それは、
これまで米軍が認識していたいかなる脅威をも凌駕する、未知の存在だった。
真珠湾の兵士たちは、まだ眠りから覚めたばかりだった。
日曜の朝の静けさが、湾内全体を包み込んでいた。
停泊する戦艦群は、まるで平和な模型のように整然と並び、
陽光を浴びて鈍く輝いていた。
誰もが、これから始まるであろう歴史的な悲劇の序章を、その直前まで知る由もなかった。
上空では、先行する日本の橘花改二偵察機が
その高度と速度を調整し
電波妨害装置「電波錯乱機二号改三」の起動準備に入っていた
機体から発せられる微細な電子音が、コックピットに響く。
偵察機のパイロットは、目標地点の真珠湾を捉え、スイッチに手をかけた。
「我噴式強襲成功セリ 妨害開始」
その刹那、真珠湾のアメリカ軍基地の通信室では
ヘッドセットからノイズが走った。レーダー画面は
それまでの鮮明な反応が嘘のように乱れ始め、点滅を繰り返す。
「通信が…混線してる?!レーダーも異常だ!」
混乱が、静かな日曜の朝を破り始めた。
だが、彼らがその異常に気づいた時には、既に手遅れだった。
水平線の彼方から、白く光を反射するの機影が
轟音と共に姿を現し始めた。それは、レシプロ機とは異なる
鋭く、そして未来的なジェットエンジンの咆哮だった。
太陽の光を背に、数十機ものジェット機が
矢のように真珠湾へと向かっていく。
それは、旧時代の終焉を告げ、新時代の戦争の幕開けを告げる
ジェットエンジンの閃光だった。
日本本土最北端に近い入り組んだ湾、単冠湾は
普段とは異なる異様な熱気に包まれていた。人里離れたその静かな入り江に
日本の誇る最新鋭の、そして最大級の軍艦たちが集結していたのだ
夜の帳が降りる中、湾内に停泊する艦影は、闇に溶け込み、
まるで存在しないかのように静まり返っていた。
しかし、その漆黒の艦体の中では、無数の人々が
これから始まるであろう歴史的な作戦に向けて、最後の準備に追われていた。
この艦隊を率いるのは、日本海軍の航空戦術の第一人者
山口多聞中将。彼の名は、航空機を艦隊戦の主軸と見抜いた先見の明と
いかなる困難にも動じない冷静沈着さで海軍内部に広く知られていた。
彼の率いる部隊は、「山口機動艦隊」と通称され
その編成は、世界の海軍史において前例を見ないほどに航空戦力に特化していた。
旗艦である航空母艦赤城の艦橋では
山口中将が静かに海図を広げていた。
彼の傍らには、幕僚たちが控えている。誰もが言葉少なで
ただ、作戦の成功を祈るかのように、じっと前を見つめていた。
海図の上には、単冠湾からハワイへと続く
長大で、そして危険な航路が赤い線で示されている。
艦隊の核を成すのは、六隻の主力空母
一航戦の赤城、加賀。これらは長年
日本の航空戦力を支えてきたベテランの空母だが
最新鋭の航空機運用に対応できるよう、秘匿裏に大規模な改修が施されていた。
エレベーターはジェット機特有の機体構造に合わせ拡張され
飛行甲板は耐熱処理が強化されている。
続いて、二航戦の飛龍、蒼龍。これらもまた、
その名の通り、日本の航空戦の屋台骨を支える存在だ。
そして、さらに驚くべきことに
最新鋭の五航戦、翔鶴、瑞鶴が加わっていた。
これらは史実よりも早く、そしてさらに洗練された形で完成しており
その巨大な飛行甲板は、従来の艦載機だけでなく
新時代のジェット機をも多数搭載できるよう設計されていた。
だが、真に目を引くのは、八航戦の存在だった。
空母大鳳、そして雲龍、天城、葛城の四隻。
これらは、史実では太平洋戦争末期に建造された、
あるいは計画のみに終わった大型正規空母だ。
この平和な世界線において、日本の技術力と計画性は、
それらを全て完成させていたのだ。特に大鳳は、装甲飛行甲板を持ち、
その防御力は他の空母を凌駕すると言われていた。
合計十隻にも及ぶ正規空母が、一堂に会して作戦行動に出る。
これは、世界の海軍が想像だにしなかった規模であり
まさに「移動要塞」と呼ぶにふさわしい光景だった。
しかし、山口機動艦隊の編成は、航空母艦だけに留まらなかった。
空母を護衛するのは、高速戦艦群だ。
第三戦隊の金剛、比叡、榛名、霧島は、高速性能を活かし、機動艦隊の盾となる。
そして、その編成に、世界を震撼させるであろう存在が加わっていた。
第一戦隊、大和、武蔵、信濃。史実では航空母艦として
改装されるはずだった信濃もこの世界線では大和、武蔵と同様に
その巨大な主砲は、依然として世界最強の威力を誇り
分厚い装甲は敵の砲弾を弾くと信じられていた
しかし、彼らの役割は、空母の護衛であり、いかに強力な戦艦であっても
航空戦力の傘の下で行動することを余儀なくされる。
それは、旧時代の巨艦巨砲主義が、新時代の航空戦力の前に
その主役の座を譲りつつあることを象徴していた。
さらに、強力な巡洋艦部隊が加わる。
第四戦隊の高雄、愛宕、摩耶、鳥海は
その重厚な武装と防御力で艦隊を支援する。
そして、第八戦隊の利根、筑摩は、搭載する水上偵察機
(これもまた最新鋭の電子偵察機に改装されていた)によって
広範囲の偵察を行う役割を担っていた。
艦隊の目を、そして盾となるのは、駆逐艦部隊だ。
第六十一駆逐隊の秋月、冬月、涼月、照月、霜月、宵月は
その高い対空能力とレーダーで艦隊の防空網を形成する。
彼らの砲塔には、最新の電子照準装置が組み込まれ、
高速で飛来する敵機を確実に捕捉できるよう改修されていた。
さらに、最強最鋭の二水戦 軽巡洋艦神通と
第8駆逐隊、第15駆逐隊、第16駆逐隊、第18駆逐隊といった精鋭駆逐隊が
艦隊の対潜、対水上警戒を担い、完璧な布陣を敷いていた。
12月2日の夜、単冠湾は静寂の中にあった。
しかし、その静寂は、嵐の前の静けさに過ぎなかった。
日付が変わり、12月3日未明。山口機動艦隊は、
静かに、しかし決然と、湾から太平洋へと滑り出した。
漆黒の艦体は、波のうねりに身を任せ、艦首から立つ白い波飛沫だけが
その巨大な存在を示していた。漁火一つない暗闇の中
艦隊は北東へと針路を取り、長い、長い航海の始まりを告げた。
艦隊の指揮官である山口多聞中将は
旗艦赤城の艦橋で、日々の天候報告と
各艦からの通信状況を注意深く確認していた
彼の顔には疲労の色が浮かんでいたが
その瞳は常に鋭く、艦隊のあらゆる動きを監視していた。
「通信妨害は確認されていないか?」
彼の問いに、通信士が答える。
「はっ、中将。異常ありません。米軍の通信は、平時と変わらない状況です。」
「よし。」
この作戦の肝は、奇襲の成功にある。広大な太平洋を
これだけの巨大な艦隊が、アメリカ軍のレーダー網や
偵察網に一切感知されることなく、真珠湾まで到達するという
途方もない計画だった。そのために、艦隊は厳格な無線封止を敷いていた
無線電波を発することは、敵に自らの位置を知らせる自殺行為に等しい
全艦は、互いの位置を把握するために、最新鋭の無光通信(LiFiに似た光通信技術)や
指向性の極めて高い極超短波通信を限定的に使用し、厳密な管制下で艦隊行動を行っていた。
航海中、艦隊は幾度かの荒天に見舞われた。
波は高く、艦体を激しく揺さぶった。特に、
最新鋭のジェット機を搭載した空母群は、荒波の中で機体を固定し、
損傷から守るために、細心の注意が払われた。
しかし、訓練を積んだ乗組員たちは、一糸乱れぬ動きで任務を遂行した。
彼らは、自らが担う歴史的な使命を深く理解しており、その責任感から疲労を忘れるほどだった。
艦隊の航路は、アメリカの偵察機や哨戒艦艇の巡回ルートを巧みに避け、
北太平洋の荒れた海域を突き進んだ。時には、
荒天を積極的に利用し、悪天候の中に身を隠すこともあった。
日本の気象専門家チームが、数ヶ月にわたる綿密な気象分析を行い、
ハワイに向かうルート上で悪天候が発生しやすい時期を特定していたのだ。
これもまた、奇襲を成功させるための緻密な計算の一つだった。
艦隊の各艦では、攻撃に参加するパイロットたちが、
最後のブリーフィングを受けていた。彼らの多くは、
従来のレシプロ機だけでなく、ジェット推進式艦上攻撃機「橘花改」の
訓練を積んだエリートたちだ。彼らは、その高速性と
最新の電子照準器を備えた「橘花改」の性能に絶対の自信を持っていた。
「いいか、諸君!」航空隊司令官が、パイロットたちに檄を飛ばす。
「我々の『橘花改』は、これまでのいかなる航空機とも違う。
その速度は、敵の想像を絶する。敵は、我々が接近するのを認識した時には、
既に手遅れとなっているだろう。無線誘導弾『迅雷』は
これまでの爆弾とは一線を画す。目標を確実に捕捉し、命中させる。
我々の任務は、米太平洋艦隊の戦艦群を、
真珠湾に釘付けにしたまま、完全に無力化することだ!」
パイロットたちの瞳は、燃え盛る炎のように輝いていた。
彼らは、この作戦が、自分たちの、
そして日本、ひいては世界の運命を左右するものであることを理解していた。
12月7日。真珠湾攻撃の決行前夜。
艦隊は、ハワイの北方、約300海里の地点に到達していた。
この距離ならば、攻撃隊は十分に目標へ到達し、帰還することが可能だ。
海は、穏やかなうねりを見せるだけだった。
月は雲に隠れ、星の瞬きだけが、わずかに空に点滅していた。
赤城の格納庫では、「橘花改」が最終整備を受けていた。
その流線型の機体は、まるで捕食者が獲物を狙うかのように
静かに、しかし恐ろしい存在感を放っていた。
整備員たちは、機体一つ一つを丁寧に点検し、燃料タンクを満たし、
爆弾倉に無線誘導弾「迅雷」を搭載していった。
格納庫の照明は抑えられ、赤いランプが薄暗く周囲を照らしていた。
一方、攻撃隊に先行する、「電波錯乱機二号改三」を搭載した
橘花改二偵察機の準備も進んでいた。この機体は、通常の攻撃能力は持たず
強力な電波妨害装置と、広範囲を精密に走査できる高性能レーダーを搭載している
その目的は、米軍の通信網とレーダーを一時的に麻痺させ、
奇襲の成功率を最大限に高めることにある。
偵察機のパイロットたちは、その任務の重要性を理解しており、緊張感に包まれていた。
山口中将は、艦橋から水平線を見つめていた。
彼の脳裏には、これまでの全ての訓練
シミュレーションのデータが走馬灯のように駆け巡っていた。
彼は、この作戦に絶対の自信を持っていた。
彼が最も恐れていたのは、敵の不測の事態ではなく
自らの計画のわずかな狂いだった。しかし、全ての準備は整った。
あとは、天候と運命に身を委ねるだけだった。
そして、1946年12月8日。
ハワイ時間午前7時。
真珠湾上空に、未確認の高速機影が接近し始めた。
アメリカ海軍のレーダー手は、その異様な速度と編隊規模に困惑していた。
「おい、この反応はなんだ?!」
レーダー画面に表示される機影は、通常の航空機とは比較にならない速度で
真珠湾へと向かっていた。それは、
これまで米軍が認識していたいかなる脅威をも凌駕する、未知の存在だった。
真珠湾の兵士たちは、まだ眠りから覚めたばかりだった。
日曜の朝の静けさが、湾内全体を包み込んでいた。
停泊する戦艦群は、まるで平和な模型のように整然と並び、
陽光を浴びて鈍く輝いていた。
誰もが、これから始まるであろう歴史的な悲劇の序章を、その直前まで知る由もなかった。
上空では、先行する日本の橘花改二偵察機が
その高度と速度を調整し
電波妨害装置「電波錯乱機二号改三」の起動準備に入っていた
機体から発せられる微細な電子音が、コックピットに響く。
偵察機のパイロットは、目標地点の真珠湾を捉え、スイッチに手をかけた。
「我噴式強襲成功セリ 妨害開始」
その刹那、真珠湾のアメリカ軍基地の通信室では
ヘッドセットからノイズが走った。レーダー画面は
それまでの鮮明な反応が嘘のように乱れ始め、点滅を繰り返す。
「通信が…混線してる?!レーダーも異常だ!」
混乱が、静かな日曜の朝を破り始めた。
だが、彼らがその異常に気づいた時には、既に手遅れだった。
水平線の彼方から、白く光を反射するの機影が
轟音と共に姿を現し始めた。それは、レシプロ機とは異なる
鋭く、そして未来的なジェットエンジンの咆哮だった。
太陽の光を背に、数十機ものジェット機が
矢のように真珠湾へと向かっていく。
それは、旧時代の終焉を告げ、新時代の戦争の幕開けを告げる
ジェットエンジンの閃光だった。
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