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「課長の中で、それが最後と決めてたんじゃないですか? 自分にはもう引き留められないって悟ったから」
「聡二は、この結果をちゃんと予想してたってことか?」
「聡明な人ですから、おそらくは」
匡史が頷くと、そうか、と本田が深くため息をついた。
「先に見切られたのは、僕だったんだな」
その言葉を聞いて匡史はすくっと立ち上がった。怒りを抑え、踏ん張った足に力を入れたまま本田を見下ろす。
「先に裏切ったのはあなたの方でしょう! 見切られたなんて、そんな都合のいいこと言うな! きっと別れるまであなたを信じてたんだ。戻ってくるかもしれない、そう思って同じ家に居たんだ。異動願いは、逃げ道なだけで、あなたが戻ってくるならいつでも取り下げたに違いない。瑛蒔を連れ出したのだって、あなたとまだ繋がって居たいからじゃないんですか? どうして、そういうことわかってやれないんですか? せめてそのくらい、慮ってやってくださいよ! なんで俺に言わせるんですか!」
言ってるうちに涙が溢れてきた。池上の気持ちを思うと胸が苦しくなって、同時に目の前のこの人に自分は敵わないのだと思うと悔しくて、涙腺は壊れたみたいに滴を流す。
匡史はここが往来と気づいて再びしゃがみ込んだ。膝を抱え、くそ、と独り言つ。
「そうだな……悪かったよ」
本田は匡史の頭に手を伸ばすとぽんぽん、とあやす様に撫でた。
「俺は瑛蒔じゃないです」
「でも友人なんだろ。だったらこれでいい。――小父さんが悪かったよ、匡史くん」
幼い子供を慰めるように本田が言う。手のひらで涙を拭った匡史は、もう大丈夫です、と本田の手を除けた。
「ただ、瑛蒔に関しては、僕は違うと思うよ。聡二はもう瑛蒔の親みたいなものだから、僕だけに預けるのは不安だったんだろう。ご覧の通り、僕は仕事人間だし……彼女もいたしな。だから聡二はきっと、君のことをちゃんと好きになるよ。君にはそれだけの魅力もあるし」
「本田さんに似てるっていう?」
「褒め言葉と受け取っておけばいい。男前で優しくて頼りがいがある僕に似てるんだってさ」
にっと口角を引き上げる本田に、前向きすぎです、と呆れたように答えると本田は、そうかな、と呟いた。
「前向きでいなきゃ、後悔だけにのまれるよ。君が聡二を幸せにしてくれるって前向きに考えなきゃ、僕だって同じだ」
「自分のための助言ですか」
「どうせならみんなで幸せになったほうがいいってことだよ」
本田の言葉に、匡史は長いため息を吐いた。
「多分、課長が似てるって言ったところって、そういう適当なところなんじゃないかな」
匡史が言うと、本田がからからと笑った。
「なんだか、聡二が君に惹かれる理由がわかるな。傍にいて飽きないよ。まあ、僕からすれば可愛い、になるけどね」
本田が笑ったまま匡史の頭を乱すように撫でた。匡史はそれから逃れようと、やめてください、と立ち上がる。本田は楽しくなったのか、立ち上がり、しつこく髪を乱した。
「やめろって、本田さっ……!」
次の瞬間、本田は片腕で匡史の体を抱き寄せた。しっかりと背中に廻された腕に、匡史の呼吸は一瞬止まる。
「聡二のこと、頼む。僕が傷つけた分、幸せにしてやってほしい」
本田は耳元で、それまでにないほど真剣な声音でそれだけ言うと、すいと匡史の体を離した。そして、匡史の後方へと視線を合わせる。
「長い間借りて悪かったね。話は今終わったところだよ」
本田の言葉に匡史が振り返る。そこには安藤が立っていた。匡史は、ごめん、と謝っていつもの顔で安藤に近づいた。
「上着。まだシャツ一枚じゃ夜は冷えると思って」
安藤の手には匡史のスーツのジャケットが掛けられていた。それを受け取り、匡史が羽織る。
「本田さん、俺このまま帰ります。お世話になりました」
匡史が言うと、本田は頷いた。
「こちらこそ。安藤くんもお疲れ様――それから、アイツにもよろしくと」
本田の言葉に匡史は、よろしくでいいんですか、と返す。しばらく本田は考えていたが、最終的には笑顔で、それでいいよ、と頷いた。
「帰ろう、安藤。部屋で飲みなおそう」
匡史が言い、歩き出すと安藤がそれに従った。
「話はもう終わったのか?」
隣を歩く安藤が小さく聞く。匡史は頷いた。その反応に安藤は、そうか、とだけ言ってゆっくりと匡史の隣を歩いてくれていた。
「聡二は、この結果をちゃんと予想してたってことか?」
「聡明な人ですから、おそらくは」
匡史が頷くと、そうか、と本田が深くため息をついた。
「先に見切られたのは、僕だったんだな」
その言葉を聞いて匡史はすくっと立ち上がった。怒りを抑え、踏ん張った足に力を入れたまま本田を見下ろす。
「先に裏切ったのはあなたの方でしょう! 見切られたなんて、そんな都合のいいこと言うな! きっと別れるまであなたを信じてたんだ。戻ってくるかもしれない、そう思って同じ家に居たんだ。異動願いは、逃げ道なだけで、あなたが戻ってくるならいつでも取り下げたに違いない。瑛蒔を連れ出したのだって、あなたとまだ繋がって居たいからじゃないんですか? どうして、そういうことわかってやれないんですか? せめてそのくらい、慮ってやってくださいよ! なんで俺に言わせるんですか!」
言ってるうちに涙が溢れてきた。池上の気持ちを思うと胸が苦しくなって、同時に目の前のこの人に自分は敵わないのだと思うと悔しくて、涙腺は壊れたみたいに滴を流す。
匡史はここが往来と気づいて再びしゃがみ込んだ。膝を抱え、くそ、と独り言つ。
「そうだな……悪かったよ」
本田は匡史の頭に手を伸ばすとぽんぽん、とあやす様に撫でた。
「俺は瑛蒔じゃないです」
「でも友人なんだろ。だったらこれでいい。――小父さんが悪かったよ、匡史くん」
幼い子供を慰めるように本田が言う。手のひらで涙を拭った匡史は、もう大丈夫です、と本田の手を除けた。
「ただ、瑛蒔に関しては、僕は違うと思うよ。聡二はもう瑛蒔の親みたいなものだから、僕だけに預けるのは不安だったんだろう。ご覧の通り、僕は仕事人間だし……彼女もいたしな。だから聡二はきっと、君のことをちゃんと好きになるよ。君にはそれだけの魅力もあるし」
「本田さんに似てるっていう?」
「褒め言葉と受け取っておけばいい。男前で優しくて頼りがいがある僕に似てるんだってさ」
にっと口角を引き上げる本田に、前向きすぎです、と呆れたように答えると本田は、そうかな、と呟いた。
「前向きでいなきゃ、後悔だけにのまれるよ。君が聡二を幸せにしてくれるって前向きに考えなきゃ、僕だって同じだ」
「自分のための助言ですか」
「どうせならみんなで幸せになったほうがいいってことだよ」
本田の言葉に、匡史は長いため息を吐いた。
「多分、課長が似てるって言ったところって、そういう適当なところなんじゃないかな」
匡史が言うと、本田がからからと笑った。
「なんだか、聡二が君に惹かれる理由がわかるな。傍にいて飽きないよ。まあ、僕からすれば可愛い、になるけどね」
本田が笑ったまま匡史の頭を乱すように撫でた。匡史はそれから逃れようと、やめてください、と立ち上がる。本田は楽しくなったのか、立ち上がり、しつこく髪を乱した。
「やめろって、本田さっ……!」
次の瞬間、本田は片腕で匡史の体を抱き寄せた。しっかりと背中に廻された腕に、匡史の呼吸は一瞬止まる。
「聡二のこと、頼む。僕が傷つけた分、幸せにしてやってほしい」
本田は耳元で、それまでにないほど真剣な声音でそれだけ言うと、すいと匡史の体を離した。そして、匡史の後方へと視線を合わせる。
「長い間借りて悪かったね。話は今終わったところだよ」
本田の言葉に匡史が振り返る。そこには安藤が立っていた。匡史は、ごめん、と謝っていつもの顔で安藤に近づいた。
「上着。まだシャツ一枚じゃ夜は冷えると思って」
安藤の手には匡史のスーツのジャケットが掛けられていた。それを受け取り、匡史が羽織る。
「本田さん、俺このまま帰ります。お世話になりました」
匡史が言うと、本田は頷いた。
「こちらこそ。安藤くんもお疲れ様――それから、アイツにもよろしくと」
本田の言葉に匡史は、よろしくでいいんですか、と返す。しばらく本田は考えていたが、最終的には笑顔で、それでいいよ、と頷いた。
「帰ろう、安藤。部屋で飲みなおそう」
匡史が言い、歩き出すと安藤がそれに従った。
「話はもう終わったのか?」
隣を歩く安藤が小さく聞く。匡史は頷いた。その反応に安藤は、そうか、とだけ言ってゆっくりと匡史の隣を歩いてくれていた。
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