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まだ3週間です
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それから間もなくしてインターホンが鳴り、冷蔵庫が届いた。
陽和はカウンターキッチンの奥に設置されていく150Lの冷凍冷蔵庫を瞳を輝かせて見ていた。
冷蔵庫が使えるようになるまでは電源を入れてから最低でも2~3時間はかかると説明を受ける。
その間も彼女の表情は生き生きとしていて、慶一は彼女の後ろでじっとその様子を見ていた。
業者が帰った途端、彼は嬉しそうに冷蔵庫に触れる陽和を包み込むように抱きしめた。
慈しむような手付きで彼女の頭を撫で、腕の中に閉じ込める。
何故そんなことをされるのかわからず、彼女は困惑した。
「慶一さん…?」
「お前の気持ちはわかった。もう帰って来いとは言わない。その代わり協力させてくれ。欲しい物があるなら何でも買ってやる…」
「お気持ちはありがたいですが、必要ありません。自分で揃えます」
「自分でったって…1ヶ月も冷蔵庫がない中で暮らしていたんだぞ?!クローゼットも、椅子も、ベッドすらない!」
「まだひと月は経っていません。3週間です」
「変わらないだろ!あれは何だ?あれが布団か?あんな薄っぺらい敷布団と毛布だけで、毎晩こんな硬い床の上で眠っていたのか?」
「意外と柔らかいし暖かいですよ」
「そういう問題じゃない!」
慶一はひどく憤慨していたが、彼女はなぜ彼がそんなに怒っているのかわからなかった。
彼が声を大きくした時、隣の家に面した壁の向こうからドンドンと何かを叩くような音が響いた。
「…何の音だ?」
「きっと慶一さんの声がお隣にまで響いたんです。今の音は煩いから静かにしてという合図です。すみませんがもう少し声を抑えていただけると助かります…」
陽和がお願いすると、彼は愕然として言葉を失っていた。
それから陽和は慶一に外へ連れ出された。
行き先は彼の自宅ではないと言うので素直に従ったが、彼はどこか思い悩んだ表情で声をかけ辛い雰囲気だった。
手を引かれてやってきたのはお洒落なカフェレストランだった。
陽和一人では絶対に入らないような、外装から高級感がひしひしと伝わってくるようなお店で、彼女は気後れした。
「あの…ここはちょっと…。こんな服装ですし…」
今の陽和の服装はカジュアルで、とてもレストランの雰囲気には合わない。
しかし慶一はそんな彼女の乙女心を気にも留めず、「服装なんて誰も気にしない」と言ってさっさと中に入ってしまった。
店内は女性客で賑わっていて、数少ない男性客の慶一を目に留めるなり眼福そうに視線で追いかけている。
当然彼の後ろを歩く陽和も注目され、彼女は恥ずかしさに目を伏せた。
「どうした?」
案内された席に腰を落ち着けたところで、ようやく彼はすっかり大人しくなった陽和に気が付いた。
先程までの溌剌とした印象は消え失せ、睫毛が頬に影を落としている。
慶一は「具合でも悪いのか?」と尋ねたが、彼女は困ったように微笑んだだけだった。
「女性はこういう店が好きだと思ったんだが…」
「…素敵なお店で、緊張しているんです」
「そうだったのか。ここは高級志向なだけで格式ばった店ではないから安心しろ。何が食べたい?ここは日替わりのプレートランチが結構美味いんだ」
「慶一さんは何度かいらしたことがあるんですか?」
「ああ。この辺りに来たときは利用することが多いな」
「そうですか」
「あ…仕事の打ち合わせでよく使うだけだ。本当にそれだけだよ」
ただ相槌を打っただけなのに、彼は何故か言い訳がましく言葉を重ねた。
普段は落ち着いた様子の慶一が何気ないことで一喜一憂している姿が微笑ましく思えて、陽和の表情が少し和らいだ。
陽和はカウンターキッチンの奥に設置されていく150Lの冷凍冷蔵庫を瞳を輝かせて見ていた。
冷蔵庫が使えるようになるまでは電源を入れてから最低でも2~3時間はかかると説明を受ける。
その間も彼女の表情は生き生きとしていて、慶一は彼女の後ろでじっとその様子を見ていた。
業者が帰った途端、彼は嬉しそうに冷蔵庫に触れる陽和を包み込むように抱きしめた。
慈しむような手付きで彼女の頭を撫で、腕の中に閉じ込める。
何故そんなことをされるのかわからず、彼女は困惑した。
「慶一さん…?」
「お前の気持ちはわかった。もう帰って来いとは言わない。その代わり協力させてくれ。欲しい物があるなら何でも買ってやる…」
「お気持ちはありがたいですが、必要ありません。自分で揃えます」
「自分でったって…1ヶ月も冷蔵庫がない中で暮らしていたんだぞ?!クローゼットも、椅子も、ベッドすらない!」
「まだひと月は経っていません。3週間です」
「変わらないだろ!あれは何だ?あれが布団か?あんな薄っぺらい敷布団と毛布だけで、毎晩こんな硬い床の上で眠っていたのか?」
「意外と柔らかいし暖かいですよ」
「そういう問題じゃない!」
慶一はひどく憤慨していたが、彼女はなぜ彼がそんなに怒っているのかわからなかった。
彼が声を大きくした時、隣の家に面した壁の向こうからドンドンと何かを叩くような音が響いた。
「…何の音だ?」
「きっと慶一さんの声がお隣にまで響いたんです。今の音は煩いから静かにしてという合図です。すみませんがもう少し声を抑えていただけると助かります…」
陽和がお願いすると、彼は愕然として言葉を失っていた。
それから陽和は慶一に外へ連れ出された。
行き先は彼の自宅ではないと言うので素直に従ったが、彼はどこか思い悩んだ表情で声をかけ辛い雰囲気だった。
手を引かれてやってきたのはお洒落なカフェレストランだった。
陽和一人では絶対に入らないような、外装から高級感がひしひしと伝わってくるようなお店で、彼女は気後れした。
「あの…ここはちょっと…。こんな服装ですし…」
今の陽和の服装はカジュアルで、とてもレストランの雰囲気には合わない。
しかし慶一はそんな彼女の乙女心を気にも留めず、「服装なんて誰も気にしない」と言ってさっさと中に入ってしまった。
店内は女性客で賑わっていて、数少ない男性客の慶一を目に留めるなり眼福そうに視線で追いかけている。
当然彼の後ろを歩く陽和も注目され、彼女は恥ずかしさに目を伏せた。
「どうした?」
案内された席に腰を落ち着けたところで、ようやく彼はすっかり大人しくなった陽和に気が付いた。
先程までの溌剌とした印象は消え失せ、睫毛が頬に影を落としている。
慶一は「具合でも悪いのか?」と尋ねたが、彼女は困ったように微笑んだだけだった。
「女性はこういう店が好きだと思ったんだが…」
「…素敵なお店で、緊張しているんです」
「そうだったのか。ここは高級志向なだけで格式ばった店ではないから安心しろ。何が食べたい?ここは日替わりのプレートランチが結構美味いんだ」
「慶一さんは何度かいらしたことがあるんですか?」
「ああ。この辺りに来たときは利用することが多いな」
「そうですか」
「あ…仕事の打ち合わせでよく使うだけだ。本当にそれだけだよ」
ただ相槌を打っただけなのに、彼は何故か言い訳がましく言葉を重ねた。
普段は落ち着いた様子の慶一が何気ないことで一喜一憂している姿が微笑ましく思えて、陽和の表情が少し和らいだ。
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