ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
4 / 247
序章 桜の花びらが旅をする季節に

第4話 魔法学園への導き

しおりを挟む
 家に戻ると玄関の前でエリシアが待っていた所だった。エリスと目が合うと彼女はすぐに声をかけてくる。


「ああエリス、それにアーサーも。折角散歩してたのにごめんね」
「大丈夫だよ。それでお客様って?」
「今家の中にいらしているわ。とにかくお話を聞いてちょうだい」
「話……?」


 エリシアに急かされるがままに、二人と一匹は家に入る。





「……おや、この子が噂の。中々可愛らしいお嬢様だ」
「い、いやあ……そりゃどうも」
「そしてそちらが……ああ、まずは席に座って頂けたら」



 リビングには二人の男性が椅子に座っていた。片方は赤いローブを着て右前にいるユーリスと話をしている。そのユーリスはというと肩を強張らせており、突然の来客にかなり緊張している様子だった。

 もう片方は薄いクリーム色のローブを着て静かに紅茶を飲んでいる。その瞳は閉じられていて、中を窺うことはできない。



 エリスとアーサーは二人の正面に座り、白い犬がアーサーの足元に待機する。エリシアはテーブルから少し離れた所に立った。



「――では、先程ご両親にさせていただいた話と同じものを。今からするお話は貴女達の未来に関わる重要なことです。心して聞いてください。そしてわからないことがあれば何なりと」



 クリーム色のローブの男性がティーカップを置いて正面に向き直る。その瞳は明らかに閉じられているはずなのに、凛とした瞳で見つめられているようにエリスは感じた。



「私の名前はハインリヒ。こちらにいるアドルフと共に、ここより遠く離れたグレイスウィルの地からやってきました。 グレイスウィルについてはご存知ですか?」
「……ちょっとだけなら。この世界で一番大きい王国ですよね」
「まあそんな感じですね。私はそこでナイトメアの研究を行っていまして、ナイトメアのことに関しては人一倍詳しいのです。故に貴方のことも」


 ハインリヒは身体をアーサーの方に向ける。


「数日前、我々はグランチェスターの町に居まして。そこで偶然貴方達二人を見かけたのです。貴方の姿が変わり、剣が光を纏う所を」
「……」

「……アーサーのこと、知っているんですか?」
「はい。こちらをご覧いただいた方が分かりやすいでしょう」



 そう言ってハインリヒは一枚の紙を広げる。同時に赤いローブの男性――アドルフが身を乗り出す。そして彼が静かな口調で、言葉の一つ一つに重みを乗せて話し出した。



「これは古代の壁画の一つで、その写しです。イングレンスで最も有名な伝説、騎士王伝説に纏わる内容の」
「騎士王伝説……一体、何が描かれているんですか?」
「全てのナイトメアの起源――騎士王と呼ばれるナイトメアと、それを元に作られた円卓の騎士と呼ばれるナイトメア。中央に描かれているのが騎士王です」



 エリスはそう言われて中央をじっと見つめ、そして息を呑んだ。


 その騎士王と呼ばれている存在――金髪に紅の瞳の彼が、あまりにも隣にいる彼に似ていたから。



「……これがアーサーで、この白い犬も……?」
「はい……そうですね。貴女が仰られるなら間違いない。町で見かけた時はあまりにも偶然だと思いましたが、断言します。貴方は原初のナイトメア――騎士王アーサーその人だ」


 アドルフはアーサーを見遣ってそう言い切った。



 アーサーは何も言わず、ただじっと壁画の写しを見つめているが、その真意はわからない。白い犬も只ならぬ気配を察知して、机を見上げているだけである。

 エリシアは静かにその様子を見つめ、ユーリスは何か言いたそうにしているが膝を掴んで必死に我慢している。



 そしてエリスはゆっくりと顔を上げ、ハインリヒとアドルフを交互に見つめ、尋ねた。



「そんな……そんなすごいナイトメアなら、何でわたしの所に来たんですか。わたし、普通の村娘なのに……」
「申し訳ありませんが……我々にもわかりません。しかし理由がわからない以上最大限の努力をする必要があります」
「……理由を解明する努力、ですか?」

「それもですが、最もしなければならないのは貴方達を保護することです。数日前に見かけたのが我々で本当に良かった。これが他の勢力だったら騎士王は連れ去られ、悪用されていたかもしれません。そうでなくても貴方達に危機が訪れていた」
「……」



「……まあこんな話を聞いたら暗くなりますよね。でもご安心を。そのために我々は遠路遥々やってきたのですから」



 アドルフはそう言うと、ローブの中から書類を数点取り出す。一番上に置かれた書類には豪勢な建物が描かれている。



「……これは?」
「グレイスウィルには魔法学園がありまして、その資料です。実は私この魔法学園で学園長をさせていただいてまして。あ、ハインリヒ先生もここの教師をしているんですよ」
「……ナイトメア学という授業があるのですが、そちらを担当させてもらっています」


 そんな説明をよそに、エリスは書類を眺める。どの書類にも様々な建物と、そこで生き生きと生活する生徒達の姿が描かれていた。


「つまりこの時点でこの魔法学園には知り合いが二人いることになる――この魔法学園はナイトメアを発現していれば地域身分を問わず誰でも入学できるようになっています。そして貴方達はその条件を満たしている。また、この魔法学園はグレイスウィルが王国として運営しているのですが、王国は二人を保護する方向でいます。つまりここに入学すれば貴方達二人は保護され安全が保証されます」



「……何だか入学しろって言われているみたいですね」
「まあ……そういう言い方になってしまっていることは認めます。ですが我々としては、貴方達の意思を尊重したいと考えております。今日ここに伺ったのは騎士王が本物であるかどうかの確認と、魔法学園への入学の意思確認。前者はもう伝えたので、後は貴方達の言葉次第です」
「……」

「先程仰られたようにグレイスウィルは世界一の大国だ。そんな国が無理矢理連れて行くなんてことをしたらイメージが悪くなるので。そのためもし入学したくないのであればそれを尊重します。ただ全ては我々が述べた通りです」
「……お父さん、お母さん……」


 エリスは助けを求めるように両親の方をちらっと見る。


「……入学するのは私達じゃないから。エリスが決めなさい」
「……もしかしてお金のことで悩んでいるのかい? それは心配いらない。エリスがいない間に説明してくれたけど、入学費その他諸々国が全額負担してくれるんだってさ。だから……うん。好きな方を選びなよ」



 二人はそれだけ伝えて、あとは口を閉じた。その後アーサーを見つめるが、出てくる答えは考えるまでもない。



「……わたしの決めたことに従う、だよね?」


 その言葉に頷く自分のナイトメア。そうしてこの場にいる全員がエリスの言葉を待つだけになった。





「……わたし、アーサーのことが全然わからなくて。どうしてわたしのナイトメアが彼なのか、一体どう関わればいいのか全然わからなくて……」

「でも魔法学園に入学すれば、それがわかるような気がするんです。もしわからなかったとしても、こうして何もしないまま毎日を過ごすよりは、絶対にいいと思うんです」



 顔を上げハインリヒとアドルフに向き合う。

 覚悟が込められた緑の双眸で、二人を正視する。



「わたしとアーサーは、グレイスウィル魔法学園に入学します。させてください」





 静寂が訪れる。


 彼女の決意を尊重し、そして受け入れるように風の音だけが通り過ぎていく。桜の花びらが、新たなる旅立ちを祝って舞っていた。


 そこにいる者もまた、彼女を受け入れるように暖かい眼差しを贈る。





「……わかりました。そうと決まったら早速準備をしなくては」


 アドルフが指を鳴らすと、窓の外の空に白いペガサスが現れた。それは家の前に到着すると一啼きし、主君の到着を待つ。


「では私はこれで失礼しますよ。学園長として色々準備をしなければならないので。あとわからないことがあったらハインリヒ先生に訊いてください。それと一応渡した書類にも書いてあるので目を通しておいてください。あ、お茶ごちそうさまでした。よかったらコップ洗っていきますよ」

「まあ、お気遣いありがとうございます。でも食器洗いぐらい大したことないので、お手を煩わせるわけにはいきませんわ」
「そういうことでしたらお言葉に甘えさせていただきましょうか。行くぞ! フォンティーヌ!」


 アドルフは慌ただしく外に出て、ペガサスに飛び乗るとそのまま飛び去っていった。




「……あら、学園長様ったらこの羽ペン忘れていってないかしら」
「すみません、彼はああいう性分なもので……学園に戻ったら返しておきます。さて、彼が言っていたように準備をしなくてはなりません。取り敢えず今日はお話を聞いて疲れたでしょうから……明日から準備をしましょうか」
「この村に滞在するなら宿があります。私が案内しますよ」

「そのお言葉に甘えさせていただきましょうか。ああ、できれば私の手を繋いで連れて行ってくださると助かります。何分目が見えないもので」
「あら……何だか目を閉じているものだから、ちゃんと見えているのか心配だったのですけれど、本当に見えていないなんて」
「魔法で――ナイトメアが手伝ってくれているので一応行動はできるんですけどね。ただ毎日頼るわけにはいかなくて」


 エリシアとハインリヒはそうして家を出て集落に向かう。リビングに残されたのはエリスとアーサー、そしてジョージとクロにユーリスである。




「……エリス! 魔法学園はいいぞぉ!」
「魔法学園はいいぞぉ! ンモーゥ!」
「ひゃあっ!?」



 ユーリスは椅子から立ち上がるや否や叫んだ。ジョージがそれに続いて牛らしく鳴き声を上げた為、エリスは目を丸くすることになった。



「……すまん、つい興奮して。だが魔法学園は本当にいい所だぞエリス。俺とユーリスもお前ぐらいの時には魔法学園に通った」
「グレイスウィルじゃなくってウィーエルの魔法学園だけどね! あのエルフがいっぱいいる! でもまあやることはそうそう変わらん! 美味しい飯を食って! 課外活動とかに励んで! 勉強もそこそこに友達と遊びまくる! まさに最の高だ、人生で最も充実する時間だ!」
「……友達、かぁ」


 友達という単語を聞いた途端、それまで固く結ばれていたエリスの口元が緩んだ。


「そうにゃ、エリスは森や苺ばっかりで近い年齢の子と関わったのを見たことないにゃ。村の外でいっぱい関わって、いっぱい勉強ができるいい機会だと考えるにゃ」
「……わたしの知らないことがいっぱいあるのかあ……」
「そうだそうだ。世界はお前が思っている以上に広いんだ。だからいいかい、保護とか何だかそういうことは気にしないで学園生活を楽しみなさい。僕がエリスにしてほしいことはそれだけだから」
「うん、わかった」



 エリスはアーサ―と向き合い、そしてくすっと笑いかけた。



「何があるかわからないけど……学園生活楽しもうね、アーサー」
「……楽しむ?」
「アーサーのやりたいことをやればいいってこと」

「……オレのやりたいことは」
「わたしを守ること、でしょ? でもそれ以外にもきっと見つかるよ」



 そのような言葉が出たのは、これから始まる学園生活に胸が高まっているからだろう。



「アーサーも作ろうね、友達。美味しいもの食べて、いっぱい勉強しようね」
「……ああ」




 かくして少女は世界に選ばれ、少年と共に役者となった。

 桜の花びらは春に散り行く。運命と呼ばれる舞台、その冒頭を飾る演出として――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

女男の世界

キョウキョウ
ライト文芸
 仕事の帰りに通るいつもの道、いつもと同じ時間に歩いてると背後から何かの気配。気づいた時には脇腹を刺されて生涯を閉じてしまった佐藤優。  再び目を開いたとき、彼の身体は何故か若返っていた。学生時代に戻っていた。しかも、記憶にある世界とは違う、極端に男性が少なく女性が多い歪な世界。  男女比が異なる世界で違った常識、全く別の知識に四苦八苦する優。  彼は、この価値観の違うこの世界でどう生きていくだろうか。 ※過去に小説家になろう等で公開していたものと同じ内容です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...