ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
3 / 247
序章 桜の花びらが旅をする季節に

第3話 微妙すぎる距離感

しおりを挟む
「ハァ~……」

「……『巡り行く運命の狭間に
    主君と騎士は出逢いて
    奏で合う律動の軌跡に
    忠義は夢幻爪弾く』」



「その台詞本当好きだよなお前」
「だって……かっこいいし。ごくごく、お代わりだ!」



 出張販売から数日後、エリス達はアーサーと一緒に暮らすことになった。他の村人からは好奇の目で見られていたが、それも次第に落ち着き受け入れられていった。


 ――剣が光を纏うとか、連れている犬が出たり消えたりするとか、鎧と私服を瞬時に切り替えられるとか、そのような事情を知らない村人達には。 



「どうだ。お気に入りの台詞を言って、気は落ち着いたか」
「もーちょいもーちょい。んぐっ、んぐっ……ああ~……」
「あなた、本当に大丈夫? こんな調子じゃこの先やってられないわよ」
「いやあ……うん。大丈夫。大分持ち直した……」


 そんな一変した日常の昼下がり、ユーリスはホットミルクに愚痴を混ぜ込んで飲み干していた。ジョージとエリシアとクロも一緒である。


「ねえねえ、ジョージとクロはどうよ。同じナイトメアとしてアーサーのことどう思ってるの」
「……よくわかんないにゃ、あいつ。一切表情変えないし、会話も必要最低限しかしないし」
「俺も全く同意見だ。何も言わずに黙々と仕事を……あ、仕事を手伝ってくれるのはいい所だな。まあエリスに言われないとやらんが……」
「そうなんだよ~~~、そこなんだよ~~~」


 本日五杯目となるホットミルクを飲み干す。

 コップをエリシアに渡すとすぐにお代わりが注がれる。


「まあうん、正直彼はすごくかっこいいと思うよ。エリスにお似合い。もうエリスは可愛いから仕方ないって思うことにしたからそれはいいの」

「でもさ、自分はエリスの騎士だって言うけどさ、それだけなんだよ。頑なにそれしか言わないの。じゃあナイトメアなのかって聞いてもまともな答えは得られないし、仮にナイトメアだとしてもぽっと出の奴だよ?」


「素性がわかんないのに任せられる??? そもそも出会い方があまりにも運命的だから我々しれっと受け入れてるけど、ナイトメアだって一切証明されてないからね???」

「もしもナイトメアじゃなくって魔物か何かの一種だったらどうすんのさ??? どうにもエリスがとんでもないことに巻き込まれるような気がして僕はそれが――」



「……ねえあなた。お客様が来たみたい」
「……本当かい?」


 ユーリスは目を細めて村へと続く道を見つめる。



 そこには人影が二つあり家の方へと向かって来ていた。



「ああ……ありゃあこっちに来るな。皆で来客の準備をしようか。納まれ納まれ」


 ユーリスが呼びかけると、ジョージとクロは忽ち魔力の奔流に姿を変える。そしてそれぞれユーリスとエリシアの身体に吸い込まれていった。


「ととっ……ジョージ急に来るな! 転びそうになったぞ!」
「はいはい、もう身体に入っちゃった相手に悪態つかないの」





「昔々、ログレス平原のどこかにフェンサリルってお屋敷があってね」
「……」

「そこで出会った一組の男女がこの村にやってきてね」
「……」

「苺の栽培を始めたからこの村は栄えた……っていうおとぎ話があるの」
「……」

「ワン!」
「……あ、ありがとう……ワンちゃん」



 エリスはアーサーに話しかけながら村を散歩している最中。今は集落から少し離れた小道を歩いている。



「着いたよ、これ見てみて」
「……岩か」
「うん、岩だよ」



 到着したのは小高い丘にある大きな岩だった。岩は二人の身長よりも少し高く、階段が設置されて頂点を見ることができるようになっている。


 二人は階段を上り岩を観察し出す。



「ほら、ここ見てみて。ここに横長の穴が空いているでしょ?」
「……」


 岩に手を当て、エリスは穴を指差す。そこには綺麗な長方形の穴が開いている。最近雨が降ったのか中には少し水が溜まっていた。

 アーサーもエリスに続き穴を観察する。白い犬も興味津々で首を上げるが、どうしても届かない。


「昔この岩には剣が刺さっていたんだって。岩に刺さっている剣なんてありえないから、その剣は女神様が作ったとか言われていたんだって。その剣がどこに行っちゃったのか誰もわからないけど……」


 エリスは言いながらアーサーを一瞥する。


「もしかしてアーサーの持っている剣がそれだったり……しない?」
「……」


 彼は何も答えない。静かに穴を見つめているだけである。




「まあそんなだから、この岩は村の観光名所とかになってるんだよね。あとはさっきのおとぎ話とかでそこそこ人が来るんだ。今日は雨だから誰もいなかったのかな……」


 エリスは説明を終え、階段を下りていく。勿論アーサーと白い犬もそれに続く。


「えーと……もう一度村に戻ろうか、アーサー」
「ワン」
「……」


 白い犬がやや小さめな声で吠え、それに反応したアーサーも階段を降りる。





 そして二人と一匹は集落に戻ってきた。木でできた家が立ち並び、石畳が整然と敷かれている。中央には噴水があり、その周囲には移動式の屋台が立ち並ぶ。


「あらエリスちゃん。今日はカレとお散歩?」
「あうう……その言い方やめてくださいってばぁ……」
「照れなくていいぞ照れなくて! わしらはそういうの大好物だからな!」
「はぁ……」



 噴水近くの屋台の前で二人と一匹は止まる。そこの店主と猿が話しかけてきたからである。そこはアイスキャンディーを売っている出店で、色とりどりの商品が陳列されている。

 エリスが品定めをしている間、アーサーは奇妙な物を見るように、猿をじっと見つめていた。



「えっとね、あのお猿さんは店主さんのナイトメアなんだよ。だから喋るの。喋らないナイトメアもいるけど……あ、アイスキャンディー二つください。苺味で」
「あいわかったわ。お代は青銅貨二枚だけど今回はサービスよっ」
「持ってけ泥棒! いやカップル!」


 猿がアイスキャンディーを渡そうとした瞬間。


「うきゃーっ!?」
「わっ!?」


 エリスと猿の間に何かが転がってきた。



 それは次の瞬間近くの家の方に向きを変え、柵にぶつかり動きを止めた。

 アーサーは怪訝な視線をそれに向け、臨戦態勢に入る。



「待って、待ってアーサー、あれは敵じゃないからっ」
「……メル! 何やってんだよおおおおおおっ!」


 転がってきた方向から若い男性が駆け付け、未知の物体に駆け寄る。


 それは黄色いアルマジロだった。勢い良く転がり壁にぶつかった衝撃で、絵に描いたかのように目を回している。


「いやすみません! こいつ僕のナイトメアなんですけど、何を思ったのか丸まったまま坂の方に向かいまして……!」
「いえいえ、無事なら大丈夫ですよ。怪我もありませんでしたし」

「よかったよかった、でもってこっちは……おや、エリスちゃんじゃないか! びっくりさせちゃってごめんね!?」
「いえ、もう大丈夫です。それよりもメルのこと労わってあげてください」
「そうさせてもらうよ。それでは!」



 男性は一礼して小走りで去っていった。



「ね、敵じゃなかったでしょ?」
「……」


 エリスはアーサーに言ってみるが、彼は納得し切っていない表情を浮かべていた。白い犬は彼の足下で、他人事のように自分の尻尾を追いかけ回している。


「……あ、アイスキャンディーもらっていいですか」
「……おうよ! 改めて持ってけ!」
「はい、それじゃあありがとうございました」
「また来てくださいね~」




 猿はエリスに苺味のアイスキャンディーを二つ渡す。エリスは片方をアーサーに渡し、近くのベンチに座った。




「猿とかアルマジロとか、色々見たでしょ。あれがナイトメア。十二歳になったら与えられる自分だけの友達だよ」
「……」


 二人はアイスキャンディーを食べながら噴水広場を観察する。

 広場を行き交っているのは商売をしている者、音楽を奏でる者、絵を描く者、特に何もせずだらけている者、実に様々だ。



 そしてその一人一人には、大抵『何か』がそばについている。それは動物だったり、魔物だったり、精霊だったり、果てには無機物だったりと多種多様だ。

 そういった人以外の存在が、人を支え、語らい、共に生活している。イングレンスとはそういう理の下に成立している世界なのだ。



「一応ナイトメアが使えている人間のことを指して主君って言うらしいけど……そういうのわたしはあまり気にしていないから。どっちかっていうと……友達になってほしいな」
「……」
「……うん」


 アーサーはアイスキャンディーを食べ終え、広場を眺めていた。エリスはアーサーの顔を見て話しかけるも、すぐに黙ってしまう。



 沈黙が二人の間に訪れ、広場を観察することを勧めてきた。



(……これでよくないよね……こんな気まずい感じじゃ、この先が辛いよ……)

(わたしの元にやってきたからナイトメア……ってことにしているけど。叙任式を経ていないから、本当にそうなのかもわからない……)

(一体どうやって、アーサーと接すればいいんだろう……)



 ゆっくりと瞬きをしながら次の言葉を考えていると、視界に見慣れた姿が入った。ジョージとクロである。



「エリス、ここにいたかにゃ……シャァー!」
「ワンワンッ!!」


 クロと白い犬は、出会って早々互いに威嚇をし合うが、ジョージがそれを牽制する。


「クロ、今はそんなことしてる場合じゃない。おいエリス、お前に客が来ている」
「……わたしに?」

「ああ、あとアーサーとそこの犬っころにもな。とにかく一緒に家に戻るぞ、キャンディーの棒はそこら辺に突っ込んどけ」
「うん、わかった。それじゃあ行こうか、アーサー」
「……」


 二人は立ち上がり、近くにあったゴミ箱に棒を捨てて家に向かう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

手折れ花

アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。 侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。 ※注意※ 自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。 (2020.12.31) 閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。

異世界に転生したので錬金術師としてダラダラ過ごします

高坂ナツキ
ファンタジー
 車道に飛び出した猫を助けた吾妻和央は車に轢かれて死んでしまった。  気が付いたときには真っ白な空間の中にいて目の前には発光していて姿形が良くわからない人物が。  その人物は自分を神と名乗り、主人公を異世界に転生させてくれると言う。  よくわからないけれど、せっかく異世界に転生できるのならと、元の世界ではできなかったことをしてダラダラ過ごしたいと願う。  これは錬金術師と付与魔術師の天職を与えられた男が異世界にてだらだら過ごすだけの物語。 ※基本的に戦闘シーンなどはありません。異世界にてポーションを作ったり魔導具を作ったりなどの日常がメインです。 投稿開始の3日間、1/1~1/3は7:00と17:00の2回投稿。1/4以降は毎日7:00に投稿します。 2月以降は偶数日の7:00のみの投稿となりますので、よろしくお願いします。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

処理中です...